真に強くなるための覚悟
「準備できたら教えてくれよ」
タップさんが早速俺に稽古を付けてくれるといってくれたので、皆で庭に出た後、俺は入念に準備運動をして体を温めため、準備が整ったところで、
「じゃあ、よろしくお願いします」
「よし、今からライト君がやることはただ一つ、どんな手を使ってもいいから俺に『一発』当ててみろ」
「わかりました」
「ちなみに隙を見つけたら俺も君を攻撃するから、そのつもりで」
「はい」
こうしてタップさんとの稽古が始まったのだが、タップさんは仁王立ちしてその場から動く様子を見せないが、全く隙を感じさせないので、どうやって攻撃を仕掛けようか考えていると
「動きが止まっているからといって、油断し過ぎだな」
「!?」
そう言った直後、タップさんがちょっと動き出したかと思えば、一瞬で俺の懐まで移動していた!
そして、
”ブンッ!”
「うわぁ!」
タップさんの拳が俺目掛けていきなり飛んで来たが、紙一重で躱してすぐに距離をとった。
「お!
それだけ早く動けるなら、ドラント帝国からきたフローレスの嬢ちゃんと引き分けたってのも納得だ」
タップさんは俺の動きを褒めてくれたが、この時称賛されて一喜一憂する余裕なんて全くない。
それほどタップさんの攻撃は鋭かった!
「なぁ、ライト君」
「はい」
「何故攻撃してこない? 俺は既に君に二回も攻撃するチャンスを与えていたぞ!」
そう言われても、俺からするとタップさんは最初から隙を見せてるように思えなかったし、今だってさっきの鋭い一撃を警戒しているので、一体どこに攻撃のチャンスがあったのかなんて、さっぱり分からなかった。
「えっと……ぼ、僕が攻撃するチャンスなんてなかったです」
「…なるほどな。
『それ』に気が付けないってことはゼールの野郎、相当ライト君に気を使って生ぬるい攻撃ばかりしてたな」
「ええ? アレが生ぬるい? 絶対ゼール先生は容赦なんてしてなかったよ!」
タップさんはゼール先生が仕掛けてきた攻撃を「生ぬるい」と断じたので、実際に何度もその攻撃をくらってる俺は、タップさんの言うことを信じられなかった。
「そう思うんなら今教えてやるよ。
これが実戦…いや、覚悟を決めた人間の攻撃だ!」
”ヒュッ!”
「???」
突如タップさんが俺の目の前から消え!
”ドサ!”
「カッハァ!」
なんて考える前に、俺はタップさんの強烈な力で背中から地面に叩きつけられ、その衝撃で肺から空気が強制的に吐き出された!
「そしてコレで君は終わりだ」
タップさんがそう言った時、既に俺の喉元に冷たい何かが押し付けられると同時に、突き刺さるような痛みも走った!
「おっと、下手に動くなよ! 喉が切れても知らないぞ?」
タップさんが恐怖を煽ることを言ってきたので、ゆっくり手元に視線を送ると、その手には短剣が握られており、喉元に「命を奪う凶器」として押し付けられていた。
そして、その現実を頭が認識した途端、
「ひっ…うう゛、うぁぁ…」
一気に自分が【殺されるかもしれない】という恐怖が込み上げ、情けない声と涙が漏れ出してしまっていた。
「おいおい、本気で仕留めるつもりなんかないから、泣くなって!」
泣き出した俺を見たタップさんは、すぐに短剣を仕舞うと、拘束を解いて少し距離をとった。
だけど俺は初めて経験した【殺されるかもしれない】という恐怖で、その状態からしばらく動けずにいて、出来たのは情けない声を出しながら泣くことだった。
「怖かっただろ?」
”コクリ”
声を出せなかった俺は、頷いて自分が今どれだけ怖いのか必死に伝える。
「そりゃそうだろうな。 貴族の坊ちゃんが喉元に刃物突きつけられるなんて、そうそうない経験だ。
だけどコレだけは覚えておいてくれ!
本気で相手を倒すつもりなら、こっちだって相手を傷付ける覚悟だって必要だ。
さもないと…さっきみたいに何も出来ないうちに殺られて終わるぞ」
「ぞ、ぞんなこと……」
タップさんの言う事をキッパリ否定したかったけど、この時キッパリ否定出来なかったのも、タップさんの言ったことに心当たりがあり、そのことは何となく自分でも分かっていたからだ。
例えば
例えばさっきタップさんが言ってた”二回の攻撃のチャンス!”
一回目は稽古開始早々。
二回目はタップさんが最初に攻撃した後。
今思えば、どちらのタイミングでもタップさんは隙を晒していた。 つまりタップさんの言う通り、俺は攻撃の機会を二回も見逃していたのだ!
