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幼馴染が近すぎて無理です‼️ (元傭兵のスピンオフです)  作者: くいたん


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第5話 なんか気になる

この話の挿絵を動画にしたものです。よろしければ見に行ってね('ω')ノ

https://www.instagram.com/reel/DZKZ4LMpyEz/?utm_source=ig_web_copy_link&igsh=MzRlODBiNWFlZA==

翌日。


朝。


王立騎士学院・屋外訓練場。


乾いた剣戟音が、朝の空気へ鋭く響いていた。


騎士学院上級生。


若手騎士。


混成訓練。


砂埃が舞い、木剣が打ち合わされる。


掛け声。


足音。


朝日。


熱気。


その中心で。


「カイル先輩!!」


鋭く木剣が振り下ろされた。


速い。


学院上級生の中でも上位の腕だ。


だが。


「遅ぇ」


カイルは半歩だけ踏み込み、相手の剣筋を外側へ流した。


そのまま肩を押し込む。


「うわっ!?」


上級生が派手に転がった。


周囲から笑い声が上がる。


「だから真正面から来るなって」


「いや今の無理でしょう!?」


「考えて来い」


「現役騎士相手にそれ言います!?」


カイルは木剣を肩へ担いだ。


赤い髪。


日に焼けた首筋。


訓練着の袖を雑にまくった腕には、無駄のない筋肉が浮いている。


学院を卒業後、そのまま騎士団へ所属。


現在は若手騎士の中でもかなり実績を積み始めていた。


そのため、こうして騎士学院の合同訓練へ顔を出すことも多い。


若手実戦騎士。


しかも強い。


だから学院生達からの人気も妙に高かった。


本人は全く気づいていないが。


「……あ?」


横から木剣が飛んでくる。


反射で受ける。


だが。


ギリギリだった。


「先輩!?」


「危なっ!!」


周囲がざわつく。


珍しい。


カイルが反応を遅らせるなんて。


「カイル先輩、今日ずっと変ですよ」


上級生の一人が呆れた声を出す。


「さっきから上の空じゃないですか」


「別に」


そう答えながら。


脳裏には、またあの光景が浮かぶ。


ソファ。


眼鏡。


赤い耳。


そして。


服を掴んで離さなかった指先。


「…………」


なんなんだ、あれ。


妙に頭から離れない。


「先輩?」


「ん?」


「なんか怖い顔してますよ」


「してねぇよ」


「してますって」


カイルは眉を寄せた。


自覚はない。


ただ。


昨日から妙に落ち着かない。


エルマ。


あいつのことばかり頭へ浮かぶ。


近づくと固まる。


逃げる。


なのに。


嫌われてる感じはしない。


むしろ逆だ。


昨夜だって。


「…………」


服を掴んで離さなかった。


しかも。


眠ったまま。


安心したみたいな顔で。


「……意味わかんねぇ」


「は?」


「いや独り言」


周囲は顔を見合わせた。


完全に様子がおかしい。


その時。


「カイル」


低い声。


騎士団教官だった。


「次」


「はい」


木剣を構える。


相手は実戦経験もある古参騎士。


普通なら気を抜けない。


だが。


「…………」


集中できない。


脳裏へ浮かぶのは、またエルマだった。


眼鏡のない顔。


長い睫毛。


少し赤かった耳。


ふにゃっと脱力した寝顔。


「っ!!」


剣が来る。


反射で避ける。


遅い。


ギリギリで木剣が肩を掠めた。


周囲がどよめく。


今のは危なかった。


教官が眉を寄せる。


「珍しいな」


「……すみません」


カイルは小さく息を吐いた。


駄目だ。


昨日からずっと変だ。


なんか気になる。


いや。


気になるってなんだ。


幼馴染だろ。


昔から知ってる。


それだけだ。


「…………」


なのに。


なんでこんなに頭から離れない。



その日の午後。


王立騎士学院・中央図書棟。


石造りの長い回廊には、午後の柔らかな光が静かに差し込んでいた。


窓際には古い装飾柱。


壁一面へ並ぶ蔵書案内板。


学院の中でも、この辺りだけは空気が違う。


訓練場のような熱気も。


騎士科特有の騒がしさもない。


静かだった。


紙の匂いと、インクの匂い。


そして時折、ページをめくる音だけが響く。


「…………」


エルマは、小さく息を吐いた。


ようやく落ち着ける。


両腕には、大量の資料。


騎士団遠征記録。


北方防衛史。


古戦場地図。


騎士学院の図書棟では、古い戦術記録や遠征報告の整理補佐を、上級貴族の子女が担当することがある。


名誉職に近い。


だが、エルマにとっては都合が良かった。


静かで。


人が少なくて。


本に囲まれていれば、自然と一人でいられる。


それに。


騎士科の人間は、あまり図書棟へ来ない。


……カイルを除けば。


「…………」


エルマは無表情のまま、そっと視線を逸らした。


別に。


狙っていたわけではない。


本当に。


ただ。


カイルが、訓練後に時々ここへ来ることを知っていただけで。


戦術課題。


遠征記録。


地図。


過去戦例。


実戦騎士となった今も、カイルはたまに資料を借りに来る。


だから。


