↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
33/68

ある魔法使いの決意

「うわぁーん! うわぁーん!」

「ハハハ、ゼール。 お前まーたクリスティーナに泣かれてんのかよ?」

「うるせぇ…オラ、もう泣くなクリスティーナ!!」

「うっ…うぇぇぇぇん!」

「くっそ…どうして毎度俺が抱いたらこうなんだよ!」


 クリスティーナが生まれて四ヶ月過ぎた頃。

 この地域の人間達に大事に育てられたのもあって、何事もなくすくすくと育ち、最近しっかり首もすわってきた。

 そして抱っこされれば「キャッキャッ」と喜ぶ愛らしい仕草。 そんなクリスティーナに誰もが夢中だ。

 まぁ、俺を除いてだが…


「どうしてこの子はゼールに抱かれると、泣いちゃうのかしらね? よしよし」


 そう言って俺からクリスティーナをマリアが受け取ると、さっきまで大泣きしてたクリスティーナは一瞬で泣き止み、マリアに笑顔を見せる。


「さぁな…とりあえず俺はガキに好かねぇし、ガキは俺にとって天敵だ!って事がよーく分かったよ」

「そりゃぁ、日頃の行いが悪いからだろ。 なー、クリスティーナ」


 そう言ってベンがクリスティーナに笑顔を向けると、クリスティーナは笑顔で喜ぶ。


(なんか納得いかねぇ…)


 そんな事思っちまうのは、俺が同じことをしても絶対クリスティーナは一度も笑顔を向けた事がないのが、決してベンに対して「悔しい」とか思ってる訳じゃねぇ…ハズだ。


”ブーン”


「蜂だー!」


”ドス”


「俺達の天使を危険に晒すような奴は、何であろうと生かしておけねぇなぁ!」


 俺等の周囲を元気に飛び回っていた蜂は、ディルクの投げたナイフで抹殺された。

 ただクリスティーナの近くを飛んでいた。 それだけの理由で!


「おい、もしかしたら近くに巣があるかもしれねぇ! 総員、周辺に巣が出来てねぇか隈なく探せ!

 そして見つた場合は、容赦なく潰せ!」

「「「「「「応!」」」」」」 


 そして蜂一匹見つけただけで、この場を取り仕切っているベンは「巣を探しだして潰せ!」という指令を下す。

 その指令を聞いたディルク含むベンの部下達は、気合の籠った返事の後、直ぐ様この場から姿を消すと、蜂の巣の捜索を開始する。


「…蜂一匹で大げさ過ぎるだろうが」

「ホントにね。 この子の事を気遣ってくれるのは嬉しいのだけど、ちょっとやり過ぎなのよねぇ…」


 あいつ等のマリアとクリスティーナに対する姿勢ってのは、見てるこっちが呆れ果てちまうぐらい過保護だ。

 まぁ、あいつ等が過保護というか、狂信的ともいえる対応があるからこそ、二人がこの地域で穏やかに過ごせてる。ってのはあるかもしれねぇ…だけど保護されてる当人が困惑気味なんだから、もうちょっとあいつ等もあの勢い抑えりゃいいのになぁ…


「ククク、救世の女神様とそのお子様は、信者に愛され過ぎて大変だな」

「もう、揶揄わないでよ。 そもそも私だってそんな呼び方されたいが為に、この地の復興を手助けしてきた訳じゃないのよ!」

「あ~う!」

  マリアの事を揶揄ってやると、マリアはちょっと不機嫌そうな顔して反論するが、まさかクリスティーナまで「そうだ!」とでも言うように声を上げるとは思わなかった。

 もう親の真似するのは、流石マリアの娘って所か?

 

「ね~、ゼールったら酷いわよね。 あなただってそう思うでしょ? クリス~」

「あー!」

「おいおい、俺は事実を言っただけだ。 それだっていうのに何で赤ん坊にまで批判されなきゃならねぇんだよ?」

「そんなのゼール日頃の行いが悪いからだよね~」

「あい!」

「おいおい…クリスティーナまで俺を悪者扱いしてんじゃねぇよ」


 まさか生後半年にも満たない赤ん坊にまで悪者扱いされるとか…何か納得いかねぇ!


「はぁ…俺はどうにも一生ガキが好きになれそうにもねぇな」

「そんな捻くれてる事ばっかり言ってるから、子供から好かれないのよ」

「…」


 マリアにそう言われると、ふと自分の日頃の言動の数々が思い浮かぶ。


(確かに俺は捻くれた事ばっかり言ってんな…おい、この先、俺大丈夫かよ?)


 これから先の事をふと考えると、妙に不安が募ってきやがった。


(…って今はそんな事考えてる場合じゃねぇな。 周囲に誰もいねぇ今こそ、あの話をするチャンスだ!)


 俺はあの事をマリアに伝えると心に決めていたんだが、中々二人で話す時間が取れなくて、先延ばしにしちまってた。

 そして今、普段マリアの周辺を固めてる連中は蜂の巣探しで居ねぇ!

 ならこの機会を逃す訳にはいかねぇよ。


「……なぁマリア様」

「何? 急に改まって??」

「ちょっと大事な話があるんだが、今ここで聞いてくれるか」

「ええ…いいわよ」


 どうやら俺が真剣な話をしようとしているのが伝わったらしく、マリアの表情も真剣な物に代わる。


「俺はこれから魔塔の研究室に籠って、研究に専念したいと思ってるんだ。

 だからその為にも、マリア様の護衛を降りる事を願いたい」

「…そう。 なら仕方がないわね」


 俺の言葉を聞いたマリアは、驚く様子を見せる事無く、黙って俺の言う事を受け入れる様子を見せた。


「…自分で言っといてなんだけどさ、本当に俺が護衛を抜ける事を受け入れてくれるのか?」

「ええ…何となくだけど分かっていた事だから。 いつかゼールは私の元を去る日が来るって…それよりあなたが私の護衛を辞めてまでやりたい事。 それって一体何なのかしら?」

「コイツだよ」


 俺は魔法空間から、ある道具を取り出してマリアに見せる。


「それって…私が研究室に居た頃作った魔力流出測定器?」

「正確には改良途中の物だ。 マリア様が以前作ったのは、あくまで”魔法適性があるってレベル”の魔力がねぇと、測定器が動作しなかっただろ?

