23話 僕と騎士様と救出作戦
「はーご馳走さま〜。ルーズの料理って本当に美味しいよねー」
「料理つっても、昨日の晩ご飯の残りを味変しただけだけどな」
「それでも美味なものは美味だ」
「なンだ。褒めても大したもンはでンぞ」
因みに昨日はモルモルの乳で作ったシチューだった。美味しかったです。
「それで、今日はどうしますか?ギルドに行く予定を変更して、僕の特訓をするって話になってた気がしますけど」
「うむ。私も今日は別段外に出る必要は無いと思っている。雇える斥候職の人間や、バックパッカーが来たら連絡してくれるようだしな」
「それじゃあ、下に戻って特訓ですか?」
「それでもいいが、今日は外に出ようかと思う。君が予想以上に動けるようになったからな。ただ、遺跡に入る事はせず、周りの魔物を狩る形にしよう」
「了解です!」
話が決まれば、後は装備を持って出るだけ……というところでルーズから声を掛けられる。
「あーグロースはそのまンまでいいと思うが、リーゼはいつもの騎士装備は固過ぎると思うぜ。ンなわけで、これよ」
「うん?」
ドスっと重い音をたたせて置かれたのは、赤い炎のような意匠のある金属鎧。
「とりあえず着てみてくれ」
「うむ」
ルーズが指を鳴らせば、リーゼさんの服装が早変わり。リーゼさんがいつも着ている鎧より幾分細く、胸部は守られているが、腹部は布のみ。両肩も守られているが、脇や関節の部分も布になっている。兜は無し。
「こいつぁ、デミフレイムドラゴンっつー魚型の魔物から作られた鎧でな。布の部分はその皮だ。伸縮性抜群で打撃に対しては鉄より強い。胸元や、肩の鎧はそいつの鱗で作られている。まぁ、ここの宝物庫にある鎧では中々良い代物なンだわ」
「動きやすいな……体の動きを阻害しない」
「お前さんの使ってた鎧も中々のもンだが、森で戦うならこれの方が戦いやすいだろ」
「確かに。気遣いに感謝する」
「なぁに。良いってことよ。無事に帰って来いよ」
「勿論。さぁ、グロース。行こうか」
「はい」
リーゼさんの表情には、もう僕への不満感は無く、ある程度の信用を得られたようで嬉しく思いながら、家を出る。
僕達はギルドで幾つかの依頼を請け負い、危なげなく達成できそうな、ゴブリンダンジョン周辺の、はぐれゴブリンを掃討しに、森へ入った。
「最低十体。上限はなし。他の依頼もあるから、適当に周るとしよう」
「了解です」
少し歩けば早速ゴブリンを三体茂みを超えた先にいるのを発見。ファイに周りを確認してもらったが、それ以外の個体はいないようだ。
「武具らしいものは剣のみか。訓練と同様に戦えば問題ないはずだ。行くか?」
「はい!ファイも頼むな」
『はーい!』
僕とファイは勢いよく茂みを越えて、ファイアーボールの魔法陣を展開しながら、一番手前にいたゴブリンの背に向かって剣を突き立てる。
「グギャア!?」
思いの外深く刺さらず、違和感を覚えていると、両側からゴブリンが剣を振るってくる。
『アクセル!』
「うっりゃあ!」
加速しながらゴブリンの背から剣を引き抜き、左側から来るゴブリンの剣を受け、右手の剣で受け、右側のゴブリンにはファイアーボールを当てる。至近距離で受けたゴブリンは胸元に大きな火傷の痕を残して倒れた。
「残りは、お前だけだぁ!!」
「グギャアッ!?」
軽い倦怠感を振り切り、鍔迫り合いに持ち込み、下半身を蹴飛ばして、バランスを崩したゴブリンの首を斬り付けた。ゴブリンは倒れ、他の個体も動く気配はない。
「とりあえず三体。討伐成功……。うーん?」
「どうしたんだグロース。試験場の時より動きが若干悪い気がするんだが」
「やっぱりそう思います?なんでか剣の刺さり方とか違う感じで……」
『そりゃそうだよ。空気中のマナの純度が違うもん。身体強化が不十分なんだ』
「うん!?」
待ってどういう事?!もしかして、強くなれたのは試験場限定って事なの!?
