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ある魔法使いの過去と後輩

 気が付けば、マリアの護衛を引き受けてから三年という歳月が経っていた。

 そんなあっと言う間に過ぎた三年もの時間。 その時間は俺と俺の周囲の環境を大きく変えるには、十分過ぎる時間だった…


「ゼールさん、この装置の設置場所ってココでいいんですか?」

「あぁ、そこであってる」

「コレって、こうした方が良いと思うんですけど」

「アイディア自体は悪くねぇが、このまま使うと反動喰らうから、そこを改良出来るかどうかだな」


 今日俺は魔塔で、所属する研究室の後輩と共に研究に明け暮れている。

 元は研究なんて物とは無縁の世間から忌み嫌われる闇魔法使いが、魔塔所属の魔導士として研究室を共同運営出来るぐらい魔塔での地位を築いているなんざぁ、ホントに世の中何が起きるかわからんもんだぜ。

 きっと闇魔法ギルドに所属していた頃の俺からすりゃ、今の俺の姿なんて、どう考えても思い浮かばない世界だっただろうな…


 俺の所属する研究室は、研究室と銘打ってはいるが、元はと言えばマリアと俺が()()()の研究用の為だけに”魔塔主や上層部職員の弱み握り、ソレをチラつかせるという脅しからの強請りのコンボで創設したという、曰く付きの研究室…いや、違うな! この研究室は”マリアが魔塔の金を堂々と横領する為”のモンってのが、この研究室の実態だな。


 そんなふざけた理由で立ち上げた研究室だが、その存在が堂々と許されている理由が、真っ当な部分もあって、時々魔塔に提出している”俺とマリアの研究結果の失敗例を記した論文や試作品”が、魔塔側からすると”世紀の大発見だ””と言わんばかりの評価を受け【金の卵】とも言える代物となった実績があるからなんだが、ホントあの暴れ馬は何処まで狙ってやってたんだろうな? ホントアイツには舌を巻かされてばかりだよ。


 そして最近俺は、この研究室に頻繁に顔を出して【魔法を使えない人に魔法を使わせる】研究を進め為に時間を使う事が増えた。

 こうなったのも、この一年でマリアは”裏の顔”ともいえる”悪党を潰し”に時間を割く事が相当減り、その代わり”表の顔”である公的な行事や付き合いと言った、社交界に頻繁に出る事が多くなった事で、俺はマリアの影の護衛として傍に付く事が不要な日が増えたからだ。

 元反社会主義の浮浪者が、本物の研究者染みた事してる。 ハッ、自分でも笑える話だと思うぜ…


 そしてこの研究室に所属しているのは、俺とマリア意外に()()()()()()が所属してるんだが、こいつ等も言っちゃ悪いが結構な変わり者だ。


 まず最初に研究室に入った物好き事「レオナ・バーンスタイン子爵令嬢」 普段は割と物静かで、調和を重んじるタイプの人間だ。

 レオナを初めて出会ったのは、マリアが俺を魔塔に強引に()()()()()()()()直後だった。

 この時の俺は、正直魔塔になんざ「所属したい」だなんてミクロン単位ですら思ってなかったんだが、あのクソお嬢の手で強制的に所属させられた怒りで、相当機嫌が悪かった。

 そんな腹の虫が収まらないイライラ絶頂時の俺の前に現れたのが、レオナ・バーンスタイン子爵令嬢だった。

 っていっても、実はレオナと初めて顔合わせた時、俺は全くレオナの事なんて気にもかけていなかった。

 気になったと言うより目に付いたのは、レオナの隣で威張り散らし、小間使いのようにレオナを扱う魔法使い兼レオナの元婚約者だったクソみたいなザコ魔法使いの方だ。

 なんせあのクソザコ、レオナを貶めるような発言と行為を、魔塔内で白昼堂々”人に晒すかのように白昼堂々やり始めた”のが妙に鼻に付いたんだが、既に限界レベルまでイライラが募っていた事もあって、とりあえず俺はその目障りなクソ野郎を容赦なくぶっ飛ばしたついでに、レオナを貶めるような行為を魔法で記録し


