ある魔法使いと教え子
クリスとそのダチに魔法を教える事を約束したので、待ち合わせ場所にいると、二人が俺の元に向かって慌てて走ってくるのが見えた。
「来たな」
「「はい、ゼール先生!」」
「だから先生呼びは止めろっていってんだろうが! 次先生って呼んだらシバくからな!!」
「「ごめんなさい、ゼールせ…さん」」」
「……今日から早速お前等を俺が鍛えてやる。 が、その前にお前達の魔法適性検査の結果を教えろ」
まずは二人の学園の測定器で測定した精密な魔法適性の結果を聞いておくが、コレは俺の簡易測定と概ね一緒の結果で、クリスが総合で見ればBマイナス、ダチの方はEプラス。
それと、ダチの方の名前をまだ聞いてなかったのでついでに聞いて見りゃ、何とマリアのエードランド復興を支援した数少ない貴族の一人であるトリファー男爵の息子、ライト・トリファーだとは思わなんだ。
(なるほど! トリファー男爵なら相手が誰であろうと、分け隔てなく接する事を子供に教育してても、不思議じゃねぇな)
トリファー男爵とは直接話した事はねぇが、エードランドの支援活動に参加している姿は何度か見た事がある。
その際男爵は、他の貴族と違いお高くとまる事もなければ、体裁を気にする様子もなく相手が貧しい人間だろうが、分け隔てなく接する好漢だった。 その事はよく覚えている。
だから息子にあえて特定の人間に近付くように指示したり、何か意図があって息子をクリスに近付けさせたりはしねぇハズだ。
だからこの二人は純粋に気が合ったダチなんだろう。
ライトが信用出来る男の息子であると分かり”決して悪意を持ってクリスに近付いた訳じゃねぇ”という確信を得た以上、ライトに関して変に勘ぐりを入れる必要はもうなそうだな。
早速クリスとライトに、微量な魔力の繊細なコントロールってのがどんな物なのか、実演した方が分かりやすいと考えた俺は、指の魔力のコントロールだけで小石を砕いて見せてやった。
そしてらこいつらの目には、俺が”指に力を込めて小石を砕いただけ”にしか見えなかったらしく、俺の実演は無駄な労力となったので
「クソ、やっぱり他所のガキの御守りなんぞ、気まぐれでやるもんじゃなかったな…」
なんて愚痴を吐いてしまうぐらい、心底二人に魔法を教えるなんて言ったのを後悔した。
しかし自分から引き受けた以上、俺から手を離す訳にもいかねぇので、更に小一時間近く子供に繊細な魔力のコントロールを理解させようと、様々な例えを使って説明してみたが、結局「子供の相手が苦手な俺が、言葉でこの二人から理解を得ようとするのは無理だ!」という結論に至った。
そもそも何事も実際にやらねぇと、何も始まらねぇ! だから実際にやらせるのが早いと思った俺は、魔力測定器を二人に渡した後、測定器に一定の魔力を流す練習をやらせる。
実際にやらせてみると、元々素質のあるクリスは簡単に魔力をコントロールしてみせたが、魔力の素質が低いライトは、多めに魔力を流すだけで相当しんどそうな様子を見せているが、まぁコレは想定通り。
そして辛そうにしてるライトには残念な話だが、こんなのまだ序の口だ。
続いて現時点の目標である”一定量の魔力を魔力測定器に流し続ける事”に挑戦させてみるが、案の定ライトは全く安定して魔力を流す事は出来ないし、さっきよりも辛そうで今にも泣き出しそうな顔を見せた。
(もっとも俺は子供が辛そうな顔を見せようたって、手を抜く気は一切ないけどな!)
