魔法使いの納得できない事
どうしても知っておかないと、収まりが付かない事ってあるよな?
例えそれが周囲からすりゃ大した意味がない事でも。
だけど自分にとって大事だと思った事は、ハッキリさせとく! その方が俺は最終的に後悔しねぇと思ってる。
だから今から、マリアに”あの一件”についてあえて掘り下げようとするのは「ただ俺が納得したいだけ」
それだけの理由でマリアの部屋に立っている。
”コンコン”
「どなたかしら?」
「俺だ、なぁ、ちょっと入っても良いか?」
「ええ、構わないわよ」
マリアの部屋を軽くノックし、入室の許可が出たので俺はマリアの部屋に入る。
「悪いな、せっかく一息付けた時に」
「大丈夫よ。 それよりココは思ってた以上に良い所ね! 正直に言うと場所が場所だけに、あまり期待はしていなかったのだけど、下手な安い宿より良い施設だわ」
エードランド支部から提供された客間は、温室育ちのマリアから見ても悪くないと思える設備が揃っていたようで、マリアは旅行先の宿に付いたかのように喜んでいた。
「そりゃ最下級地域って呼ばれる場所の中じゃあ、一番金持ってる場所だからな。
最低限の生活を送るなら、十分設備が備わってるぜ。
それよりホント良かったな。 思いのほか事が上手くいって」
「ええ。 これもゼールのおかげね」
「そうだろ!
って言ってやりてぇんだがな。 実際はいつもの如くマリアが美味しいトコ全部持っていっちまったから、俺は立つ瀬もねぇよ」
本音を言えば、俺だってベンを説得するとこまではかなり上手く行ってたんだぜ。
だけどマリアは、その先を階段十段飛ばす勢いで物事を進めちまいやがったから”俺の立つ瀬が無くなった”って話しなんだけどな。
「そんなことないわ。 私達だけでは”絶対にこの場所を思い付く事さえ出来なかったわよ。 だからゼールがいなかったら、今頃私は公爵家に連れ戻されていたかもしれないわね」
「おいおい。マリア様に限って昨日の今日でそれだけはありえねぇだろ」
「そうね! 確かに今なら、まだ公爵家と実家の追手ぐらいなら、十分追い払える余力はあるわ」
「全く、ホントにマリア様は頼もし過ぎて困るぜ。 今の姿を見てたら昨晩あんなに弱ってたのが、嘘みたいに思えてくるな」
「ちょっと! いくら何でもそれは言い過ぎじゃないかしら?」
「言い過ぎって事はねぇだろ。
なんせついさっきも。あんな無茶しやがったぐらいなんだからよ!
さて、そろそろさっきの件について”どうしてあんな事になったのか”ちゃ・ん・と説明してくれるんだよなぁ? マリア様よぉ」
さて、これだけはハッキリさせとかねぇとな!
なんせ守る側が守る対象に守られたなんてのは、護衛としての威厳に関わる事だし、何よりマリアが
「結局俺を未だに信用していないか?」って疑念が浮かんじまう。
一度出た疑念ってのは、当事者からハッキリ事情を聞かねぇとスッキリしねぇモンだ。
だから俺は、マリアの口から直接事情を聞かせてもらう事にした。
「そうね…ゼールがギルドに入ってから中々出てこなかったじゃない? だからちょっと心配になったから、ほんっっのちょっとだけ中を覗いて見たの…するとたまたま偶然、なんと受付のディルクさんと目があっちゃったのよ。
だからちょっとディルクさんとお喋りしてたら、そのまま成り行きで呪印を解除しちゃっただけよ?」
「…オイ、何でディルクと目が合ったらそんな状況になるのか、俺に分かるように説明しやがれ!」
『なんで?』そう言わても困るわね…だってそうなったのが事実なんだから、それ以上説明しようがないじゃない!」
「いや、だから普通に考えて」
「ゼール、もう起きてしまった事は決して変える事が出来ないの! だからもう起きてしまった事は素直に受け止めて、全部水に流すのが一番なの」
これまた無駄にいい顔でマリアは微笑みつつ、俺にそう言い聞かせてきやがった。
そしてマリアがこの顔出した時は、絶対に「これ以上私は譲らないわ」って意思を示してる時だってのが分かっちまうのは、流石に5年以上付き合ってりゃ嫌でもわかるようになった。
「はぁ…もういいわ。 それより、ホントに怪我一つなく無事なんだよな?」
だから俺はもうこれ以上、さっきの一件の追求を止めた。
「ええ。 私もフレイもタップも無事よ!
