ある魔法使いと秘密の魔法
俺を付けまわしてきたガキ二人を、メインストリート付近まで引率する途中、ガキ二人に俺が入った場所が”どれだけ危険だったのか”そのことをしっかり教え込んでやった後、ついでに俺の後を付けて来た理由を聞けば、ガキ共は俺から「魔法を教わりたい!」なんて寝ぼけた事を言い出しやがった。
ガキの御守りなんざただでさえ苦手だってのに、最近は自分の子供とだって上手く接する事さえ出来てねぇ! そんな俺が見ず知らずのガキ二人に魔法を教える?
(ハッ! そんな自分の姿なんて想像したくもねぇし、子供の御守りは自分の娘だけで十分間に合ってんだよ!!)
ようやくメインストリートが目の前にある通りまでガキ共を送り終え、俺は最後にしっかりとガキ共に貧民街に入らないように言い聞かせた。
これでようやくガキ共の御守りから解放されると思ったら、銀髪のガキがまたしつこく「魔法を教えて」とせがんで来やがった。
「おい! さっき言ったよなぁ? 俺はお前らみたいな貴族のガキ共に、魔法を教える気なんてコレっっっぽっちも無い! って」
どれだけこの銀髪に魔法の才能があり、俺と同じ場所で生まれ、貴族に良い感情を持ってないと言われようが、そもそも俺は他所の子供と関わって”余計な面倒事”を増やすつもりはない!
だから銀髪が何を言おうがハッキリと断り、さっさと諦めさせようとするんだが、何か知らねぇけどコイツやたら食い下がってきやがる。
そんな銀髪のコッチの言う事を聞きやしねぇ強情な姿勢は、何故かもう二度と会えない俺の主の姿と妙に重なる…ったく、マリアと似たような髪の色してるだけで、そんな風に感じるなんざ、我ながら女々しい話だと思うぜ。
「僕からもお願い! どうかクリストファー君だけでもいいから、魔法を教えてください」
「はぁぁぁ!? クリストファーだと? おい、銀髪のガキ! お前の姓は?」
「え、エーレンブルグ」
金髪から聞いた名前が、俺が自分の娘意外に唯一気にしてる子供の名前だったので、銀髪の姓を聞くと、銀髪はビクビクしながら答えた姓は俺の予想通りの答えで、俺はこのガキの事を直ぐに調べるために、直ぐに自分の使える全ての解析魔法を使ってガキの体を調べた。
するとまぁ銀髪の体からは、複雑な魔法術式が幾重にも張り巡らせられていやがった!
オマケに魔法術式の組み方は、俺が良く知るアイツが好んで使っていた非常に優れた術式の組み方で、俺にとっては馴染ある出式ばかり!
(しかし、こんだけ様々な魔法術式が体に仕込まれてんのにケロッとしてやがる…一体コイツどんだけの魔力を秘めてんだよ)
ちなみにコイツの体に仕込まれた数々の術式は、数個を除くと”特定の条件が揃わないと”発動しねぇ、そんな特殊かつ平時は発動する事のない物が大半だったが、魔法術式ってのは、仕込めば待機状態でも魔力を食う仕様で、これだけ複数の待機術式が体に仕込まれた状態。
それで平然と普通に生活してるなんざ末恐ろしい子供だな…いや、ここは流石アイツの子だな!って所か?
「…念の為聞いとく。 お前の母親の名前は?」
「ま、マリア。 マリア・ブレンナーだよ」
「ハッ…嘘だろ…こんな事ってあるのかよ!」
(あまりにも出来過ぎた偶然の出会い…こんなの笑うしかねぇだろ!)
念の為子供から母親のの名前を聞いたが、やはりこの子はマリアの子供であるクリスだった…ったく、我ながら妙な縁だけは、持っているほうだと思うぜ。
自分は”合縁奇縁が多い”というのを実感しつつ、マリアがクリスに仕組んだ術式の解析を一通り終えたが、その内容は舌を巻きたくなるような優れた構成だ。
(それにしても我が子を守る為とはいえ、これまたとんでもない術式を子供に授けていきやがったな。 あの暴れ馬は!)
相変わらず「ハチャメチャな奴だ」と思うし、その事が内心笑えてくる。
そんな懐かしさを感じつつ、クリスの魔法術式の解析を終えようとした時、一個だけマリアらしくない”Z”とだけ記された不思議な術式が、この子に組まれている事に気が付く。
そしてこの術式、一見難解そうだが、マリアの術式を知ってる俺からすりゃ、なんて事のない術式だ。
しかしコレがどのような効果があるのか? それだけはサッパリ分からねぇし、妙に気になる術式だったので「しっかり解析してやろう」と思い、解析魔法を再び使う。
すると突如Zの術式は発動し、文字が宙に並びやがった。
ーZeal. Solltest du diesem Kind begegnen, bring ihr bitte Magie bei.ー
【ゼール。 もしこの子と出会えたのなら、どうかこの子に魔法を教えてあげてね】
文字はしばらくすると消え去り、クリスに仕込まれた魔法術式が一つ消えた。
そして術式が発動してもクリスが何の反応も示さないという事は、さっきの文字は俺だけにしか見えてねぇし、クリスの魔力は使われてねぇ。
つまり術式が展開される条件は俺の魔力であり、その内容はマリアから俺とマリアにしか絶対解けない、秘密の魔法術式。
そんな大層なモンを使ってまで俺に残したのは、秘密のメッセージみたいなもんだった。
(ハハハ…おいおい、アンタはいつの日か俺がこの子と出会うのも織り込み済みで、俺にまた面倒事を押し付けてくんのか?
