頑張ってるのに?
昼休みも終わり、いよいよ午後から個人競技最後の練習が始まった。
(よし、気合入れていくぞ!)
自分のせいで壊れてしまったクラスの結束を、再び取り戻すべく「参加する個人競技六種目で全部一位を取る!」と宣言したのはいいけど、実際のところ、本当に全部一位を取れるのか?
それに関しては、上手く立ち回れば勝算は十分にある。
(後は、魔法を使う奴と同じ組になるのをどれだけ避けられるかだよなぁ)
この学園の体育祭において、魔法を使える生徒は「個人の身体にだけ作用する」と見なされた魔法なら、使用が認められている。
よって、魔法を使える生徒の方が絶対的に有利なのだ。
(まっ、俺が圧倒的に不利だと思われてるから「個人競技全部で一位取ったら、俺の言うこと聞いて」なんて賭けが成立したんだけどな)
練習前に軽く準備運動をしながら、今日勝つための作戦をいろいろ練っていると、
「それでは、今から50m走の練習を始めますので、参加者はトラックに集まってください」
いよいよ俺が参加する一種目目の練習が始まった。
・・・
・・
・
「おっと! 一位はEクラスの生徒のようです!!」
体育祭の実行委員のアナウンスが、俺の勝利を伝えると
(よし、狙い通りだ!
後の競技も、こんな感じで狙っていけば、あの競技以外で全力出さなくても一位取れそうだ!)
実は今日の個人競技の練習時の組み合わせは、クラスから一人代表を出す競技以外は、テキトーに並んで、たまたま同じ列になった生徒からスタートしていく流れなのだ。
つまり、自分が勝てそうな組み合わせに滑り込むことだってできる。
よって、俺が個人競技で全て一位を取るのも、今日ならチャンスがあるのだ。
(まぁ、ちょっとせこいやり方だけどね。
それに賭けが成立する際、特に対戦相手は指定されてないし!)
こうして俺は、勝てる相手が出来るだけ多い列に入るように上手く並ぶことで、
障害物競走
大玉転がし
ハードル
宝探し
全て全力を出すことなく、一位を取っていった。
そして次の競技が始まるまで時間があるので、クラスメイト達が待機している場所に戻ると、
(なーんか、みんなちょっと盛り下がってない?)
俺が一位を取れば取るほど、クラスメイト達の俺を見る目が、冷ややかになっている気がする。
クリスは明らかに冷めた目で俺を見つめ、フローレスさんはため息を付く。
そしてこの賭けに最初に乗ってきたアリカさんに至っては、
「……せこい」
と呟いた。
その一言を聞いて
(あちゃ~、さすがにバレたか!
まぁ、5回も同じ手を使ったら、そりゃ気づくよな)
というか、もうクラスメイト全員が「それ、ズルくない?」と言いたげな顔をしている。
でも、俺はルールを一切破ってはいない。
だから、素知らぬ顔を決め込んでやった。
・・・
・・
・
「続いて、1000m走の練習を行いますので、参加する各クラスの代表は、グランドの中央に集まってください」
(……いよいよだ!)
俺にとって本日最後の競技であり、最も一位を取るのが難しい1000m走が始まる案内が流れた。
この競技、各クラスの代表一人が激しく競い合う花形競技でもあるので、流石にこの時ぐらいは誰か何か言ってくれるかと思ったんだけど、
シーン……
俺の期待に反して、場は静まり返っていた。
(……いや、誰か一人ぐらい声掛けてくれても良くない?
今までせこい方法で勝ったのは分かってるけどさ……俺だってクラスのために頑張ってるんだよ?)
なんて寂しい思いをしつつ、集合場所に辿り着くと、そこには既に各クラスの代表が集まっていたが、さすが各クラスを代表してきた奴等だと思った。
なんせ、今まで戦ってきた奴等とはオーラが違う。
(さて、1000m走……俺は勝てるのか?)
正直、1000m走は今までの競技とは訳が違う。
まず、これまでの競技と違って選手は各クラス代表一名のみ。
よって、相手を選ぶなんて小細工はできない。
おまけに、俺以外は全員魔法が使えるというハンデだってある。
一応俺も、魔力を操作することで「魔法と認められない魔法」を使えるけど、他の奴等が使う普通の魔法に比べたら、地味で効果も大したことはない。
それでも、他のクラス代表5名中4名は、小細工なしでなんとか勝てる自信がある。
もっとも、油断したら負けるような接戦だけど。
そして何よりこの競技には、走ることにおいて学年最強の男がいる。
そいつはCクラス代表のジギスムント・シャウアーだ。
ジギスムントの家系であるシャウアー子爵家は、代々風を操作する魔法を得意としているため、当然ジギスムントも風魔法の使い手だ。
特に風魔法は、走ることに関して最適なサポート魔法の一つであり、俺が肉体を魔力でサポートしているのとは、違うレベルで走力を強化してくるのだ。
(何度かジギスムントの後ろについて走った時、正直付いていくので精一杯だった。
それこそ、圧倒的な実力の差を見せつけられて、終わったからなぁ……)
当然、俺だけじゃなくて他のクラスの代表達も同じ経験をしているため、この競技に関してはジギスムントの独壇場だと、誰もが思っている。
だから、他の子達から、あんまりやる気は感じられない。
正直に言えば、俺も昨日まではジギスムントに勝って一位を取ろうだなんて、思ってもいなかった。
けど、今はどうしても一位が欲しい。
だから、今までのように途中であきらめる気もなければ、最後まで本気で食い付いて行く覚悟だってある。
「やぁ、ライト・トリファー君。 今日の調子はどうだい?」
そんなことを考えながら一人闘志を燃やしていると、突如ジギスムントが俺に声を掛けてきた。
「普通かな」
「そっかぁ、出来れば絶好調であってほしかったんだけどな」
「なんで?」
「いや、僕って速過ぎるでしょ?
だから、誰も僕と張り合おうとしないけど、君だけは僕を抜こうとしていたからさ。
出来れば絶好調の状態で、君が僕の後から必死に追ってくれると、少しは、
『追い抜かれる!』
なんて危機感を、僕も感じれると思うからさ」
「そ、そう……」
ジギスムントは笑顔でそう言ってきたが、言われた方としては聞き捨てならない言葉だ。
なんせさっきの言葉には
【この競技で自分が負けるってありえないから】
そういう意味が含まれているからだ。
もっとも、本人としては悪気があって言ったわけじゃないのは、雰囲気で分かっている。
だから、余計こっちとしては腹が立ってきた。
(こっちは必死で勝とうとしてるのに、そんな余裕ブッコいたセリフ言われたら、コッチとしてはますます黙って負けてやるつもりはなくなったけどね!)
こうしてジギスムントの無自覚煽りで、更に俺の闘志に火が付く。
「それでは、参加者の皆さんはスタートラインに並んでください。
では、よーい……スタート」
スタートの合図が、パンっと鳴り響いた。
こうして、俺にとって絶対に負けられない戦いがついに始まったのだ。
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