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眠りの彼方~誰がために目覚めるか~  作者: つつじ とさか
第3章 ~あさまだきに抱かれる少女~
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3.踊るは火の戯れ①-1


 「シヤンカナ村にようこそ!」


 「フルーツ飴はいかがー? 美味しいですよー」


 「おかーさん、あのおにんぎょうほしい~」


 「あとで皆で買いに行きましょ~」


 「どうかなこの髪飾り」


 「これ、私の好きな……! ありがとう!」


 暖色色の煉瓦造りが特徴的な街。その中の活気溢れる商店街といったところだろうか。まるで祭典があるかのように露店がずらりと並んでいる。過行く人々は皆楽しそうだ。まるで以前アルバドリスで催された復興祭に勝るとも劣らない賑わいである。


 その景色を建物二階の窓から眺めていた弥彦は振り返った。


 「それでいったいここはなんなんですか⁉」


 「あたしも分からないわ……⁉」


 ベッドに腰かけていたロフティは酷く困惑した顔で頭を抱えた。そんな彼女の膝の上でリシェットは心配そうに見上げていた。


 どうやらここはシヤンカナ村のようだ。シヤンカナ村と聞くと、間違いなく先程訪れた村と同名だということが分かる。だが自分たちの知っているその村とは明らかに異なっていた。


 まずは建築物だ。泉に来る前に見た村はどこも石造りの家だった。曇り空も相まって灰色が際立っており寂れている印象しか無かった。


 だが今見える景色は暖色系の煉瓦造りが特徴的な街並みだ。通りがかった程度でしか把握しきれてないが、どちらとも明らかに別の村だと断言できる。だからこそ、そんな日数をかけ他国に渡ったわけでもないのに、そこかしこで聞こえる「シヤンカナ村へようこそ!」という歓迎の声に気持ち悪いほどの違和感を覚えてしまう。


 それはロフティも同様のようだ――いや、なんなら弥彦より動揺しているようにも見える。


 かなりの異常事態だと言える現状に、とりあえず落ち着ける場所に行こうと提案したのは弥彦だ。混乱したロフティの手を引っ張っては宿を見つけ、円滑に宿泊手続きを済ませた。その部屋がここである。


 「あの、一つずつ整理させてください。泉が光ったのはおかしいことだったんですか?」


 なにがなんだか分からない弥彦の質問に、ロフティも一度深く息を吐いた。


 「それは正常な反応よ。あの泉には異能石が仕組まれていて……どういう仕組みかさっぱりだけれど、あたしの知人が住んでいた場所に移動するものなの」


 「じゃあここがその知人さんが住んでいた場所ですか?」


 「いいえ違うわ。こんな人が多くいる場所じゃない」


 「暫く来ていないうちに栄えたってことは……?」


 「断言してその可能性はないでしょうね。自然あふれる丘に木造の家が一軒だけの誰も来ない隠された場所よ。それにパザーチがあたしの帰る場所を守り続けていたのなら、こんな土地開拓じみたことを許さないでしょうね」


 「なるほど……」


 念のため携帯電話で現在位置を検索するが、残念なことに電波が通ってなく役に立たない。

 だが他でもないロフティが言い切るならば必要以上に勘ぐらなくてもいいのかもしれない。


 「それじゃあ結局ここどこなんだよ」


 白夜が訝し気にジト目になって尻尾をくねらせた。


 「とりあえず、ここは僕たちの知らないシヤンカナ村だってことかな……」


 本来なら人里離れた丘に辿り着くはずの予定が、まったく知らないシヤンカナ村に辿り着いてしまった、としか言えないのだろう。

 ロフティとしても訳が分からずかなり混乱しているようだ。


 「ただロフティさんが睨んでいた通りですね。神力が強くなっている気がします」


 弥彦の言葉にロフティがはっとなる。そして一瞬目を伏せたかと思うと目にかかっていた銀髪を掻き上げた。


 「……取り乱し過ぎて気付かなかった。あんたの言う通りだわ」


 「やっぱりそうですよね……!」


 気のせいではないことに弥彦は自信を胸に宿す。現状への理解は追い付けないが、一歩前進はしている、といことだろうか。


 ――少なくとも核依代までの距離は縮まったはず。


 それだけは確かなことだろう。そう弥彦は自然と拳を握りしめた。だが、ロフティは首をかしげて目を閉じた。集中しているようだ、しばらくするとロフティは複雑そうに言った。


 「ただ変ね……」


 「……? なにが変なんですか?」


 「神力がどうも変というか……わからない?」


 ――神力が変?


