夢と現実の違い
「...」
「あの~ライト君?」
いけね!! さっき見た夢があまりにもぶっ飛んだ内容だったせいで、思考がフリーズしていたが、クリスに呼ばれてようやく思考が正常に働きだした。
(いやぁしかし、学園からの帰り道にちょっと眠くなったから、たまり場にしてる丘で昼寝したら、まさかあんな夢を見るなんて……誰が想像出来るんだよ!)
そして、夢の内容があまりも衝撃的だったせいで、つい飛び起きてしまうし、そんな俺の姿を見たクリスは、誰がどう見ても分かるぐらいドン引きしている…… しかし、そんなあいつは俺にとって唯一無二の親友だ。
その証拠に、俺からしっかり距離はとっていても、その目はだけはちゃんと俺のことを心配そうに見てくれている。
(でも、一番仲の良い奴から大きく距離をとられるのって、実際やられると思ったよりショックだ…)
こうして親友にドン引きされたことで、複雑な心境になったりしてるけど、そんなことより今はどーしても親友に確かめておきたいことがある。
だから俺は、持ち前のスピードを生かしてクリスの懐に一瞬で入り込み、ガッチリとターゲットの両肩を掴んで、しっかりと身柄を確保する。
「ラッライトぉ!? いっ一体どうしたの?」
俺にガッシリと両肩を押さえこまれ、身動きが取れなくなったクリスの表情は、先程より更に引きつっており、不安がさらに増しているのが伝わってくる。
しかし、いくら親友にドン引きされようとも、俺はさっき夢で見た衝撃的な姿をしたクリスと、目の前に居るクリスが
【本当に同一人物なのか?】
そのことを確かめたいという気持ちに突き動かされているので、そんな些細なことなんて気にしない!
こうして目の前にいる男と、夢で見た女性が同じ存在なのか?
そのことを一つ一つ確認し始めた。
「短い銀髪、ヨシ!
全く膨らみの無い俎板、ヨシ!
貧相な尻、ヨシ!
足は……ここだけは夢と一緒で華奢だな」
こうしてしっかりと検証した結果、先程見たのは単なる【夢だった!】という結論に至った。
所詮は夢の出来事だと分かると、心底安心出来たのでホッと胸を撫で下ろすが、どういうわけか、目の前から異様な視線を向けられている気がする。
そのことを不思議に思って顔を上げてみると、なんと言うことだろう!
なんと目の前には、言葉で言い表せないほどドン引きしてる親友の姿が……
(なんて言うか、今すぐこの場から逃げたそうにしてるのが、嫌でも伝わる。 そんな顔をしているな)
「えっ…と? ちょっとさ?……ホントに何したいの?」
「えっとだな…とりあえず、何の説明もなく捕まえた挙句、ジロジロと体を見てゴメン!」
俺はすぐに親友に手を合わせて平謝りを入れた後、素早くその場を離れ、自分が冷静である事をアピールする。
しかし、クリスの警戒心は晴れるどころか「また何か奇怪な行動をしてくるんじゃないのか?」と言いたげなジト目を俺に向け、警戒態勢を強めたまま、クリスはこう言ってきた。
「…じゃあ説明してくれる? なんで僕をあんな至近距離でマジマジと見てたのか。 その理由を?
そう…指差し呼称までして、僕のな・に・を・ど・う確認していたのかをね!!」
(あっ、コレはマズい……相当怒ってるな)
「い、いやさぁ~ 実はさっき見た夢で、クリスがあまりも衝撃的な姿に変わって『クリスが夢みたいに変わったりしてないよな~?』
なんて思っちゃったから、その…ちょっと確認しときたくて」
「へぇ……そうなんだ。 それで? 夢の僕は普段と何か違ったの?」
「いや…うん、確認したらいつも通りのクリスだったから、もう気にするなって」
俺は最高の笑顔で「何も問題無い」と伝えた。 しかし、親友の怒りはちっとも収まる様子を見せない。
「ソウ、ソレハヨカッタネ。
でもね……僕はライトの奇天烈な行動のおかげで、もの凄く不安と恐怖を感じたんだよ?!
