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答えとその代償

「そこ、左から回り込んで!」

「ウス!」

「向こうの騎馬が危ない! 今すぐ助けに行こう」

「よっしゃ!」


 体育祭まであと三日。

 この日の練習は、騎馬戦の合同練習だったが、練習とは思えないほど白熱している。

 これも、初めはてんで駄目だった俺達Eクラスが急激に実力を上げたことで、他のクラスのやる気に更なる火が付いた。

 こうした現象が重なった結果、初等部一年の各クラスの実力差がほとんどなくなってきたからだ。


 そして、いよいよ今日の練習も終わりに差し掛かろうとしていた頃、その場に残っているのはフローレスさんが騎手を務めるEクラスの騎馬と、Cクラスの騎馬のみ。

 お互い攻めあぐねているのか、両者睨み合いが続く。


「……そこ!」


 そんな睨み合いの状況で、先に動いたのはフローレスさんの騎馬だった。


「あっ!!」


 フローレスさんは、見事な動きで相手の鉢巻きを奪い、この一騎打ちを制した。


「そこまで! 本日の騎馬戦の練習試合は、Eクラスの勝利です」

「「「「「「やったぁ!!!!!」」」」」


 クラス全員立ち上がってこの勝利を喜んだ。

 そう、この日初めてEクラスは、団体競技で勝利を勝ち取ったのだ。


・・・

・・


「やれば出来るんだな、俺達って!」

「うん、これなら本気で優勝狙えるんじゃない?」


 合同練習が終わった後、Eクラスの皆は初の勝利の味を噛みしめつつ、教室に戻って体操着から制服に着替える準備を始める。

 俺にとってはこの瞬間こそ、クラスが初勝利した時以上に、待ちわびた時間だった。


(よし、今日こそクリスが男なのか、女なのかハッキリさせてやる)


 着替え始めたクラスメイト達は、合同練習で相当疲れているからか、ダラダラ着替え始める。

 そんな中、クリスだけは相変わらず異常に周囲を警戒しているけど、やはり今日の練習は普段より白熱したので、普段より明らかに警戒の姿勢が鈍い。


(俺だっていつもより疲れたんだ。 だからクリスも流石に今日は疲れてるみたいだな!)


 これは俺の読み通りの展開となった。

 普段なら、異様なほど周囲を警戒しているクリスも、疲れが溜まれば、流石に警戒心が薄れるし、早着替えの動作も鈍るんじゃないのか?

 そう予想していた。


(これならアレを確認して、クリスが男子なのか? 女子かなのか? ハッキリさせられるな)


 女子の方が男子より、胸にちょっとふくらみがある、という話を聞いたことがあった。

 だから、それさえ確認できれば、性別がハッキリする。

 少なくとも、この時の俺はそう思っていた。


(これやったら確実にクリスは怒るだろうなぁ……でも、あっちを確認するよりはマシだよなぁ)


 もう一つ男子と女子で決定的に違う部分があるのは知っていたけど、流石にそこを確認するのはやり過ぎだと思ったし、それをやるのは強い躊躇いと罪悪感を覚えた。

 それに、これをやったら温厚なクリスだって、


(本気でキレるかもしれないもんな…)


 そう思ったので、流石に止めることにして、クリスの胸を確認することにした。


(よし、やるぞ……チャンスは一瞬)


 クリスの早着替えを何度も見ていて、一つ分かったことがあった。

 それは、クリスがどれだけ早く着替えようが、絶対に一瞬だけ隙がある。

 オマケに、この瞬間はどれだけアイツが警戒していようが、無防備なのだ。

 よって、アレを確認するのは、この時を狙うのが一番確実である。

 そうなると、後はその瞬間が来るのをじっと待つだけだ。


スッ!


 奴がズボンを履き替える体制に入った。

 ターゲットは、相変わらず信じられないスピードで、ズボンを履き替えている。


(まだだ……慌てるな)


 奴は周囲に対する警戒は一切緩めてない。

 なので、もうすぐそのチャンスが来るにしても、下手に動くとアイツの警戒心を強める可能性がある。

 よって俺は、その場から一切動くことなく、息を殺してクリスがズボンを履き替えるのを待った。

 そして、ズボンを履き終わると、ついに上着に手をかけた。


(今だ!!)


