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36話 私と?




––リーゼ視点––



 グロースとの特訓で、かなり軽めの革鎧くらいであれば、着たまま動けるようになった私はギルドに向かっていた。道中恐ろしいほど大声で泣く黒い髪の少女を発見し、特に大した用事があるわけでもなかったので、声を掛けようと近付いたが……うるさい。


「うわぁあああああん!ソルがいないよぉおおおお!」


 ソルがなんだかわからないが、何故誰もこの子に声をかけないのか。冷たい。


「だ、大丈夫か?」

「う……お姉さん誰ですか」


 声を掛けたら、瞬時に涙が止まり、真顔になり、逆にそう返される。いや、お前がどうした。


「わ、私はリーゼという。冒険者だ」

「うわぁぁああああん!冒険者と呼んで、遺跡を荒らして宝をぶんどるだけの輩に声を掛けられたぁぁぁぁ!うわぁぁああああん」

「お、おい!?」


 少女は心底嫌悪してますとばかりに、叫びを上げる。うるさい。


「ちょ、ちょっと……」


 と、肩に手を置こうとすると、


「え?変態さん?」

「へ?」

「うわぁぁああああん!知らない女の人がいきなり肩に手を置いて声を掛けてきたよぉおおお!助けてぇー!」

「お、おぉい!!」


 少女は駆けだし、少女とは思えない速度で走り始める。待て、この世界の少女はどいつもこいつも素早いのか!?


「待て!!」


 と、私も待て。別に追う必要は……ないよな?


「……」


 遠ざかる少女を無視して、ギルドに着けば、ギルドには誰もおらず、酒場さえも静かなまま。


「休日……なんてあるのか?マスター!ギルドマスターはいないのか!?」


 声を上げても、誰の返事もない。


「おかしい……」


 ギルドから出れば、人がいる筈だと外へ出れば、誰もいない。ソーズのギルド周りには武器屋や、防具屋もあるから、誰もいないなんて筈ないんだが……。


「……」


 精霊の本を取り出して、開く。


「すまない、誰か応えてくれないか」


 本の中から、いつも声を掛けてくれていた精霊達の声が、姿が見えない。


「……何が起きている」


 恐ろしくて、早足になりながらも、家へと戻る。


「––––そんな」


 誰もいない。セイランも、グロースも、ミスケルも、ルーズもいない。どこにも、いない。


「誰か、誰かいないのか!?」


 誰もいないソーズの街を、一人走る。私が何をしたというのだ。私はただ、少女に声を掛けただけ……。


「あの、少女は」


 最後の接触は、彼女だ。あんな少女が何かできるとは思わないが、それでも原因がわかるかもしれない……。


 彼女と会った場所に戻るが……特に何もない。追うか……?もう、何処に行ったかがまるでわからないが。


「はぁ……」

「お嬢さん、ため息を吐くと、金運と恋愛運と仕事運と悪運が逃げていくと言うよ?」

「––––!!」


 多いな!と思いながら振り向くと、先程の少女がニタニタ笑いながら、私を指差している。


「貴様!!」

「わー怒ったぁー。リーゼが怒ったぁー」

「私の名を……!?精霊の類か?」

「そう!私見て何か思い出さない??」

「思い……貴様、私の記憶に何か関係があるのか……?」


 ふつふつと湧き上がる憎悪を心に押し留め、少女を睨むが、気にしていないような感じで、笑っている。


「んー。まぁ、ちょっとね。教えてあげたいところなんだけどさ。そこはそれ、試練をクリアしてくれないと。契約だからね」

「試練……?」

「そ。私はディレクトルにある遺跡のどれかに普段はいるから、そこで、試練を貴女とあの馬鹿に与えるわ」

「馬鹿、というのは、グロースの事か?」

「そう。一人で来てもいいけど、出来ればアイツと一緒に来てね。私についての記憶は。ほとんど、私が確保してあるから、その時にね」


 黒髪の少女は、親しみを込めたような笑みを浮かべて、私の周りを歩く。


「ん〜まだまだって感じねぇ」

「なんだ」

「固いのは相変わらずかな。アイツとくらいは、タメ口で話せるようになった?」

「……まぁ」

「はぁ〜仕方ないなぁ。昔は『女子力』もあったのになぁ。なんか、男女みたいになってない?」


 じょしりょく?


「『じょしりょく』ってなんだ?」

「女の子っぽさみたいな?えってかさ。リーゼは……いや、これはまだ言わない方がいいか」

「おい、何を一人でぶつぶつ言ってるんだ」

「因みに、こうして、こんな見た目に覚えはない?」


 黒髪の少女は、自分で長い髪を後頭部に纏めて、私に見せるが、そんな人間に覚えはない。が……。


「グロースが、そういった人間の記憶を思い出したらしい」

「ええー。アイツが先かぁ」


 少女は残念そうな口調で、少し嬉しそうに笑う。


「まぁいいや。疲れてきたし、今日はこの辺で帰るね!」

「ま、待て!」

「またねー!」


 少女は唐突に姿を薄くし、消えていく。消える寸前、少女の髪の色が、燃えるような赤色に変化し、火の粉が舞った。


 その瞬間、急に周囲から色々な声が聞こえ始め、人が増えてきた。


「一体全体、どうなっているんだ」


 酷く疲れた気がして、私は家に戻ると、時を同じくして、げんなりとした表情で家の前にいるグロースを発見する。


「グロース!」

「リーゼさん!!!!」


 グロースは、それはもう良い笑顔で私を見て飛び込んできて、手を取り握る。


「よ、漸く、ようやく会えた!」


 とても、嬉しそうだ。あまりにも嬉しそうに笑うので、私も嬉しくなってしまう。


 私達はそのまま家へと入り、今日あった事を話し合って、また驚くのであった。


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