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疑惑

「そこ、バトンを貰う時にスピードを緩めないで!」

「玉入れは投げる役と拾う役を決めよう」

「騎馬戦は、他の騎馬と連帯して相手の帽子を狙うようにしたらどうかな?」


 体育祭で勝つために、俺達Eクラスは放課後に団体競技の練習を始めた。

 そして「どう協力したら勝てるのか?」そのことについても熱のこもった意見を交わすようになる。

 Eクラスは、意見を交わすことで、時には意見の相違で喧嘩したりもした。

 だけど、その衝突を乗り越えたことで。Eクラスは更なる団結力を見せるようになってきた。


 そしてその成果は、合同練習で発揮され始める。

 今までは他のクラスに手も足も出ないでボロ負けしていたが、回数を重ねるごとに接戦へと持ち込めるようになり、そんなEクラスの急成長ぶりを見た他のクラスの連中は、


「どうなってんだよ? Eクラスの奴等!」

「たったの一週間で変わり過ぎじゃない?」

「くそ、Eクラスは敵じゃないと思ってたのに!」


 と、俺達のことを強く警戒し始め、最初のEクラス=ザコの評価は一変した。

 こうして勝負の行方は、本番までどう転ぶか分からない状況へと変わり、Eクラスの士気も日に日に高まっていく。

 しかし、そんな中で俺だけは……


「ライト君、なんか動きの切れが悪いよ」

「そ、そうかなぁ?」

「うん、前は体育の時もっと良い動きしてた!」

「個人競技では期待してるんだから、もっとしっかりしてよね!」

「お、おう!」


 些細なミスが増え、明らかに調子を落としていたので、クラスメイトに発破をかけられてしまう体たらく。


(もうすぐ本番だから、集中しなきゃいけないのは分かってるんだけど……)


 俺はEクラスで運動神経がかなり良い方だ。

 だから体育祭でも個人競技のエースとして期待されている。

 だから、皆に不調を心配されたくなかった。

 もっとも、そのせいで俺は今気になって仕方がない「あのこと」を、誰にも話せないでいる。

 そう、クリスについてのある疑問を……。


―――


 クリスに対して、疑問を抱くようになったのは、体操着に着替えるスピードが異様に早いことに気が付いてしばらくしてからだった。

 初めは、とにかく着替えるのが早いので「体育が楽しみなんだな」程度にしか思ってなかったし、あまりに華麗に着替えるから、俺も負けないようにと、こっそりどっちが早く着替えられるか、対抗してみたりもした。


 そんな感じで、毎度早着替えする様子を、よく目で追うようになって数日がたった。

 そんなある日、ふと、クリスの目が異様に周囲に対してキツく向けられているような気がした。


「……普通着替えるだけで、あんなに警戒しないよな?」


 その様子を不思議に思って、何となしに着替えている最中のクリスに近付いてみると、


 ススス……


(うん? あいつ……着替えながら移動してるぞ!)


 俺が近づいていることを察知したクリスは、着替えながら俺と距離を空けるというなんともシュールな行動に出た。


(……たまたまだよな?)


 そう思い、もう一度近付いてみる。


(サササササ!)


(! 今度は着替えるスピードが上がった!?)


 ただでさえ早着替えなのに、さらにスピードを上げて体操着に着替え終わったと思ったのも束の間、その直後にクリスは、脱兎のごとく教室から出て行った……。

 こうしてクリスは、着替え中だけ警戒心の塊と化しているのが決定的となった。

 もっとも、それに気付いた時は、そんなの「自分の素肌を誰かにあまり見られたくないだけ」程度にしか思っていなかった。

 だけど、何度もあの異様なまでの警戒態勢を見ていると、


(やっぱり……ちょっとおかしいよな?)


