盗めるものは盗まないといけないよね
翌日、僕らはいつものように冒険に出た。
うちの他の家族も昨日のうちに王都に戻っていた。
源太の両親も日本に戻っていった。
昨日の夜、ミノタウルスのステーキを食べていて気づいたことがある。
僕、この肉、日本の家で食べたことがある。
ここ一、二年よく食べていたよ。
母はいつも「ミノ牛」って言うから、勿論「美濃牛」だと思っていたよ。
まさかミノ牛だったとはね。
さて、今日の冒険はこれまでとは違う。
エリザベス殿下が一緒なのだ。
「皆様、今日から宜しくお願い致しますね」
「こちらこそ、お願い致します。我々のことはファーストネームの呼び捨てで結構ですよ」
「じゃあ、私のこともベティと、いや、兄様みたいにエリちゃんと呼んでください」
確かに姉ちゃんはアントニオ殿下をアンちゃんって呼ぶけど……。
「わかったわ、エリちゃん」
柑奈は切り替え早いな、おい。
「それよりも、聞きたいことがあるのですよ」
え、何故に僕に詰め寄るのかな?
「ねえ、タイカイさん。昨日、父上と兄上が凄く疲れた顔で帰ってきたの。モニカが魔力を扱えるようになったと言うのに、なんかやつれて帰ってきたわ」
「ああ」
「でしょうね」
「兄上に聞いたら、お前もタイカイ殿と一日一緒に居たらわかるって言うの」
「じゃ、説明不要ってことでいいですかね?どうせ半日もしたら陛下達の態度にも納得するでしょうから」
「エリちゃんも納得できないでしょうけど、正直説明するのもバカらしいくらいよ」
「殿下も大海の理不尽な魔術に間違い無く呆れますから、覚悟だけお願い致します」
はいはい、僕は人外ですよ。
「なんだかわからないけど、わかったわ」
その返事の意味するところがわからない。
わかったのか?わからないのか?
そして、僕たちは簡単な打ち合わせ。
予想通りエリザベス殿下は収納の魔術を持っているらしい。
「容量はどのくらいですか?」
「私のは、まだ鞄2つ分くらいかなあ」
「……人によって違うんですね?」
「魔力量に比例するみたいね」
なるほど、僕は覚えないとな。
どれだけ収納できるか楽しみだ。
「収納の魔術は時空魔術ってことになるのですか?」
「そうですね。だから、魔法陣とか無いですし、私も皆さんに教えるわけにもいかないです」
実は、今試してみた。
エリザベス殿下の魔力の流し方を参考に、空間を作ろうとした。
できなかった。
失敗した、と言うより最初から起動しない感じだ。
何かが足りない。
おそらくは、アレだろう。
「アントニオ殿下のアドバイスですか?冒険に出るなら収納を覚えておけ、って」
「はい。ギリギリ間に合ったって感じです」
はい、念の為鑑定して確かめるけど、ほぼほぼ答えがわかりましたよ。
今日中に、覚えてやるよ。
となると、料理道具も持って行きたいところだ。僕が収納を覚えたら、わざわざ帰らなくて済む。
だが、今回無警戒なエリザベス殿下の魔術を全て盗みたいと思っている。予定と違うことを言いだして、柑奈と源太に気づかれるのも困る。
こっそり、塩、胡椒、マヨネーズだけ持って行こう。
「回復の魔術はどんなものが使えますか?」
「ヒール、エリアヒール、キュアくらいですね」
「僕らなら回復量はヒールで大丈夫ですよね?」
「HPで100くらいですね」
なら問題無い。
「キュアというのは?」
「状態回復の初歩魔術です。解毒の魔術ですが、猛毒には効かないです」
よし、充分だ。
「さあ、エリザベス殿下、冒険に行きましょう」
僕は精一杯の作り笑顔で言ってやった。




