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42話 僕達と少年

お久しぶりです。

エタる気はないのです。

ただ最近ほんと眠気がきっつくて。





 シルズでは大した用事はなかったので、軽く観光しつつ旅支度を整え、やたら高そうな宿でもう一泊。翌朝、次の目的地への乗合馬車に乗ろうとしたところで、どことなく身なりの良い子供が横から入ってきた。


「ちょ、ちょっと!」

「お願いだよ!僕をアンカーに連れてって!!」

「アンカーって、この馬車は違うよ?」


 紺色の髪と緑色の瞳の背の低い男の子が、馬車の入り口を塞いで、僕を見上げる。

 癖っ毛なのか猫の耳のようにピンと跳ねた髪が可愛らしい。

 それはともかく、この馬車は進む方向が違う。


「お願い!!お金だったらあるよ!」


 じゃらりとお金の音の響く巾着袋をリーゼさんに渡すと、リーゼさんはギョッとして少年を見、巾着袋を二度見する。久々にびっくリーゼさんだ。


「重いな。こんなお金どこで……」

「お客さん!もう出発するから、乗るなら乗っておくれよ」


 御者さんが声を上げ、他の冒険者の方からもちょっと責めるような目を向けられてしまう。困ったな。


「すいません!……ごめんね、僕達が向かうのは、アンカーじゃなくて……」


 と、言おうとするが、リーゼさんが僕の腕を引く。


「急ぎたい旅ではあるが……少年の願いを無碍にしてまで急ぎたい旅ではない。少し、話を聞こうか。……時間をかけてしまってすまない。行ってくれ」

「あいよ」


 乗合馬車は僕達を置いて、林道をゆっくりと進み始める。


「グロース達もすまないな。何となく……無視できなかった」

「大丈夫です」

「ワシはお前達に着いてってるだけだからな。気にせんでいい。しかし、坊主。親はどうした?」


 ミスケルが少年に聞くと、少年は涙を浮かべながら、首を振る。


「連れてかれちゃった」

「誘拐か!?」

「わかんない。家にいたら、突然父ちゃんが隠れろって俺をクローゼットに入れたと思ったら、怖い人達が家に入ってきて父ちゃんが連れてかれちゃったんだ」


 どう考えても誘拐じゃないか。でもそれなら普通逆じゃないのかな?


 少年は服の両端を握り締めて泣くのを我慢しながらも、僕らを見つめる。


「うぅむ。坊主。お前の親父さんはどんな仕事をしてたんだ?」

「知らない。いつも家にいたし……」


 なんだろういやーな既視感するんだけど。また飲んだくれとかそういう感じじゃないよね。


「ただお金はいっぱい持ってたんだ。俺も気になってきいたら、冒険して手に入れたんだって言ってた」

「冒険者なのか……?いや、冒険者ならそうというか……」

「キュキュ!」

「な、なに!?」

「元気だしてってさ」

「キュ!!」


 落ち込む少年の肩に、ミスケルを経由して跳び乗るセイランは、その肩で小さく鳴いた。


 とりあえず僕達は門の近くに構えている飲食店に入り、少年の話をまとめる。

 少年は九歳。名前はルクソン。口調はちょっと雑だが、商人が着ていそうな生地のしっかりとした小綺麗な服を着ている。親父さんが連れ去られたとのことだけど、行き先がアンカーという事と、海の魔物の触手が肩から手首まで伸びた刺青をしている男がいたという事。父親の名前はルクスというらしい。


「この分だと時間が経つにつれて、助け出すのが厳しくなりそうだ。アンカーは港町だから、船の出入りも多い。もし、行き先がアンカーの外から急がねえとだ」

「って言っても、アンカーまでの直通の乗合馬車なんてあるかな?」

「……」


 ギルドの時刻表を覗いた時は、あんまり無かった気がする。今とりあえずリーゼさんに確認しに行ってもらってはいるけど……。


「最悪、馬車を買うのもありだが。御者はワシがやれるからな」

「馬車があればいいの!?」

「キュウ!?」

「あ、ごめん」


 ルクソンはミスケルの言葉に目を輝かせながら、机に手をついて立ち上がる。セイランが肩から落ちかかり、ちょっと笑える。


「お、おう」

「あるよ!馬車!!」

「あるの!?」

「うん!!ついて来て!」


 自信満々に頷いたルクソンは勢いよく店を出ていく。僕達は慌てて会計を済ませて、追いかけて行く。


「あいつら、父ちゃん以外には目もくれずに出て行ったから、多分家の横にあると思うんだ!!」

「個人で馬車まで持ってるたぁ、お前さんの親父さんは商人かなんかだったのかね」

「知らない!」

「知らんかー」

「因みに馬はいるの!?」


 馬車があってもそれを引く馬がいなかったら意味ないぞ?!


