第九話
「問題なく定着している」
「成功ですか!」
「あぁ、あとは実践……と言いたいところだが」
「廃人になりましたね」
異能奪取の異能を実験番号0番に植え付け、しっかり定着させることには成功した。
だが、その代償に彼女は物言わなくなり、動くことも無くなった。肉体は生きている、つまり精神が死んだのだ。
と、思われたが。
(……ぁ……ぇ……)
実際には彼女の精神は生きていた。虫の息であるが、精神であるため今の状態で過度にストレスを加えないかぎり、死ぬことはないだろう。
「次回は0番の新しい精神を作るとしようか」
だが今回、彼女の精神が死ぬのは時間の問題のようだ。
「おいお前たち、そんな幼い少女に何をやっている?」
それは、このままエレック達の思惑通りになれば、の話だが。
「は?」
次の瞬間エレック達は地面に倒れ伏していた。
「何、者……」
エレックは突如現れた謎の人物にそう問う。
謎の人物は黒髪の長い髪を三つ編みにしており、瞳が赤く高身長の女性だった。まだ若さが伺える。
「……異能についての研究資料か。なら異能局、と言えば分かるか?」
謎の女性は近くにあった、エレックが異能について研究した資料を取って眺めながらそう言う。
「異能、局、だと!?」
異能局という言葉を聞き、エレックの顔は青ざめる。
異能局とは、政府直属の異能専門の機関だ。異能についての事件や案件は、この異能局が全て担当する。
もう一度言う、政府直属の機関である。そこに所属する者に見つかったとなれば、もう終わったも同然である。
「……なんて奴らだ」
女性は近くにあった別の資料を手に取る。そこには実験番号0番の直近の実験内容が書かれていた。
「かわいそうに……」
女性はそう言って0番の拘束具を外し、その小さな体を抱き寄せる。
(……なんだこの恐ろしい美貌)
その際に実験番号0番の容姿を改めて見て、彼女はそう思った。
■
0番が異能局のよく分からん女の手に渡った。
ふざけるな、私はこれにどれだけの人生をかけてきたと思って……!
『被告人に、懲役十年の刑を処す』
『ふざけるな! 死刑にしろ、私の妻と娘が嬲り殺されたんだぞ!』
『エレック氏、静粛に。判決は覆らない』
何が司法だ。
『あの人、だいぶ荒れてるみたいね……』
『もう司法、国によって決められたことなのだから、新しい人生を歩めばいいのにね』
何が国だ。
あの判決には納得がいかない、国は加害者に優しすぎる。
あいつらを後悔させたい。
『文句があるなら国家転覆でもしてみたらw』
『いや、普通は選挙にでも立候補するもんでしょうがw』
今のこの世界に満足している人間が多すぎる。だから私はこんなバカげた方法で。
異能というものを知ったから、絶対にできると信じて。
実行したのだ。
「あぁ、過去の私が用意しておいてよかった」
事実、上手くいっていた、だが最後の最後でこれ。私は本当に恵まれていないらしい。
過去の私はこのようなことを懸念していた、最近は上手くいきすぎていたせいか忘れていたが。
この計画が政府に見つかり、失敗したら施設ごと吹き飛ばす。
――カチッ
私は手術台の下に隠していた、自爆装置を押した。
■
「おい、お前何をした?」
謎の女性はエレックにそう問いかける。
「クックック、三十秒後この施設もろとも吹き飛ぶ。残念だったな」
「は? エレックさん。な、なにを言ってるんですか?」
エレックの衝撃の告白に、同業者すらも驚いていた。彼らはこのことを知らなかったらしい。
「……クソッ」
女性はすぐさまエレックが押したスイッチを確認。確かにスイッチは押し込まれており、信憑性は高い。
「……ノアより。この施設が爆発する、今すぐ施設から出ろ! あと二十秒も無い!」
彼女は実験番号0番と手元にあった少しの資料を抱え、すぐに実験室から出て、出口を目指した。
ここに乗り込んだのは彼女、ノア一人ではないのだろう、ノアは全速力で出口目掛け走りながら、小型のインカムにそう告げた。
「資料を少ししか持ってこれなかったのは悔しいな……まぁ、この女の子を連れていけただけ良しとしよう。あぁ、こういう時に転移が使えたらいいのにな!」
「……」
激しく揺れている、しかしどこか優しさのある抱え方。
0番の瞳には、薄っすらと彼女が映っていた。




