盾と矛の争い
対決テストが終わった後、前回は気絶して参加できなかった試験官が選んだ、対戦映像の観戦会が始まった。
他のクラスメイトの対戦を見られるのは新鮮で、皆色々考えてテストに臨んでいるのがよく分かったし、参考になる部分もたくさんあった。
そして、今回流れた5本の映像の中で、誰もが見入ったのは、クリスとフローレスさんの対戦だった。
「すごい…」
「攻めのアレクシアと、守りのクリストファーかぁ」
「……どっちにも勝てる気がしない」
クラスメイト達は二人が対戦する映像を見て、圧倒されていた。
クラスメイトが評したように、クリスは徹底的に守りに徹し、フローレスさんはとにかく攻めまくる。
そんな二人の戦いは白熱していたし、どちらも洗練された動きを見せるので、誰もが夢中になって観戦していた。
結局、この勝負は時間切れの引き分けで終わってしまったけど、映像が流れ終わった後は二人に拍手が送られるほど、この戦いは名勝負だった。
―――あくまで一人を除いての話だけど。
「クリストファー君! なんで攻撃してこないのよ」
「えっと……僕、攻撃魔法なんて使えないから」
「じゃあ練習したらいいじゃない。
またこの調子で戦われても、何度やっても決着が付かないのって嫌じゃない?」
テストが終わった後、フローレスさんはクリスに詰め寄っていた。
どうもクリスの守りに徹する姿勢が気に入らなかったのと、前回に続き今回も引き分けで終わってしまったので、白黒つけたい彼女にとっては不満のようだ。
それに対してクリスは、最初から引き分け狙いだからそれでいいんだけど、引き分けを狙っている本当の理由を迂闊に話すわけにもいかない。
だから、フローレスさんの対応に困っている様子だ。
「その……練習はしたんだけど使えなかったから、これからも使えないと思うなぁ……」
「そんなわけないわ!
あれだけ凄い防御魔法を使えるんだから、攻撃魔法だって使えるようになるハズよ」
「そ、そんなこと言われてもぉ……」
クリスはフローレスさんに詰め寄られてタジタジになり、俺にチラチラ視線を送って「助けて!」と合図を送ってくる。
だけど、俺もあんな感じでフローレスさんに詰め寄られた経験がある。
こうなった彼女を大人しくさせるには、とにかく本人が納得するか諦めるまで、話に付き合うしかない。
だから俺は、クリスに「頑張れ!」と小さなガッツポーズを送り、後は話が終わるまで見守ることしかできなかった。
「じゃあ、私と特訓しましょう!」
「えっ?、何の??」
「攻撃魔法の特訓よ! クリストファー君の魔法の才能が、このまま埋もれてしまうなんてもったいないわ」
「べ、別に僕は攻撃するの好きじゃないし、このままこの才能は埋もれていいんだけどなぁ……」
いつの間にか話は「フローレスさんがクリスを鍛える」なんて話になった。
そして二人は、特訓をする、しないで、押し問答を始める。
そんな二人の様子を見てるのは面白かったし、微笑ましく思えたので、何も言わず黙って見ていた。
「ぼ、僕、ライトと普段から特訓してるんだ!
だからフローレスさんと一緒に特訓するのって、時間的に無理かも」
「え……それ、本当なの?」
「本当だよ! 僕とライトは二人で仲良く特訓してるんだ。
だからフローレスさんと特訓する時間を作るのって、ちょっと難しいなぁ」
「ねぇ、ライト君! クリストファー君の言ってることって本当なの?」
突然俺に話が振られてきたが、まさかクリスが秘密にしている俺と特訓していることを、誰かに話すなんて思ってもいなかった。
そもそも、厳密には先生が付いての特訓なので、二人で特訓してるわけじゃない。
そして、先生のことは「誰にも言うな」とキツく言われている以上、本当のことは話せない。
なので、とりあえずクリスの話に合わせることにした。
「うん、特訓してるよ」
「そう……だからね、二人そろって攻撃が疎かになってるのは!」
「「はい?」」
「よし、じゃあこうしましょう。
これからは私が、クリストファー君とライト君を、それぞれ特訓してあげる」
「えっ?」
「なんでそうなるの??」
「だって、二人とも攻撃が疎かだから、二人共攻撃に関する能力が伸びないんじゃない?