それってつまり、夢の中の僕は、ライトに『不安と恐怖を感じさせるぐらい酷い状態だった』
ってことなのかな?」
「いや……そういう訳じゃないんだけどな~」
「じゃあ、お・し・え・て・よ! 夢の中の僕は、どんな姿だったのか?」
(くっそ……こいつ相当根に持ってやがるな!)
クリスは、俺が奇怪な行動を取るに至った「夢の内容を話せ」と追及してくる。
だけどこっちとしては、夢の内容が内容なだけに、そのことを当人に伝えていいものか悩んでいる真っ最中。
だってさ、夢の内容を伝えたら伝えたで、
【クリスに対して凄く失礼だし、詳細を話しした結果、あいつを深く傷付けたりしないか?】
そんな考えが頭を過るので、夢の内容をクリスに伝えることを躊躇してしまうのだ。
「なになに? そんなに言いにくい夢の内容だったの?」
しかし、そんな俺の苦悩など知る由もないクリスは、夢の内容を中々言い出せないのを見て、俺を弄り始める。
まるで「先程のお返しだ!」と言わんばかりに。
更に、さっきまで空けていた距離をジリジリと詰め寄り、俺にプレッシャーをかけてくる。
そんなクリスの姿に、内心少しイラっとしてきたが、こんな時こそ父さん直伝の
【イラっとした時こそ一呼吸置いて冷静になれ!】
を実践するとしよう。
一旦”スー、ハー”っと深呼吸し、呼吸を整えることで苛立ちを抑えつつメンタルをケアする。
こうすることで冷静さを取り戻した俺は、クリスの質問に対してこう返してやる。
「言っても良いけどな、今から俺が言うことに対してぜっったいに怒るなよ?」
「うん、分かった。 絶対怒らないから言ってみてよ」
(ククク、引っ掛かったな! 阿呆め!!)
今クリスは”俺を弄れる権利はまだ続いている”と思い、余裕の笑みをみせている。 が、実は違うんだよな!
俺は今後クリスが怒ったとしても「反論できる一言」を既に確保しているし、あいつはきっとそのことに気が付いていない。
そう、奴は「怒らない」と口に出した時点で、夢の内容を聞いてどれだけ不快に感じ、怒りをあらわにしても、俺は「あれ? さっき怒らないって言ったよな?」と反論できる大義名分を得ているのだ!
(残念だったな~クリス! お前は自分から俺に退路を与えたんだぜ。
さぁ、お前は俺の次の一言を聞いて、どんな反応を見せるんだろうな?)
「え~と、その…さ……だった」
「え? 何?? 聴こえないからもっと大きな声で言ってよ」
「……女だった」
(くっそ、いざ口に出そうとすると、色んな意味で言いにくいことだな…オマケに言おうとしたらしたで、何か変な気持ちになって妙にバツが悪いし)
「え? つまりそれってどういうことなの??? 意味が分からないから、もっとく・わ・し・く聞かせてよ!」
クリスはニヤニヤとしながら、さらに詰め寄ってくる。
そんな再度調子に乗ってきたあいつ態度を見た瞬間
(あ、余計な心配した俺がアホだったわ!)
俺の中で何かがちょっと切れた。
そして、少しでもコイツに罪悪感なんて持った自分が馬鹿らしくなってきたので、ヤケクソ気味に夢の全容を伝えてやることにした。
「さっき見た夢の中でクリスが『女になってたんだよ!』 そんで俺と一緒に商会作って仕事してた!!」
「ふーん……あ、もしかして、僕が夢みたいに女に変わってないか確認するために、わざわざ指差し呼称してまで確認してたの?」
「ああ、そうだよ! だから言いたいなら、ハッキリ言えよ。
『男であるクリスを、夢の中で女にする奴なんて気持ち悪い!』 ってよ」
ヤケクソ気味に言ってしまったが、夢の中とはいえ、親友を「女」にしてしまったんだから、告白されたクリスは相当嫌な気持ちだと思う……
それを頭で分かっていながら、高ぶった感情に任せて大声で伝えるとか最低だし、何よりさっきの一言でクリスを傷付けていないか? そのことが心配で仕方なかった。
それを確認するため、今まであえて見ないようにしてたクリスの顔を、改めて見てみると、当の本人はこっちの心配をよそに、全く意に介していない様子で平然としている。
「う~ん……嫌というか、ちょっと意外だったなー?
