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32話 僕達と土の大精霊 前編

普段の二倍くらいの量に……なりました。





「あれ……なんだろこの感じ……」

「うん?」

「キュ?」

「どうした?二人して立ち止まってよ」


 遺跡の中へ入った瞬間、なんか凄い変な感じがした。見た事があるような……ないような。

 いや、ガンズ以外の遺跡は全部初めてだから、そんな筈はないんだけど……似たような遺跡があったんだっけな?

 リーゼさんも何故だか首を傾げている。


「すまない、なんでもない。進もう」

「そうですね」


 考えていても仕方がない。


 土の遺跡は一階層のみの、平坦でとても広いダンジョンで、出現する魔物は主に三種。岩壁に擬態しているロックパペットというゴーレムの一種と、ロックスネークという小石が連なっている様に見える蛇。そして稀に岩のゴーレムが出現するらしい。ただ、ゴーレムは大きな部屋でしか出現しないらしいので、寄り道や転位系の罠さえ踏まなければ問題ないとの事。


 ただ、ゴブリンダンジョンの様に、安全地帯が無く、偶に精霊の気まぐれで遺跡内部の構造が変わるらしい。


「変わってしまったら、地図は意味が無くなると」

「まぁその辺は仕方ないわな。そこを右に曲がってくれ。真っ直ぐ行くと壁らしい」

「はーい」


 曲がろうとすると、先頭を歩くメイデイさんが、手をこちらへ向ける。


「どうしたんですか?」

「罠です。細い糸の様なものが下に通っています。一本は太く、黒い糸ですが、そのちょっと奥に、細く見えづらい糸があるので、気を付けて進んでください」

「了解でーす」


 斥候職の方を雇えて良かったとしみじみ思うこの一瞬。見れば確かに太い糸が一本、壁から壁に張られている。これを避けたつもりで、歩くと細い糸を踏み抜いてしまうわけだ。


「短足のワシには嫌な罠だな」


 確かに。


「セイランの有体幻覚で、無理矢理解除しちゃう?」


 因みに有体幻覚とは、セイランが偶に使ってる実体のある幻覚の事だ。

 いや、実体がある時点で、幻覚じゃない気がするけど、それはまぁ置いといて、呼び名がないと不便で仕方ないから、有体幻覚と呼ぶ事にした。有事の際には有幻と言って伝わる様にしてもある。


「頼めるか?」

「キュ!!」


 ポンっと出てくるのはやはり僕。有幻の僕が罠を踏み抜き、糸のあった地面が、怪物の口の様に開いて、有幻を噛み砕いて行った。


「うわぁ……即死じゃんか」

「うへぇ」


 その後も、幾つかの罠を有幻で解除したり、メイデイさんにも解除してもらいつつ、数十分くらい進んでいると、通らないといけない通路を直進している四体のロックスネークをファイが発見。


『他にはいなさそうだよ』

「やりますか」

「そうだな」

「はい」


 ロックスネークの表皮は非常に硬く、大半の部位は斬り付けても剣が欠けるだけなので、狙うのは小石同士の繋ぎ目部分だけ、少し柔らかいとのことで、小剣の僕はそこだけになる……が。


「せぇい!」


 リーゼさんが思いっきり薙ぎ払い、四体の諸共エゲツない音をさせながら吹き飛ばし、壁に叩き付けられるロックスネーク達。


「ふん!」


 そして間髪入れずに、大剣を振り下ろし、丸ごと砕いていた。凄まじい威力……。普段ならここまで無理矢理斬りつける事はないが、多少でもオドを使う事をゼミスに慣れさせられたリーゼさんのあの大剣なら、刃こぼれも気にせず、既に斬れ味は最高。


「いいなぁ……」

「でもこの装備、あくまでこの遺跡の為に、ゼミスに貸し出されてるだけだろう」

「そうですけど……僕も欲しいなぁ」

「良いじゃねぇか、ワシが劣化しない研ぎ石持ってんだから」

「それはそれで凄いんですけど、剣のメンテナンスが殆ど必要ないわけですから」


 良いなぁと。


「どいて!」

「はい!?」


 メイデイさんに勢いよく突き飛ばされたと思ったら、その直後僕のいた場所へザグッと突き刺さる岩の棘……じゃない!!