 奴が上着を脱ごうとして、顔に上着が被った瞬間。

 俺は足の神経から筋肉、足の動きに関わる全てに魔力を張り巡らせ、今自分が出せる最高速をもってクリスに迫った。

 そして、


ガシッ!!


 上に伸ばしているクリスの腕を掴み、奴を拘束する。

 するとクリスは、ビクっと体を震わせて驚く様子をみせたが、今はそんなことどうでもいい。

 俺が今興味があるのものは、ただ一つ。


(クリスの胸元だ!)


「……うん、何もないや……フラットだな」


 俺の目に映るクリスの胸は、俺と同じくまな板のようにひらべったかった。


「なーんだ、変に心配して損した」


【もしかしたら】を考えていたので、この結果に安心したような、ちょっとガッカリしたような……そんな複雑な心境だ。

 こうして俺の、クリス女子疑惑の検証は終わった。


「……や」

「や?」

「いや~! なにすんの!!」


ドゴ!


「ぐぅっ、ハァッ!」


 しかしここで予想外の事態が発生。

 腕を抑えられたうえ、上着が顔に覆いかぶさった状態のクリスはパニック状態となり、至近距離で俺に対して魔法弾をぶっ放してきたのだ!

 あの三人に散々鍛えられていたこともあって、クリスの魔法弾が着弾する瞬間、反射的に魔力を張り巡らせ、ダメージを軽減した。

 しかし、それでもクリスの放った魔法弾は強烈で、食らった俺は綺麗な放物線を描きながら吹っ飛び、


 ガンッ!!


 と、大きな音を立てて机にぶつかった。


「痛てててて……」


 いくら防御したとはいえ、強烈な魔法弾をくらうと胸に痛みが走った。

 痛む胸を押さえながら立ち上がると、大きな音に驚いたクラスメイト達の視線が、一斉に俺達の方に集まってくるのを感じた。


「ねぇ、ラ・イ・トく・ん? 一体何がしたいのぉ?」


 そして俺に胸を覗かれたクリスは、大層ご立腹の様子だ。


「え~と……ちょっとクリスの胸がどうなってるか、見てみたくなってさぁ……」

「ふ~ん、それで? 僕の胸を見た感想は?」

「いや……別に俺と変わらないぐらいフラットなボディしてたのが、分かったぐらい?」


 俺に胸を見られたことで、相当お怒りの様子を見せるクリス。

 ちなみに、この時俺が思ったのは、


(なんで男が胸見られたぐらいで、そんなに怒るんだ?)


 そんな疑問だった。

 そして「どうして俺が胸を確認したのか?」 その理由を聞いたクリスは、更に怒りが増しているように見える。


(……ますます訳が分からないよ)


「そう、フラットで……悪かったね!」


 更に怒ったクリスは、再び俺に魔法弾を撃ち込もうと、手に魔力を込めていた。


「ちょ、それヤバイって!」


 俺は慌ててクリスに飛び掛かり、クリスを取り押さえようとした。

 これは、クリスの魔法弾の発動を防ぐためでもあったが、何よりクリスが今まで下手に目立たないように隠していた【攻撃魔法が一切使えない】

 この秘密を、クラスメイトにバレないようにするためでもあった。

 そして、あとちょっとでクリスを取り押さえられると思った瞬間。


 グシャ!


 クリスを取り押さえるすんでのところで、防御魔法に阻まれた俺は、空中で静止した。

 俺の叫びを聞いて状況を把握したのか、それとも単に攻撃魔法だと俺の特攻を止められないと思って、防御シールドに切り替えたのかは分からない、

 だけど、的確な判断をしたのは流石だと思った。


 こうしてクリスの展開したシールドに阻まれた俺の姿は、見えない壁に顔面から激突して宙で止まっているという、何ともシュールな光景をクラスメイト晒すことになった。

 そして、思わぬカウンターをモロに食らった俺は、そのまま力なく地面に崩れ落ちる。


ガッ!


