目指せ、下剋上!
「ハァ、ハァ」
「ぜぇ…ぜぇ…」
「ねぇ、さっきから逃げてばっかりだけど、戦う気あるの?」
「…ない。 だって攻撃しても当たる気がしないし」
「なら、このまま最後まで逃げるつもり?」
「うん、そのつもり」
「ねぇ、ふざけてるの? この臆病者!」
フローレスさんが怒りと力を込めて剣を振ってきたが、俺は冷静に太刀筋を読んで斬撃を躱せば、フローレスさんは心底悔しそうな表情を浮かべたあと、更なる猛攻を加えてくる!
だけどその攻撃は、開始時に比べたら単調になってきたのを見て、ゼール先生が
「いいか! ライトが攻撃を躱し続ければ、そのうち相手がイライラして攻撃が雑で単調になって予測しやすくなる!
もし勝ちを狙うなら、その時しかチャンスはねぇぞ」
なんて教えてくれたけど、ホントに先生の言う通りの状況になってきた。
フローレスさんの攻撃を躱し続けて3分以上経ったが、その間にフローレスさんが最初に見せていた余裕の表情は既になく、今俺に見せるのは焦りと苛立ち、そして疲労。
もっとも疲労に関しては、意識して魔力を使ってる分俺の方が蓄積してるのかもしれないけど、最初と今じゃ精神面のアドバンテージは完全に盛り返しに成功している。
(だけど)
”ヒュン”
(反撃しようにも…)
”ブォン!”
(攻め込める気がしないんだよな)
”ドッゴォォォォ!!”
力任せの強烈な振り下ろしを躱し、フローレスさんが剣で地面を叩きつけると、地面から激しい砂埃が舞い上がるのを見て「ホントに同い年の子が放った攻撃なのか?」 そう思うほど、凄まじい一撃だ!
普段ならあんな一撃見せられれば、近付きたくもないって思うんだろうけど、この時だけは【攻撃を見切れているなら、いつか反撃が出来る】という気持ちが湧き上がり、いつの間にか
『格上の相手に勝ちたい!』
なんて欲求が生まれていた。
実は、既にゼール先生からこのテストの真の狙いが【状況に応じた対応力を見せられるかどうか】だと教えられていた。
だからこのテストで、格上相手に勝つ必要は全くなく、むしろ無理に戦うより”時間切れまで逃げきり”を選んでも、自分の評価が落ちることはないこと。
更に腕に自信がある奴の攻撃を全て躱せれば、それだけで相手のプライドは大きく傷付けられる。
そもそもフローレスさんに対して「見返したい」なんて気持ちは全くないし、フローレスさんは俺達にちょっかい出してきた連中と、関わりがある訳でもない。
だから無事にテストを乗り切って、あの連中の誰か一人より高いテスト結果も出せれば、それだけで今回のテストは十分だった。
だけど、そうだと分かっているけど、物事が有利に進んでいる流れを肌で感じ、自信が溢れてきた俺は「今の自分ならやれる!」と、更なる結果を得ることを後押しするので、余計な欲が出てきたのだ。
「残り時間、1分」
試験官が、テスト終了時間が残り僅かに迫っている事を告げると、フローレスさんは一旦距離をとって呼吸を整え始める。
「ハァ、ハァ…ねぇ、ライト君! あなたが本当は『こんなに凄い』だなんて、思ってもなかったわ」
「ぜぇ…ぜぇ…じ、実は僕もビックリしてるんだ。 自分がここまでやれるなんて」
「なにそれ? もしかして自分の力を試したことがなかったの?」
「そ…そんな感じかな」
「そうなんだね。 ねぇ、どうしてそんなに急に強くなったの?」
「…それはちょっと秘密」
「そう、じゃあ私が勝ったら、どうやってライト君が強くなったのか教えてくれる?」
「えっと…それもちょっと約束できないかな」
「そっか…ちょっと知りたかったけど、教えたくないんなら無理に聞かないわ。
それとね、ライト君」
「…なに?」
「実は私も、ライト君に隠していたことがあるの」
「え?」
「私、最初に『全力を出す』って言ったけど、本当は…まだ全力を出してないの!」
フローレスさんは俺にそう告げたあと、ニッコリと笑う。
「ねぇ、私今凄く嬉しいんだよ! だってこの学園で、私の全力を出せる相手がいるなんて、思ってなかったから」
「いやいや! 僕、フローレスさんが全力で戦うような相手じゃないから!」
「いいえ! 私の全力の剣技を全部躱せるライト君は、全力で戦うべき相手だわ!」
そう言いながらフローレスさんは、剣を真上に掲げた。
そして
「コレを見せるのは、ライト君が初めてだからね。
目の前の敵を討て、サンダーボルト!」
”ズドォン!”