「ロックパペット!!」


 脚部を地面に突き刺した状態からガタガタと動き出したのは、関節部分を小さい岩で構成し、腕や足を鋭く細長い岩で構成されているゴーレムだ。


「油断しすぎ」

「すみません!助かりました!!」

「今度は僕が!!」


 ここの魔物は火属性の魔法は、余程高威力のものでない限り、効きが悪いので使うなら補助魔法。


「早速だけど、アクセル!!」


 ロックパペットの動きはそこまで速くないが、一撃の威力が高く、小剣で食らうのはまずい。なので、ロックスネークと同様繋ぎ目に向かって、全速力で剣を斬りつける。


「ていていていてーい!!」

『うおー!はやーい!!』


 アクセルは魔法陣展開を展開する事なく、瞬きくらいの時間で使える様になったので、アクセルを使いながら、アクセルを自分で用意するようになれた。連続使用回数は相変わらずだけど、一瞬だけならリーゼさんを超える速度で剣を連続で振れるように……


「なったのだ!!!」

『なったのだー!』


 連続で脚部の関節を斬り込まれたロックパペットは、ガラガラと崩れて、地を這い始める。あとは背中の魔石を取るだっはっや!!?


『逃げるなー!』


 両腕を地面に突き立て、恐ろしい速度で走り去るロックパペット。


「お、おい!ファイ!」


 それを追いかけて飛んでいくファイ。


『アクセル!!』


 魔法陣が展開され、加速するファイが見事に背中の魔石を抉り取り、バラバラになるロックパペット。


「よくやった!」

『へへん!』


 くるくるーっと回って決めポーズを決めるファイを撫でてやると、嬉しそうに喉を鳴らす。いや、お前別に本当に猫になる必要はないんだからな?


「さて、今度こそ全部倒せたかな?」

「あぁ」

「では、このまま直進したのち、十字路を左だ」

「はーい」


 そして、道なりに進んでいくと、ゴブリンダンジョンで見た様な鉄の大きな扉が見えてきた。


「罠無し敵影無し。問題なければ、このまま突入……私は契約通りここで待機させていただきます」

「了解です。ここまでありがとうございました!戻りもよろしくお願いします!」

「はい」


 戦闘技能に自信がないという彼女はここまで。もし僕達が戻れない様な大怪我をした時の為の、連絡要員も担ってもらっている。


「それでは……入りますよ?」

「おう!」

「キュキュー!」

「……あぁ」

『やるぞー!』


 それぞれが、同意し、僕は大きな扉を押し開けた。




 そして、再び起こる違和感。なんだろう、既視感ってやつだっけ。見た事あるような、ないようなってやつ。


「広いな。ゴブリンダンジョンの二倍くらいはある気がする」


 扉が閉まった瞬間、岩壁に取り付けられていた松明に、黄色い炎が付き、何かが書かれている巨大な壁面が露わになる。

 そして、奥の方には大きな祭壇があり、そこに、少年が鎮座していた。


「漸く来たか」

「……何者だ」


 少年は祭壇を下りて、僕達の方へと歩き始める。

 リーゼさんは背の大剣に手を伸ばし、僕も小剣を取り出す。

 見た目はただの子供なのに、鳥肌が立つ。油断してはいけない。そう、警鐘がなるように、心臓がバクバクと早くなる。


『––––様こんにちは〜』

「ファイ。久しいな。そうか、君はグロースと契約していたのか」

「ファイ!?」


 知り合いなのか!?というか僕名乗ってないよな!?


『グロース〜、––––様だよ。土の大精霊様』

「土の大精霊!?」

「何!?この子供が?」

「確かに、なんだか恐れ多いような、そんな気配はするな」

「大精霊……!本物なのか、凄いな」


 土の大精霊は、薄く笑みを浮かべつつ、僕を指差す。


「さて、グロース。お前達は試練を受けに来たのであろう?」

「試験?」

「あぁ。その娘の記憶を戻す為の試験と、お前の記憶を戻す為の試験だ」

「試験が必要なのか……」


 うん?今なんかおかしく無かったか?


