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37話 僕と?




「ひぃっひいっひいいいい!」

『わーーーー!!』

『うううるぅおおおおああああああ!!』


 ゴウッと大きな炎の弾が僕の背後に着弾し、ボガンッと大きな音を立てて石畳を破砕する。


「なんで、なんで、なんでなんだぁぁああああああ!!?」


 そんな叫びを上げながらの逃亡劇。その事の発端は、朝へと遡る。


 リーゼさんとの特訓で、魔神経も大凡回復し、しっかりと動けるようになったので、リハビリがてら、魔神経にマナを通しながら、ソーズの街中でファイを連れて走り込みをしていたのだが……。


 ふと、普段は入らない裏路地を見掛け、なんとなく気をとられ、ファイと顔を見合わせる。僕達は頷きあって、たまには小さな探検をしたいよねなんて言いながら入っていく。


 これが、良くなかった。いや、多分普段なら特に何もなかったのだと思う。ただ、進んだ先にいたものが、炎を身に纏っている巨人で、何故か三角座りをしていたってだけだ。うん。僕は何を言っているんだろうね。


『グロース!現実逃避してないで、凄い走ってるよあの人!!凄い怒ってるよあの人!!』

「どっちもわかってる!!」


 熱い、速い、恐ろしいの三拍子。なんでかわからないけど、僕を見た瞬間に、形相を鬼のように変え、火炎の息を吐きながら怒号を上げ、炎弾を放つ巨人。

 僕らは魔法をフルに使って、脱兎の如く逃走。今現在、本来は人が滅茶苦茶いるはずの大通りを爆走中。


「というか、あれ、火の精霊だよな!?」

『だと思う!!でもこの辺で見た事ない人だよ!!』

「しかも、これあれだよな!?ゼミスが前に本を使って来た––––」

『そう!精霊界!!』

「精霊界だったの!?」

『まだ気付いてなかったの!?』


 いやぁ、現実の世界を、本に写してそこに入ったのかと。ガンズだってちょっと綺麗だったし?


『ホントグロースってアホだよね!』

「うっさい!」

『あ、やばい!!』

「どうやばいの!?」


 戦々恐々としながらも、振り向けば、巨人の前に大きな魔法陣が僕に向けて展開されている。陣数は三!!


「それはやばい!!」

『イグニスを、使おう!?』

「また魔神経死なないそれ!?」

『死ぬ!!』

「断言!それはダメだ!!」


 なら、跳ぼう!!屋根を伝って逃げよう!!あの巨人じゃ、屋根を伝うのは無理だろ!!


『多分ね!』


 不安になる答えを聞きながら、近くの路地へ入って、壁と壁を蹴って、家屋の屋根まで到達。

 巨人は僕達を見上げながら咆哮を上げて、飛び上がる。跳ぶのではなく、飛び上がった。


「うわぁぁぁぁあああああ!!」

『だよねー!!』


 屋根を伝いながら、放たれる熱線を避けて、避けて避けて避けまくる。


「うひゃああああ!!」

『おおーグロース凄い!!』

「凄いっ!じゃないんだよっ!と!ほっ!うはぁ!?」


 反撃……と思いながら見れば、陣数が上がって、四陣になった魔法陣を見てしまい、慌てて屋根から飛び降りると、頭上を大きな熱線が通過する。


「あれ確実に殺しにきてる!殺しに来てるよな!?」

『僕がいるから、多少火の耐性はあると思うけど、きっと意味ない!当たったら塵も残らないね!』

「そうだよなぁ!?」


 このまま家に戻っても助かる気がしない。ゼミスもしばらく見ていない。どうしようかこれ!?


『グロース!行き止まりだよ!?』


 目の前を見れば高くそびえ立つ壁。あーよく物語で悪漢から追われていると、こういう煉瓦の壁とかに阻まれるよなぁ。


『ファイアーボール!!』


 再度の現実逃避を図ろうとしていると、ファイが炎弾を放って壁の低い部分を破壊した。


『うひゃぁ!』


 アイツ!自分だけ通れるようにしやがった!!


「アクセル!!」


 加速しながら、ファイの開けた穴に足をかけ素早く壁を乗り越えたところで、巨人がまた吠える。


「うわそれはまずいって」


 巨人は前傾姿勢になり、僕が壁から跳んだ瞬間、壁をぶち壊して来た。


「あっぶなぁ」

「ぐぅうううううろぉおおおおおうすぅううううううう!!!」

「僕の名前を……!?いや、精霊だからか!?」


 というか、ファイ!!お前どこいった!?


『上にいるよ!相変わらず他の人も精霊見えない!皆どこにいるの〜』

「僕が聞きたい!!」


 でも、逃げても、逃げても必ず視界内にいるからなぁアイツ。いっその事、リーゼさんが気付いてくれるまで頑張るか……?


