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特訓の成果

 フローレスさんと共に、試験官を担当する先生の後ろをついて歩き、対決テストが実施される演舞場の入り口に辿り着いた。

 対決テストは試験官の先生と、対戦する生徒二人だけが演舞場に入り、学校が演舞場内に用意した仮設フィールドの中で、試験は始まる。

 ちなみに仮設フィールドは、実際に目にするまで秘密となっていて、特に何もない構成から、遮蔽物が多く存在したり、床が水場になっていたりと、実際に入るまでどんな状況が作り出されているのか、一切知らされない。

 そして試験終了後は、教室とは別の控室に入って全ての組の試験が終わるのを待つんだけど、これは後に試験を実施する生徒の方が、試験を有利に進める事を防ぐためだ。


 要は演舞場のシチュエーションを先に知り、その状況での動き方に関する情報を得ているなら、後に始めた生徒の方が良い結果を生みやすくなる。

 これは戦術としては最適解かもしれないけど、咄嗟の機転や判断を生み出す為の「現場の対応力」の育成を目的とした、このテストの趣旨にそぐわないという事だ


「それでは、二人共会場に入ってください」


 先生が演舞場の扉を開けたので、俺とフローレスさんは中に入ると、そこには砂地のフィールドが用意されていた。


「では、10分後に対人テストを始めます。 お互い準備が済んだらフィールド内で待機しておいてください」


 先生にそう言われた後、俺も少しでも体をよく動かせるように準備体操を始める。

 一方フローレスさんは、持ってきた自前の剣のチェックを始めたけど、コレは予想通りだった。

 なんせ彼女の母親は、ドラント帝国一の剣士と謳われ、多くの武功を上げている。

 そんなフローレスさんは、剣士としての才能を濃く受け継いでいるし、当然母親からも厳しく鍛えられてきたという話は有名だ。

 つまり彼女にとって、幼いころから触れて慣れ親しんでいる剣とは、もはや体の一部みたいなものだと思っていいだろう。


 それに対してこの時の俺は、武器を扱った事もないし、そもそもゼール先生との特訓で攻撃のやり方なんて一つも教えてもらってない。

 俺が先生から教わったのは、とにかく先生の攻撃を避けることだけだったので、彼女と正面からやり合える気すら起きなかった。

 そして、このテストを受けるに当たって、ゼール先生から貰ったアドバイスも


『いいか、相手に勝とうなんて決して思うな! とにかく時間いっぱい逃げろ。 お前はそれで十分だ』


 ただそれだけ。

 果たして本当に逃げるだけで「このテストを乗り切り、見返したい奴等に一泡吹かせることが出来るのか?」

 そんな不安を抱えながら準備運動を進めていると


「ライト君、あなたは何も道具を使わないの?」

「え!」


 突然フローレスさんに声をかけられたので、びっくりしてしまう。


「あ、ごめんなさい。 いきなり話しかけたから驚いちゃったかしら?」

「だ、大丈夫…僕は何も使わないよ」

「そうなんだ。 じゃあ先に謝っておくわね」

「え? 何を??」

「私、お母様から『対峙する相手には一切容赦するな』って言われてるの。 だから最初からこの剣でライト君に攻撃するし、一撃で決めるつもりだから…すぐに負けても恨んだりしないでね?」


 フローレスさんは笑顔でそう言った後、先に演舞場の中央に向かったけど、まさか清々しく物騒な勝利宣言をされるなんて…そして勝利宣言された俺は、頭で状況を処理できず、しばらく呆然としてしまう。


・・・


 こうして、お互い的となる魔道具を体に取り付けてテストの準備は出来たので、後は試験開始の合図を待つだけだ。

 しかし先程フローレスさんから「手を抜かないし勝つ」と宣言され、自分と彼女との自信の差を大きく見せつけられてしまったことで、再び意気消沈し、テストが始まるのが怖くて仕方がなかった。

