とある闇魔法使いの人生と出会い
「……どうした、さっさと殺れよ」
俺は請け負った抹殺任務に失敗し、抹殺対象から返り討ちにあった結果、もう指一本も動かせないような死にぞこないと同じ状態に追い込まれていた。
全く、我ながら情けない最後だな…まさか大嫌いなお貴族のお嬢様如きに、殺されるなんてな
…
「…あなたの命を奪う前に一つ教えてほしいの。 どうしてさっき貴男は攻撃の手を緩めたのかしら?」
「別に…ただ指定されたターゲット以外は狙わない。 それが俺の仕事の矜持ってだけだ」
俺は魔法教会事、魔塔に属さない魔法使い一派の中でも、特に世間や各国から危険視されている【闇魔法ギルド】に所属する闇魔法使いだった。
闇魔法使いは「持てる力を自由に使って何が悪い!」という思想で動く為、金さえもらえればどんな仕事でも平然とこなすような集団であり、正直俺は「この世界いる人間なんてクソの集まり」程度ぐにしか周囲の事を捉えていなかったから、別にどれだけ汚い仕事であっても金の為、何より生きる為にやってきた。
そんな世間からすれば最低の事をしながら生きている俺でも「依頼されたターゲットしか狙わない」という俺の中での最低限のルールは決めていたが、まさか俺の中の唯一の矜持というか、俺の中に残ってる数少ない人間らしさ…いや、ちっぽけなプライドが俺を死に追いやるなんて笑えねぇ話だよ…
「そう…ねぇ、一応聞いておきたいんだけど、貴男って闇魔法使いよね?」
「…そんなの聞かなくたって分かるだろうが」
(一体何なんだこの女? 俺から何を知りたい???)
「…言っとくが雇い主を聞こうとしても無駄だぞ。 俺等闇魔法ギルドに所属してる奴等ってのは、雇い主と強力な守秘義務を絶対に交わす。
だから、俺から強引に雇い主の名前を無理やり吐かせようとしたって、俺が契約に反したペナルティ兼、守秘義務として掛けている”ある魔法”が発動して俺が死ぬだけだ。
だから雇い主の事を聞こうとしたって、全部無駄に終わるぞ!」
「別にあなたの雇い主なんてちっぽけな人間の話に興味なんて全くないわよ。 そもそも私の命を狙う人間なんて思い当る節が多すぎるから、いちいち気にするのだって馬鹿らしいのよ!」
(おいおい、命を狙ってるヤツが多いって自分で自覚してんのかよ。 そしたらこの女、クソ貴族の令嬢のクセに一体どれだけのクソ貴族から恨み買ってんだ?)
「はっ! そんなに周囲から恨まれてんなら、そのうちあんたの周りの人間に不幸が訪れるだろうな」
「ホント、何時か貴男の言う通りになりそうだから、返す言葉もないわ…ねぇ、もしもだけど、もしもあ私が貴男を逃がしたら、貴男その後どうなるのかしら?」
「…遅かれ早かれ結局死ぬだけだ…任務に失敗したペナルティでな」
「そうなのね…ねぇ、もし貴男がこれからも生きられるなら、生きたいと思う?」
「別に……って言えたらよかったんだがなぁ…まさかいざ死ぬって悟った時に『まだやりたい事』が頭を過りやがった……なぁ、常に死と隣り合わせに生きて来た人間が、死ぬ直前になって実は未練タラタラだなんて、こんな話笑えないよなぁ…」
「だったら生きればいいじゃない。 私の護衛として」
「……はぁ? お前、ホント頭大丈夫か!?」
正直この女の言ってる事の意味が分からなかった。 自分を殺そうとした相手に「護衛をやれ」だと? コイツ本気で頭イカレてんのか??
「失礼ね。 私の頭は正常かつ冷静に回転してるわよ」
「…命の遣り取りをした相手に護衛の誘いを掛ける時点で、十分トチ狂ってるだろうが!」
「あら、私としてはそんな事ないと思ってるわよ? 肩書だけは立派だけど、仕事で問題ばかり起こすような人より、どんな仕事でもあっても自分の仕事に誇りを持って、誠実に仕事に取り組んでいる人の方が、圧倒的に信頼出来る人間だと私は思っているから、何の問題もないわ!」
「お前…それ本気で言ってんのか? 仮に俺がお前の誘いに乗って護衛をやった所で、俺の所属する闇魔魔法ギルドは雇用主との秘密を守るために、任務に就いた者に必ず付与している。
そして任務失敗と見なされたり、相手にクライアントの情報を話そうとした瞬間に、抹殺の呪印が発動するから、結局俺は始末されるのがオチだ…だからお前の抹殺に失敗した時点で、俺の命運はこの呪印で尽きるようになってんだよ」
そう言って俺は、胸に付与され浮かび上がっている禍々しい抹殺の呪印を、頭のトチ狂ってる女に見せてやった。
しかし女は、抹殺の呪印を見ても億すことなく、マジマジと呪印を観察し始めやがる。
「えっと、何々…ふーん…そっかぁ…うん、この程度の魔法術式なら、私でも十分解除出来るわ」
「…はぁ?」
女がそう言いながら俺の胸の呪印に手をかざすと、呪印は淡い光を放ちながら消えていくが、呪印に仕込まれた抹殺魔法は発動する様子を見せないまま、俺の胸の呪印は跡形もなく消え去った。
「これであなたの命の心配は、もうしなくて済むわね。 そしてもう一回尋ねるわ! あなた、私の護衛やってみようと思わない?」
「ハハハ…嘘だろ。 あの呪印相当高度な魔法術式が組み込まれているから、早々簡単に解除なんて出来るもんじゃねぇんだけどな…」
こうして俺は【顔を見たくない程大嫌いな貴族様】であり、命を狙っていたマリア・ブレンナー侯爵令嬢に命を救われた。
そして俺が、この頭のネジが飛んだ侯爵令嬢からの誘いに対して、出した答えは…
最後まで読んで頂きありがとうございます。
この話から数話ほど、ある闇魔法使い視点で過去の話を進めていきます。