「僕の記憶……?」

「あぁ」


 土の大精霊は頷き、手を掲げ、魔法陣を展開した。陣数は五。


「何をするつもりだ……!!」

「なに、試験を突破できていない人間に、態々話をする必要もないと思ってな。試験を開始するぞ」


 展開された魔法陣から、見上げるくらい巨大な岩のゴーレムと、その周りに小石が群体と化して、浮遊している謎の魔物が四体出現した。


「お前達に化す試練は、精霊の力を借りずに、此奴らの相手をしながら、我を傷付ける事だ。簡単だろう?」


 簡単な訳あるかよ!!なんだこの巨大なゴーレム!!腕の太さが僕の身長とおんなじくらいあるぞ……!あんなの食らったらひとたまりもない。しかも、精霊の力を借りずに?ファイもダメって事じゃないのか!?


『グロース!リーゼが!!』


 え?と、振り向けば、大剣を地に落として、唖然としているリーゼさんがいた。しかも、立っているだけでも辛そうにしている。


「リーゼさん!?」

「なんだ……身体が、重たい……ッ!」


 ガシャッと音を立ててその場に崩れ落ちるリーゼさんを見て、土の大精霊がニヤリと笑う。


「精霊に強化魔法を常に補助をさせていたようだからな。それが無くなったらただの小娘同様。グロース以下だ」

「ちょっとその言い方酷くありませんか!?」


 色々な意味で!!


「ふむ。軽口を叩く余裕があるのなら、問題なさそうだな。……やれ」


 土の大精霊が腕を振り下ろしたと同時に、多数の石礫が飛来する。


「アクセル!!」


 急加速をしながら、リーゼさんの元まで下がり、石礫を弾く。


「グロース、私の事はいい。精霊を倒しに行け!」

「それじゃあ、リーゼさんが!」

「今の私達は、土属性の魔法に多少耐性があるのだろう。多少は耐えられるさ。このまま二人ともやられるのはまずい!だから、行け!」

「……はい!」

「セイラン!援護してやれ!」

「キュキュウ!!」


 僕は小剣を構え、弾幕の薄い所に向かって走り出す。この小石を防ぐのは致命傷になる部分だけで良い。


「キューキュ!」


 セイランの有幻が二体出現し、壁の様に並走してくれる。


「有能すぎだろ……!」


 思わずこんな状況なのに笑みが浮かぶ。


 あぁ楽しい。ピンチだ。冒険だ。今僕は冒険家になっている!


「あは、あはは!」

「邪魔だな」


 石礫の雨が、僕からセイランへと標的を変えた様に、放たれる。

 そしてここまで静かだったミスケルさんが、スクロールを展開して、魔法を発動させた。


「デザートウォール!!」


 ドシャア!と音を立てながら盛り上がる砂の壁が、石礫を見事に防いでセイランの逃走を補助し、僕はその隙にゴーレムと相対する。


「ここまで来て、ただのデカブツに負けてたまるか!!イグニィス!!」


 二陣の火属性補助魔法。イグニスを、僕はファイの援護なしに使い、徐々に加速しながら、ゴーレムの拳を避け、股下を潜り抜けながら、土の大精霊へ向かってなりふり構わず駆け出した。


 到達まで大凡十秒の距離だ。ゴーレムはもう僕に追いつけない。石礫も大した威力ではない。勝てる。


「うぉおおおおおお!!」


 小剣を振り上げつつ、アクセルを展開、更に速く、僕の動体視力の限界まで速くなった視界の両端でむくりと起き上がる岩の人形。


「––––!」


 ニヤリと笑う土の大精霊。その顔はどう防ぐ?と言わんばかりだ。

 僕の答えはこうだ。


「アクセル!!」


 イグニスと、アクセルを併用中に、更にアクセルを重ね掛けし、有り得ない速度を一時的に実現させ、両サイドから襲ってきたロックパペットを置いてけぼりにして、瞬時に土の大精霊まで到達する。