 なんせこの年代の子供にとっては”自信の差を見せつける”ただそれだけのことが、精神的に大きなアドバンテージを得ることになったりする。

 そしてアドバンテージを取られた側は、委縮してしまって自分で本来の実力に蓋をしてしまうことだってあるのだから、自信一つで物事の優劣が大きく動く事もある。

 こうして精神力の差を見せつけられ、自分で自分の動きを抑えてしまいそうな不利の心境のまま、対決テストは始まろうとしていた。


「それでは、両者お互いの健闘を称える握手を!」


 俺とフローレスさんは先生の指示通り握手を”グッ”と交わし、互いの視線を合わせるが、既に相手は普段教室で見せる凛としたいつもの姿とは違って、ゼール先生が特訓中に見せたような「相手に攻撃を加える覚悟を決めた」そんな顔に切り替わっていた。


「それでは、アレクシア・フローレスと、ライト・トリファーによる5分間対人テストを、これより開始する…では、始めぇ!!」

「ハァッ!」

 試験官が宣言した瞬間、フローレスさんは目にも止まらぬ速さで俺との距離を詰め、俺の胸に装着された的に向かって一直線に神速の突きを放つ。


”チィーン!!”


「あっ、危なかった!」

「…嘘でしょ?」


 俺は何とか体を逸らす事で、フローレスさんの剣が的に直撃するのだけは避け、即敗北だけは免れた。

 しかし、さっきの鋭い一撃を見て、俺は『絶対にフローレスさんには勝てない』ことを悟る。

 そして渾身の一撃を躱されたフローレスさんの表情は、驚きの表情を隠せないでいたけど、すぐにさっき見せた「相手を仕留める顔」に切り替わる。


「フッ!」

「うわぁ!」


 再びフローレスさんの鋭い斬撃が、的に向かって素早く振るわれるが、再度回避に成功する。


「また躱された! ねぇ…あなた本当に、あのライト君なの?」

「…そうだよ」

「そっか…じゃあ今まで実力を隠してたってこと?」

「そう言う訳じゃないんだけど…ちょっと色々特訓したから」

「嘘よ! ちょっと特訓したぐらいじゃ、急にそんな動きが良くなるわけないもの!

 だから正直に教えて。 今まで実力を隠してた理由を!」


 フローレスさんに、特訓したから動きが良くなったんだ!と説明しても信じてもらえないどころか、何故か俺の事を嘘吐きだと勘違いして、もの凄く睨んできた!

 学園の人気者から嘘吐き呼ばわりされるのは、ちょっとショックだったけど、ゼール先生から教えてもらってる事は、先生の事を含めて「秘密にしろ」とキツく言われている。

 なので【体内に流れる魔力を上手くコントロールする事で、身体能力を大幅に上げている】ことや、ゼール先生の魔法攻撃をかわすのに比べたら「フローレスさんの攻撃をかわすのは簡単」だなんて、話すに話せない。

 一体どうしたらフローレスさんに「実力を隠してた訳じゃない」と信じてもらえるのか? そのことで頭を悩ませるが、何もいい案は思い付かないので


「本当に隠してたわけじゃないんだけどなぁ…」


 そんないい訳しか、思い浮かばなかったんだよなぁ。


「ふーん、そうなんだ…何か残念だわ」

「残念?」

「うん、私、ライト君って強くないけど、他のクラスメイトと違って『なんでも一生懸命頑張ってる人』だと思ってた。

 そんなライト君が、自分の実力を隠すなんて卑怯なことをする人だなんて…」

「え!? 実力を隠すのって卑怯なことなの?」

「うん。 だってお母様が言ってたのよ。 自分の力を隠してる奴なんて『相手の隙をうかがってるような卑怯者ばかりだ!』って」

「えぇ…それって偏見だと思うんだけどな…」


 正直「じゃあ”能ある鷹は爪を隠す”って言葉はどうなるんだよ?」 ってフローレスさんにツッコみたかったけど、そんな事言ってる暇なんてなかった。

 なんせフローレスさんは、自分が言いたいことを言った後、再び俺を倒すために次々と猛攻を加えてくるので、もう休む間もなく飛んで来る斬撃をかわすのに必死なのだから!

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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