『うんー。しかもマナは周りの子達が、リーゼに優先して持ってっちゃうから、グロースが使う分があんまりないんだ』
「ええー」
「どうした?」
「リーゼさん……実はかくかくしかじかで……」
「かくかくしかじか?何かの呪文か?」
「いや、何でもないです。すいません」
さらっとファイから聞いた事をリーゼさんに説明すると、彼女は唸る。
「なるほど……いや、訓練が身になっていないわけじゃないから、良いんだが……認識を改めないと怖い情報だな」
「ですよねぇ」
大分身体の動き易さとか変わるし……。
ちなみに、アクセルとかの回数制限とかは多分そのままだよな?
『んー。多分四回は使えるけど、使った後で動けなくなっちゃうかも』
実質三回なんじゃないかそれ。気を付けよう。
「依頼の進行はゴブリン狩りと、ここから東の方へ行ったオーガが出現する遺跡の周りの偵察のみに留めて、一度戻ろうか」
「はい」
ようやく始められると思った冒険者業だったけど、あっさり躓いたなぁ。
この後、一応規定数のゴブリンは倒し、オーガの遺跡を偵察して、ソーズに戻ることにした僕達は思わぬ事件に遭遇することとなった。
「誰かぁ!助けてくれぇ!」
ソーズへ戻る道中、そんな声を聞き、顔を合わせ、声の聞こえた方向へ走ると、そこには多数のゴブリンと、一体のオーガに囲まれ、破壊されている一台の馬車が。
「まずいな」
御者と思わしき人物は既に襲われて、息はないようだったが、大きなバックパックを背負った背の低いおっさんがありとあらゆるものをゴブリンに投げ付けて応戦していた。
うぉ!なんか爆発したりしてるんだけど。凄いな。でも、威力も数も足りない。
「行こうリーゼさん!」
「そうだな。セイラン!撹乱を頼む……行くぞ!!」
僕はおっさんに近いゴブリンの方へ駆け出し、その背後をリーゼさんが追随してくれる。
「でぇええい!」
おっさんにしか意識のいっていなかったゴブリンを背後から首元に向かって水平に薙ぐ。断ち切るまではいかなかったが、大部分を斬られて倒れるゴブリンを越えて、おっさんの前に立つ。
リーゼさんは大剣を豪快に振り切り、倒れたゴブリンの左右にいた個体を斬り飛ばし、回転しながら僕の隣に並んだ。
「キュキュウイ!」
一番危険なオーガはセイランが何らかの幻影を見せて、こちらを見ていない。
「大丈夫ですか!?」
「そう見えるか!?」
「違うと思ってきました!」
「だろうなありがとな!」
意外と余裕があるなこのおっさん。僕ならこんな状況心折れちゃうんだけど。
「ぬ!?」
ヒュンという風切り音と、トスっと地面に何かが刺さる音。矢だ。
「弓兵がいるぞ。気を付けろ」
「ファイ!探して燃やしてきて!」
『あいあいさー!』
こういう時敵から視認されないファイが凄く強くてありがたい。
大した時間も掛からず、数メートル先から、ゴブリンの断末魔が聞こえ、ファイが戻ってくる。
「この後どうします?!」
「敵の数が多いから、手早く撤退したいところだが……」
リーゼさんはチラリとおっさんを見ると、おっさんは御者の遺体がある方を見て歯軋りをしながらも頷いた。
「よし。貴殿の名はなんと?」
「ミスケルだ」
「では、ミスケル殿は私の前方へ。私が殿をする。グロース、君はファイと先頭で走れ。左右はセイランの幻覚で時間を稼いでくれれば、私がなんとかする」
「了解です。準備はいいですね!?じゃ、行きますよ!!」
僕はアクセルの魔法陣を展開しながら、走り始める。
セイランの幻覚には距離の制限があるのか、オーガが僕達の逃走に気づき、多量のゴブリンを走らせ始めた。
というかどこから出てきたんだあのゴブリン達!!
