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35話 僕と皆

めっちゃ寝てて、遅れました。





「全!快!だぁ!!」


 手を高く突き上げて、ベッドから起き上がる。体の怠さも痛みもない。

 二週間の休みを経て、僕は今、さいっそうのコンディションになっている。


「これは遺跡探索に行かねばならない。いや行くしかない!」


 急いで支度を終え、リビングに行くと、ミスケルさんとセイランが、なんか机に札を置いて遊んでいる。


「何してるんですか?」

「おーグロース、おはようさん。こりゃ、行商人から買った、潜伏狼の隠れ札ってやつでな?」


 と、狼の模様が入った灰色の札を、十枚ずつ、セイランとミスケルさんの前の机の上に並べ、山札を三十枚、その横に置いた。


「この二十枚の中に潜伏狼が隠れている。ワシ達は順番に山札から一枚ずつ、札を引くんだが、引くまでは灰色。引いてからは黒い札と、白い札へ変化する。黒い札は必ず嘘の言葉が浮かび上がり、白い札は本当の言葉が浮かび上がると。ここまではいいか?」

「はい」

「後は簡単。白と黒の札に浮かんだ言葉から、この自身の前に並べられた従妹の札に潜んでいる潜伏狼を見つけようという遊戯だ」

「面白そうですねー」

「だと思って買ってみたんだ。道中お前も暇そうにしてたからな。他にも色々買い集めてみたから、後でやろうぜ」

「おおーありがたい!!やったー!」

「喜んでもらえると買った甲斐があるってもんよ」


 ニッシッシと笑うミスケルさんは、説明を続ける。


「ほいでな?どちらの色の札も、直接的に潜伏狼の場所を指し示す事はないし、相手からはその言葉は見えん。また、一回の遊戯中、一回だけ自身の札を公開する事ができ、それを行使した場合のみ、相手も札の内容を認識できる、と。そんでもって、その次の相手は自身の持つ札の何れかを公開しないといけない」


「で、最後の番で山札が無くなってもわからなかった場合は引き分けだ。それまでに潜伏狼を見つけられた方の勝ち。簡単だろう?」

「ですね」


 運要素も強そうだけど……。


「で、やってくか?」

「やりま––––いや、僕今遺跡に行こうと思ってたので……」

「はーい、いくなら私とちょっと準備運動してからいこうねー」

「ええ、ゼミス、まだ居たのか」

「その扱い酷くないかい?」


 バサァと髪を靡かせてやってきた本の魔物は真顔になる。


「やめろ、急に真顔になるな!」

「ふはははは!!」

「大笑いしろとは言ってない!!」

「と、茶番はこのくらいにしといて、本当に遺跡に行くなら、多少リハビリをしないと」

「走り込みくらいならしてるけど……」

「剣を持って戦うのはしてないだろ。いきなり遺跡に行けば死にかねないよ?」

「そんな大袈裟な」

「とりあえず行こうか試験場」


 この有無を言わさぬ感じは、逆らっても引きずられていかれそうだ。


「了解。いくよ」

「よろしい」





 ところ変わって試験場。ゼミスはこの間の戦闘モードな装備とは違う、緩い黄緑色のローブを着ての試験場だ。


「そういや、お前に聞きたい事あるんだけど」

「うん?なんだい」

「たまに、精霊とかが名乗ったり、紹介されたりするだろ?」

「するね」

「その時、その精霊の名前が聞こえないのって理由があるのか?」


 ゼミスの前方五メートルくらいの場所に立ちながら、聞けば、奴は顎に手を当てて考え込む。


「うん。まぁこれはあれだね。名乗られてて聞こえていないのは、呼ぶ事を許可されていないからだね」

「したら、土の大精霊には許可されていないんだな」

「あー。––––か」

「やっぱり、そこだけなんかプツッと消えるな」

「因みに、音をわけて伝えようとしても消されてしまう不思議パゥワーが働くよ」

「へー」


 あとは、渡された記憶の中にいた子も……。


「あとさ、なんだろ、見せられた記憶の中にさ、金髪の女の子がいたんだけど、その子の名前も聞こえなかったんだ。やっぱりその子も精霊なのかな」

「金髪の……?」


 なんだろ。微かに困惑してる?どうしたんだ?


「……うーん。でも、名前が聞こえなかったのか。そしたらやっぱり精霊なんだろうね」

「一人で悩んで一人で納得しやがったな。やっぱり精霊なのか」

「まぁ、君の話自体、要領を得ないし。そうだろうなくらいだよ」

「そっか」

「じゃあそろそろ、やるかい?」

「やらないと行かせてくれないんだろ?」


 ゼミスはフフンと笑って、姿勢を低く、構える。


「行くぞ……!!」


 先ずは身体にマナを浸透させ、させ……?


