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28話 僕と魔拳士





「それで、なんでここに居るんだよ」


 とりあえずミスケルさんの案内をルーズとリーゼさんに任して、当然の事のようにいるゼミスに問う。


「いやぁ。ここ私の家だし?」


 ニヤケるなムカつくだろう。


「いや、それはそうなんだけどさ。いや、家の事とか、色々有り難かったけどさ。来るなら、一緒に来ればよかったのにと思ってさ」


 といえば、大きなため息をつかれる。なんだってのさ。


「本当は来る予定はなかったんだけどね、リィがグロース君が心配過ぎて、一日過ぎたあたりで既に精神不安定になっててね。君も君で、手紙も出してこないもんだから、まー心配しちゃって仕方ないって状態で。一日毎にギルド役員から呼び出されてなだめに行かされるんだよ?」


 参ったよと言いながら両手を上げるゼミス。それはちょっと申し訳ない。


「そんなわけだから、休暇届け出して、逃げてきました!イェーイ!」


 両手でブイサインをしながら、万歳。そんなに嫌だったのかよ。


「だってリィ、ちびっ子二人がいない時ずっとしかめっ面だからさぁ。ちょっと怖くってさぁ。アジャス君に全部投げちゃった」

「……」


 アジャスさん……。南無三。


「あー。あとアンリ君。伝言を頼まれたんだ」

「アンリから?」

「そそ。もう少し一緒にいたいから、もう少しだけ待ってくれってさ。まだ一週間も経ってないんだから、ゆっくりしてればいいって言っといたよ」

「あー。そうだな。それはゆっくりしててくれていいよ。それなら母さんも寂しくない……」


 わけではないんだよなぁ。寂しいから、ゼミスが被害を被ってるわけだし。それは本当に申し訳ない。


「まぁ別に良いんだよ。元パーティメンバーっていう仲だし。溜まりに溜まった休暇を偶には使おうという気にもなったし」

「というかお前はいつも休暇みたいなもんじゃないか」

「そうだねぇ」


 ゼミスは膝に置いていた本を閉じると、階段の端へ置いて、下の方へ降りていく。


「まぁ、ついておいでよ。ファイも一緒にね」

『呼んだ?』

「呼んだ呼んだ。グロースと一緒に降りておいで」

『はーい』

「何する気だよ……一応遺跡から戻ってこれたばっかで疲れてるんだけど……」

「ええーつれない。つれないなぁ」


 と言いながら、手には翠色の魔法陣を展開。陣数は一。


「おい、何を––––」

「君に拒否権はありませーん。試験場へご招たーい」


 ブワァッと風が吹き、僕の身体が浮き上がる。絶妙な風加減で椅子に座ってるかのような状態のまま階下へと連れて行かれ、試験場に入った時点でドスンと落とされる。


「うぉ!地味に痛い……何すんだよ」

「いやさ、ここ一応魔力を使った訓練に、最適化してあるんだけど、君がどれくらい強くなったのかなって、興味が出てね。ガンズを出るまではポンコツって言っても問題ないくらい弱かったはずなんだけど……銀級になれる程度には、ここで訓練出来たみたいだし」

「ポンコツ……。否定はしないけどさ……そういえば、ゼミスってソーズのギルドマスターの師匠だって聞いたけど?魔剣なんて使えたなら、僕にも教えてくれても良いのに」

「えーやだよ。君には魔拳使いの素質はないし」


 え、凄い嫌がられたんだけど。一応剣士なんだけど僕。魔剣使いの素質そんなに無い?


「うん。今見ても無さそうだ。いやでも、なる必要は無いと思うけどね。剣が使えるわけだし。ささ。早くやろう。偶には私も運動しないと動けなくなっちゃうからね」


 ゼミスは両手を振りながら、力を抜き、棒立ちのまま僕を見る。


「無手でやるつもりかよ……そんなにポンコツかな……」

「うん?……なんか行き違いがある気が……」

「怪我しても、怒るなよ!!」


 そのニヤケ面……僕だって悔しいって気持ちはあるんだからな!!


『おおー!グロースやる気ぃ!』


 ファイはアクセルを用意して!やるよ!!


『了解〜!』


 ここならアクセルは四回まで使えるし、あと二陣もあの遺跡で手に入れた小剣を使えば使えるようになったからな。


「いくぞぉ!!」

「まぁいいか。おいで」


 まず僕は長剣を抜き、最初から全速力で袈裟斬りに斬りかかった。




––リーゼ視点––


 


 ミスケル殿の案内を終え、グロース達を探していたら、試験場で何か始まっていた。珍しく彼が少しイライラしているように見える。本当に珍しい。


「いくぞぉ!」

「まぁいいか。おいで」


 グロースは、ゼミス殿に向かって袈裟斬りに連続で斬りつけていくが、当たる寸前に身を逸らし、一太刀も掠る事なく避けられ続けている。グロースは急に剣の軌道を変え、横に薙ぐが、それも軽く下がる事で避けられてしまう。

 その瞬間、グロースの剣が加速し、ありえない速度で切り返される。だがそれをあろう事か、ゼミスは両掌で挟み、勢いがつく手前で止めてしまう。


「なん!?」

「手を止めてて良いのかな?」


 ゼミス殿は手で挟んだ剣を左横の方へ引き流し、素早くグロースの脇腹を蹴り飛ばす。


「ぐぁっ!」


 無防備な状態で脇腹を蹴飛ばされたグロースは痛みに歯を食いしばりながら、体勢を整えようとゼミス殿から距離を取るが、ゼミス殿は息つく暇も与えず、長い髪を靡かせながら接近し、掌底を放つ。