「テメェ、次俺の前でこんな事やろうってんなら、これ使って社会的に消してやるから覚悟しとけよ?」


 そう言ってあのクソザコに釘を刺した。


 もちろんこの時俺は”レオナを助けようなんて気は更々無ぇし、周囲の目なんて全く気にもしてねぇ。

 尤も、所属早々組織で問題を起こすような奴なんざ、貴族連中が見れば危険因子でしかなかったから、俺に関する噂は一瞬にして悪い噂だらけになった。

 まぁ、魔塔なんざタダでさえ嫌いな貴族生まれのクソが蔓延している空間で、そんなクソみたいな人間が間近にいる事に嫌悪感を抱いていたから、特に気にもしてなかったし、この時点で実力だけなら既に【魔塔の5指に迫る実力がある】という事が、魔塔主と一戦交えた事で知れ渡っていたので、面と向かって俺に文句も言えなきゃ目も禄に合わせるヤツもいなかったがな。

 そんな腰抜けだらけしかいない環境は、むしろこの状況は俺にとって好都合でしかなかったのも


(マリア意外誰も俺に近付いて来ない方が、楽で助かる!)


 程度の考えで魔塔にいたから、別にマリア意外俺によって来なくても何の問題もなかったんだが、レオナって変わりモンだけは違った。

 俺がクソ野郎をぶっ飛ばした次の日、態々俺に礼を言いに俺の元にやって来やがった。

 そんでそこで終わってりゃ良かったんだが、どうもレオナは変に俺に懐きやがったみたいで、俺が魔塔に居るのを見つけると、必ず寄ってきて話し掛けにくるようになりやがった。

 正直最初は鬱陶しかっただけで、来ても適当に返事返した後、さっさとレオナから離れていた。

 なのにアイツは、こっちがどんな態度で接しようがしつこく何度も顔を出しやがる。

 そしていつの間にかソレにすっかり俺も慣れちまって、気が付けばマリア以外で初めて魔法に関する意見交換をするようになったり、お互い知らない魔法を教え合ったり、他愛のない話をする仲になっちまってた。

 オマケに俺がマリアの護衛やってるって知ると、レオナにとってマリアは歳の近い【憧れの魔法使い】だったらしく、その事で大はしゃぎしやがる。

 そんで俺とマリアが研究室を立ち上げたのを知ると、即研究室にやってきて


「ま、マリア様とご一緒に仕事出来るんでしたら、私も是非研究室に入れてください!!」


 なんてグイグイとマリアへのミーハーっぷりを発揮し、まるで押しかけるようにウチの研究室に入るのを熱望してくる始末…そしてマリアはマリアで、俺を書類上()()()この研究室の室長にしていやがったから


「その子を研究室に所属させるかどうかは、室長さんに一任するわ!」


 とまぁ、今思い出しても腹立つ満面の笑顔でそう答え、全責任を俺に押し付けやがった!

 何度もレオナが「研究室に入りたいです」って言って来ても、研究室が出来た理由が理由だけに、しっかり断ってたんだがなぁ…結局俺はレオナの熱意と言う名の圧に根負けしちまって、レオナを研究室に迎える事になったんだが、その時やたら”ドヤ”って顔してたあの無責任お嬢様の顔を思い出したら、無性に腹立って来たな…


 そして余談になるんだが、ウチの研究室にレオナが入る直前レオナを白昼堂々貶めていたあのクソ婚約者!

 アイツどうやら本当にタダのクソだったらしく、婚約者がいるにも関わらず多くの浮気相手がいるわ、勝手にレオナの私物に手を出して売り払ったりするわで、クソみたいな場所で生まれた俺から見ても”相当なクソ野郎”として思えない事ばかりやってやがった。

 そして婚約破棄の決定打になったのが、そのクソがレオナに隠していた数々の悪事が、次々と明るみになったのが切っ掛けで、レオナとクソは婚約破棄になった。

 更にあのクソ婚約者…何て家だったっけ? もう名前も忘れちまったが、要はクソ野郎は自分の働いた悪事の所為で、一家丸ごと監獄行きになったらしい。

 まぁ、そのクソ野郎を地獄に突き落としたのが「一体誰なのか? それが分からないんです…」って、レオナはボヤいていたが、俺からすりゃこの国でそんな”正義の味方”染みた事する奴なんざ、レオナが憧れてるあの暴れ馬ぐらいのモンなんだ!