 宙から地面に崩れ落ちる際、俺の手が何かに当たった。

 そして無意識の内に崩れ落ちる体を支えようと、手に当たった何かを握りしめる。

 が、結局体を支えることは叶わず、握った何かごと俺体は地面に崩れ落ちていく……。


ドサっ!


「うぅぅ……痛いなぁ」


 地面に落ちた俺は、激しく痛む顔を抑えつつ、顔を上にあげてみると、そこには見事にズボンとパンツがずり落ち、あられもない下半身を晒すクリスの姿が……。

 そう、クリスは早着替えでとにかく服を着ることを優先し過ぎていたので、ズボンのベルトを締めていなかった。

 その結果、俺がズボンごとパンツを握れば、地面に崩れ落ちる程度の力で、ずり落ちてしまったのだ。

 

(うわ……ちっさ)


 それが、一切見るつもりはなかったクリスのアレを、偶然見てしまった時に出た感想だった。

 そして、それはクリスが男子だというのを物語る決定的なものでもあった。

 だから、クリスのコレを見たら全てがスッキリするかと思ったけど、そんなことは全くなかった。


 何故なら、クラスメイトの視線が俺達に集まっている以上、俺は皆の前でクリスの下半身を晒したのと変わりないからだ。

 そんな最悪の現状を把握した瞬間、俺の顔から血の気が引いて行く……とにかく、少しでもこの状況を収めようと、慌てて俺が下ろしてしまったクリスのズボンを上に引き上げた。


「ご、ごめんな、クリス。

 これは、その……わざとじゃない……からね?」


 俺は必死に、自ら仕出かしてしまったことを謝った。


「……うぅぅ……。うえぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!!!!」


 だけど謝った所でもう遅かった。

 パンツまで下ろされ、下半身を皆の前で晒してしまったクリスは、相当ショックだったのか、今まで見たことがないくらい大泣きし、その場にへたり込んで泣きじゃくってしまった。


「うっわ……ライトそれはちょっとやり過ぎだろ」

「イタズラにしたって、流石に引くわ……」


 クラスの男子達は、明らかに冷たい視線を俺に向けて来くるので、俺はコレが事故だと言うことを説明しようとした。

 その時、


ガララララ!


「何々、一体どうしたの?」


 クリスの鳴き声を聞きつけた女子達が、慌てて教室に入ってきたのだ。


「あ、あいつが、ライトがクリストファーを泣かせたんだ!」

「はぁ!? なんで?」

「ライトの奴、クリストファーのパンツ皆の前で下ろしたんだぜ!」

「うそ……ライト君、あなたって最低ね!」


「えっと……わ、わざとじゃないんだよ!」


 俺はこの現状が偶然の産物であることを必死に訴えようとしたが、クラス全員が俺に向けるのは、


【弱い者を虐めた奴】


 そんな俺を蔑むような眼差しだった……。


「……とりあえず、クリストファー君は別の教室に行こう」


 そう言ってフローレスさんは、クリスに別の教室に行くように促すと、クリスのことを慕うアリカさん達が、クリスに付き添って教室から出て行こうとしていた。


「まっ、待ってよ!」


ギロリ!


 泣きじゃくるクリスを引き留めようとしたら、アリカさん達が俺をキツく睨みつけてきた。

 こうなると、俺はそれ以上何も言うことができなくなり、ただその場で立ち尽くすことしか出来なかった。


「はぁ……どうしてこうなったのか、話聞かせてくれるよね?」

「……うん」


 こうして俺は、フローレスさんにことの経緯を正直に話した。

 だけど、俺の話を聞いたフローレスさんの顔には、明らかに軽蔑の表情が浮かんでいた。

 そして、フローレスさんから、そんな風に見られてしまって相当ショックを感じたのは、親しい友人からそんな目で見られたくなかったからだ。


 そして、俺の仕出かしてしまったことが、このあと思わぬ波紋を呼ぶこととなる。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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