もしかしてライトってそっちの気があるの? それとも僕が『女だったらいいなー!』とか普段から思っちゃったりしてたのかな?」
クリスは不快感を示すどころか、再び俺を弄り始めてきたので、
(コイツ本当に良い性格してんな! よし、今度絶対何か仕返ししてやる)
そう心に誓った後、クリスの質問に対して嘘偽りない本音で答えてやることにした。
「そんな訳ないだろ! そもそもな、そんなこと一度も思った事もないし、考えた事もなかった」
そうハッキリ答えたが、まだクリスは俺をからかい足りないようで、相変わらずニヤニヤしながら俺を見下すかのような態度を取ってくる。
そんなあいつの態度はやはりイラつくが『俺にそっちの気は全くない!』というのをしっかり伝えとかないと、今後クリスに何言われるのか分かったもんじゃない。
だから俺は、イラつきを必死に抑えながら
「はぁ……そもそもお前みたいなチビで弱々しいヤツが、もし女になったとしても、そんな目で見ることなんて”コレぇっっっっぽっち”もありえない!
だから変な心配するなって」
たとえクリスが女になったとしても、異性として興味を持つことはない! その意思をしっかり示してやった。
きっとコレで、俺の思いはハッキリ伝わり、誤解は解けるハズだ。
「…あっっっそう! 別にそれならそれで良いんだけどね!」
クリスは、少し拗ねた様子でそう答えた。
(…やっぱり怒ってるじゃねーか)
なんてツッコミを入れたかったが、心の内に留める。
しかし、なんでまた「そっちの気は全くない」と言う事をハッキリ言っただけなのに、拗ねるような態度を取られないといけないんだ?
俺には今のクリスの考えがさっぱり分からない。
そんな良く分からない親友の様子を、首を傾げながら見ていると、クリスがまだ拗ねた様子で口を開く。
「…それで、どうだったの?」
「どうって…何が?」
質問の意味がさっぱり分からないので、思わず聞き返してしまう。
「だから…ライトの夢に出てきた…女になった僕を見て、どう思ったの?」
「……はぁ?」
まさか夢でみた女版の感想を小声で尋ねてくるとは思ってもいなかったので、思わず変な声が口から洩れたせいか、さっきまで中で変に渦巻いてたクリスに対する負の感情もすっかり抜けてしまった。
そして夢で見た女版クリスの姿を、再び頭の中に思い浮かべてみる。
「うーん、とりあえず綺麗って思った…かな」
本当に夢で見た女版クリスは、今まで見てきた女の人の中で一番綺麗だった! 素直にそう思える。
そもそもよくよく考えてみれば、クリスの顔立ちはもの凄く整っている方なので、女になっても綺麗だと思うのは当然かもな。
なんせ俺たちが通っている学園で、一、二位を争うほど女子生徒にクリスは人気があるし、一部の男子生徒からも妙に人気があったりするからなぁ……
つまり男女共に受けが良い顔してるんなら
【女になっても美人!】
何か妙に納得のいく答えだ……
そんなことを考えていたら、俺の言った事に対してクリスが何も反応を示さない事を不思議に思ったので、機嫌がもっと悪くなっていないか?
その顔を覗き込んで確認しようとしたら、俺から視線を逸らすかのようにクリスはそっぽを向き、何かをモゴモゴと口にしていた。
「そ、そっかぁ そうなんだぁ……かった」
「ん? 何だって??」
「な、なんでもない。 なんでもないから! そんなことより、もういい時間になっちゃったね。
そっそろそろ、家に帰ろうよ」
そう言ってクリスは、変える方向へそそくさと歩き出すのだが、その際クリスの顔が少し赤くなっている事に気が付く。
「…あいつ怒らないって言ったクセに、やっぱめちゃくちゃ怒ってるじゃん」
顔を真っ赤にさせるぐらい怒っていたクリスに対する不満をボソリと呟いた後、先に行くクリスの後を追うべく、俺も帰る準備をさっさと済ませて、後を追いかけるのであった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。




