帰り道
いつもなら帰り道を、クリスと並んで歩いている。
だけど今日は、さっきの俺の夢の件をまだ引きずっているようで、ずっと俺の先を歩いて目も合わせようとしない。
どうにも俺の夢の中で女にされたのが、余程気に食わなかったようだ。
(いやさ、俺ちゃんと事前に確認したよね?「絶対怒るなよ」って!
なのに、めちゃくちゃ怒るとか、ちょっとは自分の言動に責任持てよな)
そんなクリスに対する不満を、心の中で愚痴ってしまった。
しかし普段温厚なクリスが、ここまで長い時間俺に対して怒り続けるなんて、滅多にない。
あいつ体は華奢で、顔つきも中性的だから、今まで色んな奴から「女っぽい」って言われて、からかわれることは昔からあった。
それでも、顔を真っ赤にして怒ったことなんて一度もなかった。
(もしかして、俺に「女っぽい」って言われたのが、かなりショックだったとか?
よし、もう一度しっかりクリスに謝ろう)
「クリス、さっきはホントにごめんな! 『夢で見たクリスが綺麗』とか変なこと言って」
「別に…だった訳じゃ…」
「え? 何だって?」
クリスはこっちに顔を向けないで、ボソボソ何か言ったが、あまりも声が小さくて聞き取れない。
「…別に嫌だった訳じゃないし、怒ってる訳じゃないん…だよ?」
「…だったらさ、こっち向いて話してくれよ」
「ごめん、今はまだちょっと無理! だからもう少し待ってて……」
「はいはい、分かったよ……」
どうやらクリスは、俺を許すつもりはあるけど、まだ怒りは収まっていないらしい。
だから今は、クリスの言う通り距離を保ったまま帰り道を歩く。
(しかし、さっきからずっとクリスはモジモジしてるな。
もしかして……まだ俺に怒ったこと気にしてんのか?
そんなクリスの姿を見ていると、なんだか懐かしい気持ちになったのは、あいつと俺初めて会った頃を思い出したからだ。
そんな初めて出会った頃のクリスと、今のクリスが重なる姿を見ていたら、俺のイラつきも徐々に収まってきたので、クリスが何か話しかけてくるまで、何も言わないで待つことにした。
そして更に待つこと数分、全くこっちを振り向こうとしなかったクリスが、ようやく少しだけこっちに顔を向けた。
「その…本当に怒ってる訳じゃ…ないからね?」
クリスは困った表情を浮かべながら、俺に対して「もう怒っていない」って口にしたので、これで「この件を終わりにしよう」って言いたいのか?
だったら俺の返事は決まってる!
「はいはい、そんなの分かってるって! もうクリスは怒ってないんだろ? それが分かったからもういいよ。
じゃあこの話、これにて閉・幕!」
俺はそう言った後「パチン」と手を叩き、この話は終わりだと宣言したが、クリスはまだ何か言いたそうな表情を浮かべていた。
(もしかして、必要以上に俺に気を遣わせたと思って、変に罪悪感を感じてるのか?)
どうやら俺の意思は上手く伝わってないみたいだ…そもそもこの状況の発端は、俺が変な夢を見てしまったのが全ての原因なので、俺が後始末をつけるべきだろう。
「状況を作った張本人が、状況を最も早く収拾できる!」
そんな教えを父さんから教わったしね。
だから俺は、すぐに行動に移った。
「全く……最近クリスも少しは『男らしくなってきた』って思ったのに、まーだナヨナヨした姿、俺に見せんのかよ?
このままだと、また昔みたいに「女みたい」だって、馬鹿にされるぞ?」
俺は、ヤレヤレという仕草をしつつ、かつて弱々しかった頃のクリスを例に出して、茶化してやった。
「う、うるさいなぁ…別に良いじゃないか! 僕に弱いとこの一つや二つあっても!!」
そう言いながら、頬を膨らませながら怒るクリス。
(なんだ、いつも通りじゃん)
そう思うと、何だかさっきまで下手にクリスに気を使っていたのが、妙に馬鹿らしくなってきた。
だったらもう「いつものノリ行こうぜ!」って意味を込め、クリスの頭をポンポンと叩いてやる。
「悪い、ちょっと言い過ぎたな。
だからってそんなに怒るなよ」
実はクリスが弱々しい姿を見せるのって、俺や本当に親しい極僅かな人だけだ。
クリスは人と適切な距離を取るのが上手いので、人付き合いはかなり上手いし、自分の隙だって滅多に見せない。
だけど、学園に通う前からずっと友達やってると「あの時のイメージ」が未だに抜けきれないからか?
ついついなんかこう…無性にからかいたくなってしまう時があるんだよなぁ。
「ねぇ……ホントに悪いと思ってる?」
「思ってるって!
【未だにヒョロっちぃままってのは、男としてちょっとどうなんだろう?】って!」
「うぅぅ…僕が華奢なのは体質なんだから仕方ないじゃないか!
というかライト! 絶対僕に『悪いことしてる』だなんて、思ってないでしょ?」
そう言ってまた頬を膨らませて怒るクリスを見た俺は、笑いながらまたクリスを茶化し、そしてクリスは更に怒る。
そして「ちょっと言い過ぎたかな?」って思ったら、また謝って機嫌を取る。
そんな周囲から見たら、ホントにくだらなくてアホみたいなやり取りだが、こんなやり取りできる友達はクリスだけだ。
そんなことをしているうちに、クリスの住む公爵家が見えてきたので、間もなく楽しい時間は終わりだ。
「じゃあ、また明日な」
そう言って手を振り、クリスといつものように別れようとすると
「ねぇ、ライト!
ちょっと…聞きたい事があるんだけど、良いかな?」
「ん? どうした?」
(明日もどうせ通学路なり学園で顔を合わせるってのに、わざわざ別れ際に引き留めて話そうとするなんて珍しいな?)
そんな事を思いつつ、俺はクリスが次の言葉を発するのを黙って待つ。
「もしも…もしもの話だよ? もしも僕がその…もの凄く変わっても…ライトは僕と一緒にいてくれるかな?」
クリスは真剣な眼差しで俺を見つめながら、不思議なことを尋ねてきた。
割とアイツは真面目な方なので、付き合いの長い俺としても「こんな事言うなんて珍しいな?」と思い、何だか妙に心配になってくる。
(あっ! もしかして何か変な物でも食ったのか?)
なんて親友とはいえ、この状況で失礼過ぎることを考えたりしたが、いつになく真剣な表情で尋ねてきたってことは、どうも俺の真剣な答えを聞きたいみたいだ。
(もしかしたら、近々家の事情でなんかあるのか?)
そのことを俺に伝えようとしているのかもしれない。
そう思ってしまうのは、クリスが公爵家で置かれている立場が特殊で複雑だということを、俺は他の奴等よりは詳しく知っているからだ。
だからクリスが、今から「何かを伝えようとしている!」ことぐらいは察していた。
なら、俺の出す答えはコレ一択だ。
「当たり前だろ。 クリスにどんなことがあっても、俺はずっと一緒にいてやるよ!」
例えこれからクリスの立場や環境がどう変わっても、俺にとってクリスは一番の友達であり、親友だ。
だから
【この関係は今もこの先も変わらない!】
そんな思いを言葉に乗せ、自信満々に答えてやった!
「う、うん! ありがとうライト。 絶対だからね!」
「ああ、絶対だ! じゃあ、また明日な」
「うん。また明日」
こうして今日もクリスと、いつもの場所で爽やかに別れた。
これが俺とクリスの日常の一ページだ。
最後まで読んで頂きありがとうございます。




