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43話 僕と執事 私と風の精霊





 ホゥホゥと、闇鳴き鳥が鳴く声の響く森の中、パチパチと焚き火の弾ける音を聞きながら、野菜のスープを啜る。

 シルズからアンカーまで、大体半分くらいまで来たところだ。アンカーまでは山を越えなくてはいけないらしく、その手前で野宿をすることとなった。


「バトルホースでも流石に一日じゃ着かんわなぁ」

「ですが、相手の人数を考えるに、距離は大分縮まったはずです」

「だといいがな」


 夕食を食べ終えたミスケルがテントの中へ入っていく。リーゼさんはすでに食事を終えて、テントで休んでいる。


「最初の見張りは僕がしますから、レギオンさんも食べ終わったら休んでてくださいね」

「はい」


 …………何かを含んだ様な視線が気になる。


「どうしたんですか?」

「いえいえ。大した事は考えていませんよ。不快に思われたなら申し訳ございません」

「いや、不快とかではないんですけど……あ、そういえば聴きたい事があるんですけど」

「はい?何でしょう」

「レイベル伯爵様が僕達に聞いてきた、ニホンジンってなんなんですか?」

「『日本人』はですね。まぁなんでしょうか……遠い大陸に住んでいる人の種類……ですかね。我が主は、『日本人』を知っている人間を集めているんです」

「知っている人間なんですか?その、ニホンジン自体ではなく?」

「ええ。中々見つかりはしませんけどね。それと、グロース殿。ワタクシ達が『日本人』の事を聞いていることは、あまり他言しないでくれますか?」

「分かりました」

「ありがとうございます……っと」


 レギオンさんは口元に人差し指を当てて目を細める。


「魔物が寄ってきていますから、ちょっと倒してきますね」

「え??」


 薄く笑みを浮かべたレギオンさんは、音も立てずにその場から消失し、数分後、綺麗に頭だけ落とされている巨大な蛇を片手に帰ってきた。


「ハイドスネークでした。ここまで成長しているのは珍しいので、持ってきました。ミスケル殿に渡し、ワタクシもそのまま休ませていただきますね」

「了解です」


 レギオンさんは軽く頭を下げてからテントへと入っていく。結局何を考えていたのかは聞けなかったし、気になることだけ増えちゃったな。


『ただいまー』

「おかえり」


 入れ替わる様に、ファイが木々の間からひょっこり顔を出して飛び降りてきたので、それを受け止める。

 近くに精霊がいたらしく、遊んできた様だ。


「楽しかったか?」

『うん〜。あ、お土産あるよ!』


 と、手のひらにコロンと渡されたのは火の小さな魔石。


『遊んでたら、出来た』

「おいおい。どんな遊びをしてたんだよ」


 魔石を自由に生成できるなら、金策にも困らないし、戦闘中もポンポン使えるから便利なんだけど。


『魔法合戦してたらたまたま出来たんだ』


 魔法合戦。何してんだ。


「その割に音とか全然しなかったな。精霊界でやってたのか?」

『そうそう〜』

「ふーん」


 ファイの顎下を撫でながら、左手に魔法陣を展開する。陣数は二。


『二陣も大分早く展開できる様になったよね〜』

「そうだなぁ」


 ギルドで三陣の火属性魔法を調べたので、覚えて、展開はできる様になったのだけれど、魔法が発動しない。


「何が悪いんだ?」

『うーん……オドが薄い?』

「薄い……?」


 魔法は周囲のマナを自身で集め、オドに変換し、精霊へ渡す。魔法陣は使いたい魔法を精霊に伝える為の説明書みたいな物だとゼミスが前に語っていたなぁ。

 譲渡するオドに濃い薄いがあるのは初めて知ったな。


「量とかではないのか?」

『量は……微妙だけど、足りてはいると思うんだ』

「じゃあ、質が足りてないって事なんだな」

『そうそう』


 うーん。


「一朝一夕には出来なさそうだなぁ」

『だね〜』


 マナを手繰って、ひたすらオドに変換するのをしばらく続けていると、テントからリーゼさんとその肩にのるセイランが顔を見せる。


「キュ!」

「交代の時間だ……って何をしている?」

「ちょっと見張りをしながらできる魔法訓練をしてました」

「そうか」


 展開されている三陣の魔法陣を打ち消して、いつの間にか寝ていたファイを起こさない様に抱いて立ち上がる。


「ふぁあ……それじゃあ、よろしく頼みます」

「任せてくれ」

「では、おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」


 魔神経の多少の疲労を感じながら、僕は速やかに寝に入るのであった。




––リーゼ視点––



 眠そうにしながら、透明な何かを抱くようにしてテントの中へと入っていく彼を見つつ、焚き木を火の中に放る。


「さて……」


 日課となりつつある精霊の本を開き、精霊が現れるのを待つこと数分。いつもの風の精霊が顔を見せる。


『やぁ。お昼ぶりかな』

「あぁ」


 穏やかな表情を見せる、薄緑の髪を伸ばした青年……に見える精霊。


「エウロス」

『なんだい?』

「私はいつそちらに行けるようになる?」

『うーん。まだ暫く掛かるんじゃないかなぁ。でも魔神経を多少でも使えるようになってるみたいだし……でもまだまだ遠いかなぁ』

「そうか」


 彼は大精霊よりは劣るが、名を持ち、力のある精霊らしい。本当はガンズ周辺の精霊を纏める主人だったらしいのだが、何故かついて来てくれている。


『そりゃあね。君の側は心地良いからついて行かないという選択肢はないよ』

「ないのか」

『ないね』


 私の異様な身体強化も、彼が周囲の精霊を導き、最良の強化をしてくれているというので、感謝はしている。いるのだが……そんなに力の強い精霊が住処を変えていて良いのかと思う。

 それで助かっている私が言うのもなんなんだがな。


『真面目だねぇ』

「そうか?」

『そうそう。堅いんだよねぇ君は。精霊が味方してくれてるぞ、ラッキーくらいに考えていればいいのにさ』

「それはそれで軽すぎはしないか?」

『そう?』

「わからないが……」


 精霊というものがなんたるかは、私もそんなに理解していないから、断言はできん。


『って言われてもねぇ。人間ってなんのためにいるの?って言っているようなものだよ?それ。僕らは僕らがしたいように生きているだけだよ。君達とちょっと価値観が違うだけだね』

「ちょっと……?」

『そこに疑問を持たないでよ。クセがあるだけだって』

「ふふ。わかっている」

『大分安定してきたね?』

「冗談は言えるくらいにな。ガンズで貰ったイヤリングに記憶を移す事で、苦しさは減らすことができたからな。グロースの人望様々だ」

『彼だけの人望ではないけどね』

「だが、彼の人望でもあるだろう。あの性格だし、好かれてはいるだろう?」

『まぁねー』


 エウロスはうんうんと頷き、手を振る。


『今日はこの辺で。ちょっとしたいことができちゃった』

「そうか?またな」

『うん。あ、そうだ。あのねぇ、君がこっちに来る事は難しいけど、僕がそっちで君を介して顕現する事はもう少しで出来そう。期待してて』

「本当か!?それは、嬉しいな」


 彼なら戦力としても期待できるし……。


『そんなわけで、またねー!』

「あぁ。気を付けてな」

『んー!精霊にそんな心配するなんて、リーゼくらいだよ』


 と、嬉しそうに言い残して、エウロスは本を閉じて消えた。


「そんなものか」


 夜は長い。他にも誰か来てくれないか、そんな心持ちで私はまた本を開いた。

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