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勉強会

「うう~ん……」


 算数の小テストの答案用紙が返却され、クリスがしかめっ面を浮かべていた。


(あれ? あんまり結果良くなかったのかな)


 そして算数の授業が終わった後、クリスの様子が気になったので、声を掛けた。


「クリス、さっきのテストあんまり良くなかった?」

「……うん」


 クリスの返事を聞いて、俺の予想が的中しているのが分かった。


「ちょっと見せてくれない?」

「……うん」


 クリスはしょんぼりしながら、俺に答案用紙を渡してきた。


(えーと……うん、正直まぁまぁ酷い)


「えっと、これとか、こうやったら……解けるんだけど」

「……そうなんだ」

「……ねぇ、こうしたらこうなるんだけど、解る?」

「わかんない……」


 俺は間違った問題の中で、簡単な問題をいくつか選んで解き方を教えてみたが、クリスの反応はすこぶる悪い。


(もしかして、クリスは普段の授業についていけていないのかな?)


「……どうしよう」

「分からないなら、家庭教師の先生に聞いたら?」

「……いないんだ」

「え?」

「『家庭教師を付けるなんてもったいない』ってお義母さんが言って、僕に家庭教師付けてくれないんだ……」


(う、嘘だろ!)


 王立学園の授業は、一般市民が通う学校に比べて、授業の進むスピードが速い。

 そのため、学園に通ってる生徒には、家庭教師を付けるのが当たり前だと思っていた。

 だから俺は、当然のように家庭教師について聞いた。

 だけど、まさか家庭教師すら付けもらえていない。

 それがクリスがエーレンブルグ公爵家での扱いだった。


(こんなの……あんまりだ)


「ねぇ、クリス。 俺が家で勉強教えようか?」

「え、いいの!」


 俺がクリスに勉強を教えることを提案すると、クリスは大喜びしてくれた。

 けど、クリスは普段気丈に振る舞っていたから「別に困ってることなんてない」と思い込んで、友達が困っていることにも気付けなかった自分が、少し情けなく思えた。


「じゃあ今度の休みに家で……ねぇ、苦手なのって算数だけ?」


 クリスを今度の休みに家に呼ぼうと思ったところで、ふと「もしや?」と思って聞いてみた。


「……王国語も苦手」

「他には?」

「……実は5教科全部良く分かってないかも」

「……マジでか?」


 事態は思った以上に深刻だった。

 だから俺は、今日の放課後、さっそくクリスを家に呼んで勉強を教えることにした。


・・・

・・


「うわぁ~! ここがライトの家なんだ!」

「あんまり立派な家じゃないけどね」


 クリスに我が家を見せると、なんだか知らないけどいたく感動していた。


「なんか家見て凄く嬉しそうだね?」

「うん、だって王都に来てから初めて友達の家に遊びにきたから!」


(そういえばクリスも、俺と同じで出会う前まで友達いなかったんだ!)


「でも、急にきて迷惑じゃないかな?」

「それは大丈夫。

 どうせ今の時間は父さんも母さんも家に居ないよ。

 今家にいるのは、使用人の人が何人かいるだけだし」


 俺の家族は基本夕方にならないと、トリファー家が運営している商会の事務所から戻ってこない。

 

「だからいつでも気軽に遊びに来てよ」

「うん、あの三人の先生のシゴキがもう少し楽になったら……ね」


 そう言ったクリスは遠い目をしたのを見た瞬間、俺の背筋に悪寒が走った。


(確かに! あの人達三人揃ってホント容赦ないからなぁ)


 そもそも、クリスが俺の家に遊びに来るなんて考えたこともなかった。

 それも、俺とクリスの放課後の過ごし方が、毎日のようにゼール先生、タップさん、フレイさんの三人から、得意分野を叩き込まれている。

 ゼール先生からは魔法。

 タップさんからは近接戦。

 フレイさんからは礼儀作法と精神鍛錬だ。


 そして、三人から教わることは有意義だけど、揃いも揃ってスパルタだ。

 だから、誰かに何か教わった後はクタクタに疲れてしまい、その後に遊ぼうなんて思いもしなかった。

 ちなみに、本当は今日もゼール先生も魔法を教えてもらう予定だったけど、クリスの勉強事情を説明したら。


「よし、今すぐライトの家行ってこい。 むしろテストが終わるまで、俺のところにはくるな!

 それとな、もしテストでふざけた点数なんぞ取った時は、覚悟しとけよ?」


 しっかり勉強するようにキツく言われてしまった。

 そして、タップさんやフレイさんにも事情を説明したら、あっさりオッケーを貰えた。

 なんでも二人とも平民出身なので、貴族のやる勉強はあまり詳しくないらしい。


「ライト君が、クリス様に勉強を教えてくれるなら助かる」


 そう言って、勉強会のことは二人とも快諾してくれた。


・・・

・・


「それで、この数字をこっちに移したらこうなるんだけど、どこから分かんない?」

「えっと……ここから」

「だったら、これはこうして」

「あっ! そうなんだ」


 クリスが理解してない部分を洗い出して教えてやると、クリスはあっさりと問題の答えを導き出していく。


(あれ、もしかしてクリスって勉強自体は苦手じゃないのか?)


 とりあえず今日は、学年テスト5教科の内、基礎が分からないと躓きやすい算数、王国語、外国語を中心に教え、残りの理科と歴史は後回しにした。

 そして教えた三教科は、予想通りクリスは呑み込みが早く、スラスラと問題を解いていった。


「なんだ、クリスって頭いい方じゃん!」

「そ、そうかな?」


 クリスは照れながらも、褒められて嬉しそうな表情を浮かべる。


(今日教えたところ理解するのに、結構時間かかったんだけどな。

 なのに、こんなにスラスラ解かれると……なんか悔しい!)


「あれ? なんかライト怒ってない?」

「べっつにー!」


 この時俺は、クリスの要領の良さにちょっと嫉妬していた。


「ねぇ、ライト。 帰ってるの?」


(あ、母さんが帰ってきた!)


 勉強を教えることに集中し過ぎて、母さんが帰ってきたことに全く気が付かなかった。


「ライト、入るわよ?」


 母さんが俺の部屋の扉を開けて部屋に入ってくる。


「お、お母さん! お邪魔してます」


 部屋に母さんが入ってくると、クリスは頭を下げて挨拶する。


「あら、かわいい子が来てくれてるわね。

 それにしても、まさかライトが女の子を家に呼んでるなんて、ね!」


 クリスを見た母さんは、そう言って嬉しそうな表情を見せた。


「母さん……クリスは男だから!」

「えぇ! そうなの!!

 可愛らしい顔してるから、てっきりガールフレンドでも連れてきたのかと!」


 母さんはクリスが女の子だと知ってめちゃくちゃ驚いていた、

 それにしても、いくらクリスの顔が女の子みたいな顔してるからって、見た目で判断するのは失礼だろ。

 そう思うと、母さんの一言でクリスが気を悪くしてないか?

 そのことが心配になったので、クリスの方を見てみると、


「え、えへへへへ」


 女の子と勘違いされたのに、満更でもない顔してるクリス。

 

「いや……何でお前嬉しそうにしてんの?」

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

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