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幼馴染が近すぎて無理です‼️ (元傭兵のスピンオフです)  作者: くいたん


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第7話 管理精霊

北方旧街道。


馬車列は、灰色の空の下をゆっくり進んでいた。


石畳はところどころ崩れ、道の脇には古い監視塔跡が見える。


かつて北方防衛線として使われていた街道。


今は半ば放棄され、演習や調査にしか使われていない。


冷たい風が吹いていた。


馬車の窓が小さく鳴る。


「…………」


エルマは静かに膝の上へ資料を広げていた。


古代北方術式。


遺構封鎖理論。


結界維持構造。


読んでいないと落ち着かない。


向かい側では、カイルが腕を組んだまま座っている。


視線が合う。


「っ」


エルマが反射的に逸らす。


やめてほしい。


普通に見ないでほしい。


心臓がうるさい。


しかも狭い。


馬車が狭い。


近い。


距離が近い。


「……お前さ」


「は、はい」


「さっきから一回も目ぇ合わなくね?」


「気のせいです」


即答だった。


カイルが眉を寄せる。


「いや絶対避けてるだろ」


「避けてません」


「避けてるって」


「避けてません……!」


反射である。


クラリスが静かに紅茶を飲んだ。


「本日十二回目です」


「数えないでくださいぃ……!!」


「いや何が十二回なんだよ」


「エルマ様の挙動不審回数です」


「業務報告みたいに言わないでください!!」


カイルが吹き出した。


「ははっ、お前ほんと昔から面白ぇな」


昔から。


その言葉だけでエルマの呼吸が止まりそうになる。


やめて。


そんな自然に昔を混ぜないで。


好きが悪化する。


 


その日の夕方。


演習部隊は、北方旧街道沿いに残る遺構群へ到着した。


巨大だった。


山肌へ半ば埋もれるように存在する、黒灰色の古代建築。


崩れた塔。


風化した外壁。


だが。


近づいた瞬間。


エルマの背筋へ、ぞわりと何かが走った。


「……っ」


空気が違う。


重い。


微かに。


“流れている”。


普通の人間にはわからない程度の、ごく微弱な魔力循環。


だがエルマには見えた。


遺構全体へ張り巡らされた、巨大な術式の流れ。


「…………」


思わず足が止まる。


「エルマ?」


カイルが振り返る。


「顔色悪いぞ」


「だ、大丈夫です……」


違う。


大丈夫じゃない。


この遺構。


まだ生きてる。


完全には止まっていない。


「興味深いですね」


隣でクラリスが静かに周囲を見上げる。


「ここまで術式循環が残っているとは」


「……はい」


エルマは無意識に眼鏡へ触れた。


レンズ越しに見る景色。


壁面。


床。


柱。


そこら中へ、薄い青白い魔力痕が走っている。


しかも。


奥へ行くほど、濃い。


「……嫌な感じがします」


エルマが小さく呟く。


カイルが眉を寄せた。


「危ねぇのか?」


「わかりません……でも……」


言葉にしようとして。


止まる。


何かが引っかかった。


違和感。


いや。


違和感じゃない。


“見られている”。


遺構の奥から。


何かが、こちらを見ている。


「…………」


エルマの指先がわずかに震える。


その時だった。


足場になっていた古い石段が、小さく崩れた。


「っ」


身体が傾く。


危ない。


そう思うより早く。


「エルマ!!」


ぐっと腕を掴まれた。


「っ……!!」


近い。


熱い。


駄目。


指。


体温。


声。


全部近い。


しかも支えるために、一気に距離が縮まる。


肩が触れる。


呼吸が近い。


顔が近い。


無理。


「悪ぃ、大丈夫か?」


低い声。


近い。


耳が死ぬ。


「だ、だい……っ」


心臓が暴れる。


駄目。


近い近い近い近い!!


なんでそんな普通の顔してるんですか!!


無理。


好き。


無理。


呼吸が乱れる。


頭が真っ白になる。


その瞬間だった。


眼鏡の奥で。


エルマの魔力が、大きく揺れた。


 


ゴゥン――――……


 


低い振動が遺構全体を走る。


周囲がどよめいた。


「何だ!?」


「遺構が……!」


床。


壁。


柱。


刻まれていた古代術式が、一斉に青白く発光し始める。


「っ……!?」


エルマの瞳が揺れた。


違う。


今の反応。


自分だ。


自分の魔力が――


 


――高感応波形、検出。


 


頭の奥へ、無機質な声が響く。


「ぇ……?」


呼吸が止まる。


 


――精神波形変動、許容値超過。


 


やめて。


解析しないで。


 


――感情同期率、急上昇。


挿絵(By みてみん)


 


「っ……!!」


エルマの顔が一気に赤くなる。


待って。


やめて。


なんでそんなものまで測ってるんですか!?


 


――適合反応、確認。


 


遺構中央。


崩れた塔の奥。


暗闇の中で、青白い光が灯った。


空気が変わる。


騎士達が一斉に武器へ手をかけた。


「術式起動!?」


「結界が動いてる!!」


エルマの視界が揺れる。


流れ込んでくる。


情報。


術式。


座標。


封鎖構造。


認証系統。


頭が痛い。


止まらない。


 


――管理補佐権限照合開始。


 


暗闇の奥。


青白い光が、人型を形作り始める。


細い輪郭。


長い髪のように流れる光。


感情のない瞳。


古代衣装のような半透明の層。


精霊だった。


だが。


普通の精霊ではない。


もっと古く。


もっと無機質で。


もっと“機構”に近い。


 


――管理精霊起動。


 


空気が張り詰める。


周囲の術式光が、一斉にエルマへ向いた。


 


――高親和反応確認。


 


精霊の瞳が、静かにエルマを見つめる。


 


――管理権限候補個体として認識。


 


「っ……」


エルマの呼吸が乱れる。


違う。


自分はそんなものじゃない。


ただ。


ちょっと感情が壊れただけで。


カイルが近くて。


心臓が限界で。


それだけなのに。


 


――同期率上昇継続。


 


やめてぇぇぇぇぇぇ……!!


エルマの内心は絶叫していた。


その時。


管理精霊の視線が、ゆっくりカイルへ向いた。


 


――未登録武装個体、確認。


 


空気が軋む。


周囲の術式光が、一斉に収束した。


嫌な予感。


エルマの背筋が冷える。


 


――排除対象として認識。


 


「っ!!」


カイルが即座に前へ出る。


騎士達が武器を抜く。


だが違う。


駄目だ。


この遺構内で戦ったら――


「待って!!」


エルマが叫んだ。


全員が止まる。


管理精霊の視線が、ゆっくりエルマへ向く。


呼吸は乱れていた。


頭も痛い。


術式が流れ込んでくる。


それでも。


エルマは必死に声を絞り出した。


「その人は……敵じゃ、ありません……!」


静寂。


青白い光だけが揺れている。


管理精霊が、無機質な瞳でエルマを見つめる。


 


――確認。


 


わずかに。


周囲の術式光が弱まった。


カイルが驚いたようにエルマを見る。


だがエルマは、それどころではなかった。


遺構の奥。


もっと深い場所。


何かがいる。


まだ眠っている何か。


そして。


それが今。


ゆっくり目を覚まし始めていた。

お読みいただきありがとうございます♪

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