ったく死んでも人の事好き勝手振り回してんじゃねぇよ…暴れ馬め)
死人に口なしとは言うが、まさかこんな方法で死んでも何か伝えてくるなんて、誰が予想出来るよ!
そして断ろうにも、こんなの見せられちまったら、断れきれねぇだろうが…ホント良い性格してるな、マリア様はよ!
「…いいだろう」
「え?」
「教えてやるよ。 魔法」
「え、ええ!」
「いいの?」
「ああ…気が変わった。 お前は特別に教えてやる。
だから明日、またこの時間にココに来い」
(なんせこんな頼まれかたしちゃ、断るにも断りきれねぇだろ)
そして俺が魔法を教えると言ったとたんクリスは大喜びし、隣の金髪も喜ぶ様子を見せたと思ったら、また泣き出しやがった。
(はぁ…こりゃ自分だけ仲間外れにされたと思ってイジケてやがんな)
親としてはまだまだ未熟な俺でも、流石に歳の近い子供育ててりゃそれぐらいは分かった。
(さて、この金髪をどう対処するか決めねぇとな。 とりあえずコイツの魔法適性だけでも調べておくか)
さっそく魔法を使い、簡易的に金髪の魔法適性を調べてみたが…悪いが適性は相当低い。 ハッキリ言えば、クリスとは天と地の差がある。
よってコイツとクリスを同列で扱うのは、タカとウサギを同時に飼うレベルで不可能だ。
こうなると遺言に沿って、クリスだけ魔法を教える事に専念してぇが、この金髪はクリスと相当仲が良い友達みたいなんで、このままにしとくのも、あまり良い気がしねぇんだよな。
なんせクリスは、金髪が泣きじゃくってるのをみて、相当心配するぐらいの仲間意識があるので、恐らくこの金髪が一緒に居た方が、よりクリスは魔法を覚える事に精を出してくれそうだしな。
だからと言って金髪にクリスと同じことを教えたって、金髪は何も出来やしない。
つまり、より過酷な現実を金髪に突きつけるようなもんだ!
コレばっかりは、生まれ持ったモンの違いだから、俺にはどうしようもねぇ…まぁ、理論上はこの金髪にも魔法に関して教えてやれる事が、あるにはある!
だがそれはそれで、相当過酷な事をこの金髪がやる羽目になる。
(はぁ、もうなるようになれ! これでコイツがクリスから離れるようなら、クリスには悪いがこの金髪はその程度のダチって事だ)
「はぁ…おい、金髪のクソガキ」
「は、あ゛い」
「お前にも教えてやるよ、魔法。 だからなんだ……その、男ならもう泣くな! みっともねぇ!!」
「え? でっでも…僕魔法教えて貰っても、魔法…使えないんだよ?」
「んなぁ事どうでもいい! とにかくお前も明日からコイツと一緒に俺の所に来い!」
こうして結局金髪も教えると約束した事で、クリスも金髪も泣きながら大はしゃぎし、家に帰る。
そして俺はあまりに道草を食い過ぎたので、今日はエードランドに向かうのを止め、家に帰る事にした。
・・・
「ただいま」
「あら、おかえりなさい! ゼールさん。
今日は『エードランドに行ってくる』って聞いていたので、もっと遅くなると思ってました」
家に帰ると嫁のレオナは出迎えてくれたが、娘のツェツィーリアは出て来てくれなかった。
「ちょっと色々あってな…それよりツェツィは?」
「今日は早く寝ちゃいましたね」
「…そうか」
なんか他所の子の相手をして色々振り回された所為か、何か今日は無性にツェツィーリアから「おかえり」の言葉を聞きたい気分だったんだが、寝ちまったんなら仕方がねぇ。
「…後で寝顔でもこっそり覗きにいくか」
「是非そうしてあげてください。 それよりゼールさん、何か良い事ありました?」
「別に…いや、あったと言えばあったのか?」
「きっとそうですよ! だって久しぶりなんですから、あなたの顔が強張ってないの!」
「…そうなのか?」
「ええ。 正直に言うとマリア様がお亡くなりになってから、ずっと顔が強張ってました。
それにその時から、身だしなみを整えるのもサボって研究ばかり。
そんなゼールさんを見てると、私もツェツィもあなたのことが心配で仕方がなかったんですからね?」
「そいつは…悪かったな」
正直マリアがこの世を去ってから、その現実から逃げるように研究に走ってた所があった。
そしてその所為で家族に余計な心配されてるのにも気付けねぇなんて、ホント俺は一家の柱として何やってんだかな。
「悪いと思ってるんでしたら、全然手入れしてない小髭と髪を整えて、ツェツィと遊んであげてください。
ツェツィは今のゼールさんのこと、あんまり好きじゃないみたいですから」
「えっ、そうなのか?」
「ええ、だって最近ツェツィに何かと距離を空けられていませんでした?」
「まぁ…な」
「それって顔が強張ってるのを見たあの子が『今のパパ怖い』て言って怯えてのと、髪と髭が伸び放題の誰かさんを見て『あのモジャモジャホントにパパ?』って疑ってたからなんですよ。
だから早く誤解だってことを、あの子に教えてくださいね」
俺は嫁からそのことを聞かされ、最近ツェツィーリアが俺に対してよそよそしくなった理由を、やっと知ることになった。
だから直ぐに髭と髪は切って綺麗に整えたが、今度は急に容姿が変わり過ぎて、娘からはまた変に警戒される事になるとはなぁ…はぁ、ホント子供の考えてる事って、よく分からねぇよ!
最後まで読んで頂きありがとうございました。
過去の話を長い間書いてきましたが、もうすぐ本編に戻ります。
ちなみにこの話は、ep.11のゼール視点の話になります。




