戦いで見えてしまったもの
「それでは、お互いの健闘を称える握手を!」
テストが始まる前の様式美として、対戦相手同士が互いに握手を交わすのは前回と同じだ。
だけど、今回の相手であるダミアンは明らかに悪意を持って、俺の手を必要以上の力で握ってくる。
「つっ…あぁ!」
しかしダミアンがいくら力を込めようとも、俺は平然としている。
そして今度は、顔が歪むほど強く手を握り、俺が痛がるのを何とか見ようとするが、
(悪いけど、なんともないね!)
単純に鍛えられて筋力が上がったのもあるけど、俺は魔力をコントロールすることで手を更に強化して対応している。
だから、いくらダミアンの方が俺より体格がよくても、その程度の力じゃビクともしない。
(それにさ、声に出した挙句そんな顔晒したらマズいんじゃない?)
「こら、ダミアン・アダー! これは互いの健闘を称えるための握手である。
それだというのに、悪意を持って相手の手を握るなど、貴族として恥ずべき行為だぞ!!」
「す、すいません…」
そして俺の予想通り、試験官に厳しい注意を受けたダミアンは、渋々俺の手を放し、いそいそと指定の待機位置に戻る。
(あーあ、やっちゃった。 これは俺に勝っても、あいつのテスト結果は良くならないな)
王立学園は、貴族の子が中心となって通う学びの場である以上、貴族としての品位が重視される。
よって子息には、いかなる時でも紳士としての振る舞いが求められる。
だから、さっきダミアンが俺にやった握手は、悪手であり、明らかな減点対象でしかない。
「そもそも不正をやるなら、バレないようにやらないとダメだろ……」
なんてダメ出しを、思わずボソリと口に出してしまった。
「それでは、これより5分間対人テストを始める……開始!」
テスト開始が宣言されると、すぐにダミアンは魔法陣を展開する。
その魔法陣は、以前俺とクリスを集団で虐める際に使っていたものだった!
「おい、この魔法覚えてるか? 成金!
こいつはターゲットをどこまでも追尾する魔法弾だ」
「うん、一回見たから知ってる」
「ククク、だったら分かるよな?
この隠れ場のないフィールドで、お前の逃げ道はもうどこにもないんだよ!」
「うん、もう分かったからさ、ギャーギャー言ってないでさっさと撃てば?
せっかくこのフィールド準備してもらったんでしょ?」
ダミアンの戦術を見て、以前と基本的に変わっていないことが分かった。
だから俺は「この組み合わせからフィールドまで、不正したんじゃないのか?」って意味を込めて挑発してやった。
「うるさい、さっさと負けろ。 そしてこれ以上調子に乗るな! 成金が!!」
そう言ってダミアンは魔法を放ってきたので、まずは思いっきり横に移動して避けてみる。
すると魔法弾は、俺が逃げた方に方向転換して俺を追尾してきた。
「バーカ、どれだけ早く逃げたって俺の魔法弾は、絶対にお前に向かって飛んで行くんだよ!」
「……そんなのとっくに知ってるって」
「オマケにな、かつて魔塔に所属していた魔法使いのフェルザーガー先生から指導を受けて、この魔法は前より遥かにパワーアップしてるんだよ!」
確かに、前に見た時より魔法弾の数とスピードは上がっている。
(だけど、結局前と大差ないよな?)
俺はそう思うと、自分とダミアンの進歩の差に呆れつつ、ポケットに手を突っ込んで玉を取り出し、魔法弾目がけて次々と放り投げる。
「よっと!」
”パン! パン! パン! パン!”
「ハハハハ……はぁ?」
ダミアンは自分の放った魔法弾が宙で全て爆発したのを見て、信じられないものでも見たような顔をしていた。
「お、お前! 一体なにした!!」
「なにって……コレ投げてぶつけただけだけど?」
そう言って俺は、開始前にダミアンからパチンコ玉と馬鹿にされた物を、ポケットから取り出して見せてやる。
「う、嘘だ! こんな物で…俺の魔法弾が防げるわけ……」
ダミアンは自分の魔法が「こんな小さな物で防がれたのが信じらない」とでも言いたげな、悔しそうな表情を浮かべている。
そんなダミアンを見て、俺の頭に浮かんできたのは、
(コイツ、一回見せた手が何度も通じるなんて本気で思ってたのか?
そもそも何かにぶつかったら消える魔法なんて、いくらでも対策する方法あるよな??
俺……こんなつまんないヤツに勝つために、あんな必死になって特訓してたなんて……そんなの、なんか嫌だ)
「ふ、ふざけるなぁぁぁぁ!」
怒り狂ったダミアンは、再度追尾弾を放つため魔法を展開し始めたが
”ドン!”
「なぁっ?」
「次撃つまでに時間かけ過ぎ」
ダミアンが魔法を放つ動作を見て
【ダミアンが次に魔法を放つ前に、俺のスピードなら確実に奴を仕留められる】
俺はそう確信していたので、さっさとこの虚しい戦いを終わらせるためにも、ダミアンの胸の的に一撃パンチを叩き込んだ。
”ビィー!”
そしてテスト終了の合図が会場に鳴り響く。
「そこまで!
これにてライト・トリファーと、ダミアン・アダーの対人テストを終了する」
こうして俺とダミアンの試合は、十数秒で終わった。
「う、嘘だ…こんなの……インチキだ!
うぅぅ……」
ダミアンが俺に負けたのが信じられないからか、悔しがりつつ狼狽えるという、複雑な様子を見せた。
そんな情けないダミアンの姿を見れば、以前好き勝手やられてから胸に燻り続けていた劣等感や負の感情が少しは晴れると思っていた。
ずっとそう信じていた。
だけど、いざやり返したって気持ちはスッキリしないし、むしろやるせない気持ちになるなんて……
そしてこの時、ふと頭に思い浮かんだのは、
【競争に勝ちたいなら、相手を傷付ける覚悟と、自分も傷つく覚悟を持て!
それが出来た奴だけが強くなってきた!!】
かつてタップさんが俺に教えた言葉だったけど、ダミアンに勝っても、達成感なんてない。
この時残っていたのは、後味の悪さと虚しさだけ……
もしかしたら、俺はまだ、相手を傷付ける覚悟も、自分が傷つく覚悟も、全然足りていないのかもしれない。
こうして俺は、初めて自分の手で相手を傷付けたことで、あの言葉の真意を少しだけ理解出来た気がした。
だけど同時に、受け入れがたい現実も知った。
それでも、この気持ちをなんとか受け入れられているのは、
「……俺は、あんなふうになりたくないんだ」
そんな本音が、思わず口から漏れてしまった。
結局このテストが終わってから、他にも色々と思うことはあって、心の靄は一日中晴れなかった。
けど、クリスや他の友達のテスト結果だって気になったからだろうか。
もう俺はダミアンに対して、負の感情を向ける気にはならなかった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