「ほう?」

「終わりだぁ!!」

「まさか」

「––––え?」


 最短距離、一番速く到達できる刺突を繰り出した僕は、予想だにしないものを食らって大きく吹き飛ばされる。


 土の大精霊は、魔法陣を展開させ、破城槌のような岩の柱が僕の腹部を直撃した。


「こんなの……!」

「グロース!!」


 一瞬真っ白になった思考に、リーゼさんの焦りを含んだ声が聞こえ振り向けば、背後にゴーレムが迫っていた。


「アクセ……!」


 と、加速魔法を展開しようとしたら、身体に恐ろしい程の痛みが走り、鉛をつけたように重くなった。


「あっ」


 ゴーレムの大きな手につかまれ、リーゼさん達の方まで投げ飛ばされる。僕は受け身を取ることもできず、地面へ叩きつけられ、ゴロゴロと転がる。


「グロース……!」

「な……がふっ……り、ぜさん、ダメだよ」


 リーゼさんはあろうことか、軽鎧を脱ぎ、インナーのみの姿で大剣を持ち、壁のようにして飛来する石礫を防ぎながら近づいて来る。当然、そんなので、防ぎ切れる訳がなく、腕や足へ切り傷が増えていく。


「おいおいおい!」


 次いでミスケルさんが前までやってきて、バックパックからゴブリンダンジョンで得た緑色の液体の入った入れ物をとりだし、僕の口元へ持ってきた。


「飲め!」

「……んく、ん……ぐぁあああ!」


 痛い。痛い痛い痛い!身体が焼けていくように、お腹から外へ向けて痛みが広がっていく。


「なにを飲ませた!?」

「ぐぅうううう……!」

「ポーションだ。遺跡の宝箱から稀に出る、傷薬みたいなもんだ。だが、二つデメリットがあってな、体の限界を超えて急速に傷を治すから、こんな風に身体が痛む。そして、怪我の度合いによっちゃ時間がかかり過ぎるんだわ。すまん、グロッ––––」


 次回の端で、頭にスコーンとギャグの様に石礫の直撃を受けて白目を剥いて倒れるミスケルさん。


「……う、ぁ……」

「グロース、頑張ってくれ……!」

「キュキュ!」


 セイランが身体を輝かせ、大きな大きな、有幻を出現させた。青色の、ゴーレムだ。


『キュキューウ!』


 ちょっといつもより野太い声を上げて、石礫を発生させている魔物へ殴りかかっていった。それにより飛来する石礫が減り、回復する側から怪我をするという状態にはならなそうだ。


