26話 僕達と宝と魔法の鞄
元気に……ナタヨ。
多分、戦った時間は長くはなかったと思う。成り行きだったけど、遺跡のボスを倒す事ができたのが嬉しくて。使った事のない魔法が使えたのも嬉しくて。冒険家らしい冒険ができて、心が震えた。前で倒れているボスゴブリンを見ても、実感がわかず、未だに心臓がバクバクしている。
リーゼさんはボスゴブリンから剣を抜いて、少し離れた所に座っている。セイランがその周りをちょこちょこと動いていて微笑ましい。
「おーう、お疲れ、坊主。大丈夫……そうだな?」
ミスケルさんが、ボーッと突っ立っている僕の背を叩き、僕を見る。
「大丈夫です……。ちょっとびっくりしてまして。ええ……」
『グロース!勝ったんだよ!もっと喜ばないの!?』
喜んでるよ!!喜びすぎて、喜び方がわかんなくなってるんだこれ。ともかく、リーゼさんのところに行きたい。
「リーゼさん」
「グロース」
「お疲れ様です」
リーゼさんは、乱れた髪をかきあげながら、少しだけ口角を上げて笑う。
「あぁ。お疲れ様」
あまり言葉は出ない。上から目線なのがちょっと嫌なので、正面に胡座で座る。
「…………」
「……?」
というか何話して良いかわからなくなってしまった。やばい。あ、そうだ。
「あ、えっと、そういえば、さっき全力で行くって言ってた時に、リーゼさん光ってたというか、ほんのり光を帯びてた気がするんですけど、なんかそういう技能を使ってたんですか?」
「うん……?いや、よくわからないが」
「気のせいかなぁ……」
でも髪も何となく明るくなってた気がするんだよなぁ。
「うーん」
「気のせいじゃなかろう。ワシも見た限り、光を纏っていたように見えたぞ」
「やっぱり!?」
「そうなのか?」
リーゼさんは完全に無意識なのか。
『多分、強化に使われたマナが可視化してただけだと思うよ?前にゼミスが精霊魔法使ったときも、マナの流れが見えたでしょ?あれみたいな感じだよ』
あー。あれか。納得。
ファイから教えてもらった事を二人に説明するが、ミスケルさんが疑問の声をあげる。
「髪の色とかも変わっていた様に見えたんだが、それもマナでか?」
『うーん……わかんない』
「わかんないそうです」
「わかんないのかい」
『わかんないのはわかんないもん!』
「これも……記憶が戻ればわかるのだろうか……」
「嬢ちゃん記憶喪失なのか!?」
「あ、あぁ」
すんごいびっくりするミスケルさん。
「記憶ないのに、あれだけ動けるのか。凄いな嬢ちゃん。本当にワシと同じ金級か?」
「え。ミスケルさん金級なんですか!?」
「おうとも。ちゃんと冒険者してんだぜ。まぁ、本業はバックパッカーだがな」
寧ろバックパッカーしてるのに金級になれてるのか。凄いな。
「というか、宝箱漁らねぇのか?」
「え?」
ミスケルさんが指差す方、僕らが入ってきた入り口のちょっと前あたりに台座と、大きな宝箱が出現していた。
いつの間に。
「リーゼさん!!宝箱です!!」
「あ、あぁ。わかった。わかったから引っ張るんじゃない」
何でそんな冷静なんですか!!!宝箱ですよ!!
「一応罠とか確認しろよ。ボス倒したのに罠掛かってる宝箱とかたまに出現するからな」
「そうなんですか!?」
「そうだよ」
「うーん……」
鍵は掛かってなさそう。開けたい。
「というか坊主、シーフなのか剣士なのかそれとも精霊使いなのかよくわからんのだが、お前さん何になりたいんだ?」
「ええ……?えっと、一応剣士のつもりですけど……」
「その割には斥候の真似事と、精霊とも契約して魔法も使ってるが。二陣までちゃんと調べてある辺り、不思議だなと思っただけだ」
「まぁ、リーゼさんと会うまでは一人で行動してたので……。魔法については勝手に教えてくるエルフがいたので」
聞いてもいないのに隣で延々と魔法について語ってくる本の魔物がな!!
とりあえず開けようとしても魔法陣が広がったり、変な物が出てきそうな予兆が無かったので、ゆっくり……しかも後ろから上部分の両サイドを持って開ける。リーゼさん達に凄い変な顔されてる気がする。
「ど、どうですか?」
「何もなさそうだ。ほら、早く手ぇ突っ込め。宝箱消えても知らねぇぞ」
手を突っ込む?