一方クリスは、魔力を一定量流すコツも開始早々掴んだようで、何事もないかのように涼しい顔して流出計に魔力を流している。
その様子にライトは気が付くと、先を越された事が心底悔しそうにしていやがった。
まぁ、ライトには気の毒だが、こればっかりはセンスというか、生まれ持った魔力と育った環境の差が違い過ぎて、埋めようにも埋めようがねぇ。
それでも必死にライトは、クリスに負けじと挑戦する姿勢を続けるので、負けん気なら同年代の子の中では、飛びぬけてたモンを持ってるのかもしれねぇな。
もっとも本気で少しでもクリスとの差を埋めたいんなら、日々の努力と出来るだけ早く現状を受け入れて、お前なりにお前の弱い魔力と向き合っていくしかねぇんだが、その事に関しては俺があーだ、こーだ言うことでもねぇので、後はライトがどれだけやれるかだな。
次の日
相変わらずライトは魔力のコントロールが安定しないので、半ベソかきながら必死に魔力計に仕組まれた球を、中央に維持しようと頑張ってはいる。
しかしどれだけ頑張ろうが、測定器の玉は右往左往し、中央で止まる様子を見せはしねぇ。
一方クリスは、昨日の時点で十分コントロールは出来ていたので、今日から本格的に鍛えてやることにした。
なのでライトには、そのまま魔力コントロールの練習を続けるよう指示した後、俺はクリスを少し開けた場所に連れて行く。
「クリス。 お前はもう測定器を使って魔力をコントロールする練習はやらなくていい」
「え! 僕だけ?」
「あぁ、 悪いがお前とライトじゃ魔法に関する能力に差があり過ぎる。
だからライトと同じことをいくらやろうが、お前の能力が伸びる事はねぇよ」
「でも…僕もライトと一緒に練習したいよ」
「悪いがそれはライトが次のステップに行けたらの話だ。 それよりクリス、お前は母親が体に組み込んだ魔法術式を、自分の意思で自由に使い熟せるようになれ」
「え?…僕ママ…じゃなくて、おっお母さんから魔法の事なんて、何も聞いてない…」
「俺に魔法の事に関して、隠し事する必要なんてねぇんだよ!
なんせ俺はクリスの母親から、クリスに魔法を教えるように頼まれちまってるし、お前の体が魔法の影響で『どんな状態になってるのか』その事だって知ってる」
「えっ! と…その」
俺の言葉を聞いたクリスが、不安そうな顔を浮かべオロオロとし出したので、少しでも安心させてやろうと頭を軽く撫でてやったが、それでも俺に対して警戒の眼差しを向けていた。
(他人には知られたくない秘密を、会って間もない奴から突然指摘されりゃあ、そら警戒するだろうな。 こりゃきっとマリアから『絶対に他の誰にも話すな』的なことを強く言われてんな)
マリア本人から聞いた訳じゃねぇから、あくまで憶測だが、おそらくエーレンブルグ公爵家にクリスを入れる際に、何かしら向こうから家に入れるための条件が出され、その事が体に仕込まれた魔法術式に関係してるんだろうな。
じゃなきゃこんな特殊な魔法術式を、自分の大切な子供に組み込んだりしねぇだろ…まぁ、大方どんな取引をしたのかは予想出来るが、コレに関してはいつかクリスが、自分から話してくれるのを待つとするか。
「安心しろ。 俺もタップやフレイと同じで、マリア様の護衛をしつつ色々世話になった恩がある。
だからお前の秘密を誰かに言ったりしねぇよ」
「え? タップとフレイを知ってるの?」
「まぁな」
二人に直接確認はしてねぇが”どうせ二人共クリスの傍にいるだろう”と思って聞いてみたが、俺の予想は大当たり。
どうやら二人とも相当クリスから信頼されてるようで、二人の名前を出した途端、クリスが俺に対する警戒心を一気に和らげた。
「もし嘘だと思うなら、二人に”ゼール・シュトレーゼマン”って奴と、昔一緒に仕事してたか聞いてみな」
「うん。 でもびっくりしたよ! まさかゼール先生がママが言ってた「前にもう一人いた仲間」だったなんて!」
(…仲間か。 アンタの元から離れた俺の事をそんな風に思ってくれてたんなら、どうして大変な時に俺に助けを求めなかったんだよ…)
クリスからの一言で、過去の後悔が頭をよぎりやがったので、複雑な気分になっちまったが、どうにもその事が顔に出ちまったらしく、クリスから心配そうな表情を向けられていた。
(はぁ…子供にいらん心配させるなんざ、俺もまだまだみっともねぇ男だな)
そんな思いが生まれたが、今俺がやるべきことは”過去に囚われることじゃねぇ!”と頭の中を切り替え”クリスに余計な心配させねぇように”と気を引き締める。
「さて、そろそろお前向けの特訓といくか!」
「え~、僕もっとゼールさんがママといた時のこと聞きたいよ」
「それはまた今度な。 それよりも今は、少しでも早くお前の中にに組み込まれた魔法術式を、自由自在に使えるようになるのが先決だ!」
「じゃあ魔法使えるようになったら、ママとゼールさんのこともっと聞かせてね」
「あぁ、ちゃんと仕使えるようになったら!」
こうしてこの会話を皮切りに、俺とクリスの本格的な魔法訓練が始まった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
今回でゼール視点の話を終えると以前後書きで書いてましたが、もう一話書きたくなったので次回まで続きます。




