始めての友人宅訪問
ゼール先生の紹介でクリスの家にいる「タップさん」に会うことを薦められたので、クリスの住んでいるエーレンブルグ公爵邸に向かっていたんだけど、俺はこの時二重の意味でドキドキしていた。
まず名前以外何も分からない人と会う前の緊張感と、初めて友達の家に遊びに行くというワクワク感。
全然違う感覚なのかもしれないけど、どっちも期待と不安が入り混じるのは同じだ。
そしてクリスと待ち合わせした場所で合流した後、いよいよクリスの家に向かう。
ーーーー
「うわ、家でっか!」
この国の筆頭貴族が住む家ということもあって、エーレンブルグ公爵家は広大な敷地に、大きな屋敷を構えているのは、遠目から見て分かっていたけど、間近でみるとその大きさに圧倒された。
「アハハハ……僕も初めてこのお家を見た時は、ライト君と同じように驚いたよ。
じゃあ、僕が住んでるとこに案内するね」
そう言ったあとクリスは、目の前の大きな門に向かわず、屋敷の横にある脇道を進みだした。
(あれ? 正門から入らないんだ?)
不思議に思いながらしばらく脇道を進むと、
「……ここが僕が暮らしてる家だよ」
クリスが自分の家だと紹介したのは、さっき見た公爵家の豪邸と比べたら、質素で小さな離れだったので、衝撃を受けてしまった。
「えっ? 何でクリストファー君あっちの豪邸に住んでないの?」
「おとうさんとおかあさんから、『他所の子はこっちに住め』って言われたんだ……」
俺はこの時、初めてクリスのエーレンブルグ公爵家における”立ち位置と扱い”というものを、思い知った。
そして、この後クリスに何て声をかけてやればいいのか、全く分からなかったので、
「そうなんだ…」
なんて気の利いたことも言えず、ますます気まずい空気になってしまった。
「そ、そうだ! ゼール先生がライトに紹介してって言ってたタップは、この離れの警護を担当してて、今は家の前にいると思うから、先に紹介するね」
「う、うん。 分かった」
そんな空気を気にして、クリスは急かすように俺を離れにいるタップさんのところに案内しようとするが、まだ互いにぎこちない空気が流れているのが分かる。
こうして俺の”友達の家デビュー”は、微妙な空気で始まってしまった。
ーーー
「タップ、ただいま~」
「クリス坊ちゃん、お帰り」
クリスが笑顔で駆け寄っていったのは、ガタイは良いけど、爽やかで気の良さそうなお兄さんだった。
「おっ、君がクリス坊ちゃんの友達のライト君か?」
「は、はい。 ライト・トリファーです」
「ライト君は平民にも丁寧に接してくれるのか! しっかりしてるんだな。
おっと、それより俺の自己紹介がまだだったな。 この離れとクリス坊ちゃんの警護を担当しているタップだ。 これからよろしくな」
「タップさんですね。 よろしくお願いします」
頭を下げてしっかり挨拶を済ませたけど、タップさんは姓を名乗らないので、平民の出なんだろう。
ちなみにこの国の貴族のほとんどは、平民に対して高圧的な態度をとる奴が多い。
だけど俺は父さんから
「いいか、どんな人であろうと初対面の人には、敬意を持って挨拶しなさい。 特に年上の人は人生における先輩なんだから、より敬意を持って」
と教えられたので、タップさんにしっかり敬意を持って挨拶したら、ニッコリと笑って「ありがとうな」とタップさんは言ってくれたので、どうやらファーストコンタクトの印象は、お互い悪くないようだ。
「それより坊ちゃんから話は聞いてるけど、なんでもゼールの野郎から俺に近接戦闘のコツを『教わってこい!』って言われたんだって?」
「は、はい! ゼール先生からそう言われて」
「プッ!」
突然タップさんが噴き出したので
「あれ? もしかして僕何か変なことをいいました?」
自分に何かおかしな点がなかったのか思わず尋ねる。
「いや、ライト君は何も変なことは言ってないぞ!
ただ、ぶっきらぼうで愛想悪いあのゼールが『先生』なんて大層な呼ばれ方されてると思うと、笑えてきてさぁ。
いやぁ、今度会った時にアイツ弄るネタが出来たなー」
「あのねライト君。 タップとゼール先生は、昔僕のママの警護を担当してたから、お互いのこと良く知ってる友達なんだ」
「へぇ、そうだったんだ」
どうして俺たちがゼールさんのことを”先生”って呼ぶのが、タップさんにとって面白いのかはよく分からない。
だけどクリスが教えてくれた情報と今の状況で、先生とタップさんは昔からの付き合いなんだろうな。
それだけは何となく伝わってきた。
「さぁ、せっかく坊ちゃんが友達を連れて来たんだ。
まずは中でゆっくりライト君のことを聞かせてくれ」
そう言ってタップさんとクリスは、俺を離れ中に招き入れてくれた。
離れに入り、二人から客間に案内されると、何気に質素な離れとはいえ広さは家のトリファー男爵邸とあんまり変わらない規模だ。
そう考えると、この離れはやっぱり大貴族が所有する家の一角なんだと思った。
そして客間に辿り着くと、テーブルにはお菓子が用意されているのを見れば、自然と嬉しさが込み上げてくる。
そしてクリスに古びたソファーに座るように勧められたので、遠慮なく座ってみたが、古くてもすごく座り心地が良かった。
そして、このソファーがお気に入りの場所になるなんて、この時は思ってもいなかったなぁ。
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