思わぬ成果
ゼール先生の元で魔法を学び始めて、いつのまにか一週間。
今日は学校が休みなので、俺とクリスはいつもより早い時間から、ゼール先生の元で魔法の特訓に励んでいる。
だけど俺のやっている事は、未だに初日と変わりなく、計測器に手を当てるだけ。
最終目標と言われてる測定器の玉を中央でピッタリ止め続けるのも、短時間なら出来るようになった。 だけど、長時間となると無理…
そしてクリスは、今日もゼール先生から容赦なく魔法をぶっ放され、それを魔法で作ったシールドで必死に防ぐけど、次々と飛んで来る魔法で徐々にシールドは破壊され、最終的にシールドは完全が無くなり、最後は放たれた魔法がクリスに直撃して地に伏している。
そんな感じで状況はあまり進んでいると言えない俺とクリスが、あいつ等を見返す舞台――対決テスト本番までに残された期間は、たったの五日。
(…どうしよう、何も変わってない)
そんな現実が押し寄せてくれば、今のままだと何か一つ見返すどころか、以前と同じようにあいつ等に一方的にやられるイメージしか湧かない。
でもゼール先生曰く、俺が魔法を使えるようになるには、この計測器を使ったトレーニングが出来るようにならないと、話にならないらしい。
未だに進歩がない俺は、このままだと「以前の二の舞になるだけ!」 その事が俺に更なる焦りを生み、俺の中で不安がどんどん積み重なっていく…
「おい、ちょっと休憩するぞ!」
そんな不安な気持ちが積み重なっているタイミングで、ゼール先生から「休憩に入るように」と言われたけど、まだ何の成果も出せてない俺は、休憩なんかしないで練習を続けたい一心しかなかった。
”パコーン”
突如頭に衝撃が走ったので、頭を抱えて衝撃が来た方向を見ると、そこにはゼール先生の拳が!
「い゛ったいなぁ! なにすんだよ先生!」
「馬鹿野郎! 無理に根詰めたって急に出来るようになりゃしねぇんだよ! 俺が休憩って言った以上、お前は大人しく休憩しやがれ!」
「…はい」
休憩しないで練習を続けようとしたら、先生から拳骨を見舞われて強引に練習を止めらてしまった。
でも幾らこの時の俺が無謀なことしてたにしても、暴力で強引に人を従わせるようなやり方ってのは、良くないと思うよ。 先生! だから、うん、暴力反対! 絶対ダメ!!
こうして俺は本当は練習を続けたかったけど、渋々先生とクリスと一緒に休憩する事にした。
・・・
「ほら、とりあえずこれでも食っとけ」
そう言って先生は何もない場所から、クッキーを取り出すと、俺とクリスに投げ渡す。
「!! 先生なにそれ、凄い!」
「コイツは別空間に物を収納できるアイテムボックスって魔法だが、俺ぐらいの魔法使いなら…こんなもんだって保管しといて、自由に出し入れ出来る!」
そう言って先生が次に出したのは、ティーカップに入ったお茶だったが、更に驚いたのは
「え、ええっ! 先生、コレって湯気が立ってる?」
なんと先生が出したお茶は熱々!