 俺はコレを改良して、魔法適性が”からっきしレベル”って判定された奴でも動作するようにして、魔法が使えないって言われてる奴等にだって”魔力が扱える可能性がある”

 その事を示せれば、きっとこの地域にいるような奴等にだって日が当たる時がくるって思ってんだ!」

「それは、あなたが私の護衛を辞めてでもやるべき事だと、本気で思ってるの?」

「ああ! コレは俺がこの地域を本当の意味で自立させる為にも、絶対やらなきゃいけない事だ!」


 マリアの復興支援が切っ掛けで、最下級地域は最低最悪の地域から隣の貧民街と呼ばれている地域と大差ないレベルまで復興してきた。

 だがいくら土地が整備され、衛生環境が整って人が住みやすくなろうが、結局そこに住んでる奴等の能力がなきゃ、この地域は何時まで経っても支援に頼る地域から抜け出す事が出来はしねぇ。

 その事を俺は身を以て知っているが、その本質は温室育ちのマリアには理解出来ない。

 その証拠に、マリアは才能ある奴には色々手ほどきを施しても、そうじゃねぇ奴には支援はしても、自分で生きる為の方法を授けようとはしない。

 マリアだって悪気があってそうやってる訳じゃねぇのは、俺も分かってる。

 だけどな、結局マリアが今やってる事は【才能がある奴だけを生かしてる】のと大差ねぇし、これじゃあ何時まで経ってもエードランド地域は、本当の意味で今の状況を脱する事が出来ない。 

 

「それにマリア様の護衛に関しては、もう俺よりよっぽどあいつ等の方が立派にやってくれてるからな」


 そう言ってエードランドガイストの連中に視線を送ると、マリアも「そうね」と言わんばかりの納得した顔を見せる。 まっ、そりゃそうだろうな。

 なんせ今やあいつ等の戦闘力と来たら、王国の誇る魔法騎士団に匹敵するレベルだ。

 元々闇魔法ギルドで積んだ豊富な実戦経験もあり、実力も悪くなかった奴等の集まり。 そんな奴等に俺とマリアが、ちょっと魔法の指導をアレコレしてやりゃ、更なる実力を付けるのは当然だ。

 オマケにあいつ等のマリアに対する信仰は熱烈というか、狂信的というか…要はアイツ等揃いも揃ってマリアの手となり足となって、懸命に働いてくれるマリアの親衛隊みたいなモンだ。

 そんな心強い元荒れくれ者の集団が隣控えてるなら、俺の仕事は「お役御免になっても問題ねぇ」って確信してたからな。


「…ねぇ、他にも私に報告すべき事があるんじゃないのかしら?」


 護衛を抜ける報告が終わると、マリアが「さっさと吐け」と言わんばかり圧を掛けて、もう一つの報告を早く言うように急かして来るんだが、正直俺としてはこっちの報告の方が言い辛い事だった。

 しかしマリアはその事を知ってんのか? 何かさっきと違って妙に浮き足立って俺が今から伝えようとしている事を、聞きたがってるような気がすんだよな?


「それが、よ…俺もいよいよ…所帯持つことになりそう…だ」

「あら、おめでとう! フフフ、そろそろかしら?って思ってはいたけど、ちゃんと報告されると思った以上に喜ばしい知らせね」

「あっと、ありがとうよ…っていうか、気付いてたのかよ?」

「ええ、だって私が結婚した後に研究室に顔を出したら、明らかにあなたとレオナの距離が明らかに縮まっているんですもの!

 傍目から見てもニヤニヤしちゃうぐらい!」

「マジかよ…そんな分かりやすかったのか?」

「そうね。 だって中が深まったあなたとレオナを、少し目にしたフレイとタップだって怪しむぐらいは、ね!」

「クッソ! 『バレバレだった』って事なのかよ!!」


 まさかレオナと関係を持ってたのが、既に周囲の人間にバレてたいたのに、その事を必死に隠そうとしていた自分の姿を思い出すと、滅茶苦茶恥ずかしくなってくる。

 そして自分でも分かるぐらい顔が熱くなってきたので、俺は手で火照る顔を隠さずにはいられなかった。


「ぷっうふふふふっ…」


 マリアの両手はクリスティーナを抱いていたため塞がっているので、顔を肩に当てて笑いを必死に堪えているが、体がプルプルと震えちっとも笑いを堪えているのを隠せていない。


「…そんなに笑わなくてもいいだろうがよ!」

「だって…ゼールがそんな顔を赤らめて恥ずかしがるなんて初めて見たから…プププ

 あー、もうダメだわ!」

 

 こうしてマリアは大笑いを始め、その声を聴きつけた奴等がすぐさま俺達の元に集まる。

 こうして俺のマリア護衛退任と、俺が所帯を持つことは、情緒もクソもヘッタクレも無いまま皆に知れ渡り、何とも締まりのない形で報告することになっちまった。

 まぁ時、初めてクリスティーナが俺を見て”キャキャ”笑ってくれていた事が、唯一の救いだったんだけどな。

最後まで読んで頂きありがとございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。