「なぁ、どうして俺は君の喉元に刃物を突き付けたのか、分かるかい?」
俺は思いっきり首を横に振った。
「アレこそ君の求めていた答えの極致だからさ。 相手を本気で倒す覚悟があるなら、何の躊躇もなく最も確実に相手を倒す方法を選ばなくてはならない。
そんな判断が必要になる時だってある。
要は『殺られる前に、殺る!』
これが俺やライト君のような『一般的な魔法が使えない奴』が、魔法を使える奴に勝つために出来る最も確実な戦い方だが、果たして君には相手を傷付けてでも、相手を倒す覚悟があったか?」
「……」
タップさんの問い掛けに対して、俺は静かに首を横に振ったのは、タップさんの言う【覚悟】なんて一切ない事に傷かされ、それを素直に認めたかからだ。
だけど、それでも言いたいことはあった。
「…でも『人を傷つけるのは良くない』って皆言うよ」
「そうだな、確かに人を傷つけるのは良い事じゃない。 それは正しいな」
タップさんは俺の言ったことが正しいと認めたけど、それでもタップさんは人を傷つける覚悟を持てと言う。
その矛盾をこの時の俺はどうしても納得出来なかったので、
「じゃあタップさんの言ってることって、おかしいじゃないか!」
そう言ってやったけど、そんな俺の言葉を聞いたタップさんはたじろぐどころか、険しい表情を浮かべて威圧的な空気を醸し出すと、一気に場の空気が変わった。
「確かに相手を傷付けろって言ったのに、傷付けるのは良くないと言うのはおかしい。
だけどライト君。 君が相手を傷つけるのが嫌だからといって、君は幾らでも傷ついても良いのか?」
「嫌だけど……」
「そうだろうな。 俺だって自分が一方的に傷付けられたら我慢ならない。
だからと言って、俺は人を傷付けるのは『良いこと』って言ってる訳じゃないし、俺の言ってる事が矛盾しているのも分かってる」
「じゃあ…どうしてタップさんは僕に『人を傷つける覚悟を持て』なんて言うんですか?」
「結局俺が見た世界ってのはな…どれだけ綺麗ごとを並べようが、結局競争に勝つためには、誰かを傷つける覚悟を持った奴だけが真に成長していて それを俺はこの目で何度も見てきた。
それに俺やフレイ、そしてゼールも強い覚悟を持っていたからこそ、強くなれたからだ」
タップさんが何でそう考えるようなったのか、それは分からなかったけど、その言葉には何か深い物を感じた。
そして、確かにタップさんの言う通り、何と言おうがこの世界では競争は常に発生している。
そのことを漠然とではあるが理解できたのは、商人である父さんが、ライバルたちと切磋琢磨しながら商売という戦場で戦っている姿を、近くで見ていたからなのかもしれない。
「いいか、ライト君。 理想は人は傷付けないであっても、現実は違う!
なぜなら時に誰かを傷付けなければ、君だけじゃなく【多くの人が傷つくことになってしまう】時だってあるし、誰にでもいつかそんな決断を迫られる時は来る。
もし、その時が来ても君は『相手を傷つけるのは良くない』と言って、大切な誰かの危機だろうと何もしないで黙っているつもりなのか?」
「そんなことない」
「本気でそう思うなら聞こう。 どうして君は、自分を虐めた奴等に勝ちたいなんて思った?」
そう言われて思い浮かんだのは、自分のことをバカにされたのも悔しかったけど、何より初めて出来た友達が傷付けられ、馬鹿にされたのが一番許せなかったから、俺はアイツ等に勝ちたいと思った事を思い出した。
「……友達を、クリストファー君をバカにしたから!」
「そうか。 だったらその想い…いや、誰かを守りたいなら自分も相手も傷つく事から、決して逃げるなよ」
俺の答えを聞いたタップさんは、さっきまでのシリアスな雰囲気から一転して、満足そうな笑みを浮かべていた。
「後はそれをやり遂げる為に必要なことが何か、それは分かってるよな?」
「はい!」
「おっ、少しは本気で俺と戦う覚悟が決まったようだな。
なら早速本番と行こうか! まずライト君は、何としてでも俺に一発決めてみせろ。
そして君が本気で成長するための覚悟を持ったことを、俺に見せるんだ」
「はい!! 分かりました」
こうしてタップさんから本格的に近接戦闘について教えてもらうことになったんだけど、その内容はゼール先生との特訓が本当に”生ぬるい”と思えるほど壮絶な内容だった。
そして、結局この日は一発もタップさんに攻撃を当てるどころか、攻撃する隙さえ見つけられず、一方的に叩きのめされて終わり、その後俺はしばらくその場から一歩も動く事さえ出来ずにいた。
何せタップさんの攻撃は、まともに喰らえば吐くほどキツイ一撃だったし、こっちがタップさんの攻撃を受けて苦しんでる最中だろうと、
「おい、実戦で隙をさらせば袋叩きにあうだけだぞ」
と言って、苦しんでる俺に容赦なく追撃を加えてきたからなぁ……今思うと、我ながら初日早々あれだけ酷い目に遭っておいて、よく今でも続けていられるなと思う。
そして、ゼール先生がタップさんの元で習うのを「今以上にキツイ訓練」なんて評したのは、大げさなんかじゃなく、これぞ真の実戦形式とも言える地獄の訓練だった。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。




