ある魔法使いの生き方
ベンに闇魔法ギルドから足を洗う道もあると伝えはしてみたが、ベンは自分が過去に後ろめたさを強く感じているのもあって”新しい道を踏み出すつもりはない”と主張し、現状を変えるつもりはないようだ。
だがそれじゃあ何も変わらないというのは、マリアの元で働くようになってから嫌と言うほど思い知らされてる。 そしてベンの言い分も俺には分からない訳じゃねぇ。
だけどベン、アンタさっき自分で言ったよな?「物事は口で言うほど簡単じゃねぇし、甘くもねぇ」って。
本気でエードランドの現状を変えたいんであれば、その”簡単じゃねぇ事”をやる為に恥を忍んででも、自ら動いてやっていく必要がある!
ソレを今から心を鬼にしてでも伝えてやるさ。
「ベン、もうハッキリ言わせてもらうぜ。 もうこの闇魔法ギルド支部は本部から見放されたんだ。 だからさっさと畳んじまえ!
そしてこれからは別の方法でエードランドを復興させていけばいい」
「…そうはいかねぇよ」
「なんでだよ! お前だってもう十分わかってるだろ? このままこの支部を存続させたって、もう先はねぇって事ぐらい」
「さっきも言っただろ…もう俺達は手を汚し過ぎた。 そんな過去に多くの過ちを犯した人間達が普通の生活を送ってもな、いつか罪の報いを受ける時が必ず来る。
だからもう俺達は、もうマトモに生きる事すら許されねぇのさ…」
「…そうだな、アンタの言う通り犯した過ちってのは決して消えねぇし、いつか罪の報いを受ける日が来るかもな。
だけどよ、その現実から逃げてどうすんだよ?」
「あぁ! お前、俺が現実から逃げてるって言いてぇのか?」
「ああ、俺からすりゃ今までアンタの言ってきた事は『現実から逃げてぇ』って言ってるようにしか聞こえねぇんだよ!
アンタ本気でエードランドの今を変えたいと思ってるんだろ? その過程で間違いを犯した事に罪の意識を持つのは仕方がねぇと思う!
だがな、今のアンタはソレを理由に、エードランドを変える為に動く事すら止めようとしてるんだ。
そんな無責任な判断するなんざ、現実から目をそらして逃げようとしてるのと、何も変わりねぇだろ!」
俺の言葉を聞いたベンが、苦しそうな表情を見せる。
俺だって尊敬してる奴にそんな顔をさせたい訳じゃねぇが、それでも言うべきことは言って、この現状を変えるキッカケってのを作ってやる必要がある。
そして俺の言った事に多少なりベンも思う所があるから、複雑な顔してんだろ。
「ゼール、まさかお前みたいな若造にそんな事を言われる日が来るとはな…
おい、そこまで言うんなら俺に教えてみろよ! 何をどうやったら過去に犯した過ちから許され、解放される? そしてお前みたいに『平凡な生活が送れるようになるのか』ってのをな!」
「自分で言うのも何だがな、俺が過去にやった事が本当に許されたり、解放される日が来るなんてコレっぽっちも俺は思っちゃいねぇよ…ただな、自分が過去にやらかした過ちを償う為にも、自分がくたばるその瞬間まで俺は俺が犯した過ちと向き合い、過ちを償う為に生きる。
それがアンタ等と同じように、過去に盛大にやらかした俺に出来る唯一のケジメの付け方だ! とは思ってるがな」
「…そんな都合のいい話で済む問題でもねぇだろうが」
「そうだな、だから俺は裁きを受ける時が来たら、受け入れるつもりだ」
「ケッ、良い事いうじゃねぇか! だったら『ソレが今この時だ!』ってなったら、お前はどうすんだよ?」
「そんときゃ『今はその時じゃねぇ!』って事で、全力で拒否してやるがな」
「はぁ…こっちは真面目に話をしてんのになぁ……聞いたこっちが馬鹿らしくなってくるような事言ってんじゃねぇよ」
ベンの質問に俺なりの答えを示すと、ベンは呆れた顔してガックリと項垂れる。
どうやらベンの期待に添える答えじゃなかったようだが、コレが俺が今の生活を送る様になった中で、必死に見つけた俺なりの答えなんだから仕方ねぇだろ!
