ある魔法使いの主は救世の女神
さて、今の現状を整理しようか。
闇魔法ギルド支部長のベンの呪印を解除するために、外で待機しているマリア達の元に向かおうとしたら、何故か外で待機しているハズのマリアが、椅子に腰かけながら優雅に茶を嗜んでやがった…ついでにタップとフレイも。
「なぁ、お前等。 一応聞いとくけどよ、今一体何やってんだ?」
「何って言われても…ただお茶を頂いてるだけよ?」
「あぁ、それは説明されなくても見りゃ分かる。 俺が聞きたいのはなぁ、何で外に居たハズ連中が揃って茶を啜ってるんだよ?
俺はその理由を聞いてんだよ!」
「理由も何も、お茶を出してもらってもてなされたら、頂くのは当然の事じゃない? それにせっかく出してくれたお茶に手を付けないのは、心を込めてお茶を出してくれた方に失礼よ。
ねぇ、フレイとタップだってそう思うでしょ?」
「それはそう…なんですけどね」
「確かに接待で出されたお茶は頂きます…ね」
マリアは当然のように答え、フレイとタップは頭を抱えながら答える。
その様子を見て、俺は直ぐにピンと来た。
(あの野郎! また先走ってなんか仕出かしやがったな!!)
何故こうなったのか? 詳細は分かんねぇが、この状況を作り上げた主犯だけはハッキリしている。
だから俺は、主犯の元に向かい。
「なぁ、おい! 今日は一体何を仕出かしてくれたんだよ? なぁ!」
「おい!ゼール! テメェマリアの姉御になんて口聞いてんだ! ゴラァ!!」
突如怒声を上げながら俺とマリアの間に割って入ってきたのは、さっき受付で顔合わせたディルクだったが…コイツこんなキャラだったか?
ディルクとはエードランドでそれなりに付き合いがあった方だから、ディルクがどんな奴なのか全く知らない訳じゃねぇ。
(俺の記憶が正しけりゃ、コイツこんな事言うキャラじゃなかったハズだよな?)
そんな疑念が頭を過るので、俺の記憶の中のディルクと、今目の前にいるディルクが同一人物なのかを確認する事にした。
「なぁディルク…お前さっき『この暴れ馬』をなんて呼んだよ?」
「あぁん? ゼール! テメェ、マリアの姉御を「暴れ馬」呼ばわりだぁ? あんまふざけた事言ってんじゃねぇぞ!
このお方はだなぁ、俺達を長年苦しめて来た呪印を解いてくれた偉大なお方なんだ!
そんな俺達の命の恩人、いや、俺達の救世の女神様に、あんまなめたクチ聞いてっとマジでブッ殺すぞ!」
「…おい、ディルク!」
「何だよ」
「あんなのを救世の女神と呼ぶなんざ、俺の知ってるディルクなら決してあり得ねぇ! だからもしお前が俺の知ってるアイツってんなら、元々良くねぇ頭が更にやられでもしない限り、こんなこと言う訳ねぇ!!
だから俺が腕のいい医者紹介してやる! そしてお前ちょっとそこで色々と診てもらえ…なに、金の心配はすんな! 同郷のよしみって事で、俺が全部出すからよ!」
「…テメェ! どういう意味だゴラァ!」
俺は心底ディルクが心配になったから、表で知り合った医者を紹介するし、金も全額出してやるっていってんのに、ディルクはこの話に飛びつくどころか、俺に対してマジ切れしやがったんだが、この程度の事で切れたって事は、やっぱりコイツは俺の知ってるあの短気なディルクの気がしてきた。
コレが開戦の合図となり、しばらくかつての同僚と数年ぶりに、まぁ何ともくだらねぇ事でワーワーと言い争っていたら
「ディルクさん。 私の為に怒ってくれてありがとうございます。
でも良いんです。 ゼールはいつも私にあんな態度で接していますし、私はその事を気に留めていませんから」
「おぉ…姉御はやっぱり心が広いお方だぁぁ!! このディルク、改めて姉御の優しさに触れて感激してます。
あっ、お茶無くなりましたね? お代わり直ぐにお持ちしましょうか?」
「お気遣いありがとうございます。 ですがもう十分頂きましたので、しばらくは大丈夫ですよ」
マリアから感謝の言葉をもらうと、ディルクはマリアに対して「これでもか!」って思えるぐらい称賛の声を上げるが、昔から付き合いがある側からすると、正直ドン引きするレベルで気持ち悪りぃ…
オマケにマリアはマリアで、こっちからすりゃ社交モード全開で、優雅な貴婦人を演じてやがるのが丸分かりだ。
要は普段の姿を知ってる側からすると、今目の前で繰り広げられている光景は、酷い茶番にしか見えねぇよ…まぁ、この茶番のお陰で、マリアとディルクの間に何が起こったのかを、大方把握することは出来たけどな。
(あの暴れ馬、俺がベンと話してる間にこの支部に突撃して、ベン以外のこの支部の人間の呪印を解除しやがったな!)
その事を把握した瞬間、何か一気に頭が痛くなってきた…つまり俺がさっき必死にベンを説得して来たのは、マリアのお陰で全部無駄骨に終わったって訳だ。
はぁ…何か一気に疲れが出て来やがった。
「…おい、ゼール。 今どんな状況なってるのか、俺にも分かるに説明してくれ」
そしてこの状況に対して、俺以上に困惑しているのはベンなんだが、そりゃそうだよなぁ…とりあえず予定が大幅に狂った事だけは教えとくか。
「とりあえずベン、俺も『どうしてこんな状況になってんのか?』その全てを把握しきれた訳じゃねぇが、これだけは言える。
アンタの呪印の解除は、最初から最後になっちまったよ」
こうして俺のついさっきまでの苦労は、誰にも制御出来ない暴れ馬のお陰で、骨折れ損のくたびれ儲けで終わっちまった。
・・・
こうしてベンを最後に、闇魔法ギルドエードランド支部に所属する奴等の呪印解除が終わった。
支部の人間を救ってくれたって事で、マリアは支部の人間全員から多大な感謝を受けると同時に、誰もがマリアの逃亡生活の手助けに、全力で協力する事を誓ってくれたし、貴族共からの逃亡の潜伏先に関しても
「今すぐにでもこの支部を隠れ家として使ってくれて構わない」
とベンが言ってくれ、この荒れ果てたエードランド地域の中じゃ一番いい環境の部屋をマリアの為に用意してくれた。
こうして俺達は、漸く一息つける場所に辿り着く事が出来たので、一息入れたかったんだが、その前にやり残した事があるんだよな。
だから俺は、ソイツを片付けるべくアイツの部屋に向かった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。




