26コマ目 事前注意
「とりあえずこれを回収してイベントは終わり……だよね?」
伊奈野は砕かれた岩の上にちょうどよく埋もれずに落ちていた大剣を拾い上げる。それなりに重量があるため持ち上げるだけで一苦労といったところだが、それでも運ぶことも無理ではなかった。『サイコキネシス』まで使えば戦闘は不可能でも持ち運ぶだけなら支障はない。
《スキル『切り札』を獲得しました》
《称号『先陣突破者』を獲得しました》
ただ、気になる点もあり、
「あれ?アイテムボックスに入らない?」
大剣は、どういう仕様でそうなっているのかは分からないが、しまっておくには便利なアイテムボックスへの保管がなぜかできなかった。
いくら持ち上げられ運べるとはいっても常に携帯しておくには邪魔であるし、伊奈野としては困った問題である。
試練を課してきた武器たちのように自立して動いてくれるのならいくらでも近くにいてくれて構わなったのだが、こうしたものは邪魔にしかならなった。
伊奈野としては残念ながらいらないものなのである、
「抜いたし置いて行っていいかな。持って帰るまでが試練ですなんて話じゃないよね?」
不要物を投棄するというとんでもなくいけないことをなそうとしているが、止める存在などいない、黒い本も伊奈野のそうした行動を制止しなかったためぽいと伊奈野の手から大剣は放り投げられ、
「ん?黒い本、それほしかったの?」
その投げられた先に移動した黒い本によって回収された。
地面に落ちる前に次元の裂け目を作ってそこに入れてしまったのである。伊奈野のアイテムボックスとは違いそちらにはすんなりと入り、その場から剣は消失した。
もちろん黒い本が自分の得になるような本でないにもかかわらず回収したことには理由がある。
単純に、それが邪神への切り札になると感じたからだ。黒い本にも封印されているとはいえ邪神の力がしっかりと残っている上に結局のところ根幹がそれであるため、剣による圧のようなものを感じていたわけだ。
いつか邪神と戦うときに使うため、黒い本は回収したわけだ。これがあるのとないのとでは今後が大きく変わってくるだろうと信じて。
だからこそ、
『は、吐け!吐くのじゃ馬鹿者!!!』
「!?」
『ほ、本よ!来たのか!大変なことが起きたのじゃ!球が剣を吸いおったぁぁぁ!!!!』
「!!???」
一度伊奈野を転移させてくるためにも上位存在さんの力を借りなければならないということで封印場所へとやってきたところ、とんでもない事実を聞かされることとなった。
なんと、裂け目に送り込んだ大剣がなんでも吸収するたまに吸収されてしまったのだという。ちょうど球がある場所に裂け目のつなげる先を作ってしまったらしく、上位存在さんが止める間もなく直行ルートであったらしい。
「…………」
「最悪なのじゃ。あれがあることでどれほど邪神を苦しませられたか」
茫然とする黒い本と、嘆く上位存在さん。
しばらく再起動に時間がかかりそうな2人であったが、伊奈野のことを思い出し何とか黒い本は意識を切り替えて上位存在さんに助けを借りて裂け目を作ってもらう。
そこから伊奈野が出てきたところでどうにか球から入れたものを取り出せないかと試みようと黒い本と上位存在さんで案を考えていたところ、
「分かってはいましたけど、こんなに大きな岩でもちゃんと入るんですね。すごい性能ですよね」
「!?」
『お、おぬしまさか、その球に何か入れたのか!?』
「はい。大きな岩を入れましたけど……え?もしかしてまずかったですか?」
見ていないところで、伊奈野がほかのものを入れてしまった。
不純物が混じってしまうと余計に面倒くさいことになってしまう気がして、2人はさらにめまいのようなものが襲ってきた。
なお、入れたものというのは大剣の刺さっていた岩(崩壊してバラバラになってはいた)である。
伊奈野は叫び声などが聞こえたことからなんだか不吉な気がしたため、岩を処分してしまいたかったのだ。
将来的に何かのイベントが発生して岩の呪いなどを受けても面倒だということで先回りでの行動である。
そして今回、そんな伊奈野の行動は完全に裏目に出た。
これは、監視をしていた者たちも大喜び。
「うぉぉぉ!!俺たちにも運が向いてきた!剣消失とか熱すぎるだろ!!」
「心配は杞憂で終わりそうですね。緊急連絡入れましたけど、本部にも解決したと伝えておきます。賢者の師匠がこういうタイプの不幸を被るのなんて初めて見ましたよ」
「さすがにずっと幸運ではいられないってことだな。これで日本サーバは大剣の点だけではあるが他サーバより劣る部分ができるし、少しは他から言われる格差の問題の文句も減るだろ」
「だといいですけどねぇ」
万事解決ということで、いったんの監視終了が決まった。
運営はこれからしばらく順調に仕事を進められそうだ。
しかし、忘れてはいけない。
なんでも吸収する球は、ただ吸収するだけで終わるものではないということを。
「ん?なんだか球が振動しているような?」
『む!?それはいかん!入れたものを合成して新しい何かを作ってしまう!早く止めねば!』
「ああ。すみません。もう出ちゃいました」
『なんということじゃぁぁ!!!』
球からは、入れられた大剣と岩の特性を受け継いだ新しいものが生み出された。
それはその2つの特性を受け継いだものであるはずで、
「小さいですね」
『大剣の特性を受け継いでおらぬではないか。一応邪神への特効は微妙に残ってこそいるようじゃが』
疲れ切った声で分析をしていく上位存在さん。
黒い本は黒い本で沈む気持ちを抱えつつもその現象を一応記録はしていた。




