とある闇魔法使いの人生と転職
「……っは!」
目を開けると、見知らぬ天井が目に入ったので、俺素早く起き上がり周囲を見渡す。
すると目に映る物全てが”今までの生活では”決して間近で悠々と見る機会などなかった品の良い調度品だらけ。 おまけに俺が寝ていたベッドも、今まで使っていた寝床となんか比べ物にならないレベルで、違う質感と感触の代物だった。
「目が覚めたようですね」
「!! 誰だ?」
俺は声が聞こえた方を素早く振り向くと、そこにはメイドと騎士が立っている。
「脅かせてしまいましたね。 私はマリア・ブレンナーお嬢様の専属のメイドの”フレイ”です。 そして隣に居る騎士は、マリア様の専属騎士の”タップ”ですね」
そう言ってメイドが俺に自己紹介と挨拶をしてきやがったが、そこで俺はようやく現状を把握する事が出来た。
「…つまりここはブレンナー侯爵家で、俺はアンタ等が仕えているお嬢様から呪印を解除された後に気を失って、その際ここまで連れ込まれたって訳か…」
「”連れ込まれた”なんて失礼な言われようですね。 私達はただお嬢様の命令に従って、気を失ったあなたをココまで運び込み、怪我の手当てをしたのですから、そのように言われるのは正直不愉快です」
「…頼んでもねぇのに勝手にやったのはそっちだろうがよ」
「お前、何だその言い方!」
「タップ、お嬢様が『拾って来た犬』が吠えただけなんですから、向こうが暴れたりしない限りは、手を出すのは控えた方が良いかと」
「はいはい、分かってますって」
「…ケッ! 貴族の忠犬ってのはお利口だねぇ」
「あら? 介抱してくれた恩人達にそんな口がきけるなんて、随分元気になったみたいね?」
俺に対する皮肉なのか、本気でそう思ってるのか分からないが、昨日【命の遣り取りをした相手】は、そう言いながら姿を現す。
しかし普通昨日殺りあった相手を前にして、何気ない顔しながら出てくれるもんかね?
やっぱりこの令嬢の頭のネジは、数本飛んでるとしか思えねぇな…
「…お陰様でな」
「そう、なら良かったわ。 それより昨日の話、受けるどうか考えてくれたのかしら?」
「…昨日の話?」
「ええ、私の護衛を引き受けうけてくれるのかどうか」
「あぁ…そういえばそんな話してきやがたったな…そもそも本気で言ってんのか? それ??」
「もちろんよ。 それにしても貴男ってホントに失礼な人ね! 人の事昨日からずっと変人扱いして!!」
「…あのな、最下層で生まれ育った俺でも『殺し合いをした相手』に”護衛になれ”なんて言った奴が、どんだけ可笑しな事言ってる事ぐらい分かるんだよ! お前今までそんなやつ見た事あるか?」
「ええ、だっているわよ、ここに!」
あっけからんと、なおかつ堂々と自信に満ち溢れた表情で、この頭可笑しいお嬢様は答えしやがった…そしてそんな頭可笑しい令嬢の様子を見ていた専属メイドと騎士は、頭を抱えていやがる。
そんな姿が目に入れば、この二人が普段どれだけこのお嬢様に【振り回されているのか】ソレ嫌でも伝わってきやがる。
(あぁ…こいつ等もきっと普段から大変なんだろうな)
と、俺のような人間でも同情するぐらいには…
「…その誘い、断るって言ったらどうすんだよ?」
「別に何もしないわよ? ご縁が無かったという事で、怪我が治ったら家から出てもらうだけだから」
「はぁ? 普通命を狙った相手を野放しにするかぁ?」
「だってあなた、もう私の命を狙う理由が無いでしょ?」
「…」
この令嬢の言う通りだった。 俺はもう闇魔法ギルドの一員の証でもあり、俺の命を奪う呪印をこの令嬢が解除してしまった以上、俺はもう闇魔法ギルドに戻ろうにも戻れやしない。 なんせギルドに属する証であり、世間と敵対する意思の象徴ともいえる”呪印”が無くしたという事は、闇魔法ギルドに反意を示したような物であると認定され、あらとあらゆる疑いを掛けられて、どんな目に遭うか分かったもんじゃねぇからな。