 弥彦は改めて神経を研ぎ澄ませた。


 弥彦にとって神力は独特な重みが含まれた空気のようなものだと感じとっている。ただし、弥彦がいま分かることは、黒の侵蝕や神力の悪寒を伴うような陰湿な気配ではない――つまりは白の神獣のものである可能性が高い、としかはっきりとしない。弥彦は分からず首を横に振った。


 「ただ漠然と白の神獣の神域の中にいるとしか……ロフティさんはどんなふうに感じてるんですか?」


 ただでさえ感覚でしか察知できない代物だ。なにぶん弥彦は経験が約半年しかなく自信がない。

 ロフティは悩ましげに腿に肘を立て頬杖をついた。


 「そうね……普段なら黒の侵蝕の地域で活動している黒の神獣の個体数くらいなら分かるけれど……今回は白の神力しかないし……ただ、なんだかこう、変に自分がふわっと浮いているような……あたしの考え過ぎかしら……」


 ――空気が重いんじゃなくて〝自分が軽い〟ってことなのかな……?


 弥彦は頼みの綱として神獣である白夜に視線を向ける。


 「白夜はなにか感じる?」


 「わかんね」


 「だそうです」


 ロフティは腿から肘がズレてずっこけた。


 「あんた、あまりにも軽く言うわね……!」


 「わからんもんはわからん!」


 白夜は自信満々に胸を張った。


 ――どこか誇らしげなんだなあ。


 ただロフティの言う違和感は非常に気になる。無視してはいけない気がした。


 「リシェットさんはいかがですか?」


 ここは先輩の神獣なら分かるかもしれない――そんな期待を抱えてリシェットに話を振る。するとリシェットは困った顔をして首を小さく横に振った。


 「きゅうきゅう~」


 どうやら分からないらしい。

 ロフティが重い溜息をついた。


 「核依代自体、分からないことだらけ。仕方ないわね」


 「これは足で情報を得るしかないってやつですね!」


 ひとまずこのシヤンカナ村を探索するのが先決だろう。なにか謎が見つかれば核依代の糸口になるかもしれない。


 「あんた驚くほど前向きね。不安じゃないの?」


 ロフティは少し驚いた顔で弥彦を見た。


 「不安は不安ですけど、もうこれは気を取り直すしかないですよ」


 それに弥彦は笑うしかなかった。

 なによりもロフティが先に動揺していたのも相まって、弥彦は対照的に冷静になれた気がする。


 弥彦としてもロフティの立場だったらと想像を巡らせる。知っているはずの場所がまるで知らない場所のように変わってしまったのなら、驚くを通り越して気絶してしまうかもしれない。思い出の場所だったら尚更だ、下手したら泣いて取り乱す可能性だって考えられる。

 そんなロフティの心情を想像すると、自分が恐れ震えている場合ではないのだと奮い立つ。


 ロフティはそんな吹っ切れた弥彦の頼もしい顔つきを見ると、ふっと肩の力を抜いたように表情が緩んだ。彼女はリシェットを抱きかかえて立ち上がる。


 「ありがとう、お陰で落ち着けたわ。休憩はこのくらいにして核依代の手掛かりを探してみましょう。それと帰り方」


 「そういえばそうでした。どうやって元の場所に戻ることが出来るんですか?」


 「泉から行き来できる仕組みなの。いくつかあたりを付けてるから、そっちはあたしに任せて」


 「わかりました。退路を確認してくださってる間に、僕らは村の中を調べてみます」


 「頼むわよ、弥彦」


 「はい!」


 「リシェット、お前も気を付けろよ~」


 「キュッ!」


 弥彦と白夜、ロフティとリシェットの二人組は互いに頷き合い、宿を後にするのだった。


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