「い、いない……!」

「おぉう。したらファイへ、リーゼにギルドで馬を借りるように伝えてくれグロース」

「わかった」


 言われた通りに念じれば、ファイからりょうかい〜という気の抜けた返事が帰ってきた。


「ワシらはこのまま坊主の家まで行こう。馬車の状態も見んと」

「だね」


 と、十分程走った先にあったのは、冒険者ギルドの建物と同様くらいには大きな洋館が一軒。それに隣り合わせに建っている大きな倉庫が一つ。それに入れば、僕達全員が乗っても余裕のありそうな大きな幌馬車。


「……待って、本当に君のお父さん何者!?」

「わかんない……」

「こりゃ、二頭じゃ引けんなぁ。四頭はいるぞ、グロース」

「伝えるよ」


 再び念じつつ、幌馬車の点検をしているミスケルを眺める。

 というか割となんでもできるよなぁミスケル……。ありがたいことこの上ない。


『グロ〜ス〜』


 うん??どうしたの?


『そんな急に四頭も貸せって言われても困るって〜二頭ならまだ良いんだけどって』


 あー確かに……そりゃあそうか……。


「ミスケル」

「なんだ?」

「なんか……四頭は無理らしい」

「そうか……」

「無理なの!?いけないの!?」

「待て待て。セイランと遊んでてくれ。……グロース。なんとか交渉出来ないか?」

「うーん」


『無理そう〜』


 無理かぁ〜。


『あ、まって!なんか、なんか来たよ!あの、神霊様の加護もらってる人』


 レイベル伯爵か!?なんで?


『えっとね……なんか、知り合いの親子が拐われたから、救出依頼を出しに来たんだって。見つけた者には金貨一枚、救出できたら五十枚だって』


 それ、それちょっと!そこで止めて!馬借りれないか、交渉してくれない!?


「ルクソン!君ってレイベル伯爵と知り合いだったりする?」

「知ってる!たまにうちに来てたよ!」


 この子だぁ!!ファイ!子供の方は確保出来てるってレイベル伯に伝えて!


『あい〜』



 待つ事数分。


『お馬さん貸してくれるって!!』

「おお!!やった!!」

「交渉成立か!?」

「レイベル伯が貸してくれるみたいです」

「げぇ……」

「しかも、ルクソン君のお父さんの救出依頼がギルドに出されたそうで……」

「貸しができるかと思って恐々としたが……それから大丈夫そうだ。そのまま親父さんの詳細も聞いておいてくれ」

「了解」


 そうしてあれこれ連絡しつつ、リーゼさんがやたら大きな馬に跨り、館の前までやってきた。その後ろに続くようにもう一頭大きな馬に乗り、レイベル伯爵と、レギオンさんもやってきた。


『ただいまー』

「すまない、遅くなった」

「大丈夫です。色々ありがとうございます」

「あぁ」

「昨日ぶりだな。ミスケル、そして、グロース」

「おはようございます」

「よう。いや、まさか、バトルホースを貸してくれるのか……?」

「あぁ。飲んだくれの、能天気のアホだが、奴は私よりも上の位の貴族だからな。流石に放ってはおけないのだよ。放っておきたいが……」

「父ちゃん貴族だったのか!?」

「ルクソン。無事そうだな。あぁ。ルクスは貴族だよ。偉い偉い貴族な筈だ……」


 レイベル伯が凄く遠い目をしている。ルクソンのお父さん、結構ろくでなしだったりするのかなぁ……。


「ギルドにも依頼は出したが、君達が受けてくれるのならありがたい。こちらでギルドにも連絡しておこう」

「了解です」

「恐らく相手はアンカー周辺を根城にしている、山海族だ」

「山なのか海なのか」

「両方だ。元々は別のグループのようなんだが、両方の宝を盗んだ挙句、売り払って豪遊していたのがルクスでな」

「冒険って、そういう」

「怒り狂っていた両グループのボスが結託して去年の今頃かな。消息を経ち、それから部下には暫く魔物の調査を主にさせていたら……」


 誘拐されたと。


「一応、護衛も付けていたんだが……ルクスが解雇してしまったらしく……」


 あー。もうなんか何もかもダメ感。何となく苦労人な雰囲気さえ感じられるんだけど、レイベル伯から。


「ともかく……すぐに殺されるとかはないだろうが、事態は急を要する。君達にはこの子達を貸すから、出来れば速やかにアンカーへ向かって欲しい」

「わかりました」

「任せてくれ」

「あいよ」


 それと、とレイベル伯は続けてレギオンさんを突き落とし、自身も馬から降りる。


「っとと。乱暴ですねぇ」

「コイツも連れて行け。ルクスの顔がわかる人員がいるだろう」

「俺がついてくんだよ??」

「何を言っているルクソン。君はダメだ。私と一緒に残れ」

「え、えぇ!嫌だよ!俺も一緒に」

「ダメだ」

「うわぁっ!?」


 ぐわしっとレイベル伯はルクソンの首根っこを掴む。

 猫耳の様な髪のせいで、まるで怒られている猫のようだ。


「さぁ、点検も済んでいるのなら早く行きたまえ。ルクソンは私が預かる」

「あいよ」

「ルクソン。依頼を受けたからには、私が必ず父上を救おう。ここで待っていてはくれないか??」

「うぅ……」

「もし、相手が強かったりしたら、君を守り切れないかもしれない。だから、ここで君の父上の家を守っていてほしい」

「……わかった」


 そう渋々頷くルクソンを撫でて、リーゼさんは頷く。


「レギオンに旅の費用は持たせてあるし、準備が整い次第応援も向かわせる。頼むぞ」

「はい!!」


 そうして、僕達はブレイブリィ有数の港町、アンカーへと向かうのであった。


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