ほんの少しだけ遭遇率が上がる。


本当に、ほんの少しだけ。


「……本当に?」


後ろから静かな声。


「っ!?」


エルマの肩が跳ねた。


振り向けば、クラリスだった。


白磁のティーセットを載せた盆を持っている。


今日も完璧である。


怖い。


「休憩なさいますか」


「……ありがとうございます」


図書棟奥には、小さな閲覧用談話室がある。


本来は研究者や講師用だ。


だが、クラリスは昔から何故かここを把握していた。


しかも自然に紅茶まで用意する。


怖い。


「本日も顔色が優れませんね」


「誰のせいだと思ってるんですか……」


「昨夜の件でしたら、大変興味深い進展でした」


「やめてください」


エルマは即答した。


クラリスは静かに紅茶を注ぐ。


その動作は今日も優雅だった。


エルマとクラリスは、学院時代からの付き合いだった。


もっと正確に言えば。


クラリスがヴァレリア付きとなって以降、騎士学院へ頻繁に出入りするようになった頃からだ。


ヴァレリアは、騎士科や戦術研究へ妙に詳しかった。


令嬢らしからぬほどに。


だからクラリスは、理解する必要があった。


何を見ているのか。


何を考えているのか。


何故そこへ興味を持つのか。


その結果。


図書棟へ通うようになった。


戦術記録。


戦場史。


騎士運用論。


遠征報告。


そして。


そこで、エルマを見つけた。


当時からエルマは、静かに図書棟へ籠もっていた。


眼鏡を掛けて。


本へ隠れるように。


感情を消すみたいに。


ただ。


一つだけ。


非常にわかりやすい反応があった。


赤い髪の騎士科生徒が近くを通る時だけ。


ページをめくる速度が止まる。


「…………」


クラリスは静かに紅茶を飲んだ。


面白かった。


実に。


「それで」


クラリスが優雅にカップを置く。


「本日は何回ほど昨夜を思い出されましたか?」


「数えてません!!」


「途中から記憶がない辺りでしょうか」


「やめてください!!」


耳が熱い。


無理だ。


思い出しただけで死ぬ。


抱き寄せられた。


近かった。


香りがした。


喉元が見えた。


しかも。


眠った。


限界突破して。


「…………」


エルマは机へ突っ伏した。


消えたい。


「ちなみに」


クラリスがさらりと言う。


「カイル様、本日朝から三回ほど図書棟前を通過されています」


「…………………………は?」


エルマがゆっくり顔を上げる。


クラリスは静かに微笑んだ。


完全に面白がっている顔だった。


挿絵(By みてみん)


「おそらく無意識かと」


「な、なんで……?」


「さあ」


クラリスは紅茶を飲む。


「ただ、あの方は非常にわかりやすいので」


「どこがですか……」


「気になっているものを、目で追う癖があります」


「っ」


エルマの耳がさらに赤くなる。


やめてほしい。


本当に。


そんな分析をしないでほしい。


「それに」


クラリスは静かに続けた。


「昨夜、ようやく“前進”しましたので」


「何も前進してません!!」


「十数年膠着していた戦線が動きました」


「戦線って言わないでください!!」


クラリスは満足そうだった。


完全に楽しんでいる。


その時だった。


閲覧室入口の向こう。


重い扉が開く音。


「……あ」


聞き覚えのある声。


終わった。


反射的にエルマが顔を上げる。


回廊の向こう。


赤い髪が見えた。


そして。


「……いた」


カイルが、こっちを見ていた。


エルマの思考が止まる。


待って。


なんで見つけるんですか。


なんで真っ直ぐ来るんですか。


なんでそんな自然に近づいて来れるんですか。


無理。


近い。


昨日を思い出す。


心臓がうるさい。


逃げたい。


今すぐ。


だが。


「よう」


カイルは、いつも通りだった。


屈託なく。


距離感近く。


自然に。


それが一番危険だった。


「ひっ」


声が裏返った。


カイルが止まる。


「……お前さ」


「は、はい」


「なんで毎回そんな反応なんだ?」


挿絵(By みてみん)


「そ、そんな反応とは」


「いや、なんか毎回逃げるだろ」


「逃げてません」


反射だった。


カイルが少し眉を寄せる。


昨日からずっと考えていた。


エルマは、自分が近づくと明らかに様子がおかしい。


固まる。


赤くなる。


呼吸が浅くなる。


でも。


嫌われてる感じはしない。


むしろ逆だ。


昨夜だって。


服を掴んで離さなかった。


「…………」


また胸がざわつく。


意味がわからない。


しかも。


今も。


エルマは逃げそうなのに。


自分から視線を逸らせない。


「……エルマ」


名前を呼ぶ。


その瞬間。


エルマの肩が跳ねた。


耳まで赤くなる。


「…………」


カイルが黙る。


なんなんだこれ。


なんでこんな反応になる。


しかも。


それを見た瞬間。


妙に目が離せなくなる自分が、一番意味わからなかった。

お読みいただきありがとうございます♪

☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂くと、モチベーションが爆上がりします。

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