18話 僕達と二匹
『たーべーもーのー!あっまいのー!たーべーたーいー!』
「キュッキュキュー!」
ギルドを出てから、飲食店を探しながら歩いているのだが、甘味を置いている店が少なく、ファイが僕の頭の上で浮きながら、ぺしぺしと頭を尻尾で叩く。
セイランは意味がわかってるのやら、わかっていないのやら、ファイと一緒に身振り手振りしながら鳴いている。
リーゼさんはセイランの様子を見て微笑みながら街の様子を見て歩いている。
「うーん。市場から離れるとあんまり食事処がないなぁ」
ダルクさんから貰った地図には都市内部の食事処や、市場に武器屋に防具屋まで書いてあったが、食事処についてはファイの求めた物はなかった。
「市場でナンゴとか買って、それじゃダメか??朝食べたっきり何にも食べてないから僕も腹減ったよ」
『やーだぁ。ママンが作ったケェキがいー!』
「あれは特別だから滅多に売ってないって、母さんも言ってたろ?」
『ぶー!』
「我慢してくれよ……」
「大変そうだな」
リーゼさんは苦笑しながら、肩のセイランに木の実を与えている。
「甘い物が食べたいらしくて」
「母君が作っていた物か。あれは美味かったなぁ」
「キュキュモッキュ」
『あー!ずるいー!!僕にもー!』
「リーゼさん、ファイもそれが欲しいらしいんだけど、まだあります?」
「あぁ。ファイ、おいで」
『やたー!』
リーゼさんが手の平を上に向けると、ファイが木の実をガリガリと食べはじめる。
「くすぐったいな」
『んまー!何これー』
あんまり見た事がない実だ。親指くらいの赤くて小さい木の実。ガリガリ言ってるし硬いのかな。
「護衛中に見付けたんだ。ほら、これで最後だ」
リーゼさんは、腰につけていた巾着袋から木の実を取り出し差し出してくる。
「食べたそうな顔をしていたぞ」
「えっ?ほんとですか?」
「ふふ。美味いぞ」
「では一口」
ガリっと一口。音は鳴るけどそこまで硬くはなく、すっぱ甘い。
「本の精霊が道中色々教えてくれてな。取ってきていたんだ」
「へー。あ、そろそろ飲食店ですね。ゼミスの家にも近いので、ファイが食べれる物があったら嬉しいですねぇ」
「そうだな」
見えてきたのは、鍋とパンのマークが象られた看板のぶら下がる、ナァルナァルの激動とかいう変な名前の飲食店。
「ここに甘い物が無くても、もうここに入るからな?」
『ええー』
駄々をこねるファイを横目にナァルナァルの扉を開ける。
「こんばんは〜」
入り口はごく普通。開けた時にチリンチリンというベルの音が響く。
「いらっしゃーい!適当な所に座ってねぇ!」
と、木のジョッキを複数持ちながら、カウンターとテーブル席を移動する少女が言うので、入り口近くの四人掛けのテーブル席に座る。
「二名様ごあんなーい!はいこれお品書き〜!決まったら呼んでねー!」
少女は流れるようにお冷とメニューを置いていくと、別の席から呼ばれて歩いて行く。
「大盛況だな。大変そうだ」
「ですねぇ」
『甘いものあるー?』
「まだ食べたいのか?」
『足りないよー』
「仕方ないな。……おっ、煮詰めたナンゴ付きのパンとかあるぞ」
『甘そう??』
「ナンゴだからな。甘いんじゃないか?」
『それにするー』
「僕は––––」
と、それぞれ好きそうな物を選んで頼む。
「おにーさん達結構頼むねぇ?食べれる?」
「大丈夫です。お願いします」
「あい!ナンゴ一丁、リッシーと肉煮込み二丁と熊鍋一丁!お金は最後にお願いねー!」
「はい」
少女はたったかたったか、明らかに持てないだろうというバランスで済んだお皿を戻していく。どうなってんだありゃ。
「この食事を待つ時間もいいな」
「キュ」
『まだかなー?まだかなぁー?』
「そんな早く来ないだろ。今頼んだばっ––––」
と言いかけたところで、スルリとお皿が置かれる。
「煮詰めナンゴとパァン!です」
『やたー!』
「「はやっ!?」」
