テスト本番
しばらくゼール視点の過去の話が続きましたが、この回から本編に戻ります。
遂にこの日が、対決テストの日が訪れた。
俺もクリスもこの日のために、ゼール先生の地獄の特訓を頑張ってきたけど、初めてのテストとなると、不安なことだらけで落ち着かない。
そのせいもあってか、登校してからというもの、心臓は緊張のあまりバクバクとうるさく鳴り続けている。
少しでも不安を和らげようと思って、クラスメイトの表情をよく見れば、みんな俺と大差ない険しい顔をしていて、普段賑やかな教室とは違って引き締まった空気が流れていた。
今から始まる対決テスト、正式名称は「5分間対人テスト」なんだけど、学園の生徒たちの間では対決テストの呼称の方が定着している。
年に3回実施され、内容はクラスメイトの中からランダムに選ばれた者同士が、制限時間5分以内に体、腕、足に取り付けた的のうち、どれか一つに何かしらの方法で触れたらテスト終了。
そしてテスト中に、武器に魔法に魔道具、要は的に触れるのに使える物は、何を使ってもオーケーなルールだ。
ちなみにこのテスト、生徒同士を何でもアリのストリートファイト形式で競わせるなんて「高貴な貴族に通わせる学園にあるまじき姿だ!」そんな批判が今でも一部の保護者から出てる。
しかし、この学園の校風に【己が身は己で守れるようになれ!】という物があるし、何よりこのテストは国が力を入れている政策だ。
だから使う道具も力が入っており、的を装着すれば、的以外の部分に防御壁が形成されるので、学生同士が派手にやり合っても、滅多なことでは怪我すらしない! つまり安全面だってしっかり考慮されているのだ。
更に極めつけとして、お金を持っている貴族は何かと犯罪者に狙われやすい傾向がある。
そして過去に犯罪者に襲われた学園の卒業生の中に「この経験が犯罪者撃退の役に立った!」という声も多数あるぐらいだ。
だからなんだかんだ言われても、このテストは今後も学園の重要なイベントとして扱われ、簡単にはなくならないだろう。
そもそもこのテストが生まれた経緯だって、かつてこの国が大戦争に巻き込まれた際に生まれた苦い経験によるもので、大戦争の際、魔法が使える多くの貴族は率先して戦場に参加する事になった。
だけど、いくら魔法という優れた力が使えても、実戦経験のない者はほとんど何も出来ないまま戦死してしまったそうだ。
そんな苦い経験から生まれたのが、対決テストの礎であり、要は”有事の際に力を発揮できるように、子供のうちから少しでも実戦に近い経験させておこう”という魂胆なんだってさ。
教室で静かに先生が来るのを待っていると、教室の扉が開き朝礼が始まる。
いよいよ俺達にとって、負けられない戦いが始まるんだ。
・・・
「では、いまから一組目を発表する」
朝礼後に先生からテストについての説明が終わった後、いよいよ対戦相手の発表が始まった。
順番としては五十音順で呼ばれるので、クリスの方が先に呼ばれる確率が高い。
だからクリスの相手が誰なのか?というのが、まずは気になって仕方がなかった。
それに対戦相手だって【俺達に手を出してきた6人のうちの誰かに当たれ!】と強く願った。
そんな俺達を待ちうけていたのは
「一組目は…アレクシア・フローレスと、ライト・トリファーの対戦だ!」
「えっ? いきなり僕から! しかも相手がフローレスさん?」
この時の俺は、自分が最初に呼ばれる可能性だってある事さえ頭に入っていなかったし、最初に呼ばれる人間が、クラスメイトの中で、いや”同学年で最も強い人”だというのもすっかり忘れていた!
というより、そもそも40人のクラスの内の特定の六人に当たる確率って、15%ぐらいでそんなに高くない。
この頃の俺達は、物事をそこまで深く考えてもいなかったし、俺とクリスが対戦する可能性だってある。
そんなことさえ頭に入っていなかったので、今考えると対決テストで俺達にちょっかい出して来た奴等を見返す作戦は、なんとも6歳児らしいお粗末なものだったんだよなぁ…
そしてアレクシア・フローレス! 彼女はこの大陸でもっとも強い勢力を持ったドラント帝国から来た留学生だ。
彼女の生家であるフローレス家は、他国にもその武勇が知れ渡るほど優秀な武芸に秀でた家系で、当然そんな家で生まれた彼女の身体能力は、幼いころから家族に鍛えられていたので、この頃から既に優れていた。
例えば体育の授業で走れば、相手を置き去りにし、剣術の授業では相手は一撃で倒される。
そう彼女には運動面では敵う相手なんて同学年に一人もいなかった。
更に曲がったことも嫌いなようで、入学早々5歳も歳上の生徒達がやってるいじめの現場に遭遇したフローレスさんは、いじめていた奴等を纏めて成敗してしまったほど正義感も強い。
それでいて普段は、腕っぷしが強いのを全く感じさせない凛とした佇まいでいて、気さくに話しかけてくる。
そんな良い意味でのギャップもあって、彼女はこの学園に入学してからたった二ヵ月で、多くのファンが出来るほどの人気者になった。
そんな、どこからどう見ても”完璧な人間”の相手が、この頃既に子供の社交界で爪弾きにされ、大した魔法適性もないヤツ。
そんなのが相手だと分かった途端、静粛を保っていた教室内がざわめき始めた。
「あーあ、アレクシアさんはラッキーだな」
「ライトの奴、何秒でフローレスにやられるのかな?」
「ライトって変な事ばっかり言うヤツでしょ? そんなヤツはアレクシアさんに叩きのめされちゃえばいいのよ!」
「むしろあんなのの相手させられるアレクシアの方が、可哀想だよね~」
なんて散々な言われようで、俺達に手を出した六人も「ざまぁみろ」とでも言いたげな顔をしながら、クスクスと笑っていた。
「では早速アレクシアさんとライト君は、試験官を担当する先生の後に付いて演舞場に移動してください」
「はい」
「…はい」
アレクシアさんはハッキリと返事を返すが、この時俺は目的を果たすどころか、もっとも当たりたくない相手に当たってしまったショックで、既に意気消沈気味。
(はぁ、せっかくクリストファー君と一緒に、先生の元で頑張ったのになぁ…)
もうやる気さえ失せた俺は、ダラダラと席を立ち、トボトボと先生の元に向かう。
そんな哀愁漂う俺の姿を見ていたクラスメイト達は「いい気味だ」と言わんばかりの、軽蔑の眼差しを向けてきた。
そんな中
「…ライト君、頑張って」
一人だけ小声で唯一応援してくれるクラスメイトがいたんだよな…この時、あの小さな応援がどれだけ心強かったか。
だから俺は親友の声に応えるべく、腕を力強く上げて【頑張る!】という決意を表した!
最後まで読んで頂きありがとうございました。




