33話 僕達と土の大精霊 後編
「––––!––––––––!」
「––––––」
うん?何かうるさいなぁ……って身体いったぁ……。痛い痛い。何これ、全身筋肉痛?痛い割に手足の感覚が薄い……。
というか、あれ、試験はどうなったんだ!?
「あっいってぇ!?」
急いで起きようとすれば、身体に激痛が走り、そのまま寝転がる。
「グロース!起きたのか」
『グロース!!ごめんね!ごめんねぇえええ!』
「リーゼさん、お、おはようございます。ファイも。大丈夫だから。な?身体痛いから、腹回りに乗るのやめよう。やめよう?」
リーゼさんの顔が近い!でも身体痛くて逃げられない!
「ご心配をおかけしたようで……」
「グロース……生きていてくれて、良かった」
どうやら位置関係的に、膝枕をされているらしい。どうりで近いわけだ。その状況を楽しめるような感覚ではない。意識がはっきりしてきたのと同様に、全身の痛みがより強くなってきた。
「えっとそれで、ですね。どうなりました?」
「君が土の精霊の鼻先を薄く斬り、一応試験の合格となったよ。とりあえず、君の意識が戻ってから話すという事で、待っていたわけだ」
「それはそれは、ご迷惑を」
「あ、お二人さん、ちょっといいかい?」
この場に居なかったはずの者の声が聞こえた気がする。
「ゼミス?」
「皆大好き、スーパーエルフさんのゼミスさ!」
「皆大好きなのか?」
「そこは突っ込んだらいけない。とりあえず、試練の突破おめでとう」
「あ、ありがとう?」
と、応えれば、その後ろから否定の声が。
「試練ではない。試験だ」
「どっちも変わらなくないかい?」
「変わる」
なんか、コイツら仲良さげに言い合いしてるんだけどまさか、顔見知りか?
「グロース。俺はこの駄エルフを知っているが、お前が気にするような関係ではないと言っておこう」
「僕の契約してる精霊の元締めが彼なだけだよ。僕の精霊、属性も違う癖に定期的に彼のところへ行って愚痴ってるんだって」
「なんだその微妙な関係」
ゼミスはニヤニヤした表情を一転させ、真面目な表情で僕の額を撫でた。
ちょっと皆近くない?
「それでねーグロース。おめでとうはおめでとうなんだけど、君、無理をしすぎ。出来る限りの治癒魔法を使ったんだけど、魔神経がボロボロだし、身体も辛うじて動かせる程度だろう?」
「魔神経……?」
「あー」
え?そこから?みたいな顔されたんだけど。むっかつくなぁこのエルフ。
「周りのマナを自身のオドに変換する力を魔力っていうのはわかるよね?」
「うん」
「それで、自身の身体にマナを浸透させて、身体を強化することができるだろう?この浸透させる事が出来る、つまり、マナの通る道があって、それを魔神経と呼ぶわけなんだけど、これがものすっごい損傷してるんだよ」
なるほど……。あれか、自分で無理矢理マナを集めた時にやっちまってたのか。
「あれだけ強化をすれば、そうなるだろうな。それに加えてイグニスや、アクセルの連続使用。死にたいのか?」
「いや、死にたかないですけど……」
勝ちたかったんだ。リーゼさんもミスケルさんも動けない。ファイの援護も期待出来ない。そんな状態でも、戦えるって、頑張りたかったんだ。
「ともかく、私の見立てだと、全治二週間はいるね。帰ったらギルドの治療院による事。いいね?」
「わかった」
手をあげようと思ったけど、身体が全然動かん。とか思ってたらリーゼさんが凄く申し訳なさそうな顔をして僕を見下ろす。
「……すまない、グロース。君が頑張らなかったら、きっと私達は全滅していた。ありがとう。私は、何もできなかった……」
「リーゼさん、さっきも言いましたけど、普段は僕が助けてもらってる側なんですから。こんな事、精霊が相手の時くらいでしょうし、気にしないでくださいよ」
そう言ってもリーゼさんは歯を食い縛り、泣きそうな顔になる。待って待って、泣かないで!この状態で泣かないでリーゼさん!
動け僕の腕ぇぇええええ!