「そりゃ、入れたてを保管しといたからな」
「ホント凄いね、先生って!! なんでそんなに凄い魔法使えるのに、魔塔に所属してないの?」
「…大人には色々事情ってもんがあんだよ! そんな事より、せっかく俺が入れたてを準備してやったんだから、お前等さっさと飲め!」
休憩は路地裏に転がっていた木箱を、椅子とテーブルとした簡易テーブルセットを作った。
そんな何とも味気ないテーブルセットでも、先生が用意してくれたクッキーとお茶は本当に美味しかったから、先生との休憩時間はいつも楽しにしていたんだよな。
・・・
「「先生、ご馳走様でした! 凄く美味しかったです」」
「…ああ、そりゃ良かった」
先生はぶっきらぼうに返事を返してそっぽを向いたが、その瞬間に何時もの険しい表情が、ちょっと緩んだのを見ていたので
「先生もしかして照れてる?」
「あ、だからそっぽ向いてるの!」
「うるせぇ! んな訳あるか!!」
口ではそう言うけど、未だに口元を手で隠しているから、なんだかんだ言って先生も自分が準備した物で、俺達が喜んだのは嬉しかったんだろう。
普段口は悪いし、スパルタで厳しい事しか言わない先生が、わざわざ美味しいお菓子とお茶を準備してくれてたことは嬉しかったから、何て言われても俺達は満面の笑みだった。
「ったく、直ぐにガキはつけ上がりやがる…って、ライト。 ちょっとお前の測定機をかしてみろ」
「はい」
休憩中に、俺の膝の上に乗せていた魔力流出測定器を渡すように先生に言われたで、先生に測定器を渡す。
すると先生は、測定器をくまなくチェックし始めた。
「…どういう事だ? 何かが壊れてる訳じゃなさそうだな?」
先生は測定器を見ながら頭を悩ませる様子を見せたので
「ゼール先生、測定器どこかおかしいの?」
「壊れてるかと思ってチェックしたんだが…正常に動作は…しているな」
「じゃあ、どこもおかしくないんじゃないの?」
「そうだと思ったんだが、どこかに異常がねぇと、ライトが膝の上に測定器を乗っけてた時に、玉が浮く訳ねぇからなぁ…もしかして『感度でも狂ったか?』と思って色々とチェックしたが、何処にも異常が見当たらねぇから、俺の見間違いだったか?」
「それって、僕が膝の上に乗せてる時も魔力を流してるから、動くんじゃないの?」
「…おい、今なんて言った?」
「えっ、膝の上に乗せてる時も魔力を流す練習してたから、測定器の玉が動いてたんじゃないの」
「ハハハ…お前それ本気で言ってんのか?」
先生は唖然とした表情で俺にそう言って来たので、俺はそんな先生の表情が不思議で仕方がなかった。
なぜなら
「…だって先生が自分で言ったんだよ! 『出来る限りいつでも魔力を流す練習をしろ』って!」
「あぁ…確かに言ったな。 そんな事よりライト、お前これ出来るようになる為に、一体どんなことやってたんだ?」
「えぇっと…ご飯食べてる時とか勉強中とか、手が使えない時に膝に乗せてこっそり魔力流す練習してた」
「それを毎日か?」
「う、うん」
「ククク…ハハハ! いくらやれって言ってもな、誰も『そこまでやれ』とは言ってねぇし、実際こんな事思いついてやるなんて、大した奴だよ。 お前は!」
先生そう言いながら大笑いするけど、俺とクリスからすればどうして「先生が大笑いしているのか?」その理由が皆目見当もつかないので、唖然とするしかなかった。
「ククク…あー、久しぶりに腹抱えて笑ったわ! いやー、ライトは中々根性はある方だと思ってはいたが、偶然とは言え俺が教えるまでも無く、階段飛ばした先の事をやってるとはな!!」
「えぇ?」
「俺はな、あくまで計測機を掌に載せた状態での魔力の流出コントロールを教えただけだしよ、家でやれって言ったのもあくまで最初に教えたように【掌に計測器を乗せた状態で練習しろ】って意味だ!
それなのにお前って奴は、もう数歩先の事をやってくれやがった。
良いか、魔力を掌以外でコントロールするってのは、魔力を一定量流し続けるのより難しい。
つまりライトがやったのは、その先のステップで、やろうにも簡単にやれないことだよ!」
「じゃあ僕…もしかして、やっちゃいけないことしちゃった…とか?」
「ハハハ、むしろその逆だよ! お前は俺が一カ月かけて教えようとしてた事を、たったの一週間でやってのけたんだから、お前は大した奴だ。 もしかしたら将来大物になれるかもな!」
「ホントに?」
「えぇ、凄いねライト君!」
「ま、調子乗らないで、これから先も『ずっと頑張り続けれたら!』の話だがな」
「うん。 じゃあ僕、これからも頑張って大物ってヤツになるよ!」
「はいはい、分かった分かった。 まっ、俺はコレっっっぽっちも期待してないけどな」
「先生、ヒドイ!」
結局ゼール先生にからかわれてしまったので、初めてゼール先生に褒められた嬉しさはすぐに薄れたけど、それでも普段とにかく厳しい人から褒められた嬉しさは、今でもよく覚えている。
そしてこの後上機嫌になった先生から思ってない一言を貰えたのも、自分の努力が認められた気がして、大喜びしたし自分に自信が持てる切っ掛けになったんだよな。
「まぁ、ここまで出来たってんならライトにも教えてやるとするか。
本格的な『誰でも使える魔法』って奴をよ!」
最後まで読んで頂きありがとうございました。