「! これを躱すの?」
「ま、まぐれだけどね!」
紙一重で頭上から迫りくる雷を躱せたけど、正直ゼール先生から同じ魔法を何発も喰らってなかったら、絶対躱せていなかった。
「凄いわ…じゃあ、コレなら? 雷の奔流に呑まれなさい! サンダークラッシュ!!」
”バリバリバリィ!”
無数の雷が、こちらを目掛けて襲い掛かってくる!
だけどこの魔法も”伊達に何発も喰らってない”ので、冷静に後ろに下がって無数の雷の軌道を大きく広がらせ、その際生まれた隙間を縫って魔法を躱すと
”ブォン”
「おわぁ!」
魔法と共に迫ってきたフローレスさんは、間髪入れずに剣で追撃してきた!
何度も太刀筋を見ていたからギリギリ躱せたけど、最初からやられていたら…そう考えるとゾッとするコンビネーションだった。
「凄い! これも躱すなんて」
一方フローレスさんは、さっきと違って自分の攻撃を躱されても楽しそうにしているし、太刀筋もさっきまでの荒々しさは無くなって、研ぎ澄まされた太刀筋に戻った。 というより最初より活き活きしていて、より調子が良くなっている気さえもする。
それに対してこっちはもう体力も魔力も限界に近く、気を抜いたらその場にへたり込んでしまいそうなほど消耗している。
つまりほんの数秒のやり取りで、形勢は逆転してしまったのだ!
「残り時間、30秒!」
「ごめんね、ライト君。 始めて全力で戦える学園の人に出会えたのは楽しかったけど、もう君も限界みたいだし、時間もないからこのまま勝たせてもらうわ!」
(あ…バレてる!)
フローレスさんは、俺が限界を迎えているのを見抜き、今なら俺を倒せる確信を得たようで、魔法を準備しながら俺に一気に詰め寄って勝負を決めにきたけど、こっちとしてはありがたかった。
なんせこちとら既に限界一歩手前で、あと30秒フローレスさんから逃げ切るのは「無理」だと分かっていた以上、俺も最後に勝負を仕掛けるつもりだったからだ!
そしてフローレスさんが、俺の狙った距離まで迫った時
「おりゃぁあ!」
”ボンッ!”
俺が思いっきり地面を踏みつけると、激しい砂埃が舞い上がった!
「最後に目くらましを使って、時間稼ぎのつもりかしら? だけど残念ね、ライト君! そんな手は私に通用しないのよ!
雷よ、暴れ狂え! サンダーストーム!!」
”ゴオォォォォォォォォ!!!!”
フローレスさんの放った魔法”サンダーストーム”は、使った者の周囲に雷の嵐を発生させる魔法であり、俺がやることを読んでいたのかは分からないが、彼女の放った魔法は俺の生んだ砂の煙幕を一瞬で舞い上げる。
「コレで終わりよ! って、ウソ!? ライト君がいない?
魔法で砂埃を吹き飛ばせば、姿が顕になるハズだった俺の姿が見えないことに、フローレスさんは焦りを見せる。
「残り10秒、9、8…」
「どうして? 何処にも隠れる場所なんて」
「あったんだよ!」
俺は砂埃を巻きあげた後、フローレスさんが思いっきり地面に剣を叩きつけた際に出来た穴に身を隠し、フローレスさんが僅かに隙を見せた瞬間を待っていた。
そしたら案の定俺を見失ったのと、テスト終了の知らせを聞いて焦り出したので、チャンスはココしかないと思った。
「うわぁぁぁぁ!」
俺は今自分から最も近いフローレスさんの的に向かって手を伸ばす!
そして伸ばした手は、後僅かでフローレスさんの腕に付いた的に触れる!!
”ガキィン!”
「え?」
「惜しかったね、ライト君!」
俺がフローレスさんの的に触れる前に、彼女の放ったカウンターの突きが、俺の胸の的を突き刺していた。
幾ら相手の虚を突こうとも、地力が違えば咄嗟の対応力も当然違ってくる。
つまり最後の最後で、戦いのド素人と経験のある者との地力の差が、勝敗を決したのだ。
「そんなぁ…」
”グラリ”
「うわわわ…」
最後に逆転されたショックと、最後の力を出し切った事で意識が薄れ始め、俺はフローレスさんに寄りかかるように体勢を崩す。
”ムニ”
すると俺の手は、何か”柔らかい物体”に触れたけど、その「柔らかいものは一体何なのか?」
それさえ確認する力も気力すら残っていなかった。
「キャァァッー!!」
突然可愛らしい悲鳴が耳元で鳴り響く!
何事かと思ったら目の前にいる”あのフローレスさん”が、顔を真っ赤にして叫んでいる。
それだけは薄れつつある意識の中でも、視界に入った。
”バチーン!!!!”
そして俺の頬に強烈な衝撃が走り、俺はそのまま意識を失う…
最後まで読んで頂きありがとうございます。