そもそも今更あのギルドに「戻るのか?」と言われれば、戻る理由なんて最早ねぇ。
そもそも俺がギルドに所属したのだって、最下層で毎日に死ぬか生きるかの生活の中で、偶々魔法を使っている所を闇魔法使いに見られたのが、ギルドに所属するキッカケだった。 要は俺が闇魔法ギルドに所属したのは、成り行きでしかない。
それに曲がりなりにも魔法使いとして、何度も死線を超えてりゃ実力もしらねぇうちに”闇魔法ギルドの5指に入るレベル”って他の奴に評されるレベルになった以上、例え闇魔法ギルドから追手を送られようが、返り討ちにするなり逃げきれる自信はある。
オマケに汚れた金といえど、懐もそれなりに懐は潤ってんだ。 そう考えると呪印さえなくなりゃ、俺がもう闇魔法ギルドに恐れる理由も、世話になる理由もねぇ。
何より死を覚悟した時に「生きたい、やり残したことがある」なんて思った時点で、死と隣り合わせの場所にまた戻るつもりなんて更々ねぇからなぁ…
「…なぁ、俺何かを護衛にして、何のメリットがある?」
「そうね、まず私について来これる人材が確保出来るわね! 正直私って優秀な魔法使い認定されてるけど、その所為で中々私のやる事に付いて来れる人っていないの。
だから魔塔から優秀な魔法使いに何度か護衛を依頼した事もあったんだけど、誰もが一回仕事すると
『もう勘弁してください』
って泣きながら断ってくるのよ! だから何時までたっても仕事のパートナーは見つからないのよね…
でも貴男なら、私とそれなりに【やり合えた】って実績があるし、最低限のルールを守りつつ優先事項をしっかり見極めて仕事出来る人って、中々居ないじゃない! だから貴男には是非私の仕事のパートナーになって欲しいの!
それに…あんまり大きな声では言えないけど、後ろの二人がしょっちゅう『一人で先走るな、無茶するな!』って言って怒るから、その対応にも本当に困ってるの…だから貴男が護衛を引き受けてくれたら、私の問題が一気に二つも解決出来てとっっっても助かるのよ!!」
頭トンチキ令嬢は、困った表情を浮かべながら俺の両手をしっかりと掴み、必死に俺に「護衛をやってくれ」と歎願してきやがったが、その言葉を聞いていた後ろに控えているメイドと騎士は、突き刺すような視線で令嬢を睨んでやがる…お前あの二人にどんだけ苦労かけてんだよ……
しかしあの二人が、あんな顔してもこの頭トンチキ令嬢の言う事に反対しないのは、この頭トンチキ令嬢は相当の”じゃじゃ馬令嬢”が見つからねぇからだろうな…後ろの二人としても、そのお目付け役が”素行と素性に問題がある奴”であろうが、このじゃじゃ馬に付いてくれるようなそれ相応の実力者が滅多に見つからないって分かってる。
要は「こうでもしないと中々解決出来ない問題」って分かっちまってる以上、このじゃじゃ馬令嬢の言ってる事に反対しようにも出来ないって事か?
(会って数十分にも満たねぇけど……なんか後ろのメイドと騎士がすげぇ不憫に思えてきたな)
俺が心底どうでもいいと思ってる一般人に対して、同情を抱くなんて我ながら珍しい事だと思う。
「…そんで、他に俺を護衛として雇うメリットは?」
「後わね、貴男みたいに独自に魔法を発展させた人なら、魔法研究で更に煮詰めた話が進められそうだし、何より貴男みたいな優秀な人材が貴族以外にも”沢山いる”ってのが世間に証明出来るじゃない」
「はぁ? それが一体何になるってんだよ?」
「私ね、この国の【貴族ばっかりが有力視される制度と認識】を変えたいって思ってるのよ。 だって可笑しって思わないかしら? 魔力って誰もが持っている力なのに、この国でその力に関する知識を大体的に学べるのは、貴族だけなのよ?