驚きの早さ。リーゼさんまでも驚きの声を上げ、二人の声が重なりニヤニヤしてしまう。
『美味しそー!』
「まてよ、かぶりつこうとするな。今切り分けてやるから」
渡された黒パンをナイフで切り、断面に煮詰められた甘い匂いのするナンゴーを乗せる。
「ほれ」
『ありがとー!』
むっちゃむちゃと嬉しそうに食べはじめるファイ。すると、忙しなく動いていた少女が立ち止まり、ファイを凝視する。
「パンが浮いてる……!?」
あ、そうだ。見えてないんだった。
「やたら一人で話してると思ったら……もしかして、お化け??」
少女が呟けば、それを拾った他の客が、次々にファイを見て驚く。
「本当だ!パンが浮いてら!」
「どうなってんだこりゃ。少なくとも霊の類では無くねぇか?パンが消えてってるし」
「霊が飯食ってるとこみたことあんのかよ」
「ないけど……」
僕も幽霊がご飯を食べているところはみたことないけど。
「お、お待たせしまして、リッシーと肉煮込み二丁……です。お客さん、これどうなってるんですか?」
「ありがとうございます。お騒がせして申し訳ないです。これが浮いている理由は、僕の契約している火の精霊がここにいまして、甘い物が好きなんで、食べさせてます」
「火の精霊!?精霊使いなんですか?!お客さん!」
「や、そこまで使えるわけではないですよ?ただ一緒にいてくれるだけでして」
「へぇ〜でも凄いですよ。精霊と契約するだけでも大変だって聞きますし」
「それほどでもないですよ」
ほんとに。ゼミスとジグさんがいなかったら。なんなら、リーゼさんに会わなかったらきっとまだあの都市にいたはずだから。
「さて、待ちに待った晩ご飯だぁ。感謝を込めて、いざ!」
「感謝を込めて」
僕とリーゼさんは同じ物で、リッシーという赤い果実を、煮込み、その後オークのステーキを煮込んで、とろっとろに溶けたチーズをかけたものだそうだ。
「あっつ……けどうんまい!!」
ナイフで切り込みを入れれば、ドロリとチーズが垂れ、肉汁と混ざる。一口入れればチーズのほんのりとしたしょっぱさと、甘いリッシーの味が染み込んだ肉汁が上手く合わさって、筆舌にし難い味となった。
「……これは、中々!」
僕達はほぼ無言でその肉を平らげた。
「さぁお待たせしました!熊鍋です!!熱いよ!そして厚いよ!気を付けてお食べ!これ取り皿ねー」
その直後、見計らったように、フレイムベアという火魔法を得意とする熊の魔物を豪快に煮込んだ熊鍋がテーブルの中央に置かれると、キュッとひと鳴きして、セイランが前に出る。
「本当に食べれるのか?」
「キュキュー」
セイランはこくこくと頷くと、光に包まれ、姿を変え始めた。
「は!?え!?何!?何事!?」
また少女はこちらを見て驚き、持っていた皿を落としかける。申し訳ない。でも僕もびっくりしてる。リーゼさんもびっくりしてる。びっくリーゼさんだよ。
姿が変わり終わると、そこには青髪のネズミの耳が生えた男の子が出現していた。
「キュキュ」
「いや、言葉は話せないのかーい!」
「どういう状態なんだこれは」
「キュッキュキュキュッ」
セイランはどう考えても人の身体になっているが、話す言葉はネズミの時の鳴き声そのもの。
「幻覚か?」
「ではなさそうですけど」
斜め前の席に座るセイランの手を握れば、やはり人間の手の感触が返ってくる。
「誰かこの子の事知ってます?」
周りで食事中だった人間にダメ元で聞くも、彼らは首を振る。
「だよなぁ……」
「キュ」
セイランはもう気にしない!みたいな感じで大きな熊鍋を食べ始め、十分くらいで完食すると、元の姿へと戻った。
「謎だ……」
そうして食事を終えた僕達は、若干の謎を抱えたまま、ナァルナァルを出て、ゼミスの家へと向かうのであった。
ナンゴはリンゴ風の果物
リッシーはナシ風の果物
味はご想像にお任せ。
前半に食ってた木の実は梅干しの種みたいな見た目。ガリっと噛んで中のやつ食べるみたいな。