 という疑念が俺の中で生まれてしまう。

 こうして一つ何かが自分の中で引っ掛かり始めると、その日からいかなる時でもクリスの様子を気にするようになってしまった。

 すると、なぜか今まで何とも思っていなかったことまで、妙に気になりだす。

 例えば、男子より女子の友達が多いなんて大したことないことまで、妙にきになり、友達と話をしていても、


「クリストファー君って、なんか女子といる時のほうが自然に見えるんだけど?」

「あっ、それ分かる。 女子と話してるほうが、何か妙にしっくりくるし」

「そうそう、なんか他の男子と違って自然な感じなのよね」

 

 そんな、なんてことない話題で、


(やっぱりそうだよな!……って、あれ? なんでそんなに意識してんだ俺??)


 クリスに関する話だと、無性に気になるようになってしまったのだ。


「そういえば、何でフローレスさんとクリストファー君って、なんかライトと三人でいる時だけよく言い合いするんだろうね?」

「あ! そのことなんだけど、なんかあの二人の言い合いって、女子と男子の喧嘩って感じじゃないよね。 女子同士のキャットファイトみたいで!」

「そうそう、見てるとなんか笑えるよね~」


(あっ! みんなそう思ってるんだ……って、なんでまた変に意識してんだよ!)


 とにかく、今までは気にもしなかった話題に、異様な引っ掛かりを覚えるようになり、その答えはいくら悩んでも分からない。

 更に酷くなった悩みを抱えながら、一人悶々としつつ家族と晩御飯を食べていた時、母さんの一言が答えを教えてくれた。


「ライト、そういえばあのお友達は、もう家に遊びにこないのかしら?

 ほら、この前私が女の子と思って話し掛けちゃった、あの可愛い顔したお友達!」

「ハッ! って、ゲホッ、ゲホ!!」

「あら! ライトったらご飯は慌てて食べないの!」

「ライト、大丈夫か?」


 突然食事中に咽たので、父さんと母さんが心配してくれるが、今の俺はそれどころじゃなかった。


(そうか……だからあんなにクリスの話題に、違和感があったんだ!)


 母さんの一言で、俺がクリスに対して抱いていた疑問に気付いてしまったのだ。

 そう……俺は


(まさかクリスって……女子?)


 そのことに、今まで気が付いてないフリをしていただけなのかもしれない。

 そして、その事実を認めた瞬間、頭の中で今まで形になっていなかったものが一気に揃い、答えという形に明確に変化していく感じがした。


 母さんに女子と間違われたり、クラスメイトから女子みたいだって言われるのも、


【そもそも男子じゃないんだから、そう思って当然】


 これ一つで、全ての疑問は解決してしまう。


(いや、でもまだそうだと決まったわけじゃ……)


 だけど、クリスが男だとまだ信じたい気持ちも強かったので、俺は必死に普段のクリスの様子を思い出し、クリスが男だと納得できる理由を探してみる。


(そうだ、トイレも一緒に男子トイレに入ってるし……ってあれ?

 俺、そう言えばクリスと一緒に小便で並んだことあった??

 あいつ……いつもわざわざ個室に入ってなかった?)


 男だと納得できる理由を探したが、ますます疑う理由が見つかってしまった!

 こうなると、俺の中のクリス女子疑惑は、ますます強まった。

 そして、その気持ちが強くなるほど、真相を確かめたくなってくる。


(だけど、確かめるにしたって、どうやって確かめよう?)


 なんて考えたら、男子と女子には決定的に違うものがあることに、すぐに気が付いてしまった。

 それに、アレを確認するだけなら、着替えてる最中にちょっとした確認で済む。

 何より、これさえ確認できれば真実は明るみになる。


 そう思うと、俺はもう頭の中はクリスのアレをどうやって確認しようか?

 その後はそのことをひたすら考えてしまうせいで、この日は日課である魔法の練習、筋トレ、それに勉強に一切手が付かなかった。

 そして散々悩みに悩んだ挙句、一つだけあの警戒心の塊から、アレを確認する方法を思いついた。


(よし……明日確かめよう!

 なんせ、思い立ったが吉日なんて言葉があるぐらいだし)


 こうして俺は、さっそく明日計画を実行に移すことを決意するのであった。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。


次回ライト君暴走回の予感?笑

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