確かに国の言うように『魔力が高い人間は貴族に多い』ってのは間違いじゃないのかもしれないけど、実際は貴男みたいに優秀な力を持った人が貴族以外にも沢山いるのも間違いじゃないんだから、その事を世間に知ってほしいのよ」
正直コイツの言う事には驚くしかなかった。 まさか俺が忌み嫌ってる貴族に、こんな考え持ってるヤツがいるなんて思ってもいなかったからだ。
俺は今まで仕事の関係で、多くの貴族の闇の部分に関わったが、俺がその時見て来た貴族達ってのを一言で言い表せば
【自分達が常に上に居ないと気が済まない】
そんな思想の人間達でこの国は成り立っているっていう現実だった。
「それに貴男は一番良く分かっていると思うけど、この国って上層で生まれた人と、下層で生まれた人のの差が酷いでしょ?
貴男みたいな下層出身でも優秀な人外が居るって分かれば、少しずつだけどこの国の制度と偏見も変わっていくと私は思ってるの。 だからお願い、私の夢の為にも協力してくれないからしら?」
「…条件がある」
「え?」
「護衛をやってもいいが、一個だけ条件がある!」
「何かしら?」
「お前『この国を変えたい』って言ったよな?」
「ええ、それが私の夢よ!」
「『変えたい』じゃなくて『変えてみせる』って本気で言えるなら、やってやるよ。 お前の護衛!」
「いいわ、『私マリア・ブレンナー侯爵令嬢は貴男に誓う! この国の認識を生涯をかけて変えて見せる』と!!」
「ククク…ハハハ…ハーハッハッハッハァーー! こ、こいつ本当に堂々と ククク…即答で答えやがったよ! いや、今まであんたの事頭おかしい奴扱いして悪かった。 あんたはマジもんの『馬鹿』だわ!」
「ちょっと! それって結局私の事を”侮辱にしてる”って事に、変わりないじゃない!!」
「いやさ、だってあんな堂々と馬鹿げた事言われちゃなぁ…ただの『馬鹿』ってしか言いようがねぇって、ハハっハぁ…あー腹いてぇ。 こりゃ俺の負けだ、いいぜ! あんたの護衛やってやる!」
ほんとこんなに笑ったのは何時ぶりだろうな? それぐらいこの馬鹿令嬢の言ってる事は現実的に最難関と言って言い程難しい事なのに、それを堂々と「出来る」って宣言されちゃあなぁ。 こっちはもう腹抱えて笑うしかねぇよ。
それにこの馬鹿なお嬢様の夢ってのは、俺が死を覚悟した時に”やりたかった”って一番強く思った
(俺みたいな人生送らないように、最下層で生きてる奴等の生活を少しでも良くしてやるように、何かしときゃ良かった…)
その想いに繋がるんだよな。 だから俺は、この馬鹿に付いていく事に決めた。
「…全く、雇い主の事をこれだけ馬鹿にして大笑いする護衛なんて、前代未聞ですからね、お嬢様」
「はぁ…この拾って来た不届きな馬鹿犬の教育する私の事も、少しは考えてくださると助かるのですがねぇ…」
騎士とメイドが頭を抱えながらブツブツなんか言ってるが、残念ながらこのおバカなお嬢様の耳にゃ右から左に素通りしてそうだな。
「二人共別にいいのよ。 私の事これだけ馬鹿にして笑ったのだから、貴男にはその分しっかり働いてもらうわよ! 元黒魔法使いさん」
「元黒魔法使いってのは止めろよ、俺はもうあんたの護衛だし、俺にはゼールって名前がある」
「フフフ、そうね。 改めて私の護衛をよろしくお願いするわ、ゼール!」
こうして俺は、マリア・ブレンナー侯爵令嬢の専属護衛魔法使いとして働く事になった。
そしてこの日の出来事を境に、俺の運命は大きく変わっていく事となる。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