『右前の茂みにゴブリンがいるよ!』
「了解!!」
ファイの指摘通りに、飛び出してきたゴブリンを切り捨てる。
なんか剣が振りやすくなったな。
『強化に十分なマナを取り込めたんじゃない?次は左からくるよー!』
時間を掛ければ行けるのか!なら、
と、木の影から剣を振り下ろしてきたゴブリンの剣を受け流し、脇から逆袈裟に斬りつけ、蹴飛ばす。
「思ったより引き剥がせないな……!ソーズに着いてもまずい、方向を変えよう!グロース!!」
「ええっ!?どっちに行けば!?」
「西だ!ゴブリン遺跡を目指そう!!」
「なんでですか!?」
「よくわからんが、その方がいいらしいと声が聞こえた!」
精霊の本か!
「わかりました!ではゴブリンダンジョンへ、進みますね!」
でもあそこ特に何もない気がするんだけど!!
「というか、さっきのオーガはどこに行ったんでしょう!?」
「わからん。気付いたらいなくなっていた!だが、ゴブリン共は相変わらず襲い掛かってはくるから、諦めてはいないのだっろ!!」
後ろで凄い粉砕音が聞こえるけど、振り向かない。滅茶苦茶グロそう。
まぁでも、走り続けるのにも限界はあるし、早いところ逃げ切りたい……。
『前方左右に盾を構えたゴブリンがいるよ!』
「了解!」
「グゥギャ!」
「ゲェギャ!」
左右から飛び出すのは木製の丸い盾を前方に構えたゴブリン二体。アクセルを使用して加速しながら跳躍。体を捻りながら、ゴブリン達の首を斬り飛ばして着地する。
「今の凄くない!?」
「凄い凄い!早く進めぇ!」
「す、すいません!」
そうして走っているとゴブリンダンジョンが見えてきた。
「見えました!!ゴブリンダンジョンです!」
『グロース!!遺跡の入り口の裏側にオーガがいる!!』
「うわぉ嫌だなぁ!!リーゼさん、オーガもゴブリンダンジョンにいるらしいです!」
「手早く倒して、遺跡に入ろう!安全地帯があるらしい!」
らしいばっか!!でも今はそれに縋りたい!
「セイランとグロースでミスケル殿を守りながら、ゴブリンを倒してくれ!私がオーガを倒す!!」
僕も戦うと言いたいけど、ここは適材適所。リーゼさんなら一人でもオーガとは戦えそうだし。
「暫し待っていろ!!」
「はい」
リーゼさんは周りのゴブリンを蹴散らしながら加速し、ゆったりと影から顔を出したオーガへと斬りかかる。が、ギィンッという重い音を響かせて弾かれてしまう。
「なんっ!?」
オーガが持つ分にはただの長剣にしか見えないが、奴はリーゼさんが使っている大剣よりも二回り以上の大きさをしている剣を所持していた。
『アクセル!』
そこへファイが援護をし、リーゼさんの動きが視認できなくなったと思えば、オーガの左脚がズルリとズレ、叫び声をあげてオーガが転倒する。
その間、周囲のゴブリンを牽制しながら、オーガの援護をしようとするゴブリンを優先的に殺していく。
「キュ!」
そして、セイランがひと鳴きすれば、僕が二人現れる。
「おー!僕だ!?」
なんかちょっと情けない表情なんだけど、なんだろう。僕そんな顔してるかな?
「っと」
しかも、ただの幻覚では無く、試験場で使っていた、触れる幻覚で、死角からのゴブリンの棍を受けてくれた。
「ありがとう!」
魔法陣を展開して、ファイアを放つ用意をしてから、幻覚の横を抜けて、棍を振り回すゴブリンの首をひと刺し、抜くと同時に他のゴブリンへと目潰しがわりにファイアを放つ。
「坊主!ちっと下がれぇい!」
「はい!?」
ミスケルさんの声に応じて、サッと下がれば、彼が大きなスクロールを広げて叫ぶ。
「ロックイーター!!」
そのスクロールが輝くと同時に、メキメキメキッと地面が分かれて大きな魔物の口の様になり、ゴブリン達が纏まってその中に落ちていった。
「凄い……!」
ここまで倒すと寄ってくるゴブリンもさしておらず、ゴブリンダンジョンからも出てくる様子もない。
リーゼさんの方を見れば、オーガの首元に大剣を振り下ろし、一息ついたところのようで、今回の僕達の戦いは一先ず終息したようだった。