 立ち止まり、ゼミスを見る。


「……わかった?」

「身体に思うようにマナが浸透しないんだけど……?」

「そうだろうね。体の調子は戻っても、魔神経が戻ってないんだ。ここのマナ濃度で、強化が遅いとなると、暫く外での活動はしない方がいいよ」

「……わかった」


 身体強化が出来ないと、ゼミスと戦う以前の問題だ。一撃も入れられない。


「いや、君と一対一なら、擦りもしないで倒せるけど?」

「平然と心を読むなよ。どうなってるんだお前」

「まぁまぁ。ちょっと座りなよ」

「ええ?」


 言われるがまま、その場に座り込む。


「まぁ、出れるようになるまで、ここでマナを身体に通すリハビリをしたらいい。座って瞑想とかしてると、何となく通し易いから試してみて。ここを出れる頃には取り込みやすくなってるかもしれないよ?幸い、マナを手繰る方法は––––と戦ってる時に使えるようになったみたいだし」

「おぉ……確かに、集中すると通し易い気がする」

「おや、リーゼ。君もきたのかい」


 ふと、入り口の方を見やれば、無骨な大剣と、軽鎧を付けたリーゼさんがやって来ていた。

 リーゼさんはどこか辛そうで、額に汗を浮かべている。


「リーゼさん?大丈夫ですか?!」

「……あぁ。大丈夫だ」


 一歩一歩が遅く、たらりと汗が流れ落ちる。やはり辛そうだ。


「リーゼさん?」

「グロース。リーゼは君とほぼ逆の訓練をしてるんだよ」

「逆?」

「彼女は精霊の力を借りれないと、ひ弱な少女になってしまうと嘆いていたからね。それならばと、周囲の精霊に本の精霊を通してマナを持ってこないように願えばいいんじゃないかって、助言をしてあげたのさ」


 なるほど、それで今の状況と……。


「丁度いいからさ、暫くゆっくりしてなよ」

「って、おいどこに行くんだよ」

「私は私で、用事ができてね。暫くいなくなるけど、無理をしないでね?」

「用事?」

「そう。用事さ。勿論、魔神経が治ったなら、遺跡に行っても、次の街に行くのもいいけどね」

「わかった」


 ゼミスは手をひらひらと振って、試験場から出て行った。


「……」

「かなり、辛そうですね」


 僕も持った事はあるけれど、遺跡で手に入れた大剣は僕でも非常に重たく、なんの効果もなかった筈だ。リーゼさんには辛いだろう。


「君には迷惑をかけたからな。君を嘲っていた過去の自分に言ってやりたいな。お前は大事な所で役に立たなかったと」

「り、リーゼさん、本当に卑下し過ぎですよ!?普段は僕の何倍も強いんですから」

「本当にそう思うか?君があの遺跡で見せた動きは、明らかに……」

「いや、正直あれは限界を超えてたので…………」


 必死だったし。でも、楽しかったなぁ。不謹慎かな?


「その、笑み。君は、あの状況を楽しんでいた。何故だ?」

「何故なんですかねぇ。冒険家に抱いていた理想みたいな物が、あの瞬間にあった気がします」


 父さんとの記憶は少ないけど、あの人が僕に語っていた冒険とはそういうとのだった気がする。自身が超えられるか超えられないかとギリギリの戦い。そこから手に入れられる宝。その全てが、冒険家と名乗り、生きていく人間の喜びなんだと、父さんは語っていた。

 求め過ぎて、死んでしまうのはいかがなものかと思うけれど。


「あの時、あの瞬間……僕は冒険をしていたんです……父さんの見ていた世界を、僕は」


 リーゼさんは、そう語る僕に、異様な者を見るような目を向けて来た。


「君は……死にたいのか?」

「いや、生きたいんです。あの世界で、生きたいんです。僕は」

「君と遺跡を周るのは、骨が折れそうだな」

「……ですね。正直、こう言ったら嫌がるのではと思ってました」

「いや、それについては予想はできていたんだ。君が冒険家と自身を評し、他の冒険者から冒険家と言うものがどういう存在かは聞いていたからな」


 だが、と言いながらリーゼさんは、大剣を地面に置き、僕の隣に座り込む。


「ただ、私の見てきた君の性格が、冒険家のそれとは違うように見えていたから、口にされてからやっぱりそうなのか、と。納得しただけだ」

「なるほど……」


 リーゼさんは小さく息をはき、地に置いた大剣を膝に乗せる。


「なぁ、グロース」

「どうしたんですか?」

「その、マナを手繰る方法を、私に教えてくれないか?」

「ええ。勿論」

「いくら魔力が無いとしても、多少は使えるようにしたい。あの様な状況に陥っても、動けるようになる為に」


 リーゼさんは、大剣の柄を握りしめる。


「ですね。生まれたてのコシュカの様でしたし」

「コシュカ?」

「なんか、頭からツノが三本生えている草食の魔物です。ディレクトル近隣の森に多く生息してるらしく、成体は強靭な脚力と、角による攻撃が危険で、肉食の魔物を蹴散らせるくらい強いらしいですが、生まれたてのコシュカはその両方が弱く、魔物の格好の獲物になるらしいです」

「なるほど確かに……これは頑張らねばならんな」

「一緒に頑張りましょう」


 まずはこうして––––と、僕達の特訓は始まった。



ファイがいないと気付いたのは、書き終えた後でした。


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