「ファイ!広場に出よう!逃げ切るのは無理そうだから、迎え撃つ!!」

『ええ?本気!?』

「このままだとジリ貧だろう!?」

『そうだけど……!』


 僕は再び壁を蹴って、屋根上まで出て、屋根伝いにギルドに近くて、一番広い広場まで跳び抜ける。


「そぉい!!」


 熱線が側面を通過する。クッソ熱い!!あの野郎、本当に許さないからな!!


 広場まで出たので、跳び降りると、巨人が恐ろしいほどの加速をしながら、大きく飛んで、わざわざ僕の前に陣取る。


「やっぱり遊んでたよなぁ。だって火属性の精霊だし、加速魔法使えるんだよなぁ」

「ぐぅぅぅろぉぉぉぅすぅぅぅ……」


 文字通り気炎を吐いて、僕の名を呼ぶ炎の巨人。


「お前は、何者なんだ!!どうしてお前に狙われなければならないんだ!?」

「貴様に言う必要は、ない」

「普通に話せるのかよ!!!!」


 狂戦士みたいに咆哮してた癖に、普通に返してきたんだけどアイツ!!!!


「全ては復讐。二度ならず三度までも、貴様に醜態を見られたのだ!!これは滅するしかあるまい!!」


 言ったし!!よくわからないけど、普通に理由話したんだけどアイツ。


「––––!!謀ったな」


 心を読むな。そしてお前が勝手に話し出しただけだろうが!!


 というか醜態ってなんだ。


「そんな物は言うまでもない!!––––に置いて行かれ、迷子になって泣いていたのを貴様に見られたのと!!––––に虐められて泣いていたのを、貴様に助けられた事!!そして!!––––に置いていかれて迷子になって泣きそうになっていたところを貴様に見られた事だ!!!!」


 うわ全部言ったんだけど。言うまでもないって言いながら、間髪入れずに全部言ったんだけど。しかも全部しょうもねぇな!?


「というか最初と最後に至っては泣いてるか否かくらいの差しかねぇ!?」

「貴様ァ!!どこまでも我を馬鹿にして!!我は本気で貴様を許さぬ!!」


 どこまでも馬鹿っぽいが、熱量は本物。特大の炎の柱が奴を包み、広場の床が、ドロドロと溶け出し、異常な熱を周囲に放っている。


「あつっあつっ!」

『理不尽すぎるよ!!––––様が近くにいるんだ!!呼んできちゃうぞ!!』

「土のが居たところで、我には勝てん!!」

「勝てん、て」

「そう、この我こそは、火の大精霊、ソルフレイム!!」

「初めて他の精霊の名前が聞けた……」


 しかも大精霊なのかよアイツ。


「舐めるなよ、この我の熱量を––––!?」

「!?」


 巨人が更に炎の熱をあげようと腕を振り上げた瞬間、小柄な少女がソルフレイムを蹴り上げ、跳び上がって回し蹴りをソルフレイムの首元に叩き込んだ。


「ぐぁお!?」

「ねー。何してるのかなー。街の外で待っててねって。……言ったよね?」

「待て、待つのだ、––––。我はただ、」

「というかやめてって言ってるよねその変な話し方。痛いの。聞いてるだけでゾワゾワするって」

「ご、ごめん。だって、この方が威厳があるって、皆が言うから……」


 少女はため息を吐きながら、こちらへ向くと、駆け寄ってくる。


「おはよ!グロース。私の事思い出したんだってね?」

「え??」


 こんな燃えるような赤髪赤眼の人間は知らないんですけど。


「あぁ、こんな感じの」


 少女の髪の色が夜を想起させる様な、綺麗な黒へと変わり、少女が髪を後頭部に纏める。


「あ、ああー!!」

「わかった?」

「あのすっごい怒ってた人!!」

「ねぇ待ってどの辺を思い出したの!?」


 というか、こんなに小さくなかった様な気がするんだけど……。


「あーその辺は説明してあげたいんだけど、私達の試練を突破してくれないと、できないのよねー。ただ、––––の試練を突破したから、干渉はして良いって感じになってね。会いにきてみましたー」


 少女はにこーっと可愛らしい笑みを浮かべる。


「えっと、名前は教えてくれないの?」

「うーん。確かに呼ぶ時不便だよねぇ。じゃあ、私の事は、ユキノって呼んで?」

「ユ、ユキノ?」

「そうそう。『雪乃』という字面からはかけ離れた属性になっちゃったけどね、私」

「?」

「ごめんごめん。とりあえず今日のところはツッチーのとこに行くから、また今度会おうね」

「ツッチー?え、ちょっと待って」


 じゃあねーっとユキノはたったか走っていき、いつの間にかしゅんとして、小さく、そりゃもう小さくなっている少年の手を取って消えていった。


「嵐の様だった……」

『だねぇ』


 周囲は喧騒を取り戻していき、人が増えていく。

 荒れた跡はどこへやら、何もかもが元通りになり、僕らは暫く茫然自失としていた。




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