お手軽魔法陣には頼りません
予約投稿の時間帯は夜の方が良いのでしょうか。
よくわかりません。
「魔術は教えないのですか?」
「教える事ができない、と言うのが本当のところかな。正直な話、魔術は喪われた技術なんだよ」
いや、この人何言ってるんだ。
転移とかしてみせたし、国王陛下だって遠見の術だっけ?それで僕らのこと見てただろうが。
「王族の使う魔術に関しては別だよ。僕らは子供の頃から特殊な訓練をして、魔術を使えるようになるからね」
「じゃあ、一般的に魔術を使えるようになるには、どうするのですか?」
「魔法陣を使うんだ」
「魔法陣とは?」
「魔術の術式が組み込んである紙だね。例えばファイアーボールなら、左手を魔法陣に触れつつ、右手を前に出してファイアーボールと唱えると、ファイアーボールが右手からでるんだよ」
これ、すごく便利過ぎるけど、すごく不便過ぎないか。
実戦でそれじゃ役に立たないんじゃないかな。
「あ、一度出すことができたら、次からは魔法陣は要らないよ」
だとしたら、今度は便利過ぎる。
魔法陣さえあれば何の修行もなく魔術を使えるんだろ?
「簡単に使えるようになるものなんですね」
「そう、これだけだからわざわざ教えるほどのことではない。ただ……」
多分、逆に言えばそれ以上のことは誰もできないのだろうな。そのメカニズムさえわからない魔法陣。その力を借りて魔術を使えるようにする以上のことがわからない、と。
「魔法陣のメカニズムさえわかってないんですね」
「流石だね。その通りだ」
「答えにくい質問で、かつ王族の秘密に触れるかもしれないですけど、いいですか?」
「なかなか恐ろしい聞き方をするね。まあ、タイカイ君はいずれ義弟になるのだから余程のことじゃなければ良いけれども」
「特殊な訓練ってのは、体内の魔力を循環させることですか?」
「……そう。その通りだ。どこからそれを知ったのかい?」
「どこから、と言われたら自分の両眼からですかね。魔力が見えてますから」
やはり驚くものなんだな。
だが、アントニオ殿下は王族の割に感情を表に出し過ぎだろう。
驚きと同じくらい悔しさもあるようなそんな顔に見える。
「ちなみに、魔力は君の目にどういう風に見えている」
おや、悔しさよりも好奇心が勝ったかな。
「体の中に煙のようなものが見えますね。殿下はその煙が身体の中を右回りに、循環しているように見えます」
「煙は何色に見えるのかな?」
「殿下は紫ですね」
「確かに、我々は魔力の循環を訓練している。実はこれが魔術を魔法陣に頼らず使うためには必要だからだ」
多分、この方法こそ正当な魔術の修めかたなのだろう。だって、簡単に魔術を使えるようになるなんておかしいじゃないか。
「この訓練は、王族の秘密なのですか?」
「秘密と言えば秘密だな。現にミナミも知らなかっただろ?」
姉ちゃんも黙って頷く。
「本当のことを言うと、訓練自体は別に秘密にしたいわけじゃない。ただ、その先にあるものがな……」
「時空魔術ですね」
「そういうことだ」
すなわちその先の道がそれほど険しくないことを意味している。
おそらく、適切な量の魔力を流すこと。
そしてイメージだろうな。
「なんとなく、魔術を使えそうな気がします」
「魔法陣を使わずに、かい?」
アントニオ殿下も、ちょっと面白がっている。
「殿下がファイアーボールを見せて下さったら、再現は可能だと思いますよ」
魔力の循環のさせ方は殿下の真似をしている。あとは実際のファイアーボールをイメージするのには、見た方が楽だろうなという考えだ。
「じゃあ、ちょっと君を試してみようと思う」
どう試そうというのか。
「今から出すファイアーボールは、ただのファイアーボールだけど、絶対に魔法陣を使って出せないんだ。それを真似できるかな?」
既にファイアーボールを魔法陣で覚えてるかもしれないと思ったのかな。
王族にはそのくらいの慎重さは必要かもね。
殿下は窓を開け、外に向けて手を伸ばした。
伸ばした指の先から拳より少し大きな火の球が発射され、数十メートル先の鍛錬場の厚い石の壁に当たって消えた。
成る程。
実にシンプルで頭のいい試し方だ。
アントニオ殿下は、魔法陣に触れるべき左手でファイアーボールを撃って見せたのだ。