「何変な顔してんだ。遺跡の宝箱触った事ないのか??」
「えっと……僕の知ってる遺跡ではあんまり……」
というか見た目が違う。こんな立派な見た目してない。
中を見れば……暗い。暗いというか闇。何にも見えない。
「何これ……遺跡の入り口みたいですね……」
「突っ込むのは手だけにしておけよ。万が一落ちたら戻ってこれないからな」
「ヒィッ!?」
思わず、宝箱から離れる。どういう事さ!!
「どういう状態かはよくわからん。そもそも何もない所から宝箱が出てくる時点で謎だしな。というかほら、早く突っ込め。ホントに消えちまうぞ」
「は、はい」
宝箱の暗闇に向かって手を突き入れる。スッと入った手先はほんのり冷え、ただただ、不気味だ。
「これで……?」
「適当に探ってみろ。それらしい働きをした者に出るらしいから、多分何か貰えるだろう」
あ、ちゃんとそういうのがあるんだ。遺跡って謎だなぁ。
適当に掻いていると、何か硬いものに触れる。棒っぽい。
「なんだろ……」
スッと手を引くと、刃渡りが短く、火の魔石が柄に埋め込まれた小剣が取り出せた。
「お、おぉー」
詳しい事は調べてみないとわからないけど、なんか強そう。
「次は嬢ちゃんだ。とりあえずパーティメンバーは全員しっかり宝箱を探る事は忘れるな」
「あぁ」
リーゼさんは臆すことなく手を入れて、宝箱内部を掻き回す。
「……ん」
何かを見つけたのか、リーゼさんは手を引く。出てきた物は、両刃の大剣。元々持っていた物よりやや大きい様に感じる。だが、何か特殊な物があるようには見えない。
「普通そうだな。ワシもそんなに参戦してないが、一応探させてもらおうか」
次いでミスケルさんが宝箱に手を入れるが……。
「お、当たりだ」
ミスケルさんが取り出したのは、緑色の半透明な液体の入った小瓶。
「透明な器だ……」
「お、やっぱり気になるよな」
中身も気になるけど……。材質とかも気になる。というか良い値段で売れそう。
「触らせてやるから、ちょっと待て。宝箱が消えてないってこたぁ、他にも取れるやつがいるって事だ。多分……嬢ちゃんと一緒にいる小さいのだな」
「セイランにも??」
「そいつを落とさないように、宝箱にいれてやれ」
「あ、あぁ。セイラン、入れるから、掌に……」
「キュキュ」
大丈夫だよ!とばかりに首を振り、光に包まれるセイラン。そして出現するのはこの間見せた少年の姿。
「ぬおおおおう!?」
「キュ!」
明らかに姿は人なのに、ネズミの時の声で手を挙げるセイラン。ミスケルさんは今日一番の驚きを見せて尻餅をついた。
「な、な、何もんだこのネズミ!?」
「キュッキュキュー」
セイランでーす。みたいな。ポージングをとってから、宝箱に手を入れる。
セイランはすぐに手を戻し、魔石のようなものを口に入れた。
「食べた!?」
「コラッ!何を食べた!セイラン!吐き出せ!」
ギョッとしたリーゼさんに両脇を持たれて抱き上げられるセイラン。無理無理無理!みたいな感じで首を振る。
セイランは変身を解き、元のネズミの姿になって逃げ回る。
「全く……危ない物だったらどうする気だ」
「まぁまぁ……」
「何もなさそうだが……」
「キュ!!」
セイランがひと鳴きすると、宝箱が薄くなり消えていく。本当に消えてる……。
「こんな感じで、遺跡の中で発生した物は生き物でなんであれ、遺跡の中で消えていくわけだな。死体もそうだ。ほれ、下に降りる階段が現れたぞ」
「ま、まぁ今回は安全地帯を探す名目でしたし、このままで、また今度来れたら入りましょう?」
「そうだな。帰りもある事だし、今日はこの部屋にいるとするか。ただボスゴブリンを処理してからにしようか。使える物はワシが回収しておこう。そんなにないが。腐る前には勝手に消失するから、臭いはそんなに気にする必要はない」
そう言ったミスケルさんはテキパキと解体用具をバックから取り出し、ボスゴブリンの目を器用にくり抜いていく。眼ってなんか使えるのかな?
「眼が良かったからな。錬金術の材料になりそうでな。ボスゴブリンの討伐確認はゴブリンと同じく耳で出来る。ほれ、これはお前さんらが持ってな」
「あ、ありがとうございます」
「しかしまぁ、強い個体だったな。ディレクトルでもゴブリンの出る遺跡はあったが、ゴブリンに毛が生えたようなもんだったからな」
「そうなんですね」
オーガより強かった気がするしね。
他愛ない話をしながら暫くして、解体を終えたミスケルさんが息を吐いて、木の椅子を出して座る。
「大体こんなもんだな。あとは、階段と入り口が見える位置にテントを設置しよう」
「はい」
ミスケルさんが両手をバックに突っ込むと、どうやって入ってたのか意味のわからないくらい大きな丸みを帯びたテントが取り出され、そのまま置かれた。違う。僕の知ってる道具の取り出し方と違う。容量どうなってるんだ!?
