まだ見ぬ敵
「でも、確かにここまで魔術に関して理解してる人間って他に居ないのも事実だよね。学長先生が張り切るのも無理ないわ」
「そんなに張り切ってるの?」
「あんた、今度侯爵会議に呼ばれるよ」
「何、それ?」
「慣習で侯爵と呼んでるのは、ザイルベルグ帝国に敬意を払ってのこと。つまり、あんたにもわかりやすく言うとサミットだね」
「は?」
「だって、学園の大きな変更には三国の承認は必要だし、我が国の陛下もあんたを自慢したくて仕方ないからさ」
「そんなとこ出て名乗るほどの実績はまだ無いぞ、僕は」
「新作の魔術を作ったってだけでお釣りが来るのに、モニカ殿下に魔力循環を数分で覚えさせるとか、これで実績が無いなんて言ったらこの国の魔術師は皆、見習いみたいなものよ」
「あのね、姉ちゃん。でも、現段階では僕は僕の力を多くの人の為に使えて居ないんだ。最低限わかりやすい実績というのは、多くの人にその恩恵がもたらされないといけないと思ってるよ」
「ってことは、どういうこと?」
「僕の開発した魔術を魔法陣化して、初めて実績と呼べるんだよ」
「あんたねえ、そんな簡単に魔法陣って……」
でも、普通に使っているもののメカニズムくらい簡単にわからなきゃ逆におかしくないかな?
「あんた、この世界の『魔術師の三つの見果てぬ夢』って言われてるの何か知ってる?」
「何だよ」
「広範囲殲滅魔術、魔法陣の解明、魔道具の作成よ。見果てぬ夢なの、魔法陣の解明は!」
無い無い。
だって、広範囲殲滅魔術、僕は完成済みだ。
16乗の浮遊機雷で充分だろうし。
魔法陣も、二箇所以外は全て分かってる。
「じゃ、僕が学園で最初の講義で魔法陣の解明をして見せたら、インパクトは充分ってわけね」
「何か、もう手掛かりくらいは掴んでるみたいじゃない」
「二箇所だけ」
「一箇所でもわかれば先に進むわ、それだって凄い事よ」
「違う、二箇所だけまだわからない。そのわからない部分も、魔力量と威力と付与する属性に関する情報が書かれているだろうことは推測してる」
「……一つ確認していい?」
「どうぞ」
「既存の魔法陣と同じ物なら作れる?」
「多分、それくらいなら簡単に。どういうインクで書けば良いのか、最後に何をしたら良いのか、分かってるからね」
姉ちゃんは少し考え込むような素振りを見せた。
「あのね、あんたがこのまま魔術師としてやっていくとなると、どうしても避けて通れない敵が出て来るわけ」
「強敵だと?」
「いや、厄介なだけ。魔術師ギルドよ。魔法陣の製法を独占している連中よ」
「なんだ、そいつらなら全部魔法陣を理解してるんじゃ?」
「彼らが出来るのは大昔に書かれた魔法陣を書き写して、売るだけよ。それすら、彼ら以外には出来ないの」
「魔力を持った魔物の血を混ぜたインクで書いて、書いた本人の魔力を魔術のイメージとともに流し込めば良いだけだよ。勿論、混ぜる血の量、正確に言うと血に含まれた魔力の量は魔術ごと変わってくるけどね」
「それは、本当?」
「うん」
「陛下に伝えて良い?」
「いいよ」
返事を聞くや否や、姉ちゃんは走り去ってしまった。
魔術師ギルドか。
こんな無駄だらけの魔法陣を書き写して売るだけ。
代書屋か?
何が厄介なんだろうか。




