夢
「やばいなぁ…今日の交渉、全く上手く行く気がしない!」
俺は史上最大のピンチを迎えているのかもしれない!
今日の交渉にもし失敗すれば、俺と親友がやっとの思いで創設し、ようやく軌道に乗ってきた振興事業に大打撃を与えてしまうかもしれないからだ。
「こうなったら…あいつに相談してみるか」
仲間の内でもっとも頼りにしている親友がいる執務室を、一直線に目指そうとするが、今俺がいる屋敷はとにかく広いので、目的地に行くだけでも一苦労。
軽い散歩だと言えるような距離を進み、ようやく執務室に辿り着いたが、ここに来るまでの間も【絶対に今日の交渉失敗出来ない】というプレッシャーが押し寄せてくる。
だけどこの扉の先には【この重圧を和らげてくれる何かがあるかもしれない】そう思わせるほど頼れる奴がいる!
そう思えば、扉をノックすることに希望さえ持てた。
「俺だ。 入るぞ」
「うん。 いいよ」
部屋の主から入室の許可を得たが
(あれ? あいつの声こんなのだったっけな? もしかして風でも引いたのか?)
そう思うと少し心配になるが、あいつから了承を得た以上、扉を開けない訳にもいかないので、部屋に入る。
入ってまず目を奪われたのは”自分もこんな立派な仕事用のデスクを持ちたい”と思えるほど、洒落たデスクだった。
そして俺の探している親友は、デスクの後ろにある窓の前に立ち、窓から流れる爽やかな風を感じながら外の景色を優雅に眺めていたが、何故かその後ろ姿がいつもと違う気がしたが、まずはここに来た目的を達成しないとな。
「なぁ、もしかして休憩中だったか?」
「うん。 ちょっと息抜きに外を眺めてたんだけど、窓の外を見てみてよ。 桜が綺麗に咲いているよ」
「あぁ。 こりゃ…見事だな」
そう言って部屋の主が窓から手を出し、指差す方に沿って目をやると、丁度庭に植えてある桜は満開の花を咲かせており、その姿はただ「見事」そうとしか言いようがなかった。
そんな美しい桜とそれを眺める親友の後ろ姿は、何故か見入ってしまうものがあり、この光景をしばらく眺めていたい気もするが、今は仕事の相談のためにここに来たのだから、さっさと本題に入ることにした。
「あのさ、ちょっと休憩中に悪いんだけど」
「何? もしかして相談事?」
「流石に察しがいいな。 実はちょっと今日の取引先について、聞いておきたいことがあってさ」
俺は苦笑を浮かべつつ、俺がこの部屋を訪ねた理由を話した。
「えーと、今日ライトが顔合わせるのって、確かハングマン侯爵だったかな?
あぁ…彼はライトが得意そうな相手じゃないもんね」
「……悔しいけど、そういうこと」
やはり付き合いの長い友人となると、俺の悩みなんてあっさりと推測してしまえるものなのか?
まだ何も伝えていないのに、的確に俺の悩みを言い当ててくれた。
これは話がとてもスムーズに進みそうだ。
「いやさ、ちょっと今日の交渉上手くいく自信がなくて…そこで侯爵と直接関わりがあるクリスに聞けば”何か良いアドバイスを貰えるかも!”って思って来たんだけどな。
ちょっとタイミングが悪かったな」
「大丈夫! 大事な友人からの頼みなら断わる訳にもいかないからね。
僕の知ってるハングマン侯爵の情報を、すぐに紙にまとめるよ。 だからもう少しだけ待ってて」
「すまないなクリス。 恩に着るぜ!」
商談が何とかなりそうな希望が見えてきたので、親友に感謝の言葉を伝えると、あいつは「構わないよ」と手を軽く上げて示したあと、大きく開けていた窓を閉じようとした瞬間に風が吹き、その風はクリスの長い髪を優雅になびかせた。
おまけに窓から差し込む光を、ライトグレーのクリスの髪が反射すれば、クリスの髪はキラキラと銀色に輝き、その光景は毎日のように顔を合わせている俺でも、ただ”綺麗”と思えるぐらい神秘的に見えた。
(…んん? あいつが綺麗??)
俺は親友の後ろ姿をずっと見つめるが、足元から背中はいつも通り。
さらに上に視線をやると、ようやくおかしい部分に気が付いた。
「なぁ、クリスって…そんなに髪長かったっけ?」
思わずそんな質問を投げかけた。
それを聞いたクリスは
「ねぇ、ライト。 髪が長い僕は…おかしいかな?」
そう悪戯っぽく笑いながら、俺に変な質問を返してくる。
そんないつもと違う様子の親友に戸惑いながら、今の正直な気持ちを答える。
「いや、おかしいというか…やっぱり昨日会った時はそんなに髪長くなかったよ…な?」
今のクリスに対しての抱いた感想を、素直に口に出して答えたけど、どうにも歯切れが悪い答え方になってしまうのは何故だろう?
そんな戸惑いを感じてる俺の様子を、あいつは気にする素振りも見せなどころか、窓の外を優雅に眺め続けている。
というより「なんか今の俺の状況見て楽しんでいる気がする」そう思うのは気のせいか?
「フフフフフ…そうだよね。『今までの僕と違う』 そう思うよね」
クリスのその一言を聞いて、俺は確信した。
(やはりあいつ…この状況を楽しんでやがるな! 全く、人の気も知らないで)
そんな念を込めて睨んでいると、突如クリスは体を俺の方に向ける。
そしてただそれだけの動きだというのに、その姿はとても優雅で、所作一つ一つに品を感じ、動きは華麗とさえ思えてくる。
そして俺とクリスの目が合った。
するとクリスは、俺が今まで見た中で間違いなく”一番真剣な眼差し”を俺に向けて、こう語り掛けてきた。
「ねぇ、ライト。 よく見ておいて! これが本当の私なんだから…」
そう言って凛々しくも美しい姿で俺の前に立つ親友は、間違いなく俺が知っているクリスのようで、全く知らないクリスだった…
―――――
――――
―――
「ウッ、ウゥゥゥ......って…オヴォワァーーー!!!」
「う、うわぁぁぁー! びっビックリしたなぁ!!」
俺はあまりに衝撃的な夢の内容に驚き、言葉にならない奇声を上げながら飛び起きる!
そして隣にいた親友は、俺以上に驚いている……そんなあいつの姿を見て、先程見ていた光景が”ただの夢”だという事に、ようやく気付くのであった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
この話を呼んで続きが気になりましたら、ぜひ今後とも応援よろしくお願いします。




