作られた舞台
ダミアンと共に、試験官を担当する先生の後についてテスト会場に移動中、ダミアンが話しかけてくる。
「おい、成金!」
「……」
「男爵家が伯爵家を無視するなんて、良い度胸だな」
「……はぁ」
あまりに馬鹿馬鹿しい挑発をしてくるものだから、思わずため息をついてしまう。
そんな俺を見たダミアンは、
「なんだ成金? 言いたいことがあるなら言ってみろよ!」
そう言って更に突っかかってくる。
正直、これ以上こんなヤツを相手になんかしたくなかったけど、
(どうせこの後テストで戦うんだから、今煽ったっていいか)
そう思った俺は、
「あのさ、トリファー男爵家は成金じゃなくて成り上がりだから。
ダミアン君はまさかこの違いも分からないの?」
貴族の子息ならトリファー家はただの「成金」じゃないってのが分かってるハズだ。
それを承知で、ワザとイヤミったらしく言ってやった。
「なっ! そ、そんなの、平民が急に金持ちになったら成金だ!」
(……分かってなかったよ)
まさかダミアンが二つの違いを把握してなかったのは予想外だった。
そしてこのまま説明もなしに会話が終わると、またダミアンは変につけ上がりそうなので、違いを説明することにした。
「あのさ、成金ってのは、金持ちになったことを見せびらかして自慢するような奴。
成り上がりは、元々地位が低かった人が、努力してその功績で地位を上げた人。
それぐらい違うよ」
成金と成り上がりの違いをキッチリ説明してやった。
「そしてトリファー家は、ちゃんと王国から外交の功績を認められて【男爵位】を授かってるから、あんまりトリファー家のこと成金って呼んで馬鹿にしてると、最悪、王国不敬罪とか騒がれて、面倒なことになるかもよ」
「……チッ! お前が調子に乗っていられるのも、今のうちだけだぞ!」
国から爵位を授かってる以上「あまりトリファー家のことは変に言いふらさない方がいい」と軽く脅してやったら、捨て台詞を吐いた後、ダミアンは黙った。
(全く、その可能性はあっても実際はこの国は爵位を重視しがちなんだから、この程度の揉め事で不敬罪になるなんて、そうそうないことすら分かんないのかよ!
そもそもロクな返しも出来ないなら、喧嘩なんて売って来るなって…)
ダミアンとの言い合いは、あまりにも張り合いがなかったので、まともに相手したこっちが損した気分になった。
そんなことを思っていたら、テスト会場である演舞場に辿り着く。
そして試験官が演舞場の扉を開けると、今回の対決テストのフィールドが姿を現す。
「…何もないや」
思わずそんな感想が口から漏れてしまったが、今回は本当に何もセットされていないフロアがあるだけ。
前回のように、室内とは思えないフィールドだと思っていたから、何もないことに逆に驚いた。
そんな俺に対して、ダミアンはニヤリと笑みを浮かべ、余裕の表情。
そんな余裕あるダミアンを見ていると、テスト前に俺達が冗談で話していた嫌な予感は、少しずつ確信に変わってきていた。
「ダミアン君は今回のフィールド見て驚かないんだ? もしかしてこうなるの知ってたりとか?」
「おいおい、そんな訳ないだろ!
いくら俺の父さんと理事長が仲いいからって、変に疑うのはナシだぜ?」
(あ! ちょっとカマを掛けてやったら、聞いてもいない部分まで説明してきたなぁ…これってフレイさんの言ってた通りだ)
夏休みにフレイさんから、心理戦について教わる機会があって
「相手がやましいことをしていると思った時は、あえて聞きたいことを聞き出そうとしない。
まずは軽く質問して様子を見るのが基本よ。
人間って触れて欲しくないことに軽く触れられるだけで、過剰に反応する生き物だから」
と教わったので、実践してみたら見事にダミアンは余計な言い訳をしてくれたので、どうにもダミアンは、俺に何かを隠していると踏んだ。
だから、ダミアンをもう少し突いてみることにした。
「別に疑ってる訳じゃないけど、そんな風に言われると
『もしかして本当に俺と戦うよう誰かに頼んだりした?』
なんて疑っちゃうよ?」
「ばっ、バーカ! そっ、そんなことしたら不正になるだろ!
そもそも雑魚のお前と俺、どっちが強いのか! そんなのわざわざテストで対決しなくたって分かってるしな」
(こいつ、また余計な言い訳を始めたな)
しかし、こうもフレイさんに教わった通りに反応するって、ダミアンってどれだけ単純な人間なんだろうな?
まさかテストでも俺が予想してた通りに動いたりしないよな?
そんな「まさか」と思えるようなことを考えながら、俺とダミアンは会場に入った。
そしてテスト開始前に、テストで使用する道具がある場合は事前に先生に申請しておく必要がある。
よって先生から道具のチェックを受け、使用に問題が無いと判断されれば、その道具は使用が許可される。
「おい、お前なんか道具使うのか?」
「うん、そうだよ」
そう言って俺は、テストで使う道具をダミアンに見せてやった。
「何だこれ パチンコ玉かぁ?
な、なぁ……こ、こんなの使って……ククク……どうやって俺に勝つつもりなんだよ?
ハハハハハハハハ!」
俺があえてダミアンに見せてやった道具は、パチンコ玉サイズの小さな玉だった。
そして、それを見たダミアンは大笑い。
「別にいいじゃん。
俺は使えると思ったから持ってきただけだし、試験官の先生だって許可したんだから」
「そ、そうだな…おい、頼むからテスト開始から十秒ぐらいは戦ってくれよ?
じゃないと、わざわざこの日のために色々頼んで準備した意味がなくなるからさぁ!」
(うっわぁ……その発言はマズいよ)
ダミアンはご機嫌そうにそう言いながら俺から離れ、テストの準備を始めるけど、さっきの失言を聞いた俺は、
「……やっぱりダミアンってバカなんだな」
ボソリとそう口にしてしまった。
だって「自分でこの状況を作った」と公言したも同然なのに、ダミアンアハそのことに気が付いていないし、さっきの言葉を聞いていたのは、俺だけじゃない。
なんせ試験官の先生は、ダミアンのさっきの爆弾発言を聞いて眉をひそめ、険しい表情をしていた。
この後、先生が何か動くのかは分からない。
だけど、ダミアンが間違いなく墓穴を掘った。
それだけは確かだ。
「それでは、お互いの健闘を祈って握手を!」
こうして、俺にとっては絶対に負けたくない戦いが始まった。
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