「アクセル!!」

「おっと」


 掌底が腹部を突く瞬間、グロースは加速し、長剣の腹でそれを防ぎ、更に下がると、長剣を一度仕舞い、遺跡で手に入れた小剣を取りだして、構え直す。


「おや……」


 いつも彼が展開するのは陣が一つのみの、初級魔法だが、今少しだけゼミス殿から驚嘆の声を引き出したのは、彼が二陣の火属性魔法を展開したからだ。


「ファイ!頼む!!」


 そして、彼の頭上にも、同じような魔法陣が出現し、くるくると回っている。


「それは––––」

『「イグニス!!」』


 彼の手足へ、炎が纏わり付き、アクセルと同様以上の速度を発揮し、小剣を右へ左へ、連続で斬りつけていく。その間も加速し続け、火の粉が舞う。


「中級魔法じゃないか!!」

「くっそ嬉しそうにしやがって!!」


 その加速魔法を持ってしても、ゼミス殿には当たらない。当てられない。最小限の動きで避け、逸らし、彼が焦りを見せた瞬間、グロースが先程展開した魔法陣を、ゼミスが展開する。


「イグニス」

「そういや、使えたよなぁ!!」

「誰が教えたと思ってるんだい」


 本来ならグロースのように、両手足に纏われる筈の炎が、両手のみに集中する。


「行くよ!」

「くぅっ」


 私が瞬きをした瞬間、攻勢が入れ替わる。繰り返される炎の連打をグロースは必死に避け、斬りつける隙を探すも見つけられず、ただ受けるだけになってしまっている。


「ほらほら!足下が疎かになってるよ!」

「うわぁっ!」


 ゼミス殿が左足で、彼の足を引っ掛けて、彼が綺麗に転倒しかけるが、グイッと何かに引っ張られて、体勢を立て直す事に成功する。


「助かった!」

「良い仕事するね」


 だが、彼の両手足の炎が収縮し、消えてしまうと、ガクンと両膝をつき動かなくなってしまうグロース。


「っは……」

「あーアクセルとは比にならないからねー。残念」


 そう言って炎の拳が彼に向かって振り下ろされたと思ったら、


「––––」

「おや、やりすぎたかな?」


 勝手に身体が動き、その拳を大剣の鞘で受け止めていた。


「っ……リ、ゼさ……?」

「その一撃を当てる必要はあるのか?」

「うーん、あんまりかな。ただ使った事ない魔法をいきなり使うと危ないよって事を身に染み込ませた方が良いかなってさ」

「それは私が教えるので、大丈夫です」


 言い返せば、グッと彼は拳に力を込め、大剣を強く押す。


「別に、ちゃんとできるなら良いんだけどね……」

「な、情けないのはわかってるから、リーゼさんを責めないでほしいんだけ、ど!」


 そう言いながら、彼は勢いをつけて立ち上がり、私の大剣と、ゼミス殿の拳を引き離した。


「一応釘を刺しておこうかと思っててね。冒険家を名乗る人間は結構早死にしやすいから。君が死んだら私は悲しいし、リィも悲しむ」

「うん。それはありがとう。ちゃんと心に刻んでおくよ」

「ちゃんと覚えておけるかい?心配だなぁ。グロースは楽しくなっちゃうと色々な注意がポーンって飛んでっちゃいそうだからね」

「飛ばないよ!!」


 なんだか凄い、子供扱いされているように見える。いや、実際そうなのだろうが。それに指摘もあながち間違いではないから、私も気にかけておこう。


「というか、結局擦り傷も付けられなかったんだけど、これでお前、剣使ってたらどんだけ強かったんだ?」

「いや、私は剣はそこまで使えないよ?まぁ、グロースよりは強いだろうけど」

「うん??」

「君、魔剣士と魔拳士を間違えてるんだよ。確かに音は一緒だけど、帯剣してないやつで、マケンシって名乗る奴は魔拳士で、帯剣してる奴は魔剣士なのさ。わかる?」


 あ、あぁーというちょっとアホっぽい声を上げて、漸く納得するグロース。


「え、じゃあ僕割と理不尽な感じでイライラしてたんだね、ごめん」

「まぁ、途中わかってても煽ってたし。良いよ。まさか、武器の補正があるにせよ、二陣の中級魔法を使えるとは思ってなかったし……まぁ、銀級レベルの力量はあるね」

「お、おう。ありがとう」


 とやり取りを眺めていたら、今度は私の方を見るゼミス殿。


「で。君の方は何か進展はあったかい?リーゼ」

「目的の遺跡にもまだ入っていないから、あまりないが、大剣以外の武具も一通り使える事と、私自身はよくわからないのだが、戦闘中、私の髪の色が少し変わるという謎が増えたな」

「おぉー。謎だね!!」

「ゼミス殿なら何かわかるかと思ったんだが……そうか」


 すまないねとゼミス殿は少し申し訳なさそうに笑うと、パンっと手を叩き、一度終わりにして昼食にしようと提案をするので、私達は頷いて上階へと戻る事にした。



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