人生の……
確かに、クランハウスの魔道具の扉は父の主宰する道場に繋がっていた。
父が近所の子供達に柔道を教えるために、うちの敷地内に建てた小さな道場だ。
僕も姉ちゃんも柑奈も源太も、ここで柔道を覚えた。
中学に上がった頃から、学校の部活で柔道をするようになったのでここには立ち入らなくなったから、不自然な扉の存在にも気づかなかった。
父と母は既に帰っていた。
もっとも時刻は午後の八時を回っているので、当たり前なのだが。
「ああ、バレちまったか」
父はあっさりと言う。
謝罪する気も無いようだ。
「メルガルドとかいう男爵に召喚されて、クーデターの片棒担がされるところだったよ」
僕も簡単に経緯を伝える。
「せっかくばあちゃんもこっちに来たんだし、寿司でも食べに行こうよって言ってたんだ」
父と母は顔を見合わせる。
「いや、今日さ向こうでミノタウルス狩ってきたものだから、ステーキにして今食べたところなの」
申し訳無さそうに母が言うけど、ミノタウルスってどう考えても強そうなんだが。
「姉ちゃん、ミノタウルスってどのくらい強いの?」
「この前Bランク6人パーティが全滅したね」
左様でございますか……。
確かに夕食には少し遅いし、どうせなら源太の両親も誘ってそこで今回の経緯と今後のことを話したらいいんじゃないの、ということになった。
翌日、近所のちょっと格式の高い寿司屋に集まったのは、僕、柑奈、ばあちゃん、父さん、母さん、姉ちゃん、源太、源太の両親。
正直、源太の両親からしたら話があまりにブッ飛んでいて、信じられる要素などカケラも無いだろう。
「まあ……驚き過ぎて言葉が出ないわな……。いや、美南ちゃんの言うことが信じられないわけじゃ無いんだ。ただな……」
結局、見せるしかないのだろう。
姉ちゃんは向こうでの生活について淡々と話しはじめた。
僕にとってもはじめて聞くことばかりで、疑問点はその都度確認していった。
源太の両親はどちらかと言うと、源太が向こうで暮らす事の是非はあまり考えていないようで、自分達が向こうで暮らせるのかということのようだ。
ばあちゃんを筆頭に今まで向こうで活動していたうちの家族たちは脳筋だ。それも筋金入りの。
そうではない源太の両親が生活する手段があるのなら、憧れのスローライフがそこにあるかもしれない、という願望もあるのだろう。
「一つ提案があります」
姉ちゃんが言った。
「向こうでカフェをやりませんか?」
うん。
源太の料理の腕は、恐らく母親仕込みだろう。
「向こうにはほぼデザートという概念が無いです。実はそんな事情があって源太が王女様達にレアチーズケーキの作り方を教えてあげることにもなっちゃったんですよ」
「いいかもしれないわね」
正直、向こうなら土地自体は腐るほどあるだろう。自分達が野菜を作って、それを使った料理を出す。
うん、いかにも中年夫婦が夢見そうなライフスタイルじゃないか。
「向こうで生活するとして、当面どの位の資金が必要になるのかな?」
源太の親父さんも、乗り気ではあるようだ。
「当面の生活費程度で大丈夫ですよ。農地に関しては開拓してもらうことになりそうです。店舗に関しても、新しい試みに領主が援助をするのは珍しくないですし」
姉ちゃんの立場なら、領主様に口利きするのも難しいことではないだろう。
「……前向きに考えてみる。実際に向こうの様子を見学させて貰ってから結論を出すけど」
源太の両親の人生の○園は異世界になるのかもしれません。