だから私が、二人を別々に鍛えて攻撃のレベルを上げて見せるわ!」
突如フローレスさんが俺達の特訓に関する今後の方針を決めようとする。
そんなあまりにも突拍子のないフローレスさんの言動に、俺もクリスも唖然としてしまった。
(言っちゃ悪いけど、俺達、フローレスさんより強い人から鍛えられてるからね)
「うん、我ながら良い考えだと思うわ!
それに、こうしたらライト君と……」
「えっ? 俺がどうしたの」
「なっ、なんでもないわ!
それより、今後ライト君とクリストファー君が、二人で特訓するのは禁止します!!」
なんとフローレスさんから一方的に【俺とクリスが一緒に特訓するの禁止令】が発令される。
「いや、そんな勝手に決められても……」
「……フローレスさん! それだけはぜっっったい駄目!!」
「「!!」」
普段大人しいクリスが、こんなに声を大にして反対意見を言うなんて……俺もフローレスさんも普段のクリスからは想像もつかない大胆な行動に、大いに驚いてしまう。
「で、でも、こうした方が二人のためになるわよ……」
「い・い・の! こ・の・ま・ま・で!!」
フローレスさんの話をシャットアウトするかのごとく、クリスは現状維持を強く主張する。
しかしそんなクリスの態度を見て、あのフローレスさんが大人しく引き下がるわけがなかった。
「……ねぇ、私は二人のためを思って言ったのに、そんな言い方ないんじゃないの?」
「フローレスさんだってこっちのこと聞かないで、勝手に決めようとしてたよね?
それって自分勝手だと思うよ!」
「なっ! なによ、そっちだって私の話、まともに聞こうともしてなかったじゃない!
あなただって自分勝手よ」
「う、う゛ぅぅ~!」
「に゛やぁぁ~!!」
(えっと……なんでまたこうなった?)
こうして、クリスとフローレスさんの言い合いはヒートアップした。
この状況についていけない俺は、二人の様子を伺いながら、なんとか争いを収める方法がないか必死に考えていた。
すると、いきなり二人の視線が俺に向けられ!
「ねぇ……ライト君もクリストファー君の才能が埋もれるのって、もったいないと思わない?
それに私の提案って、三人ともレベルが上がる、凄くいい案だと思うの!」
「ライト……僕達はフローレスさんの力を借りなくたって、今のままで別にいいよね?」
「えっと……俺に聞かれても……」
「「ねぇ、どう思うの!!」」
こうして二人の言い合いに巻き込まれてしまった俺は、とにかく二人を必死になだめた……。
その際、フローレスさんに俺とクリスの事情を話せる範囲で説明した。
最終的に、二人の意見の折衷案として、俺とフローレスさんの組み手にクリスも参加するという形で、この争いはなんとか収まった。
こうして、クリスも組手に参加するようになったんだけど、クリスが参加するようになってから、何かと二人に些細なことを注意されたり、変な言いがかりを付けられるようになった。
例えば
「ねぇ、フローレスさんとライトって、ちょっと距離が近すぎると思うよ!」
とか
「ライト君は、クリストファー君とちょっと仲良くしすぎなんじゃないのかしら?」
なんてことを、まるで小言のように言われたりするのだ。
(いや、なんで俺の交友関係にまで文句言われなきゃならないんだ?)
さらに、なにかにつけて互いに突っかかるようになり、二人の言い争いはこの日を境に絶えなくなった。
そして、その都度仲裁役をやらされる俺の苦労を、少しは二人にも理解してほしい……心底そう思った。
こうして前以上に俺の学園生活は慌ただしくなったが、不思議なことに、以前よりずっと充実している気がする。
そんな毎日を過ごしているうちに、学園に通い始めてから、初めての学年テストが始まる時期となっていた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。




