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ある魔法使いと再会

 フレイとタップに連れられ、マリアの元に向かっているのだが、向かっている場所はエーレンブルグ公爵家でもなければ、ブレンナー侯爵家とも違う方向だった。


「おい、一体何処に向かってるんだ?」

「答える前に確認しておくが、俺達を追跡している者の気配は?」

「今の所はねぇよ!」


 魔塔から出てから”周囲の警戒を頼む”と言われていたので、探知魔法で周辺に常に探りは入れているが、今の所俺達を追ってくるような奴はいねぇ。


「そう。 ならいいのだけど…ちなみに私達が向かっているのは、大通りの裏路地よ」

「はぁ? そんな所にマリアが居るって事は、久しぶりに気に食わない奴でも現れたから、ソイツの元にカチコミに行くって事か?」

「今までのように()()で解決出来る問題だった方が、まだ良かったんだけどな…詳しくはマリア様の元に辿り着いてから話す」


 フレイもタップも、深刻かつ複雑そうな表情を浮かべながら話すので、とりあえず「めんどくさい事態が起きてる」って事だけは分かった。


(さて…俺を久しぶりに呼び出した雇用主様は、今度はどんな厄介事を持ち込んだんだ?)


 正直言って、この後に禄でもない事が起きるのは予想出来ちまう以上、俺はどんな事があってもすんなり受け入れられるように覚悟を決めておく事にした。


・・・


「ゼール、もうすぐマリア様の元に辿り着くが、俺達の気配を隠すよう頼めるか?」

「あぁ」


 大通りから路地裏に入れる通りに近付くと、タップから気配を消すように頼まれたので、俺は気配を消す魔法を三人分展開するが、注意するように言っていた追手の気配すら感知していないのに、この念の入れよう。


「なぁ、ここまでやるって事は…もしかして相当めんどくさい奴でも敵に回したのか?」

「…そうね、私達からすると”そう”とも言えるかもしれないわね。 そんな事よりもうすぐ着くから、索敵は最大レベルでよろしく頼むわ」

「あぁ、言われなくても最初から最大レベルで警戒してる」

「やはりこういう時にゼールは頼りになる!」

「ウィザーの称号は伊達じゃねぇ!ってな」

「フフ、それって自分で言う事じゃないでしょ」


 俺達は軽口を叩き合いながら裏路地を駆け抜け、マリアの待つ場所に辿り着いたが、ソコは決して公爵夫人など呼ばれる高位の人間が、立ち入るとは思えないようなオンボロ小屋だった。


「へぇ、まさかこんな所に居るとはなぁ…しかし良くこんな場所マリア様が知ってたもんだな?」

「ココを案内したのは私よ。 上位の貴族達からすれば、直ぐには思いつかない場所だと思って」


 まさか貴族に仕えてる奴の中で俺以外に、こんな場所を知っている奴がいるとは思わなかったが、フレイが案内したと言えば直ぐに納得出来た。

 実はフレイは子供の頃、かつて俺の住んでいた最下層ほど酷い場所じゃねぇが、王都の中じゃ治安の悪い裏通り出身の孤児だったって言ってたもんな。

 そんなフレイが貴族であるマリアと知り合ったのも、フレイがガキの頃に路地裏で死にかけていた所を、偶々表通りからフレイが倒れているのをマリアが見つけた事で、フレイはマリアに助けられたらしい。

 そしてそのままブレンナー侯爵家のメイドとして働く事になったフレイは、マリアの専属メイドとなった。

 ってのがフレイが専属メイドになるまでの経緯なんだが、まさかフレイにとって辛くて苦しかった過去が今になって役に立つ時が来るなんて、フレイも微塵に思ってもいなかっただろうな。

 こうして二人に案内されながら、マリアが居ると言うボロ小屋の中に俺達が入ると、オンボロ小屋の中には、これまたこんな場所なんぞ全く似合わないご婦人が一人立っている。


「マリア様、ゼールを連れて只今戻りました」

「二人共ご苦労様。 そしてゼール、久しぶりね。 研究で忙しい中突然呼び出す事になってごめんなさい」


 こうして一年ぶりに再会した俺の主人は、以前と変わらない美しさを備え、俺に謝罪の言葉を贈る姿も、優雅で気品に溢れていたが、お腹が僅かに膨らみ始めているのが目に入ると、もうマリアは俺の知る侯爵令嬢とかけ離れた存在に変わってしまっている。

 その現実が嫌でも目に入るってのは、内心ちょっとした寂しさを感じてしまうが、その気持ちは決して表に出して良い物じゃねぇ。 

 だから俺は


「気にするな。 俺の本業はそもそもマリア様の護衛だ!」


 笑顔でそう主人に応えてやった。


「ありがとう…そう言ってもらえると本当に貴方を雇って良かったと思えるわ」

「よせよ、今更! それより【わざわざ】俺までこんな所に引っ張り出したって事は、よっぽどデカい問題が起きた! って事なのかよ?」


”パリーン”


 俺がマリアの身に何が起きているのか尋ねた瞬間、突如窓ガラスが割れた!

 俺は割れた窓ガラスに即座に視線を送るが、人の姿は見えない。

 それでもガラスが割れた原因を探る為に、様々な探知、探索系の魔法を使いガラスが割れた原因と、犯人を追跡する為に何か手がかりが残っていないか調べる。

 するとスグにガラスを割った物が魔力だと分かり、魔力の残滓から魔力の出所を探ると…


(……マリアじゃねぇか)


 ガラスを破壊したのは、マリアから放たれた魔力だった!


(…コイツ、今相当腸が煮えくり返ってやがるな)


 マリアは機嫌が最高潮に悪くなった時、怒りの感情に引きずられるように、魔力を無駄に外に放出する悪癖がある。

 そしてご立腹状態のマリアから溢れ出た魔力ってのは、本人が思ってる以上に強く放出されている事もあって、強く放出された魔力が脆い物に接触した瞬間、物を壊してしまう事が何度もあった。

 そして今まさにガラスが割れた原因ってのは()()であり、久しぶりに会って早々色んな意味で”見たい光景”じゃねぇのは確かだ。


(あーあ…ここまでマリアを怒らせるって何処の誰が何やったんだ? 今までの経験上、ココまでマリアを怒らせた奴の末路ってのは、決まって悲惨だったんだよなぁ)

 俺はこの時、事の重大さをまだ理解してなかったこともあって、マリアを怒らせた相手に対して呑気にも同情の念を送っていた。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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