「リーゼさん!」
「!?」
激痛を耐えながら両手を上げて、彼女の両頬に触れる。驚いてあたふたするのは可愛すぎる。
「昔の偉い人は言いました。終わり良ければ全て良し。仲間の為に出来る事をやるのが、冒険者です。持ちつ持たれつ。普段から訓練も付けてもらってますし、リーゼさんには一度命を救われてるんですから。どうか笑ってください。僕はリーゼさんの笑顔が大好きですから」
「はわっ。あわ、ちゅっと、いや、ちょっと
待ってくれ」
いや慌てすぎですリーゼさん。
「なぁ、セイラン。ワシあそこに入ってくの無理そうなんだが……」
「キュキュー」
ミスケルさんと、セイランの声が背後の方から聞こえる。二人(?)も無事だったか。なんだかんだ皆無事だし……良かった。
「ぐ、ぐろーす」
「はい」
「こ、これでいいか?」
更に瞳に涙を溜めながらも、口角を上げて笑みを浮かべるリーゼさん。涙が落ちて、僕の頬を濡らす。
責任感が強すぎるのも、大変だなぁ。
「……ええ」
「そうか」
と、これだけでは終わりませんよと。何の為にここに来たのやら。
リーゼさんに身体を起こしてもらい、土の大精霊へ、問いかける。
「それで、試験は突破したんだろ?記憶についての話をしようよ」
「俺は貴様が起きるのを待っていたのだが?」
「あ、それはすんません」
「まぁいい。それで、俺が預かっている記憶は断片的なもので、貴様らにどう作用するかはわからん。それでも、戻すか?」
僕を支えてくれているリーゼさんへ視線を向けると、彼女は頷く。
「私は、少しでもいいから私という存在が何であったのかを知りたい。それで、何があろうとも、私はいい。この虚無を、私は埋めたいんだ」
「僕はそもそも記憶が抜けてる事すら気付いて無かったけど、それを聞いたら気になって仕方がないからさ、僕もお願いしたいです」
土の大精霊は少年の姿なのに、腕を組んで大仰に頷くもんだから、何となく笑えてしまう。
「貴様……いや、いい。始めようか」
土の大精霊は僕達の額へ指を当てる。
「自然にしろ。すぐに終わる」
「うわっ」
視界が中心から白く染まり、次いで黒くなり、切り替わる。
鬱蒼と茂る森の中。僕は走る。黄金色の光を纏い、足元まで髪を伸ばした少女の手を引き、走り続ける。前をみれば、金色の髪をした女性が、長剣を持って怒号をあげて近づいて来た巨漢を斬り倒していた。
『うわぁ!!人を斬ったぁ!?』
『落ち着くのじゃグロース!まだ敵は少数、各個撃破を狙えば、問題ない!』
『問題ないって、違うだろ––––!彼女は人を殺したんだぞ!?』
『襲われているのだから、仕方なかろうが!』
『––––様!周囲の敵影は倒しきりました』
長剣を持った女性が振り返る所で、視界が切り替わる。
今度は、何処かの家屋の中。少なくとも見た事は無い場所だ。
目の前には長く黒い髪を、左上部にまとめ、サイドテールにしている少女。あまり見た事のないけど、ヒラヒラした可愛らしい服を着ている。
『全くもう!どこまで迷惑かけてくんのよアンタら!私が精霊の遺跡に行くたびに出会して邪魔をして、挙げ句の果てに、協力して!?ふっざけんじゃないわよ、すっとこどっこい!帰れたら、アンタの事は念入りに。そう、念入りに愚痴ってやるわ。本でも書こうかしらね。愚痴だけで大作が書けるわ』
『ご、ごめん』
怒り心頭、もう手もつけられないといった状態で激怒する少女に、僕は頭を下げる。
『謝って済む所はとうに過ぎてんのよ!大体謝って済むなら、お巡りさんはいらないの。わかる!?』
『お巡りさん?』
『あ、わかんないか。まぁいいわ、グロース、アンタとは––––』
更に視界が切り替わる。慌ただしいな。場面切り替わって、遺跡の中。目の前には土な大精霊。ここか?でも、メンツは少女と金髪の女性。後ろ姿しかわからないんだけど。
『良かろう。契約は成された。対価はその時に頂こう。グロース。遠き、遠き日で貴様と再び会うことを期待しているぞ』
視界が––––。
「ん……?」
僕の額に指を当てている土の大精霊。もしかして、戻った?ファイが僕の太腿の上で寝ている。お前は猫か。
「見終わったか。今の映像が、俺の預かった貴様らの記憶だ。時系列等は譲渡された時にバラバラになっていてな。俺にもよくはわからぬ」
「うーん」
意味分からん。これもしかして、結構記憶なくなってるんじゃないのか僕。少なくとも一月分、無くなってる説があるよねこれ。
リーゼさんは大丈夫かな?とチラリと横にいた彼女をみれば、酷く恐ろしい表情をしながら、汗を流し、息を荒げていた。
「リーゼさん!?」
「触るな。此奴はまだ記憶を譲渡し終えていない」
かなり苦しそうだ。何とかしてあげたいけど……触れるのもいけないらしい。
大人しく待っていると、土の大精霊が指を離して立ち上がる。
「気分はどうだ?」
「……最悪だ!!」
リーゼさんは僕を押し、手元の長剣を引き抜き、土の大精霊に向かって突き出した。
「だろうな」
土の大精霊は、岩の盾を展開してそれを逸らし、少し離れる。
「おいおい!嬢ちゃん、いきなりどうしたんだ!」
「キュキュイ!?」
『リーゼ!!––––様と戦ったらだめ!』
リーゼさんは、かつてないほどの怒りを見せ、長剣を構える。
何を見せたんだ?
