人の話から見えてくるもの
クリスの家に遊びに来て、座り心地の良いソファーの感触を楽しんでいたら、お茶を持ったメイドさんが現れ、ティーカップをテーブルに並べ始めた。
そしてティーカップを並べ終え一礼した後、その場を去ろうとすると、
「待ってよフレイ。
フレイの事もライト君に紹介したいから、一緒に話そうよ」
クリスは客室から離れようとしたフレイさんを引き留めた。
「いえ、せっかくクリス様がご友人と楽しいひと時を過ごそうとしている時に、私のような者がこの場に居て、お話の邪魔になってはいけませんから」
「そんなことないよ。 ねぇ、ライト君」
クリスは俺に期待の眼差しを向けてくるので、俺の選択肢は一つしかない。
「はい、大丈夫ですよ」
クリスが楽しそうにフレイさんのことを紹介しようとするので、とくに問題ないと答えると、クリスは嬉しそうに「ほら、言ったでしょ」とフレイさんに伝えた。
「分かりました。 それがクリス様のお望みであり、ライト様にも許可をいただいたので、私もこの場に参加させていただきます」
フレイさんはそう言った後、クリスの後方に立ち、
「それではライト様に改めて自己紹介させていただきます。
私は、クリストファーお坊ちゃまのお世話を担当させていただいております”フレイ”と申します。
以後、お見知りおきを」
「はじめまして。 ライト・トリファーです!
よろしくお願いします。 フレイさん」
「! 私のような者にもご丁寧にあいさつしていただき、ありがとうございます」
フレイさんはニッコリとそう答えると、スッと落ち着いた表情に戻った。
どうやらフレイさんは、きっちりとしたお姉さんタイプの人なんだと思った。
「じゃあ早速だけど、ライト君がどうして俺から戦い方を教わりたいか教えてくれないか?」
「…タップ! クリス様のお友達なんですから、こういう時は先に主であるクリス様たちが、私たちに話しかけてくるまで黙っているのが礼儀でしょうが」
「ちょ、いてててて…だからと言ってやり過ぎだろ!」
タップさんの態度を見たフレイさんは「ちょっと黙ってて」と言わんばかりタップさんの耳を引っ張っているんだけど、それを見た俺は、
(…この人、身内には厳しいタイプだ)
そう思いつつ、フレイさんからキツイお仕置きを受けても、タップさんは怒る様子はないので、
(あ!、この二人きっと仲良いんだな)
と、二人の関係性が伝わってきた。
「フレイ、止めて! 別にライト君はそんなことで怒ったりしないから!
ねぇ、ライト君」
「う、うん」
「クリス様がお優しいのは良いことですが、しかし使用人風情と主との間には、守るべきルールがございます!
つまり、これはルールを守らなかったタップへのお仕置きなのです」
「え~! フレイとタップには、ライト君がいる前でもいつも通り話してほしいな~」
「そう言われましても…」
こうしてクリスとフレイさんの言い合いが始まり、その横でフレイさんから耳を引っ張られ続けて苦しむタップさんがいる――何ともシュールでカオスな光景が俺の目の前で生まれていた!
そんな状況を目の当たりにした俺はと言うと、どうしたらこの場をうまく収めれるか?
そのことを必死に考え、導き出した答えは、とりあえずこの場で”最も力がある人間の意見”に従ってみることだった。
「あのぉ…別に僕はタップさんからも、フレイさんからも気軽に接してもらったって、気にしないです」
恐る恐るクリスが言うように接してもらっても、自分は”大丈夫だ”と伝えてみる。
「ほら、ライト君も『良いよ』って言った」
「ほれ見ろ! 俺は最初からライト君はそんな小さいこと気にするような…って痛い! マジで耳が千切れるからこれ以上強く引っ張るなぁ!!」
「はぁ……分かりました。 それではお二人のお望みということですので、今後は『ライト君』がいる時だけは、私もタップも少し砕けた対応をさせていただきます。
ですがこの対応に何か問題があると思った時は、ちゃんと言ってくださいね」
フレイさんは『やれやれ』とでも言いたげな顔をしつつ、クリスの提案を受け入れることにしたけど、その隣で耳を押さえて苦しんでるタップさんは、何よりも不憫に思えた…
―――
「それでね、ライトって凄いんだよ! いきなりテストでB評価取っちゃうんだから!」
「へぇ、いきなり好成績を出したのか!」
「これは将来有望で」
「い、いや~、そんなことは」
クリスは俺との学園での出来事や
「ゼール先生って、ホントに魔法教える時は厳しいんだよ!」
「俺達に魔法教える時もアイツ一切容赦なかったからな」
「私達もゼールの話について行くのに苦労したのを思い出します」
どうして俺とクリスがゼール先生から魔法を教わっているのか。
そして俺がクリスの家に来た理由を二人にも雑談を交えて伝えた。
「なるほどなー、つまりゼールの奴は『魔法で相手を制するのは教えれても、生身の方は教えられないから俺に話を投げて来た』ってことだな」
「でもゼールは、ライト君にしっかりと魔力の知識からコントロールの方法まで教えてた上で、あなたに後を託したってことでしょ?
そう考えたら、ゼールが大して関わりの無い子の面倒をしっかりの見てたのも意外よね」
俺の事情を聞いた二人は、先生と俺の関りを意外そうかつ、面白そうに聞いていた。
「確かにゼールは魔法でバンバン相手を倒すタイプで、体術は戦闘で補助的な使い方したからな」
「そもそも私とあいつの体術だってタップが鍛えたんだから、この話がタップに回ってくるのは自然な流れよ」
「タップさんは、先生とフレイさんの師匠だったんですか?」
「師匠というか『お互いに弱い面を教え合ってた』って感じかな?
フレイもだけど、魔法の基礎理論と、ライト君も使ってる体内での魔力コントロール方法は、何を隠そうゼールから教わったんだ」
「そうだったんですね」
こういう話を聞くと、ゼール先生と二人の繋がりが見えてくるので、聞いてるだけでも面白かった。
ちなみにフレイさんは二人に何を教えたのか聞いてみると【礼儀作法】が主だったらしい。
そして、その話を聞いたタップさんは何を思い出したのかは分からないけど、なんかこう…遠い目をしていたので、もしかしたらフレイさんの教え方が「最もスパルタなのかもしれない」と思ってしまった。
「とにかく、どうしてライト君が『近接戦闘で魔法使いに勝てるようになりたいのか』は良く分かった!
じゃあ、早速強くなるための実戦といこうか」
「あ、はい。 よろしくお願いします」
そしてこの勢い任せのノリは
(……なんかこの人の教え方も、ゼール先生と同じタイプの気がしてきた)
素直にそう思える何かをタップさんから感じてしまったので、この後のことはそれなりの覚悟を持って挑んだんだ。
だけど、まさかあんな目に遭うなんてこの時は予想もしてなかったよなぁ……
最後まで読んで頂きありがとうございます。




