第五話
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「それでは始める」
今日もこの時間がやってきた。慣れてきたけどまだやっぱ痛みは感じから嫌いだ。
今日もアームが近づいてきて……。
「ん!?」
ってなんか俺の頭狙ってない? えっとその手に持ってるのは。
ドリル?
ドリルが音を鳴らしながら近づいてきて――。
そこで俺の意識は途切れた。
「ん……ここ、は……」
目が覚めた。
ここは、見慣れた部屋。
確か、頭にドリルが近づいてきて……気を失ったんだっけ?
「あれ?」
なんか視界が、ぼやけてる。
「いった……」
俺は立とうとしたが、気がついたら転んでいた。
「だめだ……寝よう」
そうだ、こういう日もある。それにあいつらのことだ、新しい薬でも打ち込んだんだろう。
寝よう。
寝てる間は奴らのことも忘れられる。
「あ、れ……」
起きた、だけど視界はまだぼやけていた。
新薬効き過ぎじゃない? もしかして殺す気?
「0番、来い」
「う、動けない」
いつもの奴が来た、んだろう、よく見えないけど声で分かる。
「……そうか」
動けないと言ったらなんか運ばれた。そこまでしてやるのかよ。
「想定通りだ、上手く行ってる。続けるぞ」
いつも通り手術台に拘束された時、そんな言葉が聞こえてきた。
これは想定内なのか、今度は何をするんだ。
脱出の練習とか計画も練りたいから、早くなんとかなってくれ。
え、っと、ここはどこだ。
あれ、声に出したはずなのに聞こえない、目はぼやけたままだし。
あれ、俺って何してたっけ? あぁ、誰だっけ俺。
あぁそうだ、俺は■■■■だ。確かよく分からない集団に攫われて人体実験を受けてるんだ。
(ハッ! お、俺は一体……)
そこで俺はハッとした。
何が『俺は何してた』だ。いつも通り体をいじくり回されてるじゃないか。
今回も多分頭だった。これ、あいつら相当なことをしてるな。
このままだと不味い気がする。
なんかこのままだと、自分が自分でなくなりそうな……おかしくなる。
早く脱出しなきゃ、でも視界がぼやけて上手く体が動かせない。
クソ。
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「これまでにも割といじっているが、まだ元の形を保っているか……」
「ですが、問題なく意識は崩れていっています」
「あぁ、意識が固い以外では想定外のことは起きていない。このまま記憶もいじっていくとしよう」
「仮の記憶も流し込むんですよね」
「あぁ、この研究所に生まれ、子供の女として今まで生きてきた、なんていう記憶だ。0番の意識と深く結びついている男の生活の記憶も抹消する」
「おっかねぇっす」
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上手く思考が回らない。もう何回脳をいじられた?
よく分からない。
おれは、なんだ。わたし、俺は誰。
わたしはここで生まれた、わたしは女の子。違う、おれは成人済みの男だ、あの家族の元に生まれた。よく分からない記憶を作るな。
もう、あきらめるべき。違う、ここがどん底なだけで……このさきには、あかるいじんせいが。
あけない夜はない、って。
生きてて、よかったって。
『わたし、このぬいぐるみが欲しい』誰? おれはそんなこと言ってない。
『この研究所の外ってどうなってるの?』
【外はまだ行ってはいけない。別におかしいことではないぞ】
『そうなんだ、みんなこの痛みを味わうんだね、別におかしくないんだね!』
い、いや。おかしい。わたしは、いや俺は働いてて、こんな実験おかしくて。
いたいのは普通じゃなくて。
【普通さ、0番。君はここで女に生まれた、そして兵器だ】
だから、おれは男。
【しぶといな】
かきまわされる。おれの記憶はどれ?
『痛い、けどこれは普通なんだよね』
ちがう。
『わたしはここで生まれた』
ちがう。
『パパたちはここの人たち』
ちがう。
『俺は男。大丈夫、いずれ報われる』
『俺は成人男性のサラリーマンだ。大丈夫、開けない夜は無いって思って今日も生きてる』
……ちがう。
――何かが破裂した音がした
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「ここは、どこなの? わたしはだれ?」
わたしは、だれ?