「顔。クク……その顔よ。大丈夫だ、坊主の常識は間違ってないぞ。これは超レア物。容量の上限が未だわかっていない、大容量バックだ。物を入れようと思えば大きさは問わず勝手に入るし、出そうとすればまた出てくるし。恐らくだが……そこのボスゴブリンもまとめて入るぞ」
「うへぇ……よく盗まれたりしませんね」
「あー、確かにあったが、これはワシ専用なんで、他の人間には持てないらしい。遺跡の宝箱から、ごくたまにこう言った物が出る。どうしてかワシもわからんがな」
「持ってみても?」
「おうとも」
恐る恐る、バックを受け取ると、あまりの重さに勢いよく手が下がる。
「グェッ!」
ゴブリンが潰れたみたいな声出たんだけど。おっっっっも!!!
「所持者以外がもつとそうなるみたいでな、これを持っていこうとした盗人達は、当時のワシの仲間に殲滅され、噂が広まり襲撃される事はかなり減ったな」
「それでも襲撃は終わらなかったんですか?」
「まぁディレクトルは貴族の強い国だからな。頭の悪い奴がチラホラ来たんだわ。それもちょいとしたら、粛清にあったらしく無くなったがな。そしたら今度は暗殺されそうになったりして、あの国の王は頑張り過ぎなんじゃねぇかと思うわ」
「へー……」
ディレクトルかー。僕もそんなに何か知ってるわけじゃないけど、凄く良い国らしい事は本に載ってたな。
「さて。テントも設置した事だし、しばらくゆったりするとしようか」
「ですねぇ……」
朝からずっと動き続けてた気がして、凄く疲れた。寝そう……。
「最初の見張りはワシがしよう。寝てて良いぞ」
「ほんと、ですか……すみません、よろしく、お願いします」
「おう。嬢ちゃんも休んでていいぞ」
「そうですか……。お気遣い感謝します」
僕は眠気に飲まれそうになりながら、テントの中へ。その瞬間ミスケルさんがニヤリと笑い、何かあるのかと思ったけど、眠気がすごくてそのままテントに入ると、その強かった眠気を吹き飛ばすくらいの衝撃に襲われる。
「え゛……広……」
「どうしたグロース。そんな入り口でとまっ……て?」
僕とリーゼさんはテント内のあまりの広さに硬直。外からミスケルさんの笑い声が聞こえる。
「なんですかこれ!!!!」
今日一日何回驚かされてるのか。テント内は僕の家のリビングより遥かに広く、六人ぐらいで囲んで座れる焦げ茶の長机と、三人ぐらいで座れそうな茶色いソファがあり、ほんのり暖かい。
「凄いだろ!!これもワシ専用のテントだ!!」
「こりゃお貴族様にも狙われますよね!!」
こんなの聞いた事も見た事もないよ!!
「因みにワシがいたパーティはワシ含め五人組だったが、ワシ以外皆黒金級だからな?」
「は、はぁ!?」
あまりの情報量に僕の頭がそれを受け入れられない。黒金級って大概の冒険者の最終到達点って言われてるはずなんだけど、それが四人……!?あれ、ちょっと聞いたことある気がする。
「そ、それって、盾使い一人と、弓使い一人と、魔法使い兼剣士が二人のパーティじゃないですか?」
「お!知ってんのか。ディレクトル随一の冒険家パーティって言われてたんだが……」
「知ってます……!」
冒険者だったら多分あんまりわからなかったけど、こと冒険家なら、ディレクトル挟んで大陸真反対にあるヘルズニアのことだって調べ上げてる。
「冒険者パーティ、アトラクト。リーダーが盾使いなのがまず有名で、弓使いの方が斥候も兼任していて、魔法使い兼剣士の二人が、パーティの強化を行いつつトリッキーに動き回る双子だって話なら」
「そうそう。そのパーティにひっそりいたのがワシだ!!ワシ自身には大した戦闘技能とないからな。寧ろ有名になって、これらを狙う奴が増えても困るから、出来る限り影に徹してたわけだ」
「そうなんですか……」
まさかそんなパーティに所属していたとはいざ知らず。凄いな……。
「さて。話の続きは明日してやるから、さっさと寝な。そこ、ソファの横に扉があるだろ。そこが寝室になってる」
「しんしつ」
「あぁ」
確かになんか扉あるなと思ってたけど!!なんでテントの中に部屋が二つあるの!!!!意味がわからないよ。
ただ、さすがに本当に疲れてたのか、眠気はまたすぐにやってきて、やたらと大きなベッドに身を投げた。




