ある魔法使いの喪失
エードランドガイストからマリアが危篤状態に陥るまでの経緯を聞いた俺は、マリアと会うためにエーレンブルグ公爵家を訪ねたが、マリアは意識もない非常に危険な状態のため”面会謝絶だ”と門前払いをくらい、俺は呆然と公爵邸の前で立ち尽くしていた。
「…ちくしょう! 肝心な時に限って俺はアイツに何もしてやれないのかよ!!」
マリアが今の状態になった一番の原因は、エードランドの復興に力を使い過ぎたのが原因だった。
更に慣れない環境での暮らしや子育て、エードランドの人間の教育。
そして極めつけは、エードランドがこの国で最も衛生環境が悪い地域であり、そんな中を衛生管理の行き届いた場所でしか生活した事がない人間が長期間住むことのリスク。
とにかく考えばれ考えるほど、マリアの体を弱らせ、病魔が蝕んでいく要因は幾らでも思いついちまう。
更に良くなかったのが、誰もがマリアの活躍ぶりから”無敵の超人”のように思い込み、体調が悪そうなマリアを見ても
「大丈夫よ! これぐらい」
そうマリアが言えば、マリアの強がりをほとんどの者が信じた。 さらに
「小言言われたくないから、私の仲間にはこの事内緒にしておいてね」
とマリアに言われれば、誰もがフレイやタップ、俺にさえ報告しなかったのも、マリアの体を病が蝕んでいる事に気が付くのが遅れた原因であった。
体がボロボロになるまで、俺の生まれ故郷の復興に尽力を尽くしてくれた大恩人に対して、今思うのは
どうしてこうなる前に俺に何も言ってくれなかった?
何でもっとアイツの事を気にかけてやらなかった?
そんな彼女を責め立てる想いや、己の浅はかさ。 つまるところ後悔と懺悔の言葉ばかりが、俺の脳裏に浮かぶ。
(いや、まだ諦めんなよ…何か、何かマリアが助かる方法があるかもしれねぇだろ!)
ネガティブな感情が頭を支配しようとする中、意地でも希望を捨てたくなかった俺は、必死に絞り出した希望的観測に従って、己の持つ全ての伝手から研究資料を当たり、とにかく何処かに
【マリアを救うヒントが隠されていないか?】
そんな藁にも縋るような想いを原動力に、自分に出来る限り全ての事をやった。
だが、マリアの患った病を改善させる糸口すら見つける事はできず、出て来る答えは結局
「もうマリアは助からない…」
そんな残酷な答えだけだった… そしてマリアを救う手立ては、結局何一つ見つからないまま時間は過ぎ、マリア・ブレンナーはエーレンブルグ公爵家に戻って一カ月も立たないうちに、この世を去る事になった。
マリアの訃報は一瞬にして王国中に広がり、多くの人間がマリアの死を悲しんだ。
葬儀は身内だけで行われたが、俺はフレイとタップの口添えもあって、マリアの死に顔だけは拝むことだけは公爵家から許可が出たが、その顔は俺の知る暴れ馬と同一人物だとは思えないほど痩せこけていて、変わり果てた主を見て頭に過るのは、やはり後悔と懺悔の事ばかりだった…
そしてマリアがこの世を去った後、当然マリアが死に至った最大の要因であり、夫であるフェルナンド・エーレンブルグ公爵には、相当な非難が殺到すると思われたが、そうはならなかった。
それも全ては、マリアがエーレンブルグ公爵家に戻った際に連れていた子供が原因で、なんとマリアが連れていた子は、マリアとフェルナンドの間に生まれたクリスティーナではなく、マリアとエードランドの誰かとの間に生まれたクリストファーで、クリスティーナは一年前に、マリアと同じ難病でこの世を去っていたのは、赤ん坊時に抱っこしてやった俺としては、あまりにも辛い話だった。
この国は離婚と浮気をタブーに近い扱いとしている為、どちらかを犯した奴に対して世間からの非難が強まり、結果として風当たりが厳しくなる。
だからクリストファーの存在は、マリアが不貞を働いた証拠であり、マリアがこの国のタブーに近い行為を行った証拠である。
よってクリストファーの存在が世間に知れた瞬間、多くの人間がマリアの行いを非難し始めたのだ。
しかしそんな中、エーレンブルグ公爵はクリストファーを公爵家の一員として受け入れる事を、大々的に表明しやがった。
こうしてマリアを死に追いやった元凶は、今まで世間に散々非難されていたのが180度変わり、今度は世間から「心広き男」として、大称賛されることになるなんて、何ともふざけた話だと思わねぇか?
こうして、かつて失意の底まで落ちたエーレンブルグ公爵家の信頼は、鰻登りに回復し、エーレンブルグ公爵家は再び政界で強力な存在感を示すようになった。
もっともこの一件については、マリアとフェルナンドの間で何かしらの取引があったようで、マリアは自分が死んだ後に誰にどう非難されようが、あえてこの流れが出来るように仕組んでいたらしい。
その事をタップとフレイ、それにベンといった連中から事前に聞かされてはいたんだが、それでも俺の唯一の主君であり、大恩人が何の事情も何も知らない奴等に貶されるというのは、正直見ていて気持ちの良い物じゃなかった…だが、コレがマリアの望みである以上俺から何も言える事はねぇ。
こうしてマリアのお家騒動は、俺からすれば最悪の形で終わりを迎え、残ったのはもう二度と戻らない大切な何かを失った喪失感だけだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。