 もっとも、その暴れ馬さんは素知らぬ顔してるってんだから、俺からレオナに何も言える事はねぇよ。


 そしてこの研究室に所属するもう一人の変わりモン事「ゾル・ゾルード伯爵子息」 コイツは典型的な研究者体質の男で、興味持ったモンに対してトコトン突っ走るタイプだ。 そしてコイツも当然相当な変わりモンだ!

 なんせコイツがウチの研究室に興味持った切っ掛けが、研究室出した論文の中で唯一魔塔内で何の反応も無かった論文に、唯一興味を持っちまった変人だからだ。

 なんせその論文の内容をぶっちゃければ【魔法機関が定義した魔法は、何時か頭打ち喰らって衰退する」って内容だったからな。

 まぁ、そんな魔塔に対して喧嘩売ってるような論文の内容に興味を持っちまう時点で、相当変わりモンだ。

 そもそもその論文は俺達からしても、出した当時は「将来こう成る」って確信は俺達にあっただけで、その時はまだ”あくまで仮設段階の話し”で、机上の空論の域を出てない理論でしかねぇ。


【利益重視でしか俺等の研究に目を向けてない魔塔の連中は、この論文に目もくれないだろう】


 そうなる事自体は予測済みだったんだが、まさか”食い付いてくる馬鹿”が出て来るとは思ってもいなかった。

 そしてこのゾルって男は、俺等の出した論文に興味持って事が切っ掛けで、この研究室で魔法の研究をし始めた。

 そしてココに来てからメキメキとその実力を伸ばした逸材の魔法使いってのもあって、今じゃ魔塔の中でもかなり頭角を現し始めた色んな意味で注目の的になってる奴だ。

 具体的にゾルがやってくれた事ってのが、ゾルがこの研究室に来た時の魔法使いのランクは最低位の”ウィー”だった。

 そしてこの研究室に入ったついでに、俺とマリアでほんのちょっっと鍛えてやったら、急激に複数の分野でその実力を遺憾なく発揮し始めた、

 その事ゾルは魔塔内で注目され始め、その数か月後には次のランク”ウィズ”に昇格し、ココに来て一年足らずでランクだけなら【俺とマリア】と同じ「ウィザー」まで上り詰めやっがた。 要は元々伸びしろがある奴だったのに、その才能に誰も気付けなかっただけだな。


 ちなみにレオナも、ココに入った時のランクは最下位ランクの”ウィー”だったが、今じゃ”ウィズ”に昇格した。

 そしてレオナも普通に比べたら、かなり早くランクアップしてるので、レオナだってそれ相応に注目され、結構色んな男からアプローチを掛けられてるようだ。

 だからこの前


「そんだけ注目されてんなら、次の婚約者候補も直ぐ見つかりそうだな」


 って言ったら、何か知らんが急にレオナの奴不機嫌になりやがった。

 そしてそれを見ていたマリアから


「…いくらなんでもその発言はデリカシーに欠けるわよ」


 って睨まれながら言われたんだが、何か納得いかねぇ…


 さて、なんだかんだでこの研究室は、研究結果も人間もそれなりの結果を残してんだが、この結果を俺の雇い主様は

 どこまで見越してこの後輩二人を研究室に迎え入れ、魔塔側に喧嘩売る酷い内容の論文をあえて提出したのか?

 それは俺にはさっぱり分かんねぇ。

 けど、もし今後の魔法工学の発展に大いに貢献しそうな()()()を見つける為に撒いた餌だったとしたら、本当にあのお嬢様の底はしれねぇって思う。


 そんな事を研究に励んでる後輩二人を見ながら考えていると


「研究は捗ってるかしら? ゼール・シュトレーゼマン室長さん」


 突如後方から、今日ココに来る予定のなかった俺の雇い主の声が聞こえて来やがった。

 そして笑いながら呼ばれたくねぇ”部分”までしっかり呼んでくれるなんて、相変わらずこのお嬢様は色んな意味で性質が悪い。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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