俺だって一般の生活を送る中で、かつて俺が殺した人間の知人と関わる事もあれば、犯した罪が世間から非難されてるのを知る機会もあったし、自分が過去にやって来た事の罪が大きければ大きいほど、過去に犯した罪に苛まされた。
オマケに俺はこの国の法に則れば死罪確定の大罪人だしな…
だが、そんな俺でも『生きて一緒にいて欲しい』って言ってくれる奴が出来ちまったし、何がなんでも叶えたい夢だって持っちまったから、そうなるとおいそれと簡単に死ぬ訳にもいかなくなってきたからなぁ…
コレが俗に言う【己が行動には責任が伴う】って奴なんだろうが、その事を俺は身を以て嫌と言うほど思い知ってる所だよ。
「…何か不思議なモンだな。 一見お前の言ってる事は無茶苦茶なのに、聞いてると『一理ある』って思わせる何かがある」
「そんなの結局の所、俺とアンタ…いや、結局エードランドで暮らしてる奴なんざ
『どんだけ生き恥晒そうが、泥水啜ろうが、必死に今を生きる』 そんな人間しかいねぇからだろ」
「…そうなのかもな」
「だろ? 結局俺達が世間の言う至極真っ当に生きるなんてのは『無理!』って話なんだよ。
結局の所ここにいる奴等ってのは、今も昔も生きる為に精一杯な人間の集まりだ。 だから変な意地とプライドもねぇ! だからそんな奴等が幾らみっともねぇ生き方したって、何の問題もねぇんだよ」
「ハッ、まさか歳が10以上も離れてる二十代半ばの若造に人生語られ、諭されるなんざ俺も落ちるとこまで落ちたか…」
「おいおい、何を今更言ってんだよ。 俺達はとっくに落ちるとこまで落ちた人間だぜ?」
「…違いねぇな」
「だろ? だからしっかりしてくれよ、リーダー!」
「ったく…ホント昔から生意気なんだよ、お前って奴はよ!」
「そんな事言うなら、アンタは昔から真面目過ぎんだよ!」
そう言って俺達は、久しぶりに軽口を叩き合いながら笑い合い、しばらくベンと談笑を続ける。
その間大した話をした訳じゃないんだが、その時のベンの姿は、かつて俺が憧れた男、いや、クーデター軍に反旗を翻した時の漢の姿が蘇っているようにも思えた。
「…おい、お前の雇い主を匿うって依頼、前向きに検討してやるよ」
「へっ、アンタならそう言ってくれると思ったぜ」
「あくまで検討するだけだ! お前等を匿おうにも、お前と公爵夫人はこの支部所属の人間に特に恨まれてるからな。
だからまずは、あいつ等を納得させる必要がある」
「だよなぁ…これまで散々ココとはやり合ったきたからなぁ」
コレに関してはベンに任せた方が事がスムーズに運ぶだろうから、ベンに任せるのが一番だろう。
なんせ俺がこのギルドに久しぶりに入った時、あいつ等かつての顔なじみだろうが、隙あらば容赦なく襲い掛かろうとしてたぐらいだしなぁ…
ベンはまだ話を聞いてくれたから、たまたま争わねぇで話が纏められただけであって、こっちとしてはやり合って力で抑え込む事も視野に入れてたぐらいだからな。
そう思わせるぐらい、この支部の構成員は血の気の多い奴等で構成されている。
「お前等の事情も含め、ギルドを畳む件も俺がしっかりギルドの奴等に話して説得する。 だからもう少し時間をくれ」
「すまねぇなベン。
だったら先にベンだけでも俺の主人に頼んで、呪印を解呪してもらった方が良さそうだな。
そうすりゃ幾ら血の気の多いあいつ等でも、俺等に付くメリットってのが分かるだろう」
「そいつはありがてぇ話だが、今公爵夫人は身を隠してるんだろ? だったら下手にこっちが出向いて変に勘ぐられる可能性ある以上、俺がギルドの奴等に話を付けた後の方が良いんじゃねぇのか?」
「隠れてるって言っても、今はこの支部の真横に隠れてるんだがな」
「…ハァ!?」
「流石にギルド内には入ってねぇよ。 もしもの時の為に外で待機はしてもらってる」
「ウソだろ! こう見えても周囲に誰か入れば分かるように、複数の感知魔法陣展開して万全の警戒態勢敷いてんだぞ」
「あぁ…そこに関してはだな…ウチのマリア様は色々と規格外というか、ぶっ飛んでる人だ!
だからあんま気にすんな。 と言うか、気にしたら負けだ!」
「俺達は今まで如何にとんでもない奴を相手にしてた…そういう事かよ」
俺の話を聞いてベンは直ぐに自身も高度な探知魔法を発動したようだが、何の反応も得られなかったんだろう。 その証拠に顔が引きつってやがる。
(まっ、この程度の事で驚かれちゃ、今後あの暴れ馬と付き合っていけねぇぞ?)
もっとも俺も、マリアの元で働くようになってからしばらくは何かとあの暴れ馬のやる事なす事全部に、度肝を抜かされていたけどな…
さて、とりあえずベンをマリアの元に連れていって呪印を解除するために、一旦ベンと共にギルドの外に出るため支部長室のドアを開ける。
・・・
・・
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「…あら、やっと話が纏まったのかしら? 待ちくたびれたからお茶をご馳走になってるわよ」
「あぁ、そりゃ……ってオイ! なんで、なんでココにマリア様がいるんだ!?」
はぁ…マジでどうしてこうなってんのか、俺にはサッパリ意味が分からねぇ……なんでドアを開けた先に、今から外で会おうとしていたマリアが椅子に腰かけながら優雅に茶なんか飲んでんだよ…
やっぱりマリアは何処で何をしようが、誰にも制御出来ない暴れ馬だった。
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