そもそもあなたも含めて、私達があの程度の魔法使いを相手にして、かすり傷一つ負う訳ないじゃない!」
マリアは「自分は何ともない」と言わんばかり、堂々と答え、その後ろに控えているフレイも無言でしっかり頷いたので、コレに関しては【嘘もなけりゃ隠してる事もない】という確信を得られる。
「それなら良いんだけどよ。
せっかく一息付けるって時に、話を蒸し返しちまって悪かったな」
「いいのよ、元々は私が計画と違う動きしたのが悪いんだから」
「ったく、毎度それで冷や冷やしてる方の身にもなれっての!
それにもうマリア様は自分一人の体じゃねぇんだぞ? だから何度でも頼むけどよ、今よりもっと自分の事を大事にしてくれよ」
「…そうね、あなたの言う通りだわ」
「…おいフレイ、見たか? コイツは明日間違いなく天変地異が起こるぞ!」
「ええ、そうね。 だってマリア様が独断専行を素直に反省したんだもの…」
「ちょっと二人共、全部聞こえてるんだからね! 後で覚えときなさいよ!!」
俺とフレイは前代未聞の光景を見てしまったので、例え相手が忠誠を誓った相手に対して失言だろうが、つい思った事を口に出しちまった。
そして前代未聞の光景を見た俺はふとこんな事を
(親になるってのは、こんな心境の変化も生まれるもんなんだな…)
先程のマリアがやった事は、そう思わざるを得ない事だった。そしてふと思っちまったのが
(俺がもし親になったら、マリアと同じように何かが変わるんだろうか?)
そんな考えが頭を過った。
「さて、俺はそろそろ自分の部屋に戻るぜ。
とにかく今日はしっかり休めよ! 昨日だって落ち着いて休めなかっただろうから。
今後の方針と計画については”明日からしっかり練っていく”って事でいいだろ?」
「そうね。 今はゼールの言う通り、せっかく安心して休める場所に辿り着けたんだから、大人しく体を休めるわ」
「そうしてくれ。 じゃあまた明日な」
そう言って俺はマリアの部屋から出ると、出た先にはタップが待っていた。
「ちゃんと話してくれたか? マリア様がさっき独断専行した理由」
「いや、お前の言う通り、適当にはぐらかされて終わらせられちまったよ…」
「だから言っただろ? マリア様の性格上『絶対に本当の事はマリア様の口から教えてくれない』って!
というよりだ、ゼールだってさすがにそれぐらいは、聞くまでもなく分かってただろ?」
「そうなんだがよぉ…でも、何かこう…本人の口から聞かないと…なんかスッキリしねぇ!」
「まっ、もう『この話はこれ以上掘り下げるな』って事で納得しろ。
それに教えてやったろ?
マリア様がギルドに突っ走った理由は『お前の事が本当に心配で仕方がなくなって、居ても立ってもいられなくなったからだ』って」
「…そう言われたって、本人の口から聞かねぇことには、俺の無駄に終わった努力が、一生報われねぇ気がするんだよ!」
「それが本当の理由かよ?」
「はぁ!? どういう意味だよ?」
タップは相変わらずニヤニヤして俺に聞いてくるが、一体何をそんなに面白がってんだ?
「いやなぁ、実は誰かさんが、傷心の人妻相手に何か期待してたんじゃないのか?って思ってたりしてないか心配でなぁ!」
「ふざけんなよ! そもそも、そんな気さらさらねぇよ!」
「アハハハ、冗談だからそんなに怒るなよ」
「ったく…そもそも俺はだな!」
「ハイハイ、そこは説明しなくてもちゃんと分かってる。 だから大丈夫だって!
それよりせっかく新しい拠点が出来たんだ。 後で久しぶりに護衛チームで一杯やろう!」
「…はぁ、そうだな。 せっかく一息付ける場所に辿り着けたんだから、久しぶりに三人で飲むか」
こうしてタップに茶化されつつ、俺は久しぶりに仲間と酒を嗜む為の準備を始める事で、ようやく俺はさっきの一件に踏ん切りを付けたんだが、結局マリアがなぜ「身重の体で無茶をしたのか?」
その真実をマリアの口から俺が聞ける日は、この先にもなかった。




