ある魔法使いと故郷の現状
「…邪魔するぜ」
久しぶりに支部長の部屋に入ったが、案外部屋の中も、待ち受けていた男の姿も、俺が闇魔法ギルドに所属していた頃と大して変わっていなかった。 そのせいか? ただ”懐かしいな”という感傷が多少なりとも生まれたから、その感情に浸りたい気持ちもあったんだがな…そんな俺と違って目の前でデスクに座っている男は、久しぶりに俺の姿を見ても、心底不機嫌そうにしてやがる。 全く、久しぶりの再会だってのにつれねぇよな。
「よぉ…久しぶりじゃねぇか、ゼール」
「5年ぶりだな、ベン」
「裏切りモンの恩知らずが、ノコノコと”どの面下げて”俺の前に顔を出してきたのかと思えば、妙に晴れやかな顔して入って来やがった…おい、一体お前どんな神経構造してるんだ? なぁ!?」
「おいおい、俺にそんな事言う前によ、そもそもココに”マトモな神経持ってる”奴なんていたか?」
「少なくともウチのギルドの連中の方が、お前よりはマトモだ! なんせ俺達はどっかの『裏切り者』のように”俺等を捨てた奴ら”の犬なんぞに成り下がったりはしねぇよ!」
ベンは、このギルドを抜けた俺と話す事さえ心底嫌そうで、その事を露骨に態度に出してはいるが、今の所俺に手を出さないという事は、一応は俺をギルドの客として扱ってくれているようだ。
尤も、このまま他愛のない話を続けても”益々ベンの機嫌は悪くなっていくだけ”なのは、目に見えているからなぁ…さっさと本題に入るとするか。
「ベン、俺と会って気分が最悪なのは分かる。 そして今日俺はアンタ等と言い争いしに来たわけでもなければ、一戦交えに来たわけでもねぇよ。
俺がココに戻ってきたのは、アンタら闇魔法ギルドに”ちょっとウチの主を匿ってほしい”って依頼を持ってきただけだ」
「はぁ? お前の主って…あのクソ侯爵令嬢、いや、今はクソ公爵夫人だったか? まっ俺からすればどっちも大差ねぇが…それと念の為に聞いとくけどよ、お前ソレ本気で言ってんのか?」
俺の依頼の内容を聞いて、ベンは驚くと同時に「コイツ何を言ってんだ?」と言いたげな表情を浮かべつつ、俺をバカにするかのような態度で尋ねてきた。
「おいおい、人の雇い主の事を堂々と『クソ』呼ばわりだなんて失礼だぞ、オイ!」
「へっ! こっちからすりゃ、お前の主にゃ何度も仕事の邪魔されて散々な目にあってんだよ! そんな奴を”クソ”以外に呼びようがあるか?って話だ!」
「まぁ…ウチの主をクソ呼ばわりしたくなる事に関しては、俺も否定しにくい部分があるけどよ…まぁ、一旦その話は置いとけ。 それよりベン、改めて頼む! どうかこの依頼、受けてくれないか!!」
俺は真剣な表情でベンに頭を下げ、マリアを匿ってもらうよう頼む。 そんな俺の必死な様子を見たベンは、先程と同じく苛立っている様子を見せてはいるが、さっきまで取り付く島もない様子だったのが、少し考えこむ様子を見せたという事は、少しは俺の話をマトモに聞く気になったようだ。
「…報酬は?」
「最低金貨10000枚は出す」
「報酬自体は悪くねぇな…だが既に大手の家門2つに追われてる奴を匿わなきゃいけねぇんだろ?
ってなるっと、もちろん金以外にもこの依頼を受ける”メリット”が、当然俺等にあるんだよな? じゃなきゃとこんなふざけた取引持ち掛けたりしねぇぞ?」
流石に既にマリアが実家にも嫁入り先にも追われてるって情報は掴んでいやがったか! まぁ、俺としてはお互いの手の内を探り合ったりするなんて、まどろっこしい事をするのは好きじゃない。 お互い手の内が分かってんなら、直球勝負と行こうか。
「もちろんだ。 最下級地域の復興支援を、全力で行うと約束する!」
「…おい、いくら裏切りモンの冗談といえ、笑えない冗談ぬかしてんじゃねぇぞ? お前もしかして貴族にすっかり飼い馴らされて、全部忘れちまったんじゃねぇだろうな? 貴族や王族が俺達にしてきた仕打ちがどんな物かってのをよぉ!!」
「忘れてねぇよ! だけどベン、アンタだって本当は分かってるんだろ? もうこの地域は、全てが限界をとっくに通り越してるって事に! そしてこのままの状態が続けば”本当に全てが駄目になる”って事を!」
「…黙れよ」
「なぁ、ベン! 俺が久しぶりにココに帰ってきて最初に感じた事が何だか分かるか?」
「…」
『俺が居た頃より益々酷くなってやがる…』本気でそう思った…なぁ、コレが何を意味してるのか、アンタはずっと前から既に分かってるだろ?」
「うるせぇな! この地域を、エードランドを捨てたお前に、そんな事を言う資格はねぇんだよ!!」
俺に図星を突かれてベンは激昂し、俺の胸倉に掴みかかってきた!
だからと言って俺は全く動じる事はないし、ベンが俺に余裕のない姿を見せたという事は、この地域の現状は【俺の想像以上に酷い状況】に追い込まれているんだろうな…
正直、俺がマリアに雇われる前からもう色んな面で最下級地域は、現状を維持する事も難しくなってきているのは分かっていた。
そして今回久しぶりに里帰りした際、ある事が全く起こらなかった事で、この地域の状況は俺が居た頃より更に悪化しているのが、俺にはスグに分かった。
この地域の奴等は基本余所者には容赦がない。 特に荒れくれた奴らってのはソレが顕著で、例えいくら余所者が腕の立つ人間だと感じ取ろうが、そんなの関係なく余所者が堂々とこの地域を歩いている事を許せない。 そんな過激な思考を持った奴等は、余所者に必ず襲い掛かる! それがこの地域の日常であり、常識だったんだが、ソレが一切無かった。
つまり決して余所者を野放しにしようとしない奴等が居る場所で、堂々と俺達がこの地を歩けた事が、この地域に長年住んでいた俺からすると、異常事態だった。
つまり、この地域を余所者が堂々と歩いても”誰も余所者に襲い掛かる事が無い”という事は、今この地に住む人間には”そんな余裕もない”状態なのか、そもそも戦える人間があの場に居なかった! という事であり、最下級地域以外の人間に対して、絶対に牙を向ける奴が牙を向けられない状況。
それがどれだけヤバイ状況なのかって? 考えてみろよ! 地域を色んな意味で形作ってるって、結局そこに住む人間だろ? それなのにその人間に地域を維持する力がもうないんだぜ…それって結局の所、もうこの地域に住んでる人間は限界まで追い込まれ、そんな事してる暇もなければ、そこに労力すら割けない状況になってるって事だ。
そしてコレが続いた先がどうなるか…そんなの衰退どころか、終焉が待ってるだけなんだよ。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