「俺がコイツから預かったのは、人の身では有り余るほどの憎悪と、幼少期に抱えていた理想だ。それを戻した」
「り、リーゼさん。何を見たのか、大精霊の説明じゃよくわかんないけど、ちょっと待ちましょう!?」
「……グロース、私は忘れてはならない事を忘れているようなんだ。だが、コイツはあろう事か、その要因を持たず、感情だけを渡して来たんだ……!」
ちょっと何いってるかよくわかんないんだけど!?とりあえず色々怒ってるんですね!?
「じょ、嬢ちゃん、待とうぜ。精霊の補助を抜かれたら、また戦えなくなるしよ。落ち着いて、落ち着いてだな」
「これが、これが落ち着いてられるかっ!!!!私には大事な人が、いたんだ。いたはずなんだ。その記憶が奪われているんだ、コイツは、知っているはずなんだ……!」
リーゼさんらしくない、悲痛な叫び。待ってよ、さっきまで良かったのに。ハッピーエンドっぽかったのに。なんでこうなっちゃうんだ。
「知ってはいるが、他の精霊との契約に関わる。渡した感情や、記憶以外の事は話せん」
「話せ。私にその他の記憶を返せ!!」
リーゼさんは、剣を振り上げるが、
「はーい、やめようね」
「っづ!何を……!」
今まで静観していたゼミスがその手を押さえ、足を払って彼女を転ばせる。
立ち上がろうとしたリーゼさんの目の前に複数の魔法陣が出現する。
「やめようって言ったよね?」
「……くっ」
リーゼさんは剣を置き、その場で座り込む。
「彼はちゃんと警告したからね。どう作用するかわからないって。頷いたんだから、そんな理不尽に剣を出さない」
「……すまない」
「よろしい。今日はとりあえずソーズに帰ろう。グロースも医療院に入れないといけないし」
「ま、待ってくれ」
「待たない。君達は一度ソーズに帰ります。決定事項だよ。特にグロース。時間が経てば経つほど痛みは酷くなるはずだから、本当に早く帰ったほうがいい。帰りも馬車なんだからね?わかってるかい?」
ゼミスはリーゼさんに有無を言わさず、僕に確認をする。そりゃ、わかってるけど。
「その痛みを抱えながら、馬車の揺れに耐えないといけないんだよって話なんだけど?」
「帰ろう!」
それは良くない。激しく良くない。
「はーい撤収準備するよー。あ、元締めさん」
「誰が元締めだ。……なんだ?」
「いやねー、それなりにグロースが頑張って試験をクリアしたわけでしょ?報酬が記憶だけって悲しいなーって思ったからさ。なんか無い?」
「ふむ……?」
確かに、今回得た物は道中ロックパペットから取った土の魔石しかないんだよな。あるなら助かるんだけど……。
「これならどうだ?」
と、土の大精霊が周囲のマナを収束させ、鉱物を出現させる。
「おー良いね。太っ腹ぁ。でももっとイケるよね。私ぃー土の大精霊のもっとすごいところ、見てみたーい」
『見てみたーい』
キモい。体をクネクネするなよ。ファイ、アホの真似をするんじゃない。アホが移るぞ。
「……はぁ。なら、これをやる」
土の大精霊は虚空に手を突き込んだかと思えば、ズッと何かを取り出し、ゼミスに渡す。
「わー土の魔石だー。これなら金貨三十枚は堅いね。うん。これでいいんじゃないかな!」
「ゼミス。撤収準備は終わったぞ」
「お疲れ、ミスケル。グロースは私が運ぼう」
「た、助かる」
浮力を感じたと思えば、風の揺りかごの様なものにいれられ、移動させられる。おーすげぇ。
「…………リーゼ」
部屋を出ようとした時呼び止められたリーゼさんは振り向く。
「なんだ」
「精霊の試験を突破さえすれば、いずれ全てが理解できる。その憎悪も、理想も。グロースと必ず共に行け。それが俺ができる助言だ」
「言われなくとも、私は彼と共にいるさ」
リーゼさんは部屋を出ながら、そう大精霊に言い残した。
バレンタインだったので、ちょっと甘々なやりとりをさせてみました。