『––––様!なんで手伝ったらいけないの!?僕はグロースの契約精霊なんだよ!?』

「駄目だ。そういう契約を、俺もしているのだからな」

『誰と!?』

「それは教えられん」


 そんな会話がなんとなく聞こえて来る。まさかリーゼさんだけでなく、僕まで記憶喪失になっていたとは思わなかった。


 ともかく、更に負けられなくなったわけだ。


「リーゼさん。そろそろ、大丈夫です」


 前で石礫を受け続けてくれているリーゼさんに声を掛けて、立ち上がる。


「グロース……すまない」

「いえ、いつも助けられてますから。今もね」


 身体の痛みはまだ引かない。怪我的な物ではなく、度重なる加速魔法の反動だろうなと他人事の様に考える。


「はーぁ……」


 倒れているミスケルさんはもう無理そうだし、リーゼさんは戦闘は出来ない。精霊が相手な時点で、リーゼさんがこうなる事を予想できなかったのは僕のミスだ。


 相手は大精霊。先程は何も考えず、直感で走り過ぎたんだ。二手三手じゃ足りない。凡ゆる可能性を模索して、剣を届かせる事だけを考える。


「グロース?」

「大丈夫。大丈夫です」


 前で、敵の攻撃を一身に引き受けてくれているセイランを見て、歯を食い縛り、頬叩いて気合を入れる。


「行きます!!」


 用意する魔法はイグニス。まずはセイランの所まで到達しなければ。


 再び、つまらなそうに僕達をみる土の大精霊に向かって駆け出す。別に、精霊の力がないと、強化ができないわけではないんだ。

 普段魔法を使うときみたいに、意識をする。身体にマナを集め、浸透させる。

 なんとなく既視感を感じる……なんでなんだろうな。無くしている記憶に何か関係があるのかな。

 とりあえず今は、


「セイラン!!」

『キュウ!』


 石礫を発生させる魔物を二体くらい破砕させたセイランへ声をかけ、すぐに理解したセイランは跳躍、有幻を解いて、僕の肩へ乗る。


「ありがとう!」

「キュキュ!」


 心配そうに土の大精霊の隣でファイが僕を見ている。大丈夫だよ、気にすんな。


『グロースゥ……』

「あはっ!」


 いつになくしおらしいファイを見て思わず笑ってしまう。


「やれる。やれるやれるやれる!行くぞぉ!!」


 奥にいる土の大精霊は、ここまで来てみろと言い放ち、両手に魔法陣を展開した。


「何が来るにしても、まずは走るよ!!」

「キュ!」


 駆ける。出来るだけ身を低く、少し間違えば、転んでしまうくらいに。被弾を少なくしながら、ゴーレムの手前へ到達する。


「さっきはよくもやってくれたなぁ!!」


 ぶぉん!!と目の前を通過するゴーレムの右腕。その速度を覚え、再度くる左腕の殴打を右端を駆け抜けながら通り、ゴーレムの背を見れば、ロックパペットと同様に魔石が付いているのが見える。


「イグニス!!」


 ここで用意していたイグニスを発動。両手足に展開される炎を全て、右手の小剣へ集中させる。擬似魔法剣の完成だ。

 そして、振り向きざまに繰り出された右腕をギリギリで跳躍して避け、それを踏み台に更に跳躍。


「くらええええ!!」


 首と背中の間くらいに付いている魔石へ向かって炎に包まれた小剣を振り下ろす。

 次いでバリっと音を立ててヒビが入り崩れていくゴーレムを蹴り降りる。


「っと」


 そこにロックパペットが、二体こちらへ向かって駆け出して来る。当然先ほどの魔法の対処はして来るだろうけど、今度はセイランがいる。


「キュキュ!」


 セイランは僕の肩から飛び降り、ロックパペットの方へ走りながら、再び有幻でゴーレムへ変身する。


「いっけぇ!!」


 ロックパペットは太く青い右腕に吹き飛ばされ、僕はセイランゴーレムの背を駆け上がり、頭上から飛来したロックパペットを迎え撃つ。


「ほぉ」


 感心した様な声を出す土の大精霊を視界に捉えつつも、ロックパペットを蹴り飛ばし、セイランゴーレムの背から降りる。

 セイランに後のロックパペットの対処を任せて、土の大精霊へ、身体を向ける。


 距離は前回と同じくして、走って十秒程。周囲には奴以外の姿は確認できない。寸前の所で召喚される可能性もあるから、油断はできないが、今は距離を詰める。


「今度は届くかな?」

「届かせるに決まってるだろ!!」


 両手に、魔法陣を展開する。初めての試みだ。片方はファイアーボール。片方はファイアだ。


 イグニスの効果時間が終わる前に到達しなければならない。


 駆ける。今までで一番長い十秒になりそうだ。


「––––ッ!」


 僕の眼前から、岩の棘が勢いよく射出され、半身になって跳び、転がりながらまた前へ走る。


 前へ、前へ。沢山の魔法陣が展開され、雨の様に石礫が撃ち出されるが、石礫なんぞ、今更痛くはないわ!


「これはどうだ?」


 正面を迫り上がる岩壁。岩壁が上がり切る前に、跳び越える。残りの距離は三秒程。

 最後まで油断はしない。相手の一挙手一投足、見逃さない。


「ファイア!!」


 土の大精霊が魔法陣を展開。先程ちゃんとには見えてなかったが、陣は三陣。それに合わせて、大きく広がる様に炎を展開。目眩しに。すぐに打ち出された石柱は、僕の真左を通過し、左腕を少し削った。痛みを堪えながら、左手を前へ、


「ファイアー!ボール!!」


 普段より、速さを重視した炎弾を射出。次いで、小剣を投げ付ける。


「おっと」


 土の大精霊は、炎弾を石弾で撃ち落とし、小剣を辛うじて避け、ニヤリと笑った。


「残念––––!?」


 そして、その顔が驚愕に変わると同時に、奴の鼻へ切り傷が刻まれた。


「どこから……」

「僕のリュックも一応魔道具でね。予備の剣を入れてるんだ」

「……俺の負け、か」

「……僕達の、勝ちだ」


 気を抜いた途端に、全身へ激痛が走り、余りの痛みに気が遠くなる。


『グロース!!』

「……ファイ、」


 